拝啓、私の許嫁様。
とある帝国の名家のお嬢様は、両親が他界してしまったことで莫大な遺産を手にする事になった。
遺産を狙う親族と、可愛い孫娘を守るために隠居した祖父が苦肉の策として用意したのは異国の青年との婚約。
という夢を見たので書き起こした短編です。
『』は外国語を喋ってます。
洋館風のお屋敷には今、一人の令嬢だけが家にとどまっていた。
一人と言っても、もちろん使用人である、姉やと家政婦と執事が使用人部屋に住んでいる。しかも令嬢は高熱を出しており、姉やがつきっきりで看病をしていた。
「ふぇー私もお出かけしたかったー!」
「このお熱では無理ですよ。それについて行ったとしても、きっと面白くありませんって夜のパーティーにはお嬢様参加できないんですから」
「でもでも」
「お屋敷にいた方がずっと楽しいですよ。向こうに行ったらやれ、どこそこのご令嬢がーとか爵位がーと面倒ですって。お嬢様はちゃんと華族の一覧を覚えられてます?」
「う……。でも、兄様はついて行ったのよ。お土産を買ってきてくれるっていったけど」
「お土産は楽しみですね。さぁさぁ、お水とお薬を飲んでもう一眠りいたしましょう」
「はーい」
苦い薬を飲んで少女は眠りについた。
目が覚めたら両親と兄様がお土産いっぱい買ってきてくるはずと思って眠りにつくも、次の日の昼になっても少女の部屋に誰も帰って来ず。
熱も下がり、部屋着になった少女が階段を降りている途中で、下の階で通いの使用人が慌ただしく出入りしていることに気づいた。
「本当なのか?」
「今、巡査殿に確認にいってもらっている」
「新聞には大きく載っていたぞ?!」
不穏な様子に少女はしゃがみ込みながら声をかけた。
「ねぇ、どうしたの?」
「あ! お嬢様!」
「お嬢様、おへやにおもどりくだせぇ!」
「おい、雪子を呼べ! お嬢様がおきられてるぞ!」
慌ただしく、家政婦の文子が現れ少女を部屋へといざなった。
「さぁさぁ、お嬢様、この文子と一緒にお部屋に戻りましょう。雪子は、いま仮眠中でしてね。起きたらすぐに向かわせますよ」
「姉やは寝てるのね。ねぇ、みんなどうしたの? お母さまたちは帰ってこられたの?」
「っ……昨晩大雨が降ったらしく、帰りが遅れているようで」
そう文子が誤魔化そうとするも、玄関から大きな声で少女の叔父が怒鳴りながら入ってきた。
「どういうことだ! 文彦が亡くなったと聞いたぞ!!」
文彦は父親の名前だ、少女は驚きながら文子の顔を見るとその表情は暗く、嘘ではないと物語っていた。
「亡くなったってどういうこと?」
「それは」
言い淀む文子をよそに、続々と少女の親戚たちが屋敷に入ってきたのだった。大半は母方の華族の者たちだ、その後から父方の豪商の親族が来て、少女の存在に気づいていないのか商いはどうするのかとか、財産はと大いに揉め始め、屋敷の中が一層騒がしくなった。
「お嬢様」
「ねぇ、どうしてみんなお父様が死んだなんて決め付けているの? だれもお父様の遺体を見ていないのでしょ? それにお母さまは? お兄様は?」
少女の問いかけに文子は苦虫を噛んだように顔を逸らした。そんな中、少女の部屋を尋ねてきたのが
「清香! 無事か!!」
杖をつきながらも使用人に支えられた、祖父平治郎だった。
「お爺さま!!」
「あぁあ! お前だけでも無事でよかった。本当によかった!」
そう言いながら涙ぐみながら力強く孫娘を抱きしめた平次郎は、少女清香と少し話すと安心させるように頭を撫でながら言った。
「お主のことはこのじいじが守るから安心せい。とりあえず下の有象無象を追い払ってくるからな」
そういってしばらくすると、下からすごい怒声が響きわたると、ずっと聞こえていた煩わしい親族たちの声が止まった。
怯える清香のために、平次郎はしばらく屋敷に滞在することに決めたのだった。それからはまた別の意味で慌ただしくなった。
