第13話「デート(仮)の日②」
お待たせしました。
長すぎると思ってぶった切っていたら、ちょっと短くし過ぎたかも知れません;
ちょっとだけ微妙な空気が流れたが、引き続き2人でキャンプ用品を見ていく。
「…ねぇ、これなにかな?ランプ?」
「ガスランタンだな。この下の丸いやつがガスで、電池式のやつよりかなり明るいらしい。」
「へぇ、外で付けると綺麗なのかな?」
「あぁ。俺は焚き火とかもやってみたいと思ってる。」
「いいね、お芋とか焼いてみたい!」
「芋は落ち葉じゃないか?」
「じゃあ宗司くんは何を焼きたい?」
「…マシュマロ。」
「え?…ふふっ、可愛いね。」
「…うるさい。」
ほのぼのと店内を千夏と歩くのは楽しかった。
俺はこれまで調べてきた知識で千夏にどういう道具なのか説明し、なんとなく揃えたい道具のイメージも出来た。
一緒に話していて思ったのは、やはり千夏のコミュニケーション能力は高い。
興味のあるこの分野で、俺はただ説明しているだけで上手く会話を盛り上げてくれる。
自分ならこうしてみたい、といった意見もくれるし、キャンプ用品のコーナーはかなり広かったのに回り終わってみればあっという間だった。
「楽しかったね。宗司くんも満足した?」
「あぁ、やっぱり実際に見てみるのって大事だな。ありがとう。」
「うんうん。宗司くんが楽しそうに話してくれたから、私も行ってみたくなっちゃったなぁ〜。」
ちょっと期待した様子で、俺の顔を伺う千夏。
「?あぁ、俺はソロに興味あるけど、駿達とみんなで行くのも楽しいかもな。」
「もうっ!そういうことじゃないんだけどなぁ
…。」
「…どういう意味だ?」
「宗司くんが、女心を理解するにはまだ早かったってことだよ。」
一歩前に出て俺を振り返り、『べーっ。』と舌を出した後、千夏が先に行ってしまう。
怒った様子の理由が分からず、『本当に、女心は分からない…。』と独り言を呟いてから、俺は千夏の後を追いかけた。
「お昼はどうする?この中で済ませるか?」
千夏に追いついて、時間を確認するとお昼をけっこう回っていた。
「宗司くん、甘いもの大丈夫だよね?」
俺を見る千夏にさっきまでの怒った様子はなく、不敵な笑みを浮かべている。
「あぁ、むしろ好きな部類だが…。」
「じゃあちょっと行きたい所があるから、付いてきて。」
「わかった、任せるよ。」
まだ一階しか見ていなかったが、千夏に従い一旦ショッピングモールの外へ出る。
「あのビルにあるから、楽しみにしてて。」
「何の店なんだ?」
「それはお楽しみだよぉ。」
ニコニコと上機嫌に歩く千夏と、大通りの向かいにあるビルを目指した。
そのビルは女性服を扱うブランドが入ったファッションビルらしく、入る前から周辺を歩く女性比率が一気に上がった気がした。
外でそんな様子だったので、当然店内に入ると男女比が1:9くらいなんじゃないかと思えるほど女性が多い。
少数の男性も彼女らしき女性と一緒に歩いている。
「…ここなのか?」
「うん、そうだよ。行こっ。」
「あっ、まったく…。」
つい尻込みした俺に構わず、千夏はビルの奥へと入っていく。
1人にされると確実に浮くので、俺も後に続いた。
ビル内でそれほど注目を集めているわけではないが、場違いな男がいると目立つのかチラホラ視線を感じる。
別に悪いことは何もしていないが、見られていることに居心地の悪さを感じながら、特に気にした様子のない他の彼氏らしき男性陣に敬意を抱いた。
「…あんまり、離れちゃダメだよ?」
そんな俺を気遣ってか、前を歩いていたはずの千夏が隣に並んで身を寄せてくる。
千夏とも姉さん程ではないが身長差があるので、千夏の肩が俺の肘の少し上に当たる。
「…千夏は身長いくつくらいなんだ?」
「んっと、去年の春から測ってないけど、その時は154cmだったかな。」
姉さんはいつも150cm(たぶんサバを読んでる)と答えるので、これでも約5cmも高いらしい。
「今、他の人のこと考えたでしょ?」
「…いや、そんなことないぞ?」
目敏く俺の思考を読んだ千夏から、容赦ない突っ込みが入った。
その鋭さにヒヤっとしながら言い訳するが、すぐに追撃がくる。
「ふぅん…。じゃあ私のこと、どう思ったのかな?」
毎度のように言葉に詰まる、嫌な質問をしてくる千夏。
しかし立ち止まった千夏に、今回は慣れたからかいの奥に微かな真剣さが感じられた。
相手が真面目に聞いているのなら、俺も本音で返す。
軽く流しても良かったが、俺も立ち止まって千夏に向き直る。
「…毎度のことながら、千夏には困らされてるよ。」
俺は少し考えた後、千夏を見て答えを述べた。
「あははっ…そっかぁ、やっぱり嫌だったんだね。」
千夏が笑って隠そうとしていても、傷ついたのがわかる。
俺はそれだけじゃないことを伝えるため、話しを続ける。
