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第3話「引っ越し前日①」

3話目です。

よろしくお願いします。


「本当に行っちゃうの…?」


「そんなこと言ったって、前から伝えてただろ。」


「せっかく最後の2人っきりの夜なのに…。」


「色っぽい言い方にするのやめろ!」



朝に姉さんが布団に潜り込んでくるというハプニングはあったものの、今日は出掛ける用事があったので昼過ぎには準備をはじめる。


今日は父さんは遅くなると聞いていたし、母さんも引き継ぎ作業の為に遅くなりそうだと連絡が入った。



そして俺は、クラスの送別会というか卒業パーティー的なものに呼ばれていたため、早めに親友と会ってからそれに参加する予定だ。



「姉さん、春休みとはいえ課題出てるんじゃねぇの?」


「うぐっ…。流石は宗ちゃん。痛いところを突くね…。」


「はぁっ…。休み中ずっとやってる様子なかったけど、こういう時に手をつけといた方がいいんじゃないか?」


「うぅ、わかった…。頑張るから、早めに帰って来てね?今日が最後なんだから…。」



寂しさを抑えきれていない、憂いのある表情で姉さんが俺を見上げる。

確かに俺は明日には引っ越し、長年育ったこの街を離れる。


いつでも帰れるとは言え、その最後の夜を姉さんと過ごせないことに俺にも寂しさがあった。



「…わかった、なるべく遅くならないようにする。これでいいか?」


いつもの癖で、ポンポンと姉さんの頭に手を置く。

俺と姉さんの身長差は30センチ以上もあるので、姉さんの頭は実に撫でやすい。



「うん…。あとそれと…。」


「…なんだ?」


まだ何か言いたそうな姉さんに先を促す。



「…浮気しちゃ、ダメだよ?」



「するか!!…ていうか、付き合ってないだろ!」



あぁ…、恋愛感情があるとこういう思考になるのか。

今までも修学旅行なんかで離れるときは『女の子の部屋に行っちゃダメだよ?』やら、『2人っきりにはならないでね。』やら言われてきたが、今思えばその頃から女性関係を警戒していたのかもしれない。

その心配が杞憂(きゆう)に終わらなかったことはないのだが。




「時間の問題だからいいの!だって、普段しないのに髪の毛セットしてるし…。」



ツッコミどころが多すぎる…。

とりあえず時間の問題だと思われているところは、突っかかってもややこしくなるだけなのでスルーする。



「はぁ…。平日は姉さんを起こしたり、朝食の準備やらで朝は忙しかったから、身だしなみに気を使う余裕がなかったんだよ。遊びに行く時とかはしてただろ?」



「だから心配なの!宗ちゃんはちゃんとしたらカッコイイんだから、だらっとしてる学校の時しか知らない子達からギャップで絶対にモテるもん!!」



褒められてるのか?とは思いつつも、カッコイイなど言われたことのない俺はつい照れ臭くなってしまう。



「あー…、そんな心配しなくても俺より駿(しゅん)とかの方がいつも通りモテるって。俺みたいなデカイだけのヤツを好きになる子なんてそうそういねぇよ。」


「…私がいるもん。」



ヤバイ、拗ねモードに入りそうだ。

頰を膨らませて不満を表す姉さんに、俺は焦りはじめる。

こうなると長くなるが、そろそろ出ないといけない時間が迫っている。


俺はやむなく最後の手段として、少し屈んで姉さんを抱きしめた。



「ふぁっ…?」


「そんなに心配しなくても、本当に大丈夫だ。ただでさえバタバタしてる時期に、姉さんとのことを考えるだけでいっぱいいっぱいで他の子のことなんか見る余裕がねぇよ。一次会だけで帰って来るから、待っててくれ。」



