5・いままでって、序の口?
人外三人衆の珍道中、今のところ殺戮、殺戮、不条理の連続。
とうとう、魔物だけじゃなく人死にだ~、しかも大量殺戮です。
書いて行くとどういう訳かこんな展開に。
「おお、神よ」
『本当にあきれるぜ』
兎に角、俺、キュア、前任者のスカル、この三人で今いる魔物の森を抜けようと進んでいた。
しかし、出るは出るは魔物の群れにこれでもかっていうほどでかい魔獣に出くわし、気が休まる暇がない。
せめて、夜は少しでも眠らないと身体はどうも体力が無尽蔵のようだが、精神的に疲れる。
「お兄ちゃん、だったら防壁魔法でバリアを作って眠ったら?」
「あるのか、そんなの?」
すると、また頭に呪文が浮かぶ。
「パーフェクトバリア!(絶対領域)」
半透明のドーム型のバリアが俺たちの周辺を囲む。魔物は入ってこれないが俺たちは出入り自在だ。外の音も遮断されて、湿気の多いムシムシした気候もバリアの中は快適な温度で空気が澄んでいる。
「キュア、こんなのがあったらもっと早く行ってくれ」
「でも、普通創造主は存在全てが規格外だからあえて守る必要はないんだけど」
「いやいや、俺はちょっと前まで普通の人間だから精神的に持たないんだ」
「そうか、じゃ工作スキルでもっと快適にできるよ」
「お、これは、バーサタイルDⅠY(匠の技)」
俺はまたまた頭に浮かんだ呪文を唱えた。すると〈どかん〉と目の前に高級ベッドが目の前に落ちてくる。
「おおっ」
キッチン、お風呂、大型冷蔵庫など思いつくものを出していった。
「ふ~っ、そろそろ腹が減ったな」
俺は収納空間から来る途中に倒した、比較的地球の動物に見た目が近い、角や牙が無い魔物を出してみる。
「またこれか、まあ不味くはないけど、むしろ旨いんだが相変わらず抵抗感が消えないなあ」
「だったら地球の食べ物を持ってきたら」
「出来るのか…だからそれを早く言ってくれ」
「ワールドフードオーダー(お取り寄せ)」
すると、寿司にてんぷら、ハンバーグ、ピザなどテーブルにズラリ並ぶ。
「お兄ちゃんは創造主なんだから基本何でもできるよ。だから人間の趣向は必要ないかと思って、気がつかなかったよ」
「俺は普通の人間の方がメインなんだ。いきなりこの短期間で万能が普通ですって言っても無理なんだ」
「ふ~んそうなんだ、仕方ないか」
キュアはタイガが出した高級ベッドに飛び込み
「うわっ、ふかふか!気持ちいい!」
「お前なあ、結局お前も趣向が同じじゃねえか」
「はは、これが地球の人間の生活ですか、新鮮です!良いですね!」
「至高のプログラム、創造の片鱗、そして創造主になった俺、揃いも揃って人外なのに、感覚は普通の人間と変わんないなんてこれってどうなんだか」
(ちゃぽん)
「ふぅ~」
俺は久しぶりに風呂に入って、体中に染み渡るリラックス感に浸っていた。
「これもなかなか良いですね、ハ~っ、極楽極楽~~」
「少年の格好で爺さん顔負けの浸かり方って、極楽ってどこで覚えたんだ?」
「キュアが教えてくれました」
「えっ」
「さっきのお兄ちゃんの話を聞いて僕反省したんだよ、もっとお兄ちゃんの趣向に沿ったサポートをしなきゃって、だからお兄ちゃんの思考をスキャンしてお風呂に入ったら、このセリフってスカル君に教えたの」
「あのな~、勝手に思考をスキャンするんじゃねぇ…俺の指向?それだと俺がじじいって事か…気が滅入るからやめてくれ」
「おいスカル今だったら丁度良い、お前の事を聞きたい。どうして改竄してまでこんな世界を創ろうとしたんだ?」
「そんな当たり前のことを…僕は創造の片鱗です。他の創造主よりエントロピーを増大させ、類まれな世界を創ろうとするのは当然じゃないですか。あらゆる制限を外し創造するつもりだったからコアにまで介入したのにまだまだ足りないくらいです。本当だったらマニアックに通常設定も行い、完璧を期すはずが残念です」
「今よりさらに手を加えようとしていたのか、呆れて理解ができないぜ」
「それがソフトの防衛機能に弾き飛ばされてしまって、世界ができる前ですから何もない暗黒空間に飛ばされて、途方に暮れていました。ところが突然、世界が構築され運よくこの世界に降り立ったと思ったら、あの魔獣に追いかけられていたんです」
「そもそも、お前の願望で作られた生物だろう」
「確かにそうですけど、具体的に魔物一体一体をデザインしたわけじゃなく、あくまで方向性、アルゴリズムをいじったので、実物はどう成ってるか、わからないのにいきなり遭遇すると驚きますよ。それにあんなに攻撃的になるのは想定外でした」
「俺も不可抗力とはいえ、あの魔物たちが作られたのには責任があると思っている。だからお前にも協力してもらうぞ」
「協力って?」
「コアを元通りにして、あんな魔物が生まれない世界に修正するんだよ」
「お兄ちゃん多分それは無理だよ」
「そうですね、この世界が創造された時点でソフトは消滅しています」
「じゃ、どうすれば?」
