Ⅱ
ユウヤ様がお目覚めになられたのは、日が暮れてからのことでした。
しかしそれは、普通の目覚めではありませんでした。
「結花!!」
恐らく、妹様のお名前でしょう。
未だに名前を教えていただいていないため、必死な表情で飛び起きられたことからその可能性が一番高い、と推測することしかできません。
そして、あまりにも息が上がっており、心配になった私は声をかけました。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけたところ、初めて、ユウヤ様が私の顔を見てくださいました。
私の顔を見たユウヤ様は、しばらく私の顔を見詰めました。
そして恐らく、気を失う前のことを思い出したのでしょう。
私から目を逸らされ、
「放っといてくれ」
そう呟かれました。
ここでようやく陛下が言葉を発しました。
「貴殿の意思を尊重するが……今は、我らの言葉を聞いてほしい」
そう仰ったのを聞いて、ユウヤ様がゆっくりと陛下に視線を向けられました。
「この度は、誠に申し訳なかった……!」
陛下がそう仰ると同時に頭を下げられたので、倣って私も頭を下げます。
「魔王の力が強大で、我らでは為す術がなかった。その為、勇者召喚に頼る他ないと勇者召喚を行ったのだが……貴殿を見て、我らの行ったことはとんでもない愚行であったと思い知らされた。貴殿を戦いに送ることはしない。魔王を倒すその日まで、責任を持って貴殿を守ると誓う。だからどうか、命を投げ出すことだけはしないでもらいたい……!」
帰れないと思っているユウヤ様に、魔王を倒す日までと言ったら、その後は守ってくれないのかと疑問に思われてしまうのでは?
そう思いましたが、ユウヤ様からは反論の言葉が出ません。
「貴殿の世話役として、娘のルーネを当てる故、何か必要なことがあれば遠慮なく娘に申し付けてほしい。ルーネ、良いな?」
「はい、陛下」
「では、これで失礼する」
そう仰られた陛下が退出されました。
陛下が退出されるのを見送った私は、ユウヤ様のお側へ寄りました。
「何か、ご入り用のものはございますか?」
「……」
「あの……」
「出てってくれ……」
「! はぃ、畏まりました……」
やはり、心の壁があるようで、話をすることもできず、部屋を退出せざるを得ませんでした。
退出した私は、廊下に控えていたメイドの方にユウヤ様のお食事を用意するように伝え、自室に戻りました。
◆
自室に戻った私は、やるべき公務を片付けながら、どのようにすればユウヤ様に心を開いていただけるのかを考えていました。
「私達がしてしまったことを思えば、そう考えることすら、烏滸がましいかもしれませんね……」
それでも、1年後に夢となる予定のここでの生活が悪くなかったと思ってもらうために必要なことだと思い、私は一晩中思考を巡らせたのでした。