ポンポンと安心させるように背中を叩くと、姉さんがにへらっと笑って俺の首に手をまわす。



「えへへっ、なんだかんだ言って甘やかしてくれる宗ちゃん好きー。」


「はいはい。そろそろ行かないとだから、もういいか?」


「もっとこうしてたいけど…、仕方ないね。うん、宗ちゃんを信じて待ってる。」


「あぁ、いってきます。」


「いってらっしゃい!」



手早く丸め込めたことに安堵しつつ、姉さんと離れて玄関に向かう。

チョロいとは思いつつも、姉さんのそんな所を実は俺も好ましく思っていて、さらに抱き心地の良い姉さんと密着する為、この手を使う時はいつもドギマギしている。



そんな照れを悟られないように、さっさと出ようとすると…



「あっ、宗ちゃん!」


「どうした?」



後ろを付いてきていた姉さんに呼び止められる。



「いってきますのチューは?」


「やらねぇよ!」



『えー!今の流れでダメ!?』という姉さんの不満の声をかき消すように扉を閉めた。











姉さんを(なだ)めて家を出てから、待ち合わせの駅の方へと急ぐ。

通学路とも被るこの道を歩くことも、もうほとんどなくなるのかと思うと不思議な感じだ。




「おーすっ!宗司がギリギリなんて珍しいな?」



駅に着くと探す必要もなく、待ち合わせしていた親友が手を挙げて声をかけてくれる。



「悪い、姉さんに捕まってた。」


「あはは、相変わらずお前のとこは仲良いなぁ。でも、一人暮らしするんだろ?」


「あぁ、明日には引っ越しだ。駿は週明けだったか?」


「おう。やっと家から出られると思うと晴れ晴れするぜ。」



こいつ、清水 駿は小学校からの親友だ。

長い付き合いなので、姉さんとも何度か会っている。

地味な俺とは違い、駿はイケメンで顔も広くクラスメイトの信頼も厚い。

生徒会長を務めていたこともあり、今日の会を企画したのも駿を中心にしたメンバーだ。


俺との仲が悪くなったことは無かったが、グループが違い遊ぶ機会は減った。

それでも妙に気の合う俺達は、こうしてたまに2人で遊ぶ関係を続けていた。



「いつものとこでいいか?」


「そうだな。しっかし、あそこに行く事も減ると思うと寂しくなるな…。」


「まぁな…。」



駿の同意を得たので、会う時にいつも使っている喫茶店へと向かう。

チェーン店ではなく、ジャズの流れる落ち着いた雰囲気の店がコーヒーも美味くて俺達のお気に入りだった。




「…やっぱ宗司はその格好だとイケメンだよなぁ。」



店に向かう途中で駿からそんなことを言われる。

駿と会う時はいつも似たような格好なので、今更なんだと思いながら言い返す。



「駿に言われても、嫌味に聞こえるぞ?」


「いや、マジだって!身長も今いくつだよ?」


「182だな…。」


「かーっ!5センチ分けて欲しいぜ!」


「そしたらお前の方が高くなるだろ。」



駿の身長は俺よりちょっと低いくらいで、180はないだろうがそこそこ高い。

イケメン高身長のモテ男に言われても、友達補正だろとしか思えない。



「でもまぁ、俺としては今日のクラスの奴等の反応が今から楽しみだぜ。」



そう言って、駿は昔からの悪戯っぽい笑みを浮かべたが、俺には何のことだかわからなかった。











「おっ、いらっしゃい。久しぶりだな、2人とも。」


「「こんにちは。」」



喫茶店に着くと、すぐにマスターが声をかけてくれる。

常連の俺達とは、すっかり顔馴染みだ。

店内にお客さんは2組いたが、どちらもテーブル席を使っていたので、俺達はいつものカウンターの端の席に座った。



「いらっしゃい。2人ともいつものでいい?」


「お願いします。」


「はーい、ちょっと待っててね。」



席に着くとマスターの奥さんである香苗(かなえ)さんが短く注文を取ってくれる。

香苗さんはいかにもお姉さんといった感じのとてもキレイなしっかり者で、いかついマスターとは意外とお似合いだった。



「はい、どうぞ。2人とも、その様子だと受験は大丈夫だった?」



香苗さんが俺と駿の前にコーヒーを置いて、俺達と話す体勢をとる。

他のお客さんの配膳は済んでいるようで、こうやって時間のある時は香苗さんやマスターが話に混ざる事がよくあった。



「はい、おかげさまで俺も宗司も第一志望に合格しました。」



「わぁっ、すごいじゃない!2人とも、おめでとう!!」



香苗さんがぱちぱちと手を叩いて歓声をあげる。

