第12話「デート(仮)の日①」
千夏ちゃんとのデート回です。
ちょっと時系列がおかしくなっていたので、9話を少しだけ修正しました。
(9話投稿時、明後日がデートのある日曜日にしてましたが、引っ越しを週末にしているはずでおかしかったので直しました。)
内容は変わってませんので、よろしくお願いします。
ついに来てしまった、佐々木とのお出掛けの日。
先日、仁美に話を聞いてもらったおかげで、俺は落ち着いた気持ちでこの日を迎えることができた。
気持ちの整理が着いただけで答えは出ていないが、今日は『佐々木に告白された訳でもないし、余計な事を考えずにお互いが楽しめるように過ごそう。』というスタンスでいく事に決めている。
正直、考えすぎて『楽しめない』というのが1番もったいない気がするので、佐々木の気持ちもハッキリしない内から悩むのはもうやめたって感じだ。
で、俺の引っ越し先から2駅ほど市街へ入った駅で待ち合わせ。
地元よりも賑わう街ではあるが、何度か来たことがあり全く知らない場所ではない。
それこそ佐々木のような女子ならば、よく遊びに来ていても不思議ではないな、と思うショッピング街だ。
佐々木を待っている間、ここ数日姉さんから連絡がないことを思い出す。
一人暮らし初日に電話してから掛け直しても出なかったし、真面目に課題をしているからだとは思うがちょっと引っ掛かる。
「宗司くん!お待たせ、遅れちゃってごめ〜ん!」
そんなことを考えながらぼけっと駅の周りの広告を見ていると、佐々木が声を上げて近づいて来たことで思考を中断する。
「おぉ…、慌てなくていいって言っただろ?」
「だ、だって、私から誘ったのに…。」
そう、俺が駅に到着してすぐに佐々木から15分程遅刻するというメッセージが届いていた。
俺はそれに慌てる必要がないことを伝えていたのだが、どうやら走って来たみたいで肩で息をしている。
「ふぅっ…い、行こっか。」
「いや、ちょっと休めよ。そこにカフェもあるし、一旦座ろうぜ。」
「…うん、ごめんね?」
「…いいよ、気にすんな。」
なんだ?佐々木が前とは雰囲気が違う気がする。
息を切らせたまま、申し訳なさそうに顔を顰める佐々木に首を傾げながら店に入った。
「何がいい?俺が並ぶから、席取っといてくれ。」
「え、悪いよ。そんなに混んでないし、一緒に並ぼ?」
「ん、そうか…。」
「うん…。」
なんていうか、早速いまいち噛み合わないな…。
まぁあんまり知らない仲だし、仕方がないか。
結局、それからお互い口を開かないまま別々のレジで会計を済ませ、先に佐々木が座った席の向かいに座る。
なんだか知らない人と相席してるくらいの気分だ。
「あ、今日はありがとう。まさか来てくれるとは思わなかったよ…。」
「さすがに、すっぽかしたりはしない。それより、佐々木の方こそ良かったのか?」
「へ?何が?」
「せっかくの春休みだろ。俺と会うより、もっと色々予定があったんじゃないのか?」
「んー、そんなことないかなぁ。なおちゃんとか仲の良かった子は遠くに進学しちゃった子が多いし、もう少しで入学式だしね。」
「あー、まぁそうか。」
言われてみれば今日が学校が始まるまでの、最後の週末か。
水曜にはもう入学式で、意外と早く感じる。
「それより、宗司くん。」
「なんだ?」
「私は名前で呼んでるのに、まだ佐々木って呼ばれるのはちょっと寂しいかなぁ…。」
わかりやすく、おねだりする様に俺を見つめる佐々木。
「…駿達からは、なんて呼ばれてた?」
「んー、そっかぁ…。それも知らないんだ…。」
佐々木がちょっと落ち込んだ様子を見せる。
「あぁっと、『千夏』か『ちな』だったか?」
「知ってるじゃんっ!…なんで嘘ついたのかなぁ?」
「いや、それは…。」
いきなり名前呼びが恥ずかしくて、男友達からの呼び方の探りを入れただけのつもりが、手痛い返しを受ける。
言葉を詰まらせた俺を見て、ちょっと満足そうに佐々木が笑う。
「ごめんごめん、冗談だよ。でも、罰として今度から宗司くんは私のことは名前で呼んでね?」
その悪戯っぽい笑みは、やっとクラス会の時の佐々木と重なった。
「…調子が出てきたか?千夏。」
「え…?」
「ちょっと緊張してただろ。この間みたいにからかわれるのも困るが、さっきまでよりは自然に笑ってくれた方が俺としても接しやすいよ。」
からかうような笑いを返してやると、ちょっと千夏が赤くなった。
この間の分も含めて、少しは仕返しができたようで俺も満足だ。
「…ん、そこまで言うなら倍返ししちゃうから。ね?」
「…ほどほどに、な。」
可愛らしく俺を睨んだ千夏に、即座に防御体勢をとる俺。
少しの間、視線を交えた後で俺達は同時に笑った。