清香の家族は、やはり大雨で車が事故に遭い死亡してしまったのだ。新聞にも大々的に載ってしまうほど、清香の家は有名だった。華族の令嬢と婚姻した豪商の息子。しかもその豪商一族は海運業、運送業と成功している中、清香の父文彦は旅館業で成功させていたのだ。
自慢の息子の一人である文彦を亡くした平次郎は、隠居していた身だがたった一人の孫娘のために表舞台に戻ってきた。
「やはり、出てきて正解じゃったわい。誰も清香の存在を気にもせんで遺産の話ばかりじゃ」
「旦那様、いかがいたしましょうか」
「一旦、文彦の事業はワシが舵を取る。遺産は全て清香のものじゃ。そのように弁護士に伝えよ」
「かしこまりました」
平次郎の優秀な側近はすぐに行動をおこした。それに対し怒り心頭なのは、清香の母方の親族だ。華族故に商いについては全く知識がなく、世の流れに追いつけずどんどん家は傾いていたのだ。清香の母が豪商に嫁いだときには一族の恥だとまで言うほどだったのに、今では金の無心をするほど。だからこそ、すこしでも遺産が欲しいのだ。
「優しかったおじさまとおばさまたち、みんな嘘だったのね」
優しい笑みを浮かべていた人たちの顔は今や鬼にしか見えなかった。
「お嬢様」
「家に来たらすぐに挨拶に来て頭を撫でてくださったのに、今は誰もこないわ。目も合わせないの」
「お部屋に戻りましょう。大旦那様が良きようにしてくださいますよ」
「姉や……私はどうなってしまうの」
「大丈夫です。大丈夫ですから」
じっと椅子に座りながら、開け放たれた扉の向こう側を行き交い人々を見ながら清香はまるで自分だけ一人置いてかれたような気持ちになっていた。
「スイマセン。オジャマシマス」
片言の和ノ国言葉が聞こえ、周りの人々の視線が一斉に同じ方向に向いた。清香は声のした方へ急いで向かうとそこにはすでに平次郎と見知らぬ男性が異国の言葉で話していた。
「文子さん聞いていたかい?」
「あ! はい。お客様がこられるとは伺っておりました。なのでお部屋の準備はしてあります。ですが異国の方とは存じ上げず」
「とりあえずその部屋へ案内させよう」
家政婦の文子の案内で男性は屋敷の客間へと案内された。
「お爺さま? 今の人は?」
「あぁ、文彦の仕事相手らしい。異国人故泊まらせる予定だったらしいが、彼もこの国に来たばかりでここにくる途中で亡くなった事を知ったそうだ」
その話を聞きながら、清香は客間へと向かった。どうせ誰も自分の存在を気にしないのだ。
『ん? これは可愛いお客さんがいるな』
和ノ国では見ない、飴色の髪の毛に淡い瞳の色の男性と目があい、清香はびっくりして扉にしがみついた。
『ははは、驚かせてしまったかな。可愛らしいレディー』
知らぬ言葉で話す姿にびっくりしていると男性がしゃがみ込んで清香と同じ目線になった。
「綺麗な瞳ね」
思わず見惚れてしまうと清香の声に気づいた文子が慌てた。
「まぁ! お嬢様、お部屋にお戻りください」
「ねぇねぇ、今なんて言ったの?」
「私には異国の言葉はわかりません。大旦那様は話されますが」
「そうなの? あ、お隣の人はお肌が真っ黒ね。しかもおっきい」
見惚れていた男性の横には、肌が真っ黒な屈強な男がスーツに身を包んでいた。
「お嬢様戻りましょう! では、言葉がわかるものが来るので私はこれで!」
「OK」
男性は笑顔で手を振るので、清香も手をふりながら、文子に抱き抱えられて部屋に戻されてしまった。
「異国の絵本にのってた王子様みたいだった」
一人部屋に残された清香は本棚から異国の絵本を引っ張り出して眺めながら静かに涙をこぼした。
「大丈夫。お爺さまがいるもの。大丈夫」
*
「はぁ、どうしたものか」
