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むかしむかし。
ある国に、ユーグ・アングラードという青年がいました。
当代国王の次男に生まれ、大きな病気も怪我もせず、美姫と名高かった母の面影を存分に受け継ぎ、文武両道を貫く父王の才も残さず継承し、みなから将来を嘱望されて成長しました。
ところが、十七のとき。
婚約相手である公爵令嬢から突如、婚約解消を申し入れられます。理由は、公爵令嬢の病でした。
さらに二年後の十九のとき。
二人目の婚約者である別の公爵家の令嬢から突然、婚約解消を申し入れられます。理由は令嬢の病でした。
さらに二年後の二十一のとき。
三人目の婚約相手である隣国の姫君から、婚約解消を申し入れられます。理由は姫の病でした。
この国の貴族の男性は、遅くとも二十五歳ころには結婚します。王家の者であれば慣例的に二十歳になる頃には婚姻します。ユーグ王子の年齢であれば、妻帯していておかしくないのです。
さすがに国民も気づき始めました。第二王子ユーグ殿下には、なにか曰くがあるのだと。
さて、今年、二十三歳になるユーグ王子の、四人目の婚約者は、侯爵の娘でした。
それまでの反省から、国王は側近に命じ、二人の逢瀬を見張らせました。
ユーグ王子は、王族に恥じない礼ある態度で、侯爵令嬢と関係を築いていました。王は、心配は杞憂だったと胸を撫で下ろしたのです。
そして、新聞に、ユーグ王子殿下は二十三歳の誕生日に正式な婚姻をするに違いないという記事が出るようになったころのこと。
兄王子の誕生日の半年前のことでした。
その日、ユーグ王子は婚約者とともに城の中庭を散歩し、立ち寄った東屋で、こうおっしゃったのです。
「婚約者殿。私とともにこの先の人生を歩む覚悟がございますか」
「はい、もちろんあります」
それまでの王子の紳士的な態度や、優しい心遣いに惹かれていた令嬢は、王子の悪評などすっかり忘れ、心の底からの本音で答えていました。
王子は微笑みました。宗教画の天使もかくやと言わんばかりの神々しい笑顔でした。
ぽーっとなった令嬢の手を両手でそっと包み、王子は囁きました。
「それではそのドレスの中の美しい御御足を見せてください。なんだったら私の太ももを足置きにしてくださって結構ですから」
ユーグ王子は、まるで全力疾走した後のような息遣いだったそうです。
もちろん令嬢は、病を理由に婚約者の座を疾く退いたのでした。