Ⅴ
それからのユウヤ様は怒濤の勢いでした。
翌日から訓練を始め、1ヶ月で魔法・剣術共に私達の遥か先へ到達してしまわれ、遂には魔族の住まう大陸へと旅立つことになってしまいました。
「ユウヤ様、やはり私もお供させてください!」
「ダメって何度も言ったろ? ルーネは唯一の王女なんだから、万が一が無いようにしないと」
「では陛下の許可を……」
「許可取ってきても、ダメなものはダメだ。留守番してろ」
「……わかりました。その代わり、絶対に無事で帰ってきてくださいね! 約束ですよ!」
「うん、約束する。じゃあ、元気で」
「ユウヤ様も。──騎士団長。くれぐれも、よろしく頼みましたよ」
「ハッ! 命に変えましても」
こうして、ユウヤ様は旅立たれました。
◆
ユウヤ様のいらっしゃらない王城は、かつての日常に戻った、それだけのはずが、とても寂しく詰まらないものでした。
旅立たれた翌日にユウヤ様のお部屋に朝の挨拶をしに行ってしまうくらいには、私の中でユウヤ様は特別な存在になっていたのです。
そこでようやく、私がユウヤ様に対し恋心を抱いていることを自覚しました。
しかし、私はこの想いを胸の奥底に仕舞い込みました。
来たくもない世界に来てしまった上、しなくてもいい魔王討伐を自ら志願して旅立たれていったユウヤ様に対し恋心を抱くのは、私の立場上あってはならないことです。
故に、心の奥底に仕舞い、ユウヤ様に気付かれないように接することを決めました。
しかし、奥底に仕舞い込んだとはいえ、自覚してから数日は公務に手がつけられないほどユウヤ様のことばかりが頭を過りました。
──もしユウヤ様の身に何かあったら……
そんな考えが浮かぶ度、
──ユウヤ様なら大丈夫、ユウヤ様なら大丈夫、ユウヤ様なら大丈夫……
と、何度も繰り返して自分に言い聞かせました。
根拠は無いに等しかったのですが、そう思い込むことが、思考が後ろ向きになるのを阻止する最善の方法でした。
◆
そして、数ヶ月が過ぎた頃。
公務を行っていると、傍に置かれていたティーカップにヒビが入りました。
その不吉な現象を見た私は、直感的にユウヤ様の身に何かがあったのではないかと思いました。
思い過ごしであってほしいと思いながらも、ユウヤ様のいらっしゃらない間に起こったという時期を考えると、祈らずにはいられませんでした。
「ユウヤ様……どうか御無事で」
そう祈った一週間後、予想とは裏腹に、騎士団長からの通信魔法によってユウヤ様が魔王を討伐したとの報がもたらされました。