〈鈴音古書堂〉との出会い
「ようこそ、僕の古書堂へ」
そう言い放った少女と共に、俺はネオンで彩られた洋館から対照的とも言える木造建築に移動した。一昔前の古書堂みたいな感じで仄暗い。
「よっと。やっぱり慣れないね、新築は」
「ここ新築なの?」
初対面でもツッコんでしまっていた。悲しきかな、ツッコミの宿命。
「新築だよーー少なくとも私にとってはね。それから、どうもこんにちは。ゲストかな?君は」
「何を言ってるのかさっぱりわからない。日本語で話してくれ」
「日本語の筈なんだけどね。まあ、要するに歓迎するってことだよ」
妙にざっくりと説明された。ゲスト、というのが引っ掛かるが。
「僕は鈴木立花。この〈鈴音古書堂〉の管理者だよ。君は?」
「俺は長久手柊人。ただの高校生だ。で、なんで人を招待してるんだーー高校でも話題になってるぞ。性格が変わるって。」
「性格を変えるだなんて人聞の悪い。僕はただ本を渡しただけなんだよ。何の変哲もない本を。」
「じゃあ、質問を変えよう。なんで、君はこんなことをしてるんだ。高校生ーーだろ。大体。中学生かもしれないが。だけど、理由はある筈だ。」
「さあ?何でだろうね。」
無性に腹が立つ言動だが、初対面の前で腹を立てても仕方ないので無反応を貫くことにしておいた。所謂スルースキルというやつだ。
「それでーー何処だ、ここ」
「説明した筈だよ。〈鈴音古書堂〉だと」
「だから、それがどんなとこかって訊いてんの」
「さあ?僕も本当の所はわかっていない」
恐らく出鱈目だ。そして少女は更に言葉を紡ぐ。
「知ってる限りで言うと、神出鬼没の古書堂(仮)って感じかな」
「真面目に答えてくれ」
「困ったねえ、これが真実だというのに」
「プラウダって絶対嘘じゃん…」
「まさか。僕が嘘をつくとでも?」
初対面に真実を伝えるのは哀しいからやめておいた。
「ここは[神出鬼没、天衣無縫の古書堂]、鈴音古書堂よ」
「困ったな、何も分からない」
「あ、もうすぐね」
「何がだよ」
反射でそう言ってしまったが、初対面なのだ。もう少し気を遣ってもよかっただろう、と反省する。
「結晶時計さ。君が入った時にひっくり返しておいた」
「結晶時計、とは?」
「砂時計みたいなものだよ。硝子時計もあったけど、何分割れるからね。硝子は。」
そう言って結晶時計とやらを出してきた彼女は、こんな所にいるのにその時だけ皮肉にも普通の中高生に見えたのだ。
「もうすぐ刻の華が咲く。二度とこんな所に来ないことを祈っておくといい、長江くん」
「長久手な。」
「現実じゃ、伝統芸能なんだけどなぁ」
「?」
最期に意味のわからないことを言って、あの少女ーー鈴木さんは消えて仕舞っていた。
それからは何も憶えていない。ただ、家のあるアパートの前に立っており、大家から「若いのに風邪引くよ。家に入りな」と言われて正気に戻った。
家に戻った俺は、普通に晩飯を食べて寝た。今日のことが全ての引き金になるとも知らずに。
はいどうも。れーわくん@列車砲です。初めましての方は初めまして、そうでない方も初めまして。コメントでの指摘など、宜しくお願いします!