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第2話「真実を知った日②」

2話目です。

よろしくお願いします。


「んぅ…。」


「ふふっ、宗ちゃん可愛い。」



いつもより心地よい温もりの中、薄っすらと意識が立ち上がる。

(まぶた)越しに明るさを感じ、朝がきたことが本能的に分かった。


温かい何かを抱きしめているような、そんな感覚があるが、柔らかいその感触はとても肌触りがよく意識の覚醒を阻害していた。




「宗ちゃ〜ん、朝ですよ〜…ふふっ。」


「ぅんっ…、んぁっ!?」



頬っぺたを何かで(つつ)かれ、その不快感に負けて目を開けると、目の前にニマニマと顔を綻ばせた姉さんの顔がドアップで飛び込んできた。



「あっ、起きたね。おはよう、宗ちゃん♪」


人差し指を俺に向けたままの姉さんの声は弾んでいて、実に楽しそうだ。



「…おはよう。姉さん、どうしたんだ?」


「もぉ〜どうして不機嫌そうなの?まだお眠なのかな?」



状況が飲み込めずに、(いぶか)しむように尋ねてしまうと、姉さんが頬を膨らませて可愛らしく不満を露わにする。



「悪い。こんなに早くから起きてるなんて珍しかったから…。」



姉さんが甘えてくることには慣れてはいたが、いつも俺が起こさないと起きてこない姉さんが先に目を覚ましていることに驚いたのは本当だ。


そのことを素直に伝えると、姉さんが再び微笑む。

今日の姉さんはコロコロと表情が変わる。

随分と機嫌が良さそうだ。



「うふふっ、だっていつか離ればなれになっちゃうと思ってた宗ちゃんとずっと一緒に居られる事が分かったんだもん。もう我慢しなくていいと思うと、じっとしてられなくって…。」



頬を赤らめ、少し恥ずかしそうに目線を逸らしながらも俺の胸板あたりに両手を置いてギュッと服を掴む。


もう絶対に離さないと言わんばかりだ。




「あっと…姉さん?そのことは保留にしたよな…?」


「うん、だから宗ちゃんを頑張って落とさなくっちゃ。」



俺の方も寝ている間に無意識に姉さんを抱きしめていたので、かなり密着した状態に今更ながら気まずさと照れ臭さを感じそっぽ向く。

さらにストレートな物言いの姉さんに、俺まで顔が熱くなっているのがわかった。


姉さんの感触から意識を逸らすために、俺は目を閉じ、ため息を一つ吐いてから昨夜のやりとりを思い出した














「…紗夜、少し落ち着きなさい。」



姉さんからの突然のプロポーズによって完全にフリーズしてしまった俺に代わって、父さんが姉さんを制止する。

その言葉は、父さんが自分に言い聞かせているようにも聞こえた。



「どうしたの?お父さん。私は落ち着いてるよ?」



自分の言動に何もおかしな事はなかったかのように、心底不思議そうに首を傾げて姉さんが問い返す。



「いや、紗夜が宗司を好ましく思っていたのは分かっていたが…、それ程だったのか?」



「…うん。だから今まで誰とも付き合ってこなかったし、宗ちゃん以外の人となんて考えられなかったの。それがいけない事なのは私にも分かってたし、宗ちゃんを傷つける事になるなら諦めなきゃって思ってた。…でも、それが許されるなら私はもう我慢しないし、宗ちゃんだってきっと受け入れてくれる、と思ってる…。」



そう言って不安そうに俺の顔色を姉さんがチラッと(うかが)う。

俺は今どんな表情をしているのだろう。

一向に頭の整理がつかず、思考がまとまらない。



「…紗夜。お前が宗司に対して弟以上の好意を寄せていることはわかった。…俺が2人の関係を隠していたせいで、長い間苦しませてしまったみたいだな。本当にすまない。」



父さんが姉さんに対して頭を下げる。

それを姉さんが(かぶ)りを振って止めた。



「いいの、お父さん。言いにくい事だし、それに関して怒ったりとかは全然ないの。それよりも、ちゃんと言ってくれたことの方が嬉しかったし。…でも、少しズルイかも知れないけれど、お父さん達に罪悪感があるのなら、これからの私と宗ちゃんの関係を認めて欲しいです。」