それから少し話してお互い固さが取れてきたところで、移動するために席を立った。
「それで、どこに行くんだ?」
事前の連絡では集合場所と時間くらいしか聞いていない。
『何かしたいことは?』と聞かれはしたが、情けないことに『特に、なにも。』と典型的なダメな答えで返してしまっていたので行き先は完全にお任せである。
「うん、とりあえずショッピングモールの中を見て周らないかな?宗司くんも興味あるお店があるかも知れないし。」
「あぁ、それで大丈夫だ。」
早速、駅に併設されているショッピングモールへと足を運ぶ。
「ここにはよく来るのか?」
「よくってほどじゃないけど、高校生の時はたまに来てたよ。なおちゃんと来たのが1番多いかなぁ…。」
少し遠い目をして、千夏が答える。
「野田もけっこう遠いって言ってたな。」
「そうなの。新幹線に乗らないと行けないし、引っ越しも大変そうだったよ。」
「そうか、寂しくなるな。」
「うん。でもきっとなおちゃんはどこでも頑張れる子だから、私も負けてられないよ。」
俺が彰人に対して『どこに行っても大丈夫』だと感じたように、千夏にも野田に対してある種の信頼があるのだろう。
その気持ちは、よく分かった。
ショッピングモールに入っても、店内には入らずにただブラブラとウィンドウショッピングを続けながら話す。
「どこか見たいところがあったら言ってね?」
「あぁ、千夏もな。」
「うん。でも、今はまだいいかなぁ。」
「確かにな。この時期に服はあんまり買わないかも知れない。」
こういう場所に多いのはファッション系の店舗だが、春夏モノが並ぶ店内にあまり興味がいかない。
それほど、服装に気を使わない俺なので尚更だ。
「うーん、このままだとすぐ着いちゃうね。」
「ん?何か目的の店があるのか?」
「えへへ、一階の突き当たりのお店だからもうすぐだよ。」
どこも入らずに歩いたので、言葉通りすぐに突き当たりに着いた。
そこは、大型のスポーツ用品店のようだった。
「…ここが見たかったのか?」
「ううん、でも宗司くんが見たいモノがあるかなって。」
「俺が見たいモノ…?」
半信半疑ながら店内に入ると、そこにはキャンプ用品の数々が並べられていた。
テントが数張り立てた状態で展示され、その中や外に実際にキャンプをした時をイメージできるようにイスや机、寝袋などが置かれている。
「…駿に聞いたな?」
「えへへ、喜んでくれるかなーって思って。ここ、最近入ったんだよ。」
俺は小学生の時に家族でキャンプをした経験と、近年のブームでよくテレビなどで取り上げられるようになったことで、大学生になったら絶対にしたい事の1つにソロキャンプがあった。
そのためにバイトもしようと思っていたし、緩いサークルがあれば入ってみてもいいかもしれないと考えていた。
まだお金がないので道具を揃えるのは先延ばしにしているが、今目の前にある道具達にはテンションが上がる。
「あぁ、知らなかった。ありがとう。」
「うん!じゃあ、一緒に見よ?」
素直に、俺が好きなモノをリサーチして合わせてくれた驚きと感謝を告げると、千夏が笑顔で俺の手を引いたので順番に見ていくことにする。
「わぁっ…、テントって大っきいね。」
「それはファミリー用だな。5,6人は入れるんじゃないか?」
「うん、みんなでここに泊まるのって楽しそう。」
千夏が靴を脱いでテントに入り、中の構造に関心しながらはしゃいでいる。
今日の千夏の服装は軽く胸元の開いた白のニットカットソーに、黒のロングスカートを履いていた。
そんな格好でコロンっと寝っ転がるのだから、仰向けになると胸が強調され、膝を立てると少し捲れたスカートから覗くふくらはぎが艶かしく映る。
俺は慌てて、千夏から視線を逸らした。
「宗司くん?あっ…。」
俺の様子にすぐに気付いた千夏から、言葉を止めてゴソゴソと動く気配がすると、クイっとテントの外に居た俺の袖を引いた。
恐る恐るそちらを向くと、女の子座りで袖を掴んだ反対の手で胸元を押さえ、頬を赤く染めた千夏が上目遣いで見ていた。
「…宗司くんのエッチ。」
その表情にクラッときた俺は、自分に非はないはずだが『…悪い。』と短く返すことしかできなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
前書きにもあるように、時系列がちょっと分かりにくいと思いますのでまとめます。
金曜 真実を知った日(引っ越し前々日)
土曜 クラス会(引っ越し前日)
日曜 引越し当日
月曜 一人暮らし初日(千夏と約束、姉さん電話)
火曜 再会の日(仁美と再会)
水曜 駿の引っ越し(描写なし)
木曜〜土曜 何もなし(姉さんから連絡なし)
日曜 千夏とデート(仮)
〜
水曜 入学式
となります。