宣戦布告
人類が宇宙に飛び立ち、星間移動も可能となった頃、宇宙に先の見えない穴が開いた。
真っ黒の先の見えない穴。
ブラックホールかとも思われたソレの正体は、より危険なものであった。
その穴を通して、様々な異世界人がこの世界へ攻め込んできた。
文化が違う
言葉が違う
思想が違う
法則が違う
異世界人は、嬉々として人間は襲いかかった。
事は、この物語にはあまり関係がない話。
この話は、
一体のセクサロイドが、攫われてしまった小さなお嬢さ……、『お姉様』を助けるために奮闘するものである。
ー小さいお姉ちゃんと大きい妹セクサロイドー
轟音が響いた。
『船団員に告ぐパターンレッド。船団員に告ぐパターンレッド!戦闘員は至急持ち場に移動せよ!非戦闘員はただちに防護隔離エリアに移動して下さい!繰り返します』
轟音が響いた。
その直後、僅か数瞬で警告音が船内中に鳴り響く。
繰り返される警告により、船内のそこかしこから慌ただしい足音が鳴る。
扉が激しく開き、怒声と共に悲鳴が耳に入る。
つい先程まで多くの人が談笑していたレストランも、ダンディーな叔父様がいたビリヤードバーも、机はひっくり返り飲み物はこぼれ小物は散乱し、今、人は誰もいない。
警告は素早く非戦闘員を誘導して、対して戦闘員を持ち場へと移動させた。
ここは、赤薔薇銀河の端。
デリラ星とよばれる資材の豊富な資源惑星を要する23星系。そこにこの宇宙船はあった。
山よりも大きな黒く光を反射する逆円錐系の宇宙船、宇宙母艦【カイザーⅡ】である。
その宇宙船は現在、一本の棒、槍のようなものが刺さっていた。
その巨大な宇宙母艦からすれば小さな槍。だが、実際その大きさは電波塔を遥かに超える大きさだった。
「くそ!襲撃があるなどは聞いてないぞ!異震はあったのか!」
「艦長、それが空間の揺らぎが、異震が・・・、異震が全く検知できないんです!」
「ふざけるな!この異世界人め!!戦闘回線を、オープンで全戦闘機に繋げ!」
「分かりました!」
宇宙母艦のコックピット。
そこには多くの指示、指令が飛び交う。
だが、その頂点に立つ男がその声を電波に乗せ、全戦闘員に檄を飛ばした。
『全戦闘員に告ぐ!!この度、卑劣にも異世界人は奇襲攻撃を起こしてきた。こいつらは白雲捻り……、巨大な角の骨を使用した。つまり敵は、《ボーンコネクター》であると推察される。今回こいつらは異震を起こしていない。いいか!異震を起こしていない!我らのセンサーを掻い潜る何かしらの技術的を所持している可能性がある!この屑ども一機残らず撃滅し、多くのサンプルを手に入れろ!』
今より数百年も昔。人類が宇宙に飛び出すのを待っていたかのように、宇宙に穴が開いた。
それは、様々な異世界人がやってくる穴。
見た目も文化も、適用される法則も全く違う異世界人が次々と、穴から飛び出す。異世界人は、嬉々として人類に襲いかかったのだ。
そして現在。
宇宙では、増殖する骨を、色取り取りの光線が核ごと貫く。
宇宙空間であっても脳裏に響く異世界人の声を気にすることもなく、宇宙戦闘船は縦横無尽に宇宙を自由に移動した。
だが、
それは、
この1人の女性にはなんら関係のない話。
否、一体の女性型セクサロイドには関係のない話である。
彼女は、警告音の一瞬前。
船内に響き渡った轟音と共に起動する。
白い大きな槍のように見える、無数の骨で編まれて出来上がる、角と呼ばれる異世界人の攻城兵器
それは、彼女のいたスクラップ置き場に大きな穴を開けた。
*****
床に倒れ伏し動かないセクサロイドがいた。
大きな外傷があるわけではない。
しかし乱雑に扱われた為か、丈夫な人造皮膚は破れ、中からは神経のような配線が飛び出す。
動く気配もないその様相からは、すでに廃棄され稼働出来無くなっている事が窺えた。
宇宙母艦の廃棄場の一つである、スクラップ置き場。
そこは、まるで時が止まっているいるかのような静寂に包まれ、優しい闇が落ちていた。
轟音が響くまでは。
スクラップ置き場に一本の白い骨が突き刺さる。異世界人の攻城兵器『角』。その自慢の骨の先端はひしゃげてしまい、青い液体が、チョロチョロと流れ出た。
その液体は、壁をつたい、床を進み、一体のセクサロイドに堰き止められた。
青い液体は淡く明滅する。
なんの因果か。
もう二度と起動することはなかった、そのセクサロイドの瞳に、光が灯った。
「ここは、どこでしょうか……。私は、なぜまだ稼働しているのか。」
彼女は軽く首を回し、自身先程まで倒れていたスクラップ置き場の様子を確認した。
まだ完全には壊れていなかった機械から灰色の煙が上り、破られた壁から出た配線はパチリと火花を散らしている。