真剣な表情で、今度は姉さんが頭を下げる。

父さんも母さんも驚いているが、姉さんの言葉を必死に受け止めようとしているのがわかる。



「…宗司、お前はどう思ってる?まだ色々と混乱しているとは思うが、今の気持ちを聞かせてくれないか?」



当然この話の流れで重要になってくるのは、俺が姉さんをどう思っているかだ。

ただ、俺の様子から姉さんのようにハッキリと気持ちが決まっていないのは明白だったようで、父さんが俺を気遣いながら意見を求めてくれる。



「…ちょっとだけ、待って。」



俺は一度目を閉じて、大きく深呼吸をする。


自分の気持ちを話すだけだ。

落ち着いて思うように話せば、ちゃんと伝わる。



そう言い聞かせて、ゆっくりと目を開けると3人ともが俺に注目していた。



「母さん、一旦戻って貰ってもいいか?」


「あっ、そうね…。ごめんなさい。」


「いや…。」



俺にしがみついたままだった母さんを席に(うなが)し、着席するのを確認して、お茶を一口飲んでからゆっくりと3人を見回した。


まずは、最後に目があった姉さんに語りかける。



「…姉さんの気持ちを聞いて、すごく驚いた。正直、姉さんが俺をそういう対象に見てるなんて思ってみなかったからな…。」


「宗ちゃん…。」


不安に押し潰されそうな瞳で、俺を見つめる姉さん。



「俺はこれまで姉さんを恋愛対象として見たことは無い。…だから、ごめん。今すぐには結婚だとかは考えられない。」



「そんなっ…。」


姉さんの潤んでいた瞳から涙が溢れる。



「まっ、待てっ!続きがあるから聞いてくれ!!なっ?」



泣き出してしまった姉さんに、慌てて落ち着かせるように頭を撫でる。

すぐに泣き止むことはなかったが、コクコク頷いて大丈夫だとアピールしてくる。


俺はひとまず大丈夫だと判断して、話を続けた。



「あー…、けど、嬉しかったんだ。姉さんがそこまで俺の事を好きでいてくれたことが。だから…上手く言えないけど、俺に姉さんを女として見る時間が欲しい。そういう風に見れるかはわからないし、やっぱり姉としてしか見れないかも知れない…。今はそれがわからないから、そんな状態で返事はできない。」



それが今の正直な気持ちだった。

姉さんは顔を伏せたまま、固まってしまった。



落ち込んだ様子の姉さんに心が痛んだが、自分の気持ちを誤魔化すことは出来ない。

俺は姉さんを撫でていた手を引っ込め、今度は父さんと母さんの方に向き直る。



「父さんの言うように、まだ混乱してるんだ。一気に色々と聞いて、上手く処理しきれないと言うか…。ただ、これは父さん達も同じだと思うが、姉さんには笑ってて欲しい。その為にも、俺は自分の気持ちをハッキリさせなきゃいけない。…今はともかく考える時間が欲しい。気持ちの整理が付いたら、ちゃんと報告するから、それまでは見守っててくれたら嬉しい。」



俺の話が終わると、父さんは腕を組み何やら考え始めた。




しばらくして重い沈黙の中、父さんが口を開く。



「紗夜、宗司。まずは2人の気持ちを聞かせてもらって、ありがとう。変な話だが、あまり手のかからなかったお前達のことで悩めることをちょっと嬉しく思うよ。」


「…そうね。」


父さんと母さんが笑い合う。

一気に空気が軽くなったように感じた。



「紗夜、顔をあげなさい。」


「……。」


姉さんがゆっくりと顔をあげて、どこかぼーっとした表情のまま父さんを見る。



「紗夜。俺も母さんも、お前の気持ちを否定しない。宗司が言うように、俺達の願いも紗夜が笑っていられる道を進んでくれることだ。そのことを忘れず、自分で選びなさい。俺達はいつだってそれを応援する。」



「お父さん…!」



父さんに認められた事に、姉さんが目を見開く。

父さんはそのまま、俺に目を向けた。



「そして宗司。お前の気持ちはもっともだ。紗夜を受け入れたとしても、それが宗司の本心でなければ意味がないからな。だから、しっかり悩んで、答えを出してくれ。もし、それがどんな答えでも、俺が誰にも責めさせやしないさ。」



「…わかった。」



笑いかけてくれる父さんに安堵を覚えながら、しっかりと返事をした。


やっぱり家族っていいものだ。

もし自分に何かが起こっても、助けてくれる家族がいるというのは何事にも変えがたい安心感がある。







緩んだ空気にホッとしていると、母さんから爆弾が投下された。







「…紗夜はこれから大変ね。しっかり宗ちゃんを落としちゃいなさい。」



「…うん!そうだよね、頑張る!」



ウィンクする母さんに、胸の前で両手で握り拳を作って答える姉さん。

いつの間にか姉さんの表情には明るさが戻り、やる気に満ちていた。




「は?落とすって…。」


「何間の抜けた顔してるんだ、宗司。紗夜だって女なんだから、惚れた男にアピールするのは当たり前だろ?」



呆気に取られていた俺に、父さんから楽しそうに言葉を投げかけられる。



「そうだよ、宗ちゃん!絶対に宗ちゃんに好きになってもらうから、覚悟しててね!」



立ち上がった姉さんが、ビシッと俺を指差して宣言する。



「あらあら。この調子だと、私達がおじいちゃんとおばあちゃんになるのもすぐですね。」


「わははっ、そうだな。娘と息子の孫を同時に抱けるな。」


「うふふっ、お父さん上手ね。」



すでに俺が落ちることが決定しているかのように盛り上がる両親。



「いや、だから俺の気持ちはまだ…。」


「あぁ、もちろんわかってるさ。」


「えぇ、急がなくてもいいのよ?」



そう言いながら俺達が引っ付くのがわかっているかのようにニマニマと笑いやがる。

このっ…、だんだん腹立ってきたぞ?


そうこうしていると、姉さんがクイクイっと俺の服の袖を引っ張ってきた。



「…宗ちゃん、今日は一緒にお風呂入ろっか?」



挑発するようなニヤけた顔してるくせに、恥じらいも捨てきれないのか赤くなった姉さんがそんな提案をしてくる。


上目遣いで見つめられ、不覚にもドキッとしてしまった。



「そ、そういうのは付き合ってからにしろ!この話は一旦保留だ!」



あまりにも旗色が悪いので、俺は撤退を選択する。

ガタッと席を立ち、リビングを後にする俺の背後から、『え〜!待ってよー!』『恥ずかしがっちゃって、あの子ったら…。』『わはは、これは時間の問題だな。』などと聞こえてきたが、全部無視して2階の部屋まで駆け上がった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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