第9話 「再会の日①」
今回は姉さんが出てきません。
新キャラ回です。
「どうしよう…。」
昨日、佐々木とデート(?)の約束をしてしまった俺は、食料品の買い出しの帰りに近くの公園のベンチで1人うな垂れていた。
引っ越し後に必要な契約なども全て終わり、後は入学式を待つのみの暇な時間だったが、特にする事がないとどうしてもそっちに考えが向いてしまう。
「姉さんにバレたら、なんて言われるか…。いや、それに女子と出かけた経験なんて無い…。」
『行き先は私に任せて。』と佐々木が言ってくれたので、俺がすることなんて無いはずなのだが、ただただ初めての経験に不安が増すばかりだ。
「駿の奴、頑張れってこのことかよ…。」
思えば駿のあの言葉は、このことを言っていたのではないか。
しかも、なんと佐々木は駿と同じ大学らしく、そこは俺の学校と近いため容易に会おうと思えば会える距離だ。
そして、もしかしたら駿が姉さんとの関係を喋ったのは佐々木が俺の事を好きで…。
「あぁっもう!そんな事あるのか!?佐々木と喋ったのなんてこの間がはじめてだぞ…。」
どこを気に入られたのか分からないので、いまいち佐々木が俺の事を好きだという可能性に自信が持てずに頭を抱える。
駿に聞こうかとも思ったが、勘違いだとしたら笑えない。
結局、俺にできるのは大人しく日曜日を待つことだけだった。
「…宗くん?」
「え…?」
側から見るとかなり怪しかったであろう俺に、突然声が掛けられる。
頭を抱えて悶えている姿を人に見られていた恥ずかしさが湧いてきて、恐る恐る顔をあげるとそこにはとても懐かしい人物が立っていた。
「やっぱり、宗くんだ…!」
「…仁美か?」
「うん…!」
俺だと確信した仁美が、パタパタと駆け足で俺のもとに寄ってくる。
大人しめで少しウェーブのかかったロングヘアのこの子は谷井 仁美。
母方のいとこで、俺と同い年だ。
「こんなところで宗くんに会えるなんて…、びっくりした。」
俺の前に立った仁美が、嬉しそうに微笑む。
「俺も驚いた。時間あるなら少し話すか?」
「うん、ありがと。」
俺はズレてベンチの隣を開ける。
勧めのまま、仁美が腰を下ろした。
隣に座った仁美からふわっといい匂いがして、昔と比べて『女性らしくなったなぁ。』と感慨深く思った。
「久しぶりだな。2年ぶりくらいか?」
「…うん、それくらい。」
「元気にしてたか?」
「うん。」
仁美はさっきは驚きもあってか珍しく感情を表に出していたが、口数の少ない静かな女の子だ。
そこは変わっていないらしく、俺の質問に淡々と返してくる。
「なんでここにいるんだ?家もこの辺じゃないだろ?」
「大学がこの辺りで、最近一人暮らしを始めたの。」
「えっ、仁美もか?」
俺達が大学名を言い合うと、まさかの同じ学校だった。
「こんなことあるんだなぁ。ていうか、母さん達は絶対知ってただろ…。」
「私達を驚かせたかったんだと思う。お母さんと叔母さん、そういうとこあるから…。」
「確かにな。」
母さんと叔母さんは仲がいいので、こういうちょっとしたイタズラを発案していても不思議ではない。
叔母さんは今でも年に数回、母さんに会いに来るほど仲が良い。
昔は仁美も付いて来ていたが、2年ほど前から忙しいという理由で来なくなっていた。
「それで、宗くん。悩んでたみたいだけど。」
「ぐっ…、やっぱり見られてたか。」
突然の再会に納得がいったところで、仁美がそう切り出してきた。
仁美は意外と気になったことはズバッと聞いてくるタイプで、でも物静かな聞き上手でもあり、彰人と似た雰囲気を持っている。
俺は仁美にならいいかと気を緩め、今の状況を話した。
「…ってことで、日曜にその子と出かけることになったんだが、どんな顔して会えばいいのか分からないって感じだ。」
「……。」
黙って俺の話を聞いていた仁美は、深刻な表情で考えこんでいる。
「悪いな、再会していきなりこんな相談して。」
自分でも何に悩んでいるのか、ハッキリしないもやもや感に悶えていただけだったようだ。