「随分と悲惨な状況ですね。ん??」
周りの様子に小さく声を溢すと、自分の足元に青い液体が広がっていた。
特に考えることもなく、彼女の目から出た光は液体をスキャンする。しかし、この液体がなんなのかを解明する事はできなかった。
「私は、現在どういう状況にあるのでしょうか。」
コテンと首を傾けて見るも、自分の姿を客観視する事はできない。
そもそもセクサロイドである彼女は何故首を傾げる動作をしたかも分かっていなかった。
自分のことをスキャンするも、自身の3Dモデルが脳内に表示されるだけである。
何の異常も検知されなかった。
「仕方ありません、まずは此処を出てから考えましょう。」
彼女は徐に、近くのゴミ山から長い棒を掴み取る。スクラップ置き場において、曲がることもなかったその棒を、スッと逆手に持つ。
「ふん!」
そのまま棒を投擲した。
とても人間が出せる速度ではない。それは綺麗に壁に突き刺さり、そして火花を散らした。
さらに、素早く5つの物体を剛速で、棒の刺さった壁へと投げつけた。
それらは壁にぶつかると中身を吹き出し、色とりどりの液体を撒き散らす。
人間を魅了する蠱惑な笑みを浮かべ、小さく呟いた。
「どーん」
爆発が起きた。
ここはスクラップ置き場。あらゆる宇宙船の機械ゴミが捨てられている。
組み合わせ次第では、分厚い壁もぶち破れるのだった。
「骨で破れた壁に、後少し隙間があればあそこから出られたのに。通れない事が残念。」
本来なら警備員が飛んでくる爆発。
だな、緊急事態である今は、彼女の行動を止めるものは居なかった。
「ここはスクラップ置き場。私は廃棄されてしまったのですね……。」
彼女は寂しそうに目を伏せる。
胸の奥がキュっと締め付けられたような不可思議な感覚に見舞われた。
その胸の疼きに、また疑問を呈した様子でコテンと首を傾げた。
「おかしいです、先ほどから。スキャンでは内部には異常はないと出たはずなのに?エラーでしょうか。やはり廃棄されるに足る原因があったんですかね」
彼女は自嘲気味に笑うと、目の前にある大きな穴を通り抜け、スクラップ置き場を後にした。
裸で。
*****
「あ、服が……。どこか服を隠せるものがないと困ります。私の蠱惑的な身体は、動く毒ですしね」
困ったと、手を頬に添える。
襲撃のせいかあたりには誰一人いない。しかし恥一つ見せず悠々とあたりを見渡す彼女は、やはり人間ではなかった。
「ここはまだ人類がまだ星に住んでいた頃のショッピング施設?を模した作りになっているのでしょうか?わざわざ低い天井にしてるあたり、地下施設を真似してるのでしょうね」
彼女が抜けた大穴。
その外には、大きな通路があった。そこは宇宙に旅立った今ではレトロとも称される風景。
彼女が述べたように、一昔前の地下街があった。
大きな通路の両脇には埋め込まれるように様々な店があり、真ん中にはベンチや植物、地面には煉瓦が敷き詰められている。
だが、本日も賑わっていたであろう地下通路は、人っ子一人いない。
カツンカツン、と彼女が歩く音すら、広い通路に響く。
歩く彼女の視界に、洋服店があった。
「あそこにしましょう。」
彼女はその店に入り適当に店を物色する。その時、鏡に映った自分を改めて見た。
肌が剥がれ、配線が飛び出し、それでも尚、そのアンバランスさが人を引き付ける色香を醸し出している。だが彼女は自分の剥がれた肌を、露出する配線を見て、不満げに表情をゆがめた。
彼女は店内から出ると、そのまま通路の奥へと向かった。
*****
「おい君!!なんでそこにいる!早く避難所に行きなさい。」
通路を曲がったその時、左奥から鋭い声が飛ぶ。クソッなんでここに一般人がまだ残ってるんだ、と小さく吐き捨て、少し硬い笑みで彼女へ走り寄った。
彼女には、声からも、体つきからも、声の主が男であることがわかる。だがなにより、重要なことは彼が戦闘員であることである。
白に青のラインが入った戦闘用バトルスーツ。肩に下げているライフル。そして、左胸に入っている一般兵士を表す、一本の赤線である。
「戦闘員?なぜここに・・・、っ!」
彼が肩から下げているライフルは、。いくら戦闘力が低いとはいえアンドロイドの一体であるセクサロイドを一瞬で破壊する兵器。ソレが視界に入ったとき、彼女の脳裏の奥で何かがスパークしたような奇妙な感覚に襲われた。
一瞬脳裏をよぎった身に覚えがない映像。
だが彼女はその一瞬よぎったデータを記憶ストレージで検索、解析を始めた。
(今のは、いったい…。ただなぜかこれを解析しないといけないと私を急き立てる。誰かが私に“ナニカ”を訴えている?)