平次郎は深いシワを揉みほぐしながら、机の上に並べられた書類を眺めた。ここにあるのは息子が残した事業の書類だ。親族が騒いだ理由の一つは皆金を借りていたことが分かったのだが、親族だからとメモ程度の借用書しかなく、返済を促したとしても無理だろうと平次郎は大きなため息をついた。
「あやつらめ。これを狙っていたのか。このままでは清香が危ないな。まだあの子は11歳……わしも老い先短い。信頼できる婚約者を作るしかないか」
そうは言っても、すぐに思いつく名家の青年など思いつくはずもなく。年の頃が会う青年では親族を押さえつけられるほどの力もなかった。
そんな中、清香はこっそりと泊まりに来ている男性の部屋に来ていた。
「えっと、へろー!」
手には兄様の部屋から持ってきた異国の辞書を持ってきていた。
『おや、可愛らしいお客さんだ。こんにちは』
清香は嬉しそうに辞書を掲げれば、男性も気づいた。
『ボス、どうします?』
『この子は、この家の最後の生き残りだ。一夜にして莫大な財産と権利を手に入れている』
『この子が……』
笑顔を浮かべながら二人は母国語で話すと、清香には片言の和ノ国の言葉で話しかけた。
「あーワタシは、バルデルマー・ホフィン デス」
「ばるでまーさん? 私は清香です!」
「きーか?」
「ちがうー! き・よ・か」
「おー清香」
「んーなんかちょっと発音違うけどいっか! ねぇねぇばるでまーさんお話しよ!」
「OK〜清香」
まだ幼い清香は葬儀でも蚊帳の外だったため、誰もホフィン氏のところで遊んでいることに気づかなかった。彼も彼で、まだこの国の言葉に慣れておらず。清香が持ってきた辞書が大いに役に立ったのだった。
「バルデルマーさんはお兄様みたいです」
「そうですか?」
「うん。優しいし、抱っこしてくれるし! 面白いし! ね! 姉や」
「ええ?! お嬢様、私はちょっとわかりませんよ」
話を振られた姉やはどぎまぎしながら異国人の二人を見るも彼女の目には、和ノ国ではみない高身長で屈強な男という印象で少々威圧感を感じるため、清香のような感想は持てなかった。
「清香、ジャックはどうです?」
「ジャックはねー優しくて可愛い! くまさんみたい」
「かわいい?! あははは!」
バルデルマーが大笑いしている様子に、ジャックは大きな体を小さくしてため息いた。
『ボス、ひどいです。何を笑ってるんですか?』
『レディーがお前のことが可愛いってさ。この国に来て、皆んなにビビられていたのにな、やはり子供はよく見てるな』
「ねぇねぇ、ジャック! はい花飾り!」
ツルツルの黒い肌の頭の上に清香が作った花冠が乗せられ、それを見たホフィンは大笑いした。清香の楽しそうな笑顔にジャックもむげにできず。困った顔をしながら一緒に過ごすのだった。
そんなふうに過ごしていれば、清香がホフィン氏になつき小さな恋心が芽生えるのもおかしくなかった。
だがそんな二人の状況を把握していなかった平次郎は名家の子息を集め、清香に会わせてみることにしたのだった。
いきなり見知らぬ子息の男たちを紹介された清香にとっては、大人に見える青年たちが幼い少女に対して莫大な遺産を持つ可愛らしいお人形にしか見えず。その空気を感じ取っていた。
子息たちは清香と仲良くするよりも平次郎に対していい顔をしようと必死だ。その姿に、清香は本能的に拒絶をしめした。
「まぁまぁ、まだ幼いお嬢様ですから。僕たちも気長に待ちますよ」
「寄宿学校に入れるのはどうでしょう。今女学校でも出来ましたし」
青年たちは平次郎にそう提案するも、間違えて入ってきたホフィン氏によって話は一転した。
「バルデマーさん! 抱っこして!」
清香はこの場を脱出するべく、ホフィン氏のもとへ一目散で駆けつけ抱きついた。
「Oh〜 レディーどうしました? あぁ〜部屋 まちがえ、ました。」
「これはこれは、Mr.バルデマー我が国の言葉を覚えられたのですか?」