こうやって他人でも自分の事のように喜んでくれる人がいてくれることが、素直に嬉しかった。



「こらっ、香苗。他のお客さんがびっくりしてるだろ。」



香苗さんの声は小さな店中に響いていたので、マスターが寄ってきて注意する。



「あっ、いけない。この子達が受験に合格したみたいだから嬉しくって…。」


「なにっ!?よくやったな、お前ら!!」


「マスター!声でかいって!!」


「うるさくしてすみません…。」



俺達の制止も聞かずに、『わははは!』と豪快に笑いながら俺達の肩を叩いてくるマスター。


何事かと、こっちに注目してくるお客さん達に何故か俺達が謝りながらも、俺も駿も嬉しさを隠せなかった。











「そんじゃ、2人はそんなに離れないんだな。」


「よかったじゃない。」


俺達の進学先が近かったことに、マスター達が安心したような様子を見せる。



「偏差値はだいぶコイツの方が上ですけどね。」


「やめろよ。学部が違うからで、大して変わらないだろ。」



確かに大学全体の認知度や偏差値で言えば俺の方が上かも知れないが、駿は単科大学の理系なだけで、俺が行く総合大学の文系と実質的な学力に差はなかった。



「でも2人とも一人暮らしかー。いいなぁ…。」


「香苗さんも一人暮らししてたんでしたっけ?」


「そうよ。専門学校に行ってた2年間だけなんだけど、あの頃は楽しかったなあ。」



香苗さんが昔を懐かしむように遠い目をする。



「まぁ、はじめて親元を離れて浮かれるのはわかるが、ほどほどにな。」



マスターがそう言って、俺達に意味深な笑みを向けてきた。



「2人とも、女の子とのお付き合いは誠実にね。」


香苗さんもそれに乗っかって、ニヤケながらより具体的な忠告を口にする。



「こいつはともかく、俺は大丈夫ですよ。」


「おいっ!どういう意味だ!!」


俺の言葉にすぐさま駿が反応する。



「いやさ、駿ならモテるし、大学でも女子を部屋に連れ込むくらいするんじゃないかと思ってな。」


「俺は結奈(ゆな)ひとすじだってぇのっ!」




そう駿には宮地(みやち) 結奈という一歳年下の彼女がいる。

そのことは承知でからかっただけなのだが、思っていたよりお熱いようだ。



「そうだったな…、悪かった。駿の宮地さんへの愛は俺の想像よりずっと深かったようだ。」



俺としては、普段彼女の話をあまりしない駿からノロケが聞けただけで満足だったので、すぐさま両手を挙げて降参を示す。


ただ、今の俺の顔はマスター達に劣らない悪い笑みを浮かべていることだろう。



「駿くん、大胆ねぇ…。羨ましいわ。」


「わはは、若いな。」



追撃を受けて自身の失言に気づいたのか、駿の顔が赤く染まり、バツの悪そうな表情を浮かべた後、俺を睨む。



「…(はか)ったな?」


「…さぁ、何のことだ?」


「ほぅ、そんな態度を取っていいのかな?」


「…なんだよ。」



やけに強気にニヤリと笑う駿に嫌な予感がよぎるが、駿の出方がわからずに身構えることしか出来ない。



「マスター、香苗さん!聞いてくださいよ。宗司ってここに来る時、結構イケてるじゃないですか?」


「…うん。ちょっと気怠(けだる)げだけど、優しいし清潔感あるからモテそうだと思う。…そういえば宗司くんは彼女いないんだっけ?」


「えぇ、まぁ…。」



俺の格好をサッと見て、香苗さんが駿に同意する。

若干恥ずかしさもあったが今はただ駿の意図がわからず、香苗さんに相槌を打って続きを待ってしまう。



「実はコイツ学校じゃこういう感じじゃないんですよ。野暮ったいというか、髪もボサボサだし俯き加減で歩くし暗いイメージのやつでして…。」


「へぇ、あんまりそういう風に見えないなぁ…。」


「別にいいでしょう…。」



学校では周りにどう見られても興味ないと思っていたので、たしかにボーッと過ごしていたかもしれない。

だが、特に問題があったとは思わない。

一応、駿以外にも友人はいたしな。



「それでね、こいつに何回か休みの日みたいにちゃんとしたら絶対モテるって説得してみたんですよ。そしたらこいつ、なんて言ったと思います?」


「…おいっ、ちょっと待て駿!」



ここになって、ようやく駿が何の話をしようとしているのかわかった俺は、慌てて先を言わせないように止めに入るが、間に合わない。



「『朝は姉さんを起こさないといけないし、姉さんが今のままでいいって言うから、いい。』って言ったんですよ!俺はこの時、こいつのシスコンがかなり重症であることを悟りました。」


