表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/18

第四話 手がかり

「とりあえず、勇者ブライアンを探さねえとな」


「ええ、そうね。私達の任務は、彼のトラブルを解決すること、だものね」


「……どこにいるのかな」


「写真くらい用意してくれたらいいのにね」


 四人はとりあえず、馬の準備をしている男性――マークにブライアンについて聞いてみることにした。勇者と呼ばれる人物ならば、きっと有名だろうと考えたのである。


 しかしマークは「勇者ぁ?」と、日に焼けた顔を歪めて、繰り返した。


「聞いたことないなあ。記憶違い? ないない。この村はみんな顔見知りだからな。見たことない奴がいたらわかるんだ」


 マークは気さくに答えながらも、神奈たち一行をじろじろ見ている。


「お嬢ちゃんたち、変な格好してるなあ」


「いいだろ、これ俺らが住んでたとこの流行りなんだよ」


 すかさずマントの端を手で広げ、神奈の服を隠してくれる紅竜。


 マークはへぇ、と声を上げた。


「そんな服が流行るとこもあるんだなあ。って、あんたらどこにいたんだい?」


「ずっと北ですわ。でもこちらに素晴らしいところがあると聞いて、一目見たいと、みんなでやってきたんです」


 言葉を詰まらせた紅竜の横で、梨乃がさらさらと話し出した。彼女の言葉に、神奈と咲がこくこく頷く。


「素晴らしいところか……。だったらそれはここじゃなくてロンディアだな」


「ロンディア?」


 聞き慣れぬ名を、神奈は問い返した。マークが目を見開き、大きな声を出す。


「お嬢ちゃん、美食都市ロンディアを知らないのか! そりゃあもったいない! ぜひ行ってみるといい。あっちから出てる乗り合い馬車に乗れば、半日で着くから。……って、案内してやりたいけど、俺はもう出発の時間だ」


 じゃあなと手を振ったマークは荷車を操って、去っていった。その背中をなんとなく見送って、神奈は「ロンディアかぁ」と呟いた。


「そこに勇者もいるのかな」


「とりあえず行ってみるか?」


「でも乗り合い馬車ってお金がかかるでしょ? 私持ってないよ」


 なにせ、着の身着のままでロンディアに送り込まれたから――そう言えば、咲がふっと唇をほころばせる。


「ポーチの中を見てごらんなさい。お財布が入ってるはずよ」


「えっ?」


 神奈は、言われた通り、腰のポーチのふたを開けた。と、中にはあちらの世界で使っていたスマホと、じゃらりと重い布袋が入っている。取り出し見れば、中はコインでいっぱいだった。


「うわぁ、ほんとだ。あの女神、適当かと思ったらそうでもないんだ」


 つい思ったままを言った神奈に、梨乃がくすくすと笑う。一方咲は、眉をへにょっと八の字に下げた。


「だけど、お金しかくれないんだよ……。地図とか、くれればいいのに」


「でも、これだけあれば、困らないんじゃない?」


 しっかりと袋の口を閉じ、神奈は言った。任務でこの額をくれるのならば、お給料が多いというのもあながち嘘ではないだろう。


(給料泥棒にならないように、頑張らなくちゃ……!)


 ひっそりと拳を握る。そんな神奈の行動には気づかず、他の三人は乗合馬車のほうへと歩き始めていた。


 


 乗り合いの馬車は、神奈が想像したものとはだいぶ違っていた。漫画やゲームで見るようなほろも椅子もなく、荷台にクッションが置いてあるだけ。人は硬い荷台の上に身を寄せて腰を下ろしている。しかも、道が舗装されていているわけではないので、当然車体は大きく揺れる。


 走り出して三十分、仲間内で一番小柄で細い咲は、荷台の隅でぐったりうつむいてしまっていた。


「大丈夫? この揺れで、酔ってしまったのかしら?」


 梨乃が咲に寄り添い、優しい手つきで背を撫ぜている。


(ほんとに、この人なんでスケバン服着てるんだろう……)


 神奈はまじまじと、梨乃を見つめた。周囲の景色は砂と森で変わらずだし、紅竜は隣に座った男性と話しこんでいるので、どうしても注意が仲間二人に向いてしまうのである。


「あっ……!」


 ガタン! と大きく馬車が揺れ、体が傾いた。うっ、と呻いて口を押さえる咲。その前に、おばあさんが、手のひら大の丸い葉を差し出した。


「お嬢さん、薬草があるけど、噛むかい? これを噛むとすうっとして、気持ちが楽になるんだ。大きいからちぎって使うといい」


「あ、りがとうございます……」


 弱々しく言って受け取った咲に、おばあさんがにっこり笑いかける。


「まあ次の村で休憩するだろうから、そこまでの辛抱さ」


「マークさんといいこの方といい、初対面でも気さくな人が多いなあ……」


 言われた通り、葉をちぎっている咲を見ながら、神奈は呟いた。


「ロンディアの影響じゃねえか?」


 隣人と話していた紅竜が、振り返る。


「なんでも、領主のウィリアムって奴がすっげえ気さくなんだってさ。しかも仕事もできて、カリスマ性も抜群。『領主様の代になってから市場が活気づいた。人が増えた当初は治安が悪くなるかと思ったが、そんなこともない。だから周辺の村人含め、みんな領主様を尊敬しているんだ』っていうのが、このへんの人の評価らしい。生活が安定してたら、人は優しくなれるもんな」


「へえ、素敵な領主さんなんだぁ」


 神奈が、簡単の声を上げたそのとき。


「うわっ!」


 ガッタン! と、さっきよりも大きく揺れた馬車が、急停止。荷台の人々はいっせいに体をつんのめらせた。


「ちょっと! 危ないじゃないかっ!」


「すみませんね、車輪が轍にひっかかったみたいで。様子見てきますんで、しばしお待ちを」


 叫んだ客を振り返り、頭を下げた御者が、馬車を下りて行く。しかしすぐに「あーだめだ」と声が聞こえた。


「すみません。車輪が外れてしまって。直すには……そうですね、二時間はかかるかと」


 御者台に戻って来た御者の言葉に、客らは文句を言う……と思いきや。


「じゃあ仕方ないね」と、それぞれ馬車を下り始めた。


 女性は少し離れた箇所に円座で座り、雑談で時間をつぶす気満々。男性達は馬車の周囲に集まって、車輪の修理法について話し始めている。


 その中で、この地にもこの状況にも慣れぬ神奈たちだけが、どうしたものかと途方に暮れていた。


「一時間歩いて隣村に行けば、別の馬車があると思うよ」


 さっき咲に薬草をくれたおばあさんが、親切に教えてくれる。


「一時間かぁ……」


「咲ちゃんの様子を見ると、歩くのは大変そうよね」


「あの、私なら、大丈夫ですっ……」


 顔を見合わせる神奈と梨乃に、咲が言う。が、その顔は真っ青。


「でもねえ……」と悩む二人の言葉を聞いて、どんと胸を打つのが紅竜だ。


「大丈夫、なんならおぶってやるよ。咲ひとりくらいどうってことないからさ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