「YES! レディーに教えて、いただき、ました。レディーは賢い! よき友達デス」
「なんと!」
孫娘の楽しそうにホフィン氏にしがみつく姿に平次郎は思いついたのだった。婚約者候補たちを帰らせると、平次郎はホフィン氏に提案した。
『私が、清香の婚約者ですか?』
『えぇ、いかがでしょうか。孫娘もあなたに懐いている。他の令息では頼りがいがない。だが貴方はしばらく日本に滞在するとか』
『当初はその予定でしたが、文彦が亡くなったので事業提携の話が……』
もともとは文彦とホフィン氏はお互いの国でホテル提携をしつつ、輸出業を行おうとしていたのだ。豪商である一族の手を借りてコネクション作りをしたかったのだが、まさかの指導者が無くなると言う事態。親族に海運業と運送業もいるが、ホフィン氏が行いたい所との顔つなぎは難しそうに思えた。
『我が国でのホテル事業、我が家の名で行えば必ず成功するでしょう。それに貴方の国に建てる予定のホテルも、国と国の繋ぎ役としてお手伝いも大々的にできるかと』
『なるほど、事業提携と婚約一緒にと言うことですね。確かにビジネスとしては良いですが、婚約者として若い』
『重々承知。ですが我が国では15歳で婚姻が可能です』
『残念ですが、我が国では17歳からです。しかも和ノ国の方は見た目が若い。清香も我が国では幼児にしか見えない。私がおかしな目で見られてしまうし。それに国際結婚は皇帝の許可が必要では?』
『我が家であれば問題ありません。では、孫娘が成人するまで守っていただけないだろうか。成人後に婚約破棄をしていただいても構わない。もちろん事業のバックアップはさせて頂きます』
その言葉にホフィン氏は驚いた。婚約破棄は名家の令嬢であればあるほど、傷がつくはずだと。
『あの子の財産を狙うものが多い。傷がついたほうが婚姻して意のままにしようとする者を排除できるだろう』
『なるほど。悪いお爺さまだ。いいでしょう、彼女にはこの国の言葉を教えて頂きましたからね』
『ありがとう』
二人は硬く握手をすると、婚約を成立させた。婚約だけ知らされた清香は喜んだ。それは仲良くなったホフィン氏がずっと家に住んでくれるからでもある。
広い屋敷で優しいお爺さまと二人っきりは寂しいのだ。ふとした瞬間に両親を思い出してしまう時、ホフィン氏がいれば忘れられるのだ。
清香にとって兄様に似ているホフィン氏にますますべったりとしていた。彼も甥っ子がいるので子供の扱いには実は慣れていたのもあり、清香に対して妹のように可愛がったのだ。
この婚約もまた新聞に大きく取り上げられたのだ、悲劇のお姫様、異国の豪商の青年と婚約と大々的に書かれ、親族たちは、その莫大な遺産が異国の青年の手に渡った事に意を唱えるも。
清香よりも財力のある彼は屋敷に母国の商品を運び入れ力を示したのだった。
「凄い、新しい車?」
「はい、母国から取り寄せました。貿易船で運んだので少々時間がかかりましたが。清香が喜びそうなものは……これかな?」
そう言って宝石が散りばめられたティアラを箱から取り出した。
「わー! 綺麗!」
「パーティーに身に付けましょう。みなさん驚く事まちがいない」
まだ言葉に違和感は残るものの、ホフィン氏はあっという間に和ノ国の言葉を覚え、清香と楽しげに会話を楽しめるほどになっていた。
和ノ国でも見かけない宝石の大きさに、参加したパーティーで財産を狙うと言う言葉消えてしまった。
所詮清香が大人になるまでの契約。時間も十分あり、それまでに彼女の家の力で基盤を作り事業展開できれば婚約破棄するタイミングも早くなると思っていたホフィン氏だったが。
『まさか、ここまで彼女の財産が欲しいのか』