「うわぁ…、それはちょっと…。」


「お前、その歳でそれはなぁ…。」



駿の話を聞いて、香苗さんとマスターが痛いモノを見る目で俺を見る。



「一応言っときますけど、それ高校に上がりたての頃の話ですからね!?」


「じゃあ、ずっとそのまんまだったのは何でだ?」


「ぐっ…。」



言葉を詰まらせた俺を、駿がニヤニヤとしながら眺める。

完全に立場が逆転し、俺は顔を歪めた。



「…別に、単に面倒だったんだよ。」



負けた気がしたが上手く言い返す言葉も思い浮かばず、ぶっきらぼうにそう答えると俺以外の3人が声を上げて笑った。




それから不貞腐れる俺に、駿も潮時かと思ったのかそれ以上のからかいはなかった。




「でも変な意味じゃなく、宗司はそろそろ姉離れした方がいいと思うぞ?」


「…どういうことだ?」



悔しさは残るが、駿の言葉が真剣味を帯びていたので先を促す。



「いや、姉弟(きょうだい)仲が良いことを否定はしないけど、そろそろお互いの道というかだな…。まぁ簡潔に言うと、真剣に彼女を作ろうとしてみてもいいんじゃないか?」



「彼女か…。」



今の俺には頭の痛くなるワードだ。

まだ俺と姉さんがいとこだった事や、姉さんから好意を寄せられている事を駿には話していない。


ただ、駿には隠すことでもないので、今日にもタイミングがあれば話そうとは思っていた。


今がチャンスではあるが、この流れで言うと俺が姉さんを前向きに彼女候補に入れているように捉えられそうで、どう伝えたものか考えてしまう。



「…宗司くん、どうかした?」


知らない内に黙ってしまっていた俺に、香苗さんが尋ねる。



「ま、いきなりどうこうとは言わないがせっかく大学生になるんだし、ちょっとくらい色恋沙汰があってもいいんじゃないかって事だよ。」



俺を気遣ってか、焦らなくてもいいように駿も声を掛けてくれる。

こういう気遣いが出来る所が駿のモテるところだと思うし、俺とも気の置けない仲をやっていけている要因だろう。


俺はそんな駿に、やっぱり素直に昨日知った真実について話すことにした。



「いや、実はちょっと進学以外にも環境の変化があってな…。」


「変化…?」


「あぁ。どうせ今日、話そうと思ってたことだ。とりあえず聞いてくれ。」



そうして俺は、昨日から変わった家庭事情に関して駿に話しはじめた。












「…ってことで俺と姉さんは義理の姉弟、いとこだったらしい。」


「…マジか。」


「そんなことってあるんだねぇ…。」



俺の話を聞いて、駿と香苗さんは驚いた表情をして、マスターは眉間に皺を寄せ難しそうな顔をしている。

ただでさえ強面(こわおもて)なのに、そんな表情だと接客業は無理だろ、マスター。



「…お前は平気そうだが、大丈夫なのか?」


「そうだよ!悲しくない?泣いてもいいのよ?」


そんなマスターから心配され、香苗さんが便乗する。



「複雑な心境ではあるんですが、正直これまでと変わらないかなって…。父さんも母さんも、俺のことは実の子供のように見てくれてますし。」



落ち着いた今でも衝撃の事実であったとは思うが、それだけだ。

実の両親について知りたいと思わなくもないが、それはこれから先ちょっとずつ聞いていければいいかなぁくらいにしか考えていない。



「宗司くんは良い子ね。お父さんもお母さんも、喜んでると思うわ。」


「…ありがとうございます。」



