第10話「再会の日②」
前話と合わせればよかったと思うくらい短いです。
ごめんなさい。
「んぅ…。」
「あっ、起きたか?」
「宗くん…?」
「あぁ、無理に動かなくていいぞ。」
気を失った仁美は15分程で目を覚ました。
意識がはっきりしないのか、見上げた俺に手を伸ばし、実体があるのを確認するように頬に触れてくる。
「宗くん…、ふふっ。宗くんだ。」
「…まだ、じっとしてような。」
「…うん、ふふふっ。」
なんというか、幼児退行してないか…?
ショックを受けてなのか、仁美の寝起きがいつもこうなのかはわからないが、なんかくすぐったくて俺の顔が熱を持つ。
俺の頬を触っていた手を取って動かないように言うと、大人しく返事をして目を閉じ、幸せそうに笑った。
(いや、無防備すぎるだろ!?)
無警戒に、俺の膝枕の上でニヤける仁美。
そのまま、また寝てしまいそうだったので慌てて起こす。
「…仁美!動かなくてもいいけど、風邪引くから寝るな!!」
「んっ…、宗くん……、…宗くん!?」
薄目でぼーっと俺を見る仁美。
その目が徐々に開いていき、カッと見開かれると、俺にも仁美の意識が覚醒したのがハッキリとわかった。
仁美が反射的に俺の名前を呼び、慌てて目線を彷徨わせて、ようやく現状を把握したようだ。
「…なんで、膝枕っ!?」
「落ち着けって、覚えてないか?気を失ってたんだ。」
「気を…、あっ!!」
「思い出したみたいだな。…ほらっ、調子悪かったんだろ?まだ動かなくていいから、じっとしてろ。」
「ひゃっ…、いや、あの…。」
俺の膝の上であわあわしている仁美をじっとさせるように、おでこに手を乗せる。
案の定、少し熱くなっていて風邪気味みたいだ。
「楽になったら、部屋まで送る。そんな状態なのに、付き合わせて悪かった。」
「ひゃっ、ひゃい…。」
そのまま『もう大丈夫だからっ…!』と仁美が起き上がるまで、しばらく休ませてやった。
「仁美は何か…、買い物とかじゃなかったのか?」
「……うん、特には。」
「…そうか。」
仁美が起きて、部屋まで送ろうと2人で並んで歩くが、どうもよそよそしく感じる。
上の空というか、そわそわしているというか…。
お互い口数の少ないまま、すぐに仁美のマンションの下まで着いてしまう。
「…ここ。」
仁美の住むマンションはさっきの公園から近く、俺の借りた部屋からも10分程度しか掛からない場所にあった。
セキュリティがしっかりしているのか、建物の見た目は俺の部屋よりかなり綺麗だが。
「じゃあ俺はこれで…。」
「うん…。今日は心配させて、ごめんね?」
「いや、こっちこそ。学校始まるまでは、ゆっくりしとけよ?何かあったら呼んでくれてもいいから。」
「それは悪いよ。でも、ありがとう。…宗くん、また今度はゆっくり会える?」
「あぁ。せっかく同じ所に通うんだから、また話そう。」
「…うん!」
ひとまず仁美の落ち着いた様子に安心しつつ、軽く手を振って仁美と別れた。
「はぁっ、疲れた…。」
真新しい家具が並び、自分の部屋だという愛着はまだないけれど、これから先もここに帰って来て今ほど気が抜けることはないと思う。
私は荷物を部屋の隅に置いてすぐに、ベッドへとダイブした。
枕に顔を埋めて、さっきまでの事を思い出す。
(まさか宗くんがいるなんて…、お母さんが怪しかったのはこういう事だったんだ…。)
引っ越しが終わって帰る時、『頑張りなさい。』とやけにお母さんがニヤけていた理由が今になってわかった。
そうなると、もしかしたらお母さんは私の宗くんへの気持ちに気付いているのかも知れない。
(だったら教えてよっ…!!)
今になってわかった、衝撃の事実。
いとこである宗くんと私は結婚出来るのだ。
私は自分が勝手に勘違いしていた事を棚に上げて、お母さんの不親切さを呪ってポスッポスッと数回枕を叩いた。
今までの私の苦悩は何だったのだろう。
宗くんを好きな気持ちを自覚してから会いたい気持ちを必死に抑えて、会えば辛くなるだけだと我慢して来たのに、全て無駄だったのだ。
このやるせない気持ちを、どこに向ければいいのか分からず涙が溢れてくる。
それでも頭に浮かんでくるのは、彼の顔で…。
(宗くん、かっこよくなってたなぁ…。)
今日の宗司は誰かに会う予定ではなかったので、それほど格好に気を使っていなかったが、それでも近い距離で顔を合わせた仁美には充分魅力的に見えた。
(学校がはじまったら、やっぱりモテるのかな…。あ、でも知らない子とのデートや紗夜ちゃんからの告白に悩んでたし、今はまだ彼女とかいないって事だよね…。)
今日、宗くんから聞いた女の子達は自分よりもずっと彼に近い所にいるのかも知れない。
それでも彼の隣がまだ空いていることに、自分は心の底から安堵している。
思えば、もう諦められているから大丈夫だと思って宗くんに声を掛けたのに、思いっきり心を乱されてしまった。
それはつまり、そういうことなのだ。
(私はまだ…、宗くんが好きなんだ…。)
そう思い当たって、さっきまで膝枕をしてもらったことや、おでこに手を当ててくれていたことを思い出してカーッと顔が熱くなる。
自然と顔がニヤけるのを私はほっぺを両手で挟んで抑えた。
(あっ、でも私、気を失っちゃうなんて…。)
今度は凹み、宗くんの事を思い出して幸せな気持ちになり、また凹む…。
その激しく乱高下する感情に疲れて寝てしまうまで、私は一喜一憂を繰り返した。
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