Ⅸ
「ね! いいでしょ? お願い!」
目を輝かせながらユウヤ様にお願いする妹様。
その表情はユウヤ様には見えていないはずですが、圧を感じるのでしょう。
ユウヤ様の顔が、今までに見たことのないくらいに引き攣っています。
私はというと、ユウヤ様の慌てていらっしゃる姿を見ていたら、先ほどまでと違い驚くほど冷静です。
他人がここまで慌てているのを見ると、逆に冷静になるものなのですね……。
ユウヤ様には申し訳ないですが。
「わ、わかった、するよ。……ルーネ、巻き込んでごめん」
「構いません。少し恥ずかしく思いますが、ユウヤ様とキスができるのはとても、嬉しいです」
「あぁもうっ……今絶対可愛い顔してるだろうに……! 初めて目が見えないこと後悔した!」
「か、可愛いだなんて、そんな……。もったいないお言葉です……!」
本日二度目の誉め言葉です!
しかもキスまで……。
こんなにも幸せなことがあって良いのでしょうか?
益々、ユウヤ様への恩返しが難しくなっているような気がするのですが……。
それにしてもユウヤ様、やはり目が見えなくなったこと自体はなんとも思っていなかったのですね。
昨日の言動からも、私との約束を果たせなかったことは気にしていた様子でしたが、目が見えなくなったこと自体はそれほど重要視していないようでした。
まぁ、私もユウヤ様と共に在れれば十分だと思っていたので、お相子ですが。
「ねぇ、はやくしてよぉ」
「分かったって」
やり取りが長引いたせいか、妹様が急かします。
それに応じたユウヤ様が、私の前に立たれました。
改めて見ると、ユウヤ様の背丈がとても高いことが分かります。
私の目線の先がユウヤ様の胸元辺りなので、身長差が目立ちますね。
「ごめんけど、さすがに口の位置まではわからないから、ルーネからしてくれないか? しやすいように屈むから」
仰る通りなので、了承の旨を伝えます。
私の背丈は分かっているユウヤ様は、私の顔の前までご自身の顔を下げました。
妹様の見守る中、私はユウヤ様の両頬に手を添えることで、今からしますよと伝えます。
と、ここで、思わぬ事態が発生します。
それはと言うと……
──ユウヤ様のお顔がこんなに近くに……! ど、どうしましょう! 急に恥ずかしくなってきました……!
突如として羞恥心に苛まれたのです。
「おねえちゃん? どうしたの?」
「ルーネ?」
「は、はい! します! 大丈夫です! 私はできる子なのです! どーんとお任せくださいませ!」
最早、私自身何を言っているのか分からないくらいに動揺してしまっていました。
「おねえちゃん。言い出しっぺはゆかだけど、むりしなくていいんだよ?」
「そうそう。元は俺のせいなんだから、無理してする必要はないぞ? キスなんて、しようと思えばいつでもできるんだし」
「で、ですが、折角、妹様が見たいと仰ったのに私の羞恥心のせいでお見せできないなど……」
「固く考えすぎ。俺達もう家族みたいなもんなんだから、そんなの気にしなくていいんだよ」
「そうだよ、きにしなくていいんだよ」
お二人の温かい言葉を聞くにつれ、私の中の羞恥心が消えていきました。
──今ならできる……!
その勢いで、私はユウヤ様にキスをしました。
「ん、んーん!?」
「おぉ!」
妹様の歓声が聞こえる中、しばらくキスを堪能してから口を離します。
今、ものすごく幸せな気持ちです。
「ぷはっ、ちょっ、急にするなよ……! 心臓、止まるかと思っただろ?」
そう仰るのを聞いて、ユウヤ様が肩で息をされるほど呼吸が荒くなっていることに気づきました。
「申し訳ありません。するなら今だと思ったら、つい」
「可愛い、許す。ただ、次からはするならするって言ってくれ……心臓がもたない」
「はい。以後、気を付けます」
「ならいい」
こうして、一連の騒動は一段落したのでした。