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その後は、私が居てはできない積もる話もあると思い、私は部屋を退室しました。
そこへ、待ち構えていたようにメイドの方が話し掛けてきました。
「殿下、陛下がお呼びです」
「わかりました。場所は陛下のお部屋ですか?」
「はい。その通りでございます」
メイドの方にお礼を述べた私は、陛下の自室に向かいました。
◆
部屋の前まで来た私は、扉を二回叩きます。
中から陛下のお声で入室の許可が出たので、部屋の中に入ります。
「失礼いたします。本日は、どの様なご用件でしょうか?」
「なに、公務の話ではない。楽にするがよい」
「わかりました。では、どの様なお話ですか?」
「うむ。今後のお前に関わる話だ。まずは座ってくれ」
陛下──お父様にそう促されたので、置かれているソファーの一つに座ります。
それにしても、私の今後に関わる話とはどの様なものなのでしょうか?
「でだ。ルーネ、ユウヤ殿から申し出を受けただろう?」
「はい。申し出を受け、それに私は了承しました。私は、ユウヤ様と結婚致します」
「そうか。そうだろうな……。お前が珍しく公務に手を付けられなくなった時から、ユウヤ殿に気があることは予想できていた。だから余は、ユウヤ殿からお前への想いを打ち明けられた時、好機だと思って魔王討伐ができたらという建前を付けて了承した」
「お父様……」
「父として、お前には幸せになってもらいたいと思っている。王としてはあってはならぬことだが、ユウヤ殿との結婚にあたり、ルーネの王位継承権を剥奪する」
そう仰ったお父様の表情は真剣そのもので、考えに考え抜かれた結果なのだと理解してしまいました。
「後継者はどうされるのですか? まさか、まだ産まれたばかりの、フリージオではありませんよね?」
「そのまさかだ。──そう怖い顔をするな。余はまだまだ生きる。フリージオが成人するまでは、絶対にな」
「それは希望的観測に過ぎません。もし、フリージオの成人までにお父様に何かあったら、誰が代わりをするのです! やはり王位は私が継ぎます! ユウヤ様には婿入りしていただけばよいのです! ユウヤ様とて、そのぐらいはご容赦くださるはずです!」
──ユウヤ様なら、きっと。
「お前の心配は嬉しいが、これは決定事項なのだ。すでに住む土地も用意してある。ユウヤ殿とその妹殿と共に、結婚の儀を終え次第そこで暮らすのだ。話は終わりだ、下がってよい」
「……わかりました」
これ以上抗議しても無意味だと悟った私は、立ち上がって部屋を退室しました。
◆
自室に戻った私の思考は、嵐のように渦巻いていました。
お父様の考えていらっしゃることも理解できます。
ユウヤ様を王家として遇することは、当初の〝我々のことは我々のみでするべきだ〟と思い直した想いに反する行為であると。
しかし、お父様の子が私だけというのも事実なのです。
血筋で言えば、公爵家長男のフリージオも王位を継ぐことができますが、先に述べた通りまだ産まれたばかりの赤ん坊です。
成人するまで15年。
お父様に何かあってもおかしくない年月です。
だからこそ、想いに反する行為であろうと、ユウヤ様に婿入りしていただき私が王位に就くのが妥当ではないかと提案したのですが、聞き入れていただくことは叶いませんでした。
王家の人間として、結婚するからと言って他者に国のことを押し付けてのうのうと生きていくことは、あってはならないことだと思います。
何より、亡くなったお母様に王家の人間として民のために力を尽くすと誓ったのです。
お母様に顔向けができません。
「私は、どうしたらよいのでしょう……」
教えてください、お母様。