「どうしようもないでしょう、僕もちょっと不完全なところがあるので直したいとこですけど、概ね真似のできない世界にはなったので良しとしようと考えていたところです」
「良しじゃねえよ、これじゃ何時魔物に殺されるかビクビクして生きなきゃいけなくなる」
「それはこの世界の住人が対処すればよい事でしょう。世界の法則、運命を設定した時点で創造側の役割は通常終わりです、あとの過程は生きとし生ける者全てが各々がやる領域なので【運命は実在し、自由は命と魂に宿る】これが世界創造の重要なコンセプトです」
「俺としては釈然としない、どうしても無責任だと思ってしまう」
「それに僕は何の権限も持たされず飛ばされたので全く無力で何もできませんよ」
「この世界の人類については何か知らないか?」
「人類については一番大事だから、より念入りに介入したよ、その為とうとう見つかって飛ばされることになってしまいましたけど」
「うわ~そこまでやっちゃてたなんて、禁忌もいいところじゃないの」
「でもね、人類にこそ繁栄の切符を際限なく振る舞うべきだよ、知性により文明を築き、時間も空間も次元すら超えるとっておきの力、それを持っているのが人間だから」
「いったいどんな改竄をしたんだ」
「それはもうエントロピーの法則のリミッターの解除です。あらゆる制限を解放しました、普通の世界に人類は一種だけタイガさんの世界、地球では確かホモサピエンスの種だけだったでしょうか」
「確かにそうだが、人類は人間だけ確か原始時代にはネアンデルタール人やデニソワ人とかいたらしいが」
「一つの世界に多数の別々の人類がいる世界って事…そんなの僕の高位演算でも予測がつかないわ」
キュアは何やら宙を見上げ思考を巡らしているようだ。頭から少し煙が立ち上っている、大丈夫だろうか。
「楽しみだなあ、この森を抜けてそんな人類の楽園がどうなっているか、わくわくが止まらないよ」
「おい、それってフラグじゃないか止めろ」
そう言いながら俺は悪い予感がしていた。
確かに多様な種族が共存してる世界に比べれば、意思の疎通ができる存在が一種族だけなんて、常識の壁を取り除いてよく考えれば、こんな寂しい世界はない。
「まあまあ、キュアもタイガさんも落ち着いて、いずれ遠くない未来に分かることだから、じゃ僕はお先に」
スカルは湯船から立ち上がる。
「よっこいしょういちっと」
俺はあきれて心の中でスカルに突っ込みながら、風呂から上がることにした。
「あ、僕も」
するとスカルは飲み物を、続いて風呂から上がってきた二人に差し出してくる。
「これって、俺の好きなえびさビール」
「湯上りにはこれでしょう」
スカルはなぜか自慢げだ。
キュアは缶ビールを受け取り何これって顔をして小首をかしげている。
スカルは当然のごとくビールを飲もうとして栓を開けたが、見た目だけかもしれないがスカルもキュアも子供だ。俺は慌てて止めようとした。
「まて」
(ぐびっ)
俺は一口飲んだスカルから缶ビールをもぎ取った。
「待てって言ったろう」
(ぐびっ)
振り返るとキュアも一飲みしてしまっていた。俺はキュアから飲みかけの缶ビールを奪い取りため息をつく。
「あ、これはどうしたんだろう??僕の能力の制御に明らかな異常が1+1=3.141592653589793238462643……ほへ~」
「キュアしっかりしろ、少し寝てれば治るから」
混乱してベッドに倒れこむキュア。
「はははっ、これが地球の嗜好品ですか、体がふわふわします」
「お前たちは元が人間じゃないから関係ないかとも思ったんだが…」
「はは、確かにそうですが肉体は人間のそれ、しかも年齢も見た目通りで~す」
「あ~、いい大人の俺が未成年にアルコールを飲ませちまうなんてここは地球じゃないから捕まらないがやっちまった罪悪感が消えねぇでモヤモヤする。ちくしょう」
俺は自分のビールを一気に飲み干し、奪い取ったビールも勢いで飲み干した。
『プハ~っ、むしゃくしゃするがやっぱり〈えびさ!〉この裏切らないのど越し、うまい!』
夜が明けると、二人はさすがに酔いも醒めて起き上がってきた。
「なんとアルコールだなんて(C2H6O)こんな単純な構成の分子が人間の体内に入るとこれほどの作用を引き起こすとはまさにリーサルウェポン‼恐るべし」
「僕は楽しかったな、初めての体験ってこんなにウキウキするものなんだ。これが夢にまで見た冒険なんだ」
「はいはい、早く支度しろよ、置いてくぞ」
「は~い」
「今はどこまで来てるんだろうな」
「随分歩きましたから、もう森を抜けてもいいと思いますけど」
すると薄暗い森ななか先の方に明るい場所が広がってきた。
「おお、これはやっと抜けたみたいだな」
三人は明るい場所までたどり着き森を抜けたことに安堵した。広い平野の前に立ったそれもつかの間ーー
「な、なんだこれは!!!」
地平線まで広がっている広大な平野は、無数の人間の死体によって埋め尽くされていた。
誰か感想くれないかなぁ……
感想が無いと私のモチベーションは乾燥しそうです。
(親父のダジャレは見苦しいって分かっているのに止められない)