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銭湯

作者: 恵梨奈孝彦

銭湯



おれには双子の姉がいる。男女の違いがあるワケだから、二卵性なワケだが、顔も声も体つきもそっくりだ。

 そしてウチは、代々伝わる銭湯、つまり風呂屋だ。

 姉貴は、家の手伝いのために時々番台に座る。

 番台というのは、男湯と女湯の境に座って、風呂代をもらったり、お釣りを渡したりする場所だ。

 むろんそこからは女湯の脱衣所が見えるワケだから、おれがそこに座ることはない。

 別に姉貴がうらやましくはない。今時、こんなボロ銭湯に来る客といったら、じーさんばーさんばっかりだ。

 いや、若い女が来るとしてもうらやましくない。本当だ!

 そんなある日、姉貴がいきなり言ってきた。

「カズキ! 今日の一時間だけ、番台に座って!」

「男のおれが座れるワケねーだろ!」

「どーせ、顔がおんなじなんだから、バレやしないって!」

 そう言って姉貴はどこかに行ってしまった。

 おれは仕方なく番台に座る。

 じーさんとばーさんと、なぜか工事労働者らしいおじさんが大量にきた。

「こんにちは。うちのおフロがこわれちゃって…」

 え? 若い女の声だ。しかも…。

 同じクラスの、しかもおれが片思い中の、さゆりが立っていた。

 …怪しまれてはいけない。おれは黙って風呂代を受け取った。

 おれは女湯に背を向けて、おっさんたちのハダカを凝視した。決して趣味ではない。この時のおれの自制心を取りだして見せることができたなら、きっと読者は、感動のあまりスタンディングオベーションをせざるを得ないだろう!

「カズキ! ごめんね! 待たせて!」

 姉貴が、女湯じゅうに響き渡るような大声を上げて入ってきた。

 バカか! この女は!

「は? カズキ?」

 さゆりがバスタオル一枚の姿で、ドスドスこっちにやってきた。

 まずい! 本当にまずい! 明日から学校じゅうの女子に口をきいてもらえなくなる!

「見たでしょ!」

「見てない!」

 さゆりの格好が格好なので、おれは顔だけを見てしゃべった。透けるような白い肌とくりっとした眼と高い鼻とピンク色の唇が見える。やっぱりこいつきれいだな…。

「いや、絶対に見た!」

 現実逃避してる場合じゃない!

「絶対に見てない! 絶対にだ!」

「傷ついた! 今の言い方にも傷ついた! 責任取りなさい! 見てても見てなくても、あたしは傷ついた!」

「そーだ、そーだ!」

 姉貴まではやし立てている。おまえは黙ってろ!

 この事件が、姉貴とさゆりが示し合わせておれを嵌めたワナだった、と気づいたのは、デートの約束をしてから五時間たった後だった。


めでたし めでたし



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