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異世界王女の恋愛譚  作者: ユウギリ
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 その召喚された異世界人の御方のおかけで、私達の国──グラドリア王国は、自らの尊厳と意地と誇りを取り戻し、魔王を討つことができました。

 討つことができたと言っても、結局は異世界人の御方が果たされたのですが……。

 どちらにせよ、その御方によって〝グラドリア王国の運命が良い方向に向いた〟という事実は変わりません。

 この大恩に報いることは、残念ながらできていません。

 その理由についてお話するには、順を追う必要があります。


 ◆


 人種の滅亡を目論む魔王を討伐するため、あらゆる手段を用いるも、そのことごとくを粉砕され為す術がなくなったグラドリア王国は、緊急会議を行いました。


「かの魔王の力は絶大だ……。もう、召喚の儀に頼るより他ない」

「それしか、ないでしょうな……」


 陛下のお言葉により、高い潜在能力を持った異世界人をこちらの世界に招く、召喚の儀を行うこととなりました。

 この時の私達は、召喚の儀に頼るという考えしかありません。

 それ故、召喚の儀を行った後の出来事を、誰もが夢にも思っていなかったのです。

 召喚の儀は無事成功し、異世界人の男性の方をお迎えしました。

 後の大英雄となられる、サカモトユウヤ様です。

 ユウヤ様は、召喚された直後から口元に手をお当てになり、考え事を始められました。

 その考える姿があまりにも真に迫っていたため、私は心配になり声をかけました。


「あの? 大丈夫ですか?」


 しかし、ユウヤ様は反応なさいませんでした。

 その為、私はもう一度話しかけました。


「あの?」

「うるさい。ちょっと黙ってて」


 衝撃でした。

 まさか、そんな返しが来るとは思ってもおらず、私は狼狽してしまいました。

 今にして思えば、ユウヤ様の反応は当然のことだと思えます。

 そんなユウヤ様の言動を聞いていた整列している騎士のお一人がユウヤ様を諫めました。


「貴様、殿下に対しその様な口を開くな。無礼だぞ」


 その一言は、ユウヤ様に限らず、勝手に喚んだ側が喚ばれた側に向けていい言葉ではありませんでした。

 無論、ユウヤ様は即座に反応されました。


「勝手に喚んでおいて、自分達のルールに従えってか? こっちは向こうでの生活を壊されてんだぞ? ──あんたにわかるか? 両親には事故で死なれ、兄には居なくなったりしないって約束した矢先に急に目の前で居なくなられた10歳の妹の気持ちが! わからないよな、他人事だもんな」


 重たい事実を言われ、騎士の方はもちろん、聞いていた全員が絶句し、なんと愚かなことをしてしまったのかという後悔の念が押し寄せてきました。

 しかし、そう思っているのも束の間。

 ユウヤ様がとんでもない行動に出ました。

 騎士の方の剣を奪い、御自身に向けられたのです。


「な、なにを……!」

「どうせ帰れないんだろ? だったら、死んだ方がマシだ」


 この時、なぜ説明をしなかったのか、悔やんでも悔やみきれません。

 元の世界に帰れるということを。

 というのも、説明をする間もなく、騎士団長様の迅速な対応により、ユウヤ様が意識を手放すことになったからなのですが……。


 ◆


 意識を失ったユウヤ様を騎士の方に運んでもらっている間に、陛下と私、そして宰相の三人は、話し合いを行いました。


「まさか、あのような事情を持った者を召喚してしまうとはな……」

「はい……予想外でした」

「あそこまでの行動を起こされては、元の世界に帰れると伝えるのは……」

「難しいですな。何より、あの者の尊厳を傷つけかねません。心苦しくはありますが、今しばらくは、元の世界に帰れることは秘匿し、帰還の儀を行える一年後まで城内で過ごしていただくのがよろしいかと。帰還の儀は、あの者が寝ている間に行うのが良いかと思われます」

「うむ……宰相の言う通りにしよう。我々は、間違っていた。いかに方策が尽きたからと言って、全く関わりを持たない者をこちらの都合で喚び出し、利用しようとした……我々の問題は、我々自身で解決すべきだったのだ。とんだ愚王であるな、余は」

「陛下……」

「あの者が寝ている間に着替えさせ、衣類に状態保存魔法を掛け丁重に保管するよう手配せよ。そして、あの者を特別客人待遇とし、これ以上我々への不信感を与えぬよう徹底するのだ」

「承知致しました。その様に致します」

「帰還の儀に関することは抜きにしても、召喚してしまったことに関しては謝罪しなければならんな……」

「では、私が!」

「いや、余が行う。お前は傍らに控えているだけで良い。余に任せよ」

「……承知しました」


 こうして、話し合いは終わりました。

 この時の私の思考は、後ろ向きな思考で埋め尽くされていました。

 目が覚められたら、また命を絶たれようとするのではないか、されなかったとして私達の話を聞いてくださるのか、聞いてくださったとして許してくださるのか。

 その様なことばかりを考えながら、陛下と共にユウヤ様のお部屋に向かい、ユウヤ様のお目覚めを待ちました。



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