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最終試練

よろしくお願いします!

 最終訓練。

 正直あれだけの訓練をしてまだやるということに嫌気も刺すが、これも特異能力を手に入れるためであると思えば、僅かに気が晴れるというもの。




「では、最終訓練の内容を言おう」


其の7、この儂、シャオ・ヨウコクに一度でも触れてみせよ。


「無理だろ……」


 仮にも武神であるこのウサギから触れることなど可能なのだろうか。できるとしたら同じ武神じゃないと無理な気がするんだが。


 というかこのウサギの本名シャオ・ヨウコクっていうのか。シャオ爺という名前もそうだったが、相変わらずカンフーができそうな名前である。


「いやあわからんぞ?ほれ」


そういって俺の頭の上に乗ったシャオ爺は俺の頭をコツコツと叩いた。


「初めの時と同じ条件ならわからんじゃろ?」


 確かに、あの時の俺とは力も体力も桁違いの上がっているから、もしかしたらとは思う。


「さすがに武神であるこの儂と追いかけっこは100万年早いわ。」


 かっかっかと笑って頭をコツコツと叩くシャオ爺。めちゃくちゃ腹が立つ。


「早速始「よっ」うぉっと。」


 開始とともに一瞬で頭上に手をやるが、鮮やかに躱されてしまった。


「やるようになったではないか。」


 不敵な笑みを浮かべつつも声音は存外楽しそうだ。


 それから数時間にもわたって攻防が繰り広げられたが、まったくもって触れる気がしなかった。


 しかし前回と異なるのは手の広さだ。前回は間を取って奇襲的にてで襲うか、一度ヘッドバンキングで振り下ろすかという手しかなかったが、今は茂みの中を駆け抜けて攻撃したり、頭上すれすれで木をくぐったりといったより効果的なことができるようになっていた。


「くっそ、化け物かよ」


「化け物ではない。神じゃ」


「お主は動きが大きすぎる。わかりやすいんじゃ」


 なるほど確かに。今まで頭上に手をやるときトップスピードを出すためにためをつくってから行っていた。


「いやでも予兆もなく攻撃すればそのスピードは失われてしまうんだけど?」


「まだまだじゃの。相手の隙を突けばゆっくりとした動きでも早く見えるものじゃ。ほれこのように」


「うわっ」


 すると目の前にステッキがあらわれて目に当たる。


「今どのくらいの速さに見えた?」


「どのくらいって、結構早く?」


「結構ゆっくりじゃよ。このくらい」


 そういってさっきと同じ速度で同じことを実演してみせる。思っていた以上にのろのろとやってきて目に当たった。


「嘘だぁ」


「まあこんな感じで虚を突けばゆっくりな攻撃でもあたるというものじゃ。」


 確かに有効なのはわかったが、肝心な隙が果たしてこの武神にあるのだろうか。見たところずっと隙だらけなのに全く当たらないし。


「最も儂に隙なんて無いがの」


「意味ね―じゃねぇか!」


「その隙を作るのも訓練じゃて」


 そしてこれ以上何も語らないと、鼻歌を歌い始めた。


 隙を作るとはおそらく一番か手っ取り早いのが世間話をしてる途中で襲ってみるとかそういうことだろう。だがもうこれ以上話さなさそうな雰囲気を醸し出してるシャオ爺に果たしてほかにどんなことができるのか。


 そもそも隙だらけにしか見えないシャオ爺が今まったく隙が無いと感じるくらいにはならないといけないわけだ。


 だからこそとりあえず普段の訓練を始める。初心に帰ればなにかがつかめるかもしれない。


 * * *


「まだかのぉ」


 あれから以前の訓練を続けつつも隙について考えているが、何となくはわかるようになってきたものの、これといった成果は得られずにいた。


 隙がわからないのでとりあえず毎日がむしゃらに全力で振りほどこうとしてはいる。水中で息を止めて我慢比べしたり、沼に沈んでみたり、果てには全力で頭を岩にぶつけてみたりしているが、どうやって避けてるのか全く触れることが出来ない。


 シャオ爺もさすがに飽きてきたのか、たまらず話しかけてくる。


「あの試験ができれば、すぐだと思ったんじゃがなぁ」


「うるさいなー。 もう少しヒントくれたらいけるんだって」


「あれ以上のヒントなんてもう答えみたいなものじゃ。そんなの訓練にならんじゃろうが」


 そんな言い合いをしつつも今も走りながら全力で頭上で手を振りまくっていた。 


「第一あの試験では別に隙なんていらなかったじゃないか。動かないものを切って粉砕する簡単な作業なんだから。」


「それがわからんでやってるお主もある意味では天才かもしれんのう」


 シャオ爺は頭の上でため息交じりにステッキで頭をコツコツと叩いてくる


「皮肉かっ」


 とまれ、ある意味でヒントをもらったかもしれない。シャオ爺の言い方はまるで木にも隙があると言っているようだった。


 それ以降はいつもよりも大きめの木を集中して切る努力をしていった。


 もうかれこれ最終訓練が始まって一年がたとうとしていたころ、相も変わらず俺の頭上にはステッキを持ったウサギがたたずんでいた。今は座ってぐうすか寝ている。


「こんなに寝てるのに触れないんだから化け物なんだよ……」


  思わずそんな愚痴をこぼしつつも、意識は眼前の大木に向けている。こうして何度も繰り返していくうちにわかるようになってきたことがある。


 樹木の気だ。


 樹木の息遣いといえばいいのだろうか。今まで意識してなかったが、切るときに樹木の波長と合わせることで簡単に切ることができていたのだ。


「ん、待てよ?」


 これを無意識でできるようになっていたのはおそらく繰り返しし過ぎて意識せずとも感覚でいけていたのだろう。なら今意識してできるようになったということは、これをそのままシャオ爺にやればいいだけなのではないか。