「それは違う。最初は確かに苦手だと思ってたが、今はなんだかそれが嫌じゃないんだ。千夏は可愛いし、こうやってからかってくる所も魅力なんだと思う。」
「…へ?」
「今日はお互い楽しめるように、なんて考えてたけど、千夏に楽しませてもらってるよ。ありがとう。」
「えっ、あっ…うん。…どういたしまして。」
お礼を言われてアタフタしてから大人しくなった千夏が可笑しくて、ふっと笑いが漏れる。
「ほらっ、行こうぜ。」
ポンっと軽く頭に手を載せてから、千夏を抜いて歩き出す。
少し前を歩いて、すぐに千夏が付いてきていないことに気付いて振り返った。
「…千夏?」
「…宗司くんは女心、本当に勉強した方がいいよ。」
「なんだ、急に…。」
俯き加減で話していた千夏が俺の言葉を遮るように急に早足で歩き出し、横切るタイミングで俺の手を取った。
「ちょっ!千夏!?」
「ほらっ行くよ!宗司くんのせいで遅くなっちゃったんだから!」
「だからって、そんなに急ぐなよ…。」
歩幅の小さい千夏の早足に付いて行くのは難しくなかったが、身長差のせいで前のめりになる。
不安定な体勢で後ろから見た千夏の耳は、真っ赤に染まって見えた。
ビルの奥にあったエレベーター乗り場の前まで引っ張って行かれて、そのままエレベーターで飲食店がある最上階へ。
その間も千夏はこっちを向かないままだが、ずっと手は握っていた。
「…よしっ!着いたよっ!!」
「千夏、ここって…?」
「さっ、入ろ?」
目的の店に着いたからか、千夏が小さく気合を入れ直して微笑み、グイグイと俺を引っ張って行く。
「おぉ…、すげぇ…。」
「ふふっ、でしょ?宗司くん甘いものが好きって聞いたから、連れてきたかったんだぁ。」
店の外観でなんとなく察することは出来たが、そこはスイーツバイキングの店だった。
またしても店内は女性ばかりだったが、今回はそれよりも並べられたケーキなどのスイーツに目がいく。
「ふふっ、宗司くん目が輝いてるよ?」
「そんなことないだろ…。」
そう言いながら、ケーキから目を離せない俺。
「はいはい。ちょうど並ばずに入れそうだし、早く受付しちゃおうね。」
「あぁ…。」
千夏に生返事を返しながら、言われるがままに付いていく。
千夏が全て受付を済ませてくれて、テーブルに案内してもらうと、簡単な注意事項を告げてからウェイトレスさんが離れていく。
「千夏、もういいのか?」
「ふふっ、ホントに待ちきれない感じだね。いいよ、一緒に行こう?」
それから俺達は、昼食代わりになりそうなカレーやパスタを少量ずつ取って、ケーキやプリンなどを名一杯お皿に乗せていった。
「…すごいね。こんなに食べられる?」
「あぁ。チョコフォンデュもあったし、後で行こう。」
「はーい、じゃあまずは今ある分を食べちゃおうね。」
「そうしよう。いただきます。」
「はい、いただきます。」
ガツガツとまではいかないが、早々にカレーとパスタが無くなると一口大のケーキを次々に口の中に放り込んでいく。
甘いものは好きだが、こんなに思いっきり食べたことは無かった俺は至福の時を堪能した。
「駿くんからすごいとは聞いてたけど、ホントに好きなんだねぇ。」
俺にとっては少量のスイーツを食べ終えた千夏が、紅茶を飲みながら楽しそうに俺を眺めている。
「んぁ?やっぱりこれも駿から聞いたのか…。」
「うん。だって、もっと知りたかったのに誰かさんが逃げちゃったからねぇ…。」
ちょっと意地悪っぽく千夏が微笑む。
この微笑みは、恥ずかしいのだけれど、どこか落ち着くので不思議な感じだった。
「あれは…、別に逃げたわけじゃない。」
「そうなの?じゃあ今度からは直接教えてね。」
「あぁ…。」
「うん、よろしい。ほらっ、せっかくなんだから思いっきり食べて。」
なんだか上手くノセられた気もするが、あまり気にせずに食事を再開した。
「今日はありがとな。俺に付き合ってもらったみたいで悪かったが、おかげで楽しかった。」
「ううん、私も楽しかったから気にしないで。」
食事の後は再びショッピングモールに戻ってブラブラしていた。
2人とも特に買い物をしたわけではなかったが、千夏とたくさん話せたのはよかったと思う。
周り終わるともう日も傾きかけていて、千夏が明るいウチに帰られるようにそろそろ別れるべきだろう。
「…宗司くん。学校がはじまっても、また会ってくれる?」
期待と不安が混ざったような瞳で、千夏が俺を見つめる。
「あぁ。この辺りは千夏の方が詳しそうだし、また案内してくれたら嬉しい。…今度は千夏の行きたいところでな。」
「うん!今の答えは100点だったよ。また連絡するね。」
満面の笑みでそれだけ言い残し、俺とは違うホームに歩き出した千夏を、俺はちょっとだけ寂しさを感じながら見送った。
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