話を聞いてもらうと、佐々木との接し方に悩んでいた事がわかり、ちょっとスッキリした。
ここで仁美に会って、話してよかったと思う。
気持ちが少し晴れた俺に対して、仁美の表情を覗くと険しさと、どこか悲痛さを感じさせた。
俺はなにか気に障ったのか、心配になって声を掛ける。
「…仁美?」
「宗くんは…、その子の事が好きなの?」
隣に座る仁美が、真剣な目で俺に聞いた。
仁美のこんな表情は初めて見たので、思わず息を呑む。
「…わからない、な。さっき話した通り、その子とはクラスメイトで知らない仲ではなかったけど、接点は全くなかったんだ。だから、まだ戸惑ってる。」
「…そっか。」
ホッとしたようにも見えるが、悲しみの色は消えていない。
なんとか場を和ませようと、話を続ける。
「それに、姉さんのせいでそれどころじゃないしな。」
「…あの人は相変わらず?」
「あぁ、元気すぎる。」
「そう…。」
『あの人』なんて呼び方をしたが、仁美と姉さんの仲は悪くない。
むしろ良いはずなんだが、俺の前ではいつも険悪な空気になるので、2人の関係はよくわからない。
今も姉さんの話が出たことで、少し仁美の表情に柔らかさが戻った。
「…まだよく遊ぶの?」
「遊ぶというか、じゃれてきてるって感じだけどな。」
「私は逃げたのに、あの人はすごいね…。」
「悪い、なんて言った?」
「……。」
ポツリと呟いた仁美の言葉は、俺の耳には届かなかった。
聞き直してみても、仁美は何でもないといった様子で、フルフルと首を横に振るだけだった。
「紗夜ちゃんのこと、大切にしてあげて。あの人も、私と同じだから…。」
「ん、あぁ…。仁美も知ってるのか?」
「…?」
俺の返答に、仁美が首を傾げた。
『私と同じ』というのが仁美も俺と姉さんがいとこだと知っていて、自分ともそうだという意味だと思ったが、どうも通じてないようだ。
不思議そうな仕草をする仁美に、言われずとも先を促されている気分になる。
「…いや、俺と姉さんが本当の姉弟じゃないって知ってたんじゃないのか?」
「っ!?どういうことっ!?」
珍しく大きな声を出して詰め寄る仁美に気圧されながら、俺は答えた。
「えっ!?いや、こっちこそよくわからないんだが…。知らなかったんなら、驚かせて悪い。俺と姉さんはいとこなんだ。」
『いとこ…。』と呟いて、仁美の体から力が抜ける。
「…だったら、やっぱり私と同じ。」
「その同じっていうのは、なんなんだ?」
「ううん…、なんでもない。ただ、私達は自分の気持ちに素直になれない…、なっちゃいけないから…。」
「素直になっちゃいけない…?」
意味を聞いても、まるでわからない。
「…それがわかった時、紗夜ちゃんはどんな反応だったの?」
「あー…、まぁ、隠すことでもないか…。」
「…?」
人にこの事を話すのは、どうにも気恥ずかしい。
ただ、駿には話して親戚の仁美に話せないというのもおかしいかと考えた。
「…姉さんに告白された。返事は待ってもらってるけど。」
「えっ…?」
簡潔にそのことを伝えると、仁美が固まった。
「俺も驚いたけど、いとこなら問題ないって父さんも承認しちゃってるんだ。あとは俺の気持ち次第だって…。」
「ちょっと待って…!」
手を出して俺の話を止めた仁美が、頭を押さえてブツブツと独り言を喋り出した。
伏せた顔は、青ざめているように見える。
「仁美…!?大丈夫か?」
急に顔色の悪くなった仁美を落ち着かせるように背中をさすってやると、ゆっくり仁美が顔を半分ほどあげて、俺を見て聞いた。
「…宗くん、いとこって結婚できないよね?」
さっきから取り乱しっぱなしの仁美の様子に謎は残るが、とりあえずその質問には答えた。
「いや…、法律的には問題ないはずだぞ。」
それを聞いた瞬間、仁美は気を失った。
お読みいただき、ありがとうございます。
毎話、誤字報告して下さっている方々(同じ方かも知れませんが)本当に助かっています。
多くてごめんなさい;
更新が遅れて来てますが、感想にとても励まされてます。
これからも遅筆ながら頑張りますので、よろしくお願いします。