 思いったったら即行動というわけで早速頭上のシャオ爺に意識を向ける。


「うわぁ……」


 あまりの隙の無さにドン引きである。もうガチガチすぎてびっくりするレベルだ。


 これにどうやって一発触ればいいのか。試しにさらに意識を集中させ、そして自身の気配も消すように心がける。


 気配を消すのは意外と簡単だった。といっても完璧にではないが、それでも今まで自然の中を走り回っていたのだから、何となく溶け込むイメージはついていた。


 そしてシャオ爺の気の流れの途切れ目を探っていくが、これが難しい。


しかし今まで厳しい訓練に耐えてきたのだ。隙が見つかるまで待つのなんて大したことじゃない。


「んにゃ……」


 そして数日が経過した。

さすがにその間何もしなかったということあったのか不振がってシャオ爺は目を覚ました。


(完全に不振に思ってるな。シャオ爺め、気は嘘をつけないぞ)



 そしてさらに意識を集中していると、ついに途切れた。隙が現れたのだ。


「せいっ」


「んうぉ!?」


 なんとも簡単に触ることができてしまった。しかし不覚をとって負けたシャオ爺は全く悔しがるそぶりは見せない。それどころかカカカと笑っていた。


「まさか今までのをすべて布石にしていたとはのう。どこかで来ると思っていたら、まさか動きの気配まで読み取らせんとは。そっちまで意識しとらなんだ。こりゃあ一本取られたわい」


「やっぱり気付かれてたのか」


「案だけわかりやすければ、誰だって布石だとは感づくよ。じゃがここまで続ける忍耐は誤算じゃった。」


 何はともあれこれで訓練は全て終わったというわけだ。


「やっと終わったー!!!」


「喜びすぎじゃろ……」


 長い訓練から解放されて大の字に倒れこむ俺と、切り株の上で不服そうにしてステッキに顔を靠れている。


 とまれこれでようやく異世界に行くことができるわけだ。


 シャオ爺とともに世界の根幹(ワールド・ロード)へと戻ることにした。


戻るのは来た時と違った。


それを目にした時はまさに圧巻以外の言葉が見つからなかった。


シャオ爺がステッキを地面に突き立て、それが如意棒の如く天を突き抜けていく。そして何事か呟いた途端ステッキの周りを螺旋状に光の階段が造られる。


「ふわぁー……」


「何を呆けておる。行くぞい。」


そう言ってひょいと階段を登り始めたシャオ爺に慌ててついて行く。


帰り際、ここまで訓練をしてきてずっと疑問に思っていたことをシャオ爺に質問する。


「俺この世界でずっと訓練してたけど、一切老けないのなんで?」


訓練するにしても木を切るのに数年はかかっているはずなのだ。なのに髭すら生えてこない。しかし初めのうちマラソンで息切れをしていた辺り、シャオ爺の言うようにほぼ実体化しているはずなのだが。


「話すと長いがの。簡単に言えば魂の比率が下界よりもだいぶ多いのじゃ。」


そもそもこのネイザーワールドは、下界と上層世界の狭間にある世界であるため、少なくとも下界よりも上位次元に位置する世界なのだそうだ。だからこそ天界よりも肉体が反映されているが、魂の比率が下界よりも表に反映されている分肉体が時間に影響されないのだそうだ。だがそれはあくまでも時間と少々の傷であって、体力切れや肉体の損傷は天界と違って受けるのだそうだ。


「じゃあこの世界では不老ではあるけど不死ではない的な感じなのか」


「まあそんな所じゃ。」


「因みに俺ってどのくらい訓練してたの?」


「それは我々神には無意味な質問じゃな。我々は時を知らん。」


それはそうだろう。神とは死ぬまで神であるのだ。だがその死は信仰か神同士の戦いでしか起こらない。例えばこのシャオ爺の伝説は1度世界が滅ぶ前から始まっている。


何故知っているのかといえば、訓練中無駄に武勇伝を聞かされたからだ。


それだけ長く生きれば時を数えるのも馬鹿らしくなるだろう。


「時は死だ」とシャオ爺は言った。時を刻むものは皆等しく終わりがあるのだと。


そう言うシャオ爺は静かで、そこには慈愛以外の一切の雰囲気が除外されていた。


「今初めて、シャオ爺が本当の意味で神様だと思いました。」


「どういう意味じゃ!」


それ以降、世界の根幹に着くまではひたすらシャオ爺の武勇伝だった。もう彼の伝説は信者よりも詳しいのではないだろうか。

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