Ⅷ
妹様の説教は、思わぬ形で終了しました。
「眠ってしまいましたね」
「あんだけ泣いたら、そりゃな」
そう。叱っているうちに約束した矢先にユウヤ様がいなくなった話になり感情が昂ったようで、突如ユウヤ様に抱き付かれたかと思うと、泣き始めたのです。
妹様が泣かれている間、ユウヤ様は妹様を優しく抱き締めながら頭を撫でられました。
そして泣き疲れた妹様は、現在、ユウヤ様の膝枕で幸せそうに眠っていらっしゃいます。
少し羨ましいですが、ようやく再会できたお二人を引き裂くなどできるはずもないので、ここは我慢します。
機会があればユウヤ様にお願いしてみることにしましょう。
逆に私がしてあげるのもいいかもしれません。
「それにしても、怒濤のお叱りでしたね。私よりも年下とは思えません」
「父も母も教師だったからな。結花のは特に母の叱り方を真似したものだと思う。真似とはいえ言ってることに矛盾はなかったから、成長してるってことだな」
偉いぞ~、と仰りながら眠っていらっしゃる妹様の頭を優しく撫でるユウヤ様。
ご両親が教育者だったという事実を知り、妹様の聞き分けの良さに納得がいきました。
私のように幼い頃より教育がなされたからなのでしょう。
そう結論付けました。
さて、妹様が眠っていらっしゃる間に気になっていたことを聞いてみましょう。
「あの、ユウヤ様。昨日から気になっていたのですが、どの様にして空間を把握しているのですか?」
昨日から今に至るまで、なんの補助もなしに城の中をなんの迷いもなく歩くことができていることが不思議でなりません。
「あぁ、それ? 魔力の応用……かな。見えなくなってから分かるようになったんだけど、魔法を使ってなくても魔力が体から漏れ出てることが分かって、それを位置把握に利用してる。魔力を発してない建物とかは、自分の魔力を放って跳ね返る感覚で把握してる」
「なるほど。コウモリのような把握方法をとっているのですね」
「そういうこと」
「しかし、それだけで私の手の位置など細かいところまで分かるものなのでしょうか?」
「それはサーモグラフィ……って言っても分からないか。う~んと……魔力が漏れ出るのは、指先に至る全身からだから手の位置も分かるって感じなんだけど、今の説明で分かった?」
「その前に、仰っていた〝さーもぐらふぃ〟とはなんなのですか?」
説明を聞き流してしまうくらいには、気になります。
それに気づくことなく、ユウヤ様は説明してくださいました。
「人間には体温があるだろ?」
「はい」
「俺がいた世界には、その体温を色で可視化できる道具があるんだ。加えて、それを使うと人の形がくっきりと分かる」
「なるほど。ユウヤ様の把握方法には、それと似たような効果があるということですね?」
「そうだけど……つくづく思うけど、ルーネって王女なだけあって頭いいよな」
ユウヤ様から聞いたことのなかった褒め言葉を聞くことができた私は、あることに気づき、ユウヤ様に少し意地悪をすることにしました。
「き、急にどうされたのですか!? まさかっ、風邪をお召しに……!?」
「俺が悪かったから、俺が褒めたことないことを揶揄するのはやめてくれ……。結花に聞かれたらまた怒られる……」
「ふふふ、申し訳ございません。もちろん、妹様には言いませんよ? ――ご本人に聞かれていない限りは」
「そ、その言い方……まさか!?」
「お・に・い・ちゃ・ん?」
私が気づいたあること、それは〝妹様が目を覚ましていた〟ことでした。
目覚めが早いことに驚きましたが、話を聞いていらっしゃった妹様が不機嫌な表情をなさったので、ユウヤ様に意地悪をしました。
「ゆ、結花、おはよう。今日は良い天気だね」
「そうだね。おせっきょうびよりだね」
「あっ……。すみませんでした! 許してください! なんでもしますから!」
「じゃあ……」
考え始める妹様。
ユウヤ様は、どんなお願いをされてしまうのだろうとドキドキした様子で待ち構えています。
そして、次の瞬間……
「おねえちゃんとキスしてくれたら、ゆるしてあげる!」
「「……えっ?」」
ユウヤ様へのお願いのはずでは……?