【D】白色の檻
この小説は【対戦カードD】の組み合わせです。
対戦相手は『月に携帯を掲げて』となります。
以下企画サイトのルールの項目から抜粋。
もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。
【投票方法】……必読!
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(加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)
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「白色の檻だ」
どこか遠くを見つめる瞳で貴方は言った。
「捕らわれの兎、ヨーロッパでは読書する女だっただろうか。とにかく、彼らは檻から出ることが出来ない。助けを求めようにも、人の手が届くには余りにも遠すぎる。まさに孤立無援。見られるだけの、なんと悲しいことか」
寂しげな光が、訴えかけるように私を包む。だが、その今にも消え入りそうな光は、貴方の力では到底成し得ない事象。天道の輝きを拝借してやっと叶う、そんな光華。寂しさと虚しさが辺りには漂っていた。
だから、私は貴方を見据えたまま言った。
「貴方が言っているそれらは全て人間の空想の賜物だ。実在はしない。貴方もそれには気付いているのだろう? それでも貴方が彼らに思いを寄せ、その悲哀を分かち合おうとするのは、誰が為の物ではなく、結局は自身の苦悩に他ならない。そうなのだろう?」
それは無論、貴方に自身の心を認めさせる為の行為でもあったが、その反面、私自身が内に秘めたもどかしさを払拭する為の行為でもあった。顔を背け、唇を噛み締め、私は今だけ、貴方と相容れられぬ立場にあることを恨んだ。
「…………」
結果訪れた沈黙は、当然のように場の空気を重くした。一陣の風が吹き、連られて流れて来た浮遊する白綿が、悪びれた様子もなく貴方を覆い隠したのも、何か由縁があるに相違ない。貴方が私に届けようとする光はより淡く弱々しいものと化した。
悠久とも感じられた寂寞を先に割ったのは、貴方だった。
「そう、確かにその通りだ。私は常に孤独であることを悲しみ、またその悲哀を認めたくないが故に、私の立場を空想の兎や女たちに転換していただけだ。だがそれの何が悪い。認めたところでどうにかなるわけではない孤独感から、逃れたいと思うことの何が悪い!」
再び吹いた風が光の遮蔽物を取り除き、輝きは強まる。
「持ちつ持たれつの精神で成り立ってきた社会に甘んじている、貴様らのような人間どもには理解できないだろう。生まれし頃より隣人に当る者はおらず、それはおろか家族に当る者すらいない浮世など想像がつくわけがない。他との諍いもなく、悠々閑々と生活できる隠居などを想像してもらっては困る。孤独とはそういうものではない。どんなに明細に説いても貴様らには伝わるまい。こちらを指差してへらへらと論う未熟者どもめが!」
言い切った貴方は私を直視。先ほどまでの寂しげな光は影を潜め、今私に届いているのは激昂に染まった光だった。
だが、この時私は気付いた。その証拠として私は今、貴方の視線に対峙する。貴方は勘違いをしているだけなのだ。根本からの、大きな勘違いを。
その時、東雲の空が顔を覗かせ始めた。
「ははっ、遂に存在までもが否定される時が来たようだ。見られることすらない、孤独すらも超越した時間が。だがもしかしたらそちらの方が気が楽なのかもしれない。孤独を打ち明ける相手がいるからこそ、孤独を強く感じるのかもしれないのだから。さらば人よ。貴様は精々仲間のいる世界を楽しんでいるといい」
貴方の姿は西の空に沈みかけている。だが、そのまま行かせるわけにはいかない。私は貴方に伝えなければならないのだ。
「捻くれや開き直りもいいところだ。第一、貴方は初めから一人ではない。貴方に光を貸し与えていた太陽、貴方の傍にずっと居続けている地球、さらにはそこの空気や雲や水や動物、全て貴方に関わっていたではないか。物の見方を変えるべきだ。そうすれば貴方は孤独など、唯の思い過ごしであるということに気付くはずなのだ」
私は言葉を空に投げた。だが空は既に暁光が支配しており、吸い込まれるようにして消えていった言葉は、遂に貴方に届くことはなかった。
月は、既に見えなくなっていた。