だから香苗さんがいい話風に、感激した様子で褒めてくれるが、いまいちピンとこず曖昧(あいまい)な返事しか出来なかった。


すると、駿から質問が飛んでくる。




「…なぁ、紗夜さんはどんな反応だったんだ?」




俺の話の中に姉さんが出てこないことを、駿は見破っていた。

というより俺が家族の話をする時は、そんな機会はほとんどないが、姉さんの話がほとんどなので違和感があったのだろう。


俺の性格をよく知っている駿からすれば、ショックを受けるとしたら姉さんの方だと踏んだみたいだ。



「あぁ、実は俺が悩んでるのはその姉さんの反応の方なんだ。」


「…どういうことだ?」



俺に詳細を尋ねたのはマスターで、駿は俺のその言葉だけで何やら悟ったように苦笑した。

香苗さんも、もしかしてっと言った表情をしている。


3分の2が察している状況で隠す必要もないので、続きを話す。




「…両親からその話を聞いた後、姉さんから告白されました。」


「はぁっ!?」


「わぁっ!」


「…やっぱりか。」



マスターは純粋な驚き、香苗さんはどこか楽しそうに、駿に至っては予想が当たったのか、したり顔で頷いている。


三者三様の反応を見せる面々に、俺も困惑していることをアピールするように肩をすくめて見せる。



「お姉さんって、1度だけ一緒に来てた子だよね!?それでっ、どうしたの?何て返事をしたの?」


「…一旦、保留にしてます。」


「えー、どうして?」


「どうしてと言われても…。」



色恋沙汰に心を弾ませているところ悪いが、何か進展があった訳ではない。


姉さんからの言葉や行動がストレートなものに変わったのは確かだが、今朝のやり取りからも心中(しんちゅう)はともかく俺達2人の関係が大きく変わった感じはないと考えている。



「けど、良かったんじゃないか?お前らは、特に紗夜さんの方だが、普通の姉弟の仲とは違って見えてたからな。」


「そんなに姉さんは分かりやすかったか?」


「あぁ。だって紗夜さん、モテるだろ?身長が低いのも需要はあるだろし、明るくて人懐っこくて。ああいうのが好きな男はいっぱいいるはずだ。なのに、誰とも付き合わずにずっとお前にベッタリなところを見るに、そういう感情を持ってても不思議ではないと俺は思うよ。」



駿からすれば姉さんはそういう風に見えていたのか。



「あー、ここに来た時もすっごく甘えてたもんねぇ…。」


「あれは、まぁ…。」



1度だけ姉さんとこの店に来た事があるのだが、『宗ちゃんと同じやつ!』という注文をして、苦いのが苦手な癖にコーヒーを涙目になって飲んでいたことがあった。

結局、姉さんが頼んだ分も俺が飲んで、代わりにココアを淹れてもらったっけ。


あの時はお客さんも多くてマスター達とはゆっくり話せなかったのだが、見られていたのか。

それ以来、なんとなく姉さんとは来ていなくても、香苗さんは覚えていたみたいだ。



「あの子、可愛かったもんねぇ。また連れてきてよ。今度はパンケーキサービスするから!」


「はい、伝えときます。」


「こらこら、勝手にお客様を贔屓(ひいき)するな。」


「えー、いいでしょ。前はあんまり話せなかったし、こんな話を聞くとまた会いたいじゃない。」



このあとも2人の夫婦漫才を聞きながら、俺達は時間まで話し込んだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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