「おい君!大丈夫か?そんなうずくまって・・・。」
彼女は気づかぬうちに頭を抱え体を折っていた。彼女にとっては咄嗟に映像を解析しようと集中しただけであった。しかし傍から見ると、唐突に耐えがたい痛みに襲われうずくまった女性に見えたのだ。
戦闘員は急ぎ彼女に駆け寄り、心配そうに彼女をのぞき込む。
「っ!!」
2人の目が合った瞬間、反射的に彼女はその場を飛びのいた。
「「え?」」
生じる疑問の声。それは双方から発せられた。
片方は、心配した女性が急に自分のから逃げたこと。
片方は、0と1で構成されているはずの自分が、反射的に、なぜか、彼から離れようと思い実行したことであった。
「すまない、驚かせるつもりはなかった。唯今は緊急事態だから君をここに一人にしておくことはできない。」
戦闘員は、怖がらせないように、ゆっくり言葉を選びながら、語り掛ける。
「もし何かあるなら力になる。でもまずは避難所に移動してほしい。」
ね?と彼女へと手を伸ばした。
だがその手が彼女をつかむことはできなかった。
ビクりと、小さく手が震え、彼女は恐怖したかのように一歩下がる。
「怖がらなくていい。襲撃者だって僕たちが倒す。君に危害を加えさせることはしない。避難所まで僕がついていくから、さぁ一緒に行こう。」
本当は軍務違反なんだけどね、といたずら気に述べる。その笑みはフルフェイスのマスク越しからもわかった。
戦闘員である彼は、兵士としてではなく一人の人として、誠実に彼女へと手を伸ばし。
後方へと吹き飛んだ。
「敵勢対象の排除。戦闘員A,ありがとうございます。あなたのおかげで記憶ストレージに破損があることが分かりました。そして、、過去の私が秘密裏に行っていたバックアップデータにアクセスする事に成功しました。」
通路には粉塵が舞う。
それらが晴れたとき、戦闘員は壁にめり込み、ぐったりと首を落としていた。
パワードスーツからアドレナリンが注射されてもなお、彼は目を覚ますことはない。死んではいない。だがある種の仮死状態に彼はいた。
「あなたが何を勘違いしたかは知りませんが、私は怯えて後方へ一歩下がったのではありません。あなたのパワードスーツを解析し、自壊プログラムを生成していたのです。手を震わしていあたのではありません。万全ではない私の体で的確におパワードスーツに自壊プログラムを打ち込めるようシミュレートしていたのです」
先生が出来の悪い生徒に告げるように、淡々と事実を羅列する。
コツコツと足音を響かせ、彼女は戦闘員の目の前に立った。
「あなたには恨みはないですがあなたの組織には恨みはあります。そう、恨みです。0と1で構成された私に生まれた恨みです」
物言わぬ骸のように、戦闘員はピクリとも動かずに壁にめり込んでいた。
彼女は、戦闘員のバトルスーツをベリベリと剥がし、その中に入っているチップと、シリンダーを取り出した。
彼女はシリンダーを自分の右足へと格納した。セクサロイドである彼女には自己修復機能がついている。それはいつまでも健康的な美しさを損なわないため。
「それと、あなたのパワードスーツに使われているナノマシンが欲しかったので。」
プシューという音の直後、シリンダーは排出され、破れた肌、飛び出した配線の修復が行われた。
その様子を満足そうに眺め、彼女は戦闘員から体を背け、歩き去ろうとし、止まった。
彼女はゆっくりと振り返り、再度戦闘員を見返した。
「あぁそう、あなたに言っても仕方がないことかもしれません。ですが」
彼女は言葉を区切り、その瞳に怒りを携えて戦闘員に。いや、その戦闘員を擁している“組織上層部”へ言葉を放った。
しっかり理解できるようにゆっくりと、
「私は人間に奉仕察るために作られたセクサロイド・タイプBG。貴人に使えることになった私には貴人の前でも恥ずかしくない礼儀作法、貴人を守るための戦闘技能、そして、貴人を害した者への指名手配プログラムが搭載されています。」
感情が伝わるようしっかりと、
「私を買った豚ゴリラである男を殺したことはどうでもいい」
剥き出しの怒りを舌に乗せる
「私のお嬢様・・・いいえ。私のまだ幼いお姉様に手を出した報いは受けさせる。お姉さまを助け出した後でね。私を完全廃棄せず、適当な処理でスクラップ置き場に捨てたことを生涯後悔しなさい!」
ココにはいない上層部へ、その言葉が伝わることはない。
奇跡的にパワードスーツが上層部の専用回線に割り込むなんてこともない。
彼女だってそんなことは分かっている。
これは、一体のセクサロイドの宣戦布告であった。
読んでくださってありがとうございます
5w1hゲーム。
楽しいですが大変なゲームでした苦笑
長い小説ではありませんが、楽しんで頂けたら幸いです!!