Ⅶ
「ここまでが、昨日までの出来事のあらましです」
長い、とても長い話を投げ出すことなく聞いていた少女は、隣にいる人物に話し掛けます。
その表情は、表面上は笑っていますが、雰囲気は全く逆です。
と言っても、その表情は隣の人物には分かりようもありませんが……。
「お兄ちゃん?」
「は、はい……!」
隣の人物──ユウヤ様は、声色から察したようで、縮こまりながら返事をしています。
「女の子にひどいことするなんて、そんなことする子にそだてたおぼえはありません!」
年下とは思えない荘厳たる態度でユウヤ様を叱る少女──ユウヤ様の妹様。
「はい、すみません……」
「あの、その事はもう謝っていただいたので、ユウヤ様を責めないでください」
「うるさい。ちょっとだまってて」
その言葉に、既視感を覚えました。
すぐに、その答えは出ました。
◇
召喚された直後、口元に手を当て真に迫った表情で考え事をされていたユウヤ様に、
『あの? 大丈夫ですか?』
と声を掛けても返事がなかったため、もう一度声を掛けて返ってきた言葉が……
『うるさい。ちょっと黙ってて』
◇
そう、妹様が仰った言葉は、かつて、ユウヤ様がこの世界に来て私に向けて放った最初の言葉。
そして、妹様の私に向けての最初の言葉も……。
お二人が本当に兄妹なのだということを実感し、自然と笑みが溢れます。
ユウヤ様への一つの恩返しが叶ったと言えるからです。
しかし、ユウヤ様への恩はこれだけでは返せるものではありません。
結婚もその一つですが、これは私も望んでいたことであるため、恩返しとは言えません。
むしろ、騎士団長が言っていた通り、こちらが感謝すべきことです。
「だから、それは結花のことで頭いっぱいで……」
「言いわけきんし! おねえちゃんがかわいそうだとおもわなかったの!?」
「!?」
今、聞き間違えでなければ、〝お姉ちゃん〟と聞こえたのですが!?
「い、今、お姉ちゃんと言いましたか!?」
「え? だって、お兄ちゃんと結婚するんでしょ? だから、おねえちゃん」
確かに、その通りです。
「つまり、結婚しても良いということでよろしいでしょうか?」
「うん」
「! ありがとうございます!」
「おねえちゃんは、いもうとにそんなしゃべりかたしないんだよ」
「そ、それは……」
どう説明したものかと悩んでいると、ユウヤ様が助け舟を出してくださいました。
「結花、ルーネお姉ちゃんはお姫様だから俺達みたいな喋り方はできないんだ」
「そっか! おひめさまだもんね! じゃあ、ゆかががまんする!」
本当に妹様は私より6つも下なのでしょうか?
私の場合は5歳の頃より教師の下で厳しい淑女教育を受けていたため我慢など日常茶飯事でしたが、ユウヤ様達は、言い方は失礼になりますが所謂庶民です。
我慢をする必要性を感じられません。
それに、叱り方もそうですが、ユウヤ様のいらっしゃった世界の10歳とはこの様なもなのでしょうか?
まさか、それほどまでにユウヤ様のいらっしゃった世界の教育環境が優れているということなのでしょうか?
それとも単に妹様が聡いだけなのでしょうか?
城下で出会った10歳の女の子がいたのですが、その子は我儘ばかり言う子だったので驚きました。
なんにしても、10歳とは思えない聞き分けの良さです。
そう思った矢先、妹様が手を叩かれました。
「で、はなしもどるんだけど」
「忘れてなかった……!」
ユウヤ様の悲痛な叫びが部屋の中に響いたのでした。
ここで完結とします。
続きは、ポイントの伸び次第で考えたいと思います。よろしくお願いします。