腕の中ですやすや眠る清香を見ながらホフィン氏は呆れたように、足元で転がる男を眺めた。彼女の命を狙う間者は後を立たず。面倒なことを引き受けてしまったと思いながらもジャックがテキパキと処理していくのを眺めた。
『ボス。清香お嬢様がかわいそうです。こんなに幼いのに、大人の欲望に巻き込まれて』
『うんうん。そんな顔しながら、やってることはえぐいよなお前』
襲ってくるもう一人の間者を、鍛えられた筋肉質な腕がしなりポキリと小気味良い音をさせながらのしていく。
「んー」
『お姫様が目覚めそうだな』
『では、片付けますね』
そういうとジャックは軽々と男性三人を担ぐと移動してしまった。
「ふぁーあれ? バルデマーさんお買い物終わったの?」
「えぇ、終わりましたよ。清香はよく眠れました?」
「うん。あれ? 寝てました? 紅茶を飲んでたのに」
不思議そうに周りを見渡すと先ほどいた喫茶店ではなかった。ホフィン氏の買い物を待っている間、百貨店の喫茶店で待っていたのだが、ここは別の部屋だった。
「気持ちよさそうに寝ていたので、休憩室をおかりしました。では次の場所に移動しましょうか」
「次はどこにいくの?」
「清香が見たがっていた舞台ですよ。車をよんでいるので直ぐに行けます」
待合室から出ると、スーツの襟元を正したジャックがご機嫌に車のドアを開いた。
「ジャック! お菓子買ったから家に帰ったら一緒におちゃしようね!」
「ハイ、オジョウサマ!」
時々家族を思い出して寂しく泣いてしまうが、婚約者のバルデマーが休日の旅に色々な場所に連れて行き寂しさを紛らわしてあげていた。
「女学校はどうです?」
「……楽しいです」
入学したての頃は両親がいない事で少し意地悪なことも言われたが、今では誰も何も言わなくなった。それはやはり和ノ国ではまだごく一部の金持ちしか持てない車で通っているというのもある。
「それはよかった。お勉強はどうです?」
「お作法とか女子の心得とかで簡単です。お爺さまの課題の方が大変です! 難しい言葉ばっかり! お金は右左移動するとかさっぱりです」
清香は平次郎主導のもと経営についても勉強させられていた。未来婚約破棄されること前提で平次郎は清香が一人でも経営できるように叩き上げていることを本人は知らないのだ。それにもしも破棄されなくても、夫に資産をにがれないよう、平次郎は知恵を与えるつもりだ。
「Oh〜でもそれは大切なことです」
「でも女学校では、お金にがめついとか言われました。女子がお金についてとやかくいうなんてって」
「世の中お金が回ることで経済が回ります。こうやって生活できるのもお金があるからこそ、お金は有限です。それに清香はいっぱい持っていますがちゃんと把握しないと、あっという間に消えちゃいますよ」
「んー確かに?」
分かったようなわからないような清香は小さくため息をつきながら、でもこうして婚約者は優しく教えてくれるので嬉しかった。
「清香はとっても偉い。この国のルールはわかりませんが、我が国では良いことです」
「そうなの?」
「だからがんばって」
「うん!」
応援してくれる婚約者に清香は嬉しかった。それに、知る事によって世界が広がることも教わったのだ。
それでも、彼にとっては妹。
でも清香にとっては、恐ろしい親戚でさえ追い払える王子様のような婚約者。
「大好きです! バルデマー!」
「えぇ、私も大好きですよ清香」
ニッコリと微笑む優しい笑みに清香は少しの不満を感じながら。自慢の婚約者との生活は女学校に入ってからも清香を守るのだった。
だからこそ、成長と共に妹としか見られていない歯痒さを味わうのはこれから数年後。
「キスならいいでしょ?!」
「そう言って、こないだは私のシャツを脱がそうとしましたよね?」
「もう大人なんだからいいでしょ!」
「ダメです! 私の国では未成年です!」
「私の国では大人よ!」
✳︎姉や:女中の子守をおこなっていた人