鈴の音に誘われて
「あの子、例の古書堂に行ったらしいよ」
「今月で5人って多いね」
「てか、そしたら何処にあるか、とか知ってるんじゃないの?」
「訊いてきたけど、言わなかった。彼女曰くーー鈴の音がしてから、気づいたらそこにいたんだって」
「そんなことある?」
「私もいったことあるけど、同じ感じだった。透き通るような鈴の音が聴こえてからーー気づいたらそこに」
「だとしたら、どうして帰ってきたのさ」
「それも、気付いたら。私は家の前に気付いたらいた、って感じ。それで、時間は経ってないみたいでーー」
「幻覚じゃないの?集団性の」
「それはないでしょ。あの鈴の音はしっかり耳に焼き付いてる」
「ん⁈やっば、もうこんな時間かよっ!」
俺、長久手柊人は私立高校(進学校)に通う高校生だ。まさか大事な期末の日に限って寝坊してしまうなんて。大急ぎで準備をすればギリギリ間に合う時刻なのが不幸中の幸いか。俺は重い体を起こして、準備を進めた。超特急で着替え、朝食のおにぎりを水で流し込む。そして家を出た頃には、電車に間に合うギリギリの時刻になっていた。
ギリギリ間に合った電車のなかで、俺がほっと一息ついていると声を掛けてくる人物がいた。
「おーはよっ」
「おは」
今声を掛けてきたのは平松怜。俺の唯一の親友だ。決してぼっちではない。栄光ある孤立なのだ。
「そーいや、クラスラインでまた話題なってたけどさ」
「何?また例の古書堂行ったって奴が出てきたの?」
「流石ご名答。そうなんだな。しかも、今回はケースがケースだけに、結構騒がれてる。」
「誰だよ、そんな奴いたっけ」
「松下さんだよ。女子が騒いでる」
「成程ね。そうか」
松下さんとは、成績優秀で女子グループ内にてある程度の地位を確立した才媛である。
「あー。てか最近多くね?今月始まったばっかなのに5人だぜ」
「それな。そもそも古書堂自体なんなんやろ。やけに近未来的らしいし」
「わかんね」
放棄すんな。
寝坊こそしたものの、こんな風にいつも通り登校出来た。ただ、期末試験は自信がなかった。歴史が今日の目玉だが、フランス革命が範囲というややこしい情勢だったからだ。
結果から言うと、散々だった。歴史は撃沈し、副教科も軒並みやられていった。唯一全枠埋められたのは美術だが、前回が12点なのでほぼ全教科撃沈である。そんな気持ちを抱えながら家に帰っていると、不意に鈴の音がした。
そして、気がつくとネオンで彩られているもののネオンが不自然な明治建築の中にいた。
「あらーーこんにちは。」
「こんにち、は」
応対をしてくれたのは、透き通った声のショート青髪女子だった。歳は俺と同じくらい。だがーー浮いている。物理的に。俺も浮いていることに気づいた頃に、彼女は二言目を発した。
「ようこそ、僕の古書堂へ」
はいどうも。れーわくん@列車砲、柊 朱雀です。初めましての方は初めまして、そうでない方も初めまして。コメントでの指摘など、宜しくお願いします!