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一転

よろしくお願いします!

… 平凡な高校生活というものは、普通の青春をしていれば誰でも味わうことができる。


 そもそも「普通の青春」の定義があやふやなわけだが、友達とゲームしたり遊んだり、文化祭や体育祭で盛り上がるなんてものは全て一般的な共通認識として青春と定義することができるだろう。


 逆に普通じゃない高校生活における青春というのは、例えばアイドル等の芸能人になったり、高校生探偵やってみたり、初めてやるスポーツで才能を発揮して全国の強豪校と渡り合ったりといった、非現実的な生活が当てはまると思う。


 中でも異世界に行ったりしてしまったら、もはやどこまでを青春として定義づけしていいものか。


「まあ、そんなことないけどな~」


「何独り言言ってるんだ千隼!」


「あてっ」


 思わず授業中に考え事を声を出してしまい、教科担任にチョークを食らう。


「よりにもよって生徒に厳しい数学の小野寺の授業でやってしまった。。。不覚」


 やはり放課後職員室に呼び出されて小一時間ほど叱られた後、帰宅部ゆえに寄るところもないのでそのまま帰路につく。

 これは完全に目をつけられてしまった。



 さてどこまで語っただろうか。話を戻すと、もちろん異世界に行くなんて確率は自分の頭に隕石がピンポイントで落下するくらいない話であって。寧ろそれよりも低い確率であるのは明らかだ。




 だからこそ目の前に広がっている光景は現実かどうかを疑いたくなるわけだ。




 それは一言でいえば「道」だった。一本のまっすぐ伸びる白の道(ホワイトロード)


 道に沿った壁にはいくつものモニターが所狭しと並べられ、時折その隙間から扉が設置されていた。モニターに映っているのはどれも地図のようだった。世界地図なのだろうか。


 しかしどのモニターに映し出された地形も、地球の地図とは当てはまらない。すべて違った形をしていて、モニターの右端には何の数値なのか、どの数値も変動し続けている。


 よく見ると様々な色の点が地図上に表示されていて、その数値が増えたり消えたりしている。恐らく数値の変動はこれだろう。ではこの点は何か。



「それは生命の表示です。」


「うわっ」



 千隼は突然後ろから声をかけられて後ずさる。


「初めまして、世界の根幹(ワールド・ロード)へようこそ。神楽坂千隼さん」


 目の前には少女が立っていた。歳は12,3といったところだろうか。純白の白衣に身を包んだ姿は、神話に出てくる天使を彷彿とさせる。


 そんな彼女から聞いたことがない単語を聞けば混乱もする。ワールドロード?どこだそこは。からかっているのか。



「こ、ここはどこなんですか?」



 しかし自分でも恐らく薄らと気付いていたのも事実だった。だからこそ、そんなことは無いと否定して欲しくて千隼は恐る恐る訊ねる。



「ここは世界のすべてを構築して管理する場所。世界の根幹、通称ワールドロード。そうですね、言うなれば『死後の世界』と表現することもできますね。」


「死後の、世界……?」



 この場において最悪の単語を耳にしてフリーズしてしまう。



「はい。改めまして、神楽坂千隼さん。あなたは、あの世界における生命活動を終了。亡くなられてしまわれたのです。」


「はい?」



 彼女の表情は真剣そのものだった。だからこそ本気で自分が死んだかもしれないなんて思ってしまう。



「死んだって、そんな、まさかぁ」



 自分の中で理解はしている。ただ落とし込めない。


 千隼自身、落とし込まないように否定を続ける。無駄だとは分かっていてもせざる負えないのだ。



「いいえ、残念ながら亡くなられました」



 こちらが一向に死を認めていないということに少女は悲しみの表情を浮かべ、ゆっくり近づきそして俺の手を握った。



「っ」



 すると突然フラッシュバックが起きた。生まれた瞬間からの走馬灯のような記憶の濁流。


 そして行き着くのは俺の最後の記憶。



 そこは夜の駅ホーム。閑散とした駅のホームにはいくつかの電灯が灯っている。ふらふらとした足取りで一人駅のホームを歩く俺。まるで人生に迷っているかのような足取りだ。


 列車通過のアナウンスとともに、遠くから電車の音が聞こえてくる。そして駅を通り過ぎる瞬間。


 身を投げ出したように線路へ倒れた。


 見えるのは電車のクラクションと近づいてくる明かり。それが目の前に迫ったところで記憶は途絶えた。



「嘘だろ……」



 今のは完全に自分だった。感覚全てが本物だったのだから間違いない。


 ショックを隠せないでいる俺を見て悲しそうな表情を浮かべる少女は、(なだ)めるように俺の背中を(さす)った。


「私はあなたのような方を導くためにいる、ここの管理者なのです。あなたたちの言葉を借りれば神様と定義づけることもできます。」


 しかし、と神様と名乗った少女は続ける。だがどこか先程とは違って落ち着きのない雰囲気だ。



「こちらの不手際もありまして、その、本来まだ死ぬ予定ではなかったのですが、少々50年ほど亡くなるのが早くなってしまいまして…」


「じゃあまた元の世界で生かしてくれるのか!?」


「そ、そういうわけにもいかないのです!あの世界はほかの世界よりも修正力が強く、一度死んだ人間を生き返らせたとなれば、本来まだ生きていたはずの命がまたどこかで奪われてしまうことにもなりかねないのです。」


「あっ」と神様は続ける。


「でもその人をまた生き返らせての繰り返しをするというのはできませんよ。この世界に来た記憶だけを完全に忘れさせるということはできないのです。いわゆる夢を見ていたと錯覚させることは可能ですが、この世界の記憶が生命の世界に留まるのはよくないことを引き起こすきっかけになりかねないのです。」


「そしたら、俺はこのまま記憶をなくして生まれ変わって別の人生をやり直すのか…」


「いえ、今回はかなり例外が適応されますのでその辺は安心してもらって構いませんよ。」


「というと?」


「先ほども言いましたが、今回の千隼さんの件は100年に一回、いや1000年に一回あるかないかというほど珍しい事故です。なのでその場合は記憶を引き継いだまま、そのままの年齢で別の世界ではありますが行くことができます。もちろん、転生をお望みなら―――ってわわ!」


「それって、異世界ってことですかっ!?」


 全力で神様の懐に抱きつき、目を爛々と輝かせた。「は、放してくださいぃ~」と神様は頭をぐいぐいと退けようとするが、少女だからなのか、全力でしがみ付いて放さないようにガッチリとホールドする。


「え、ええ。そうなりますね……」


 最終的に諦めたのか、彼女は項垂れて肯定した。


「いやっほーぅ!!!」


 まさか人生で絶対に起こることがない出来事圧倒的1位が自分自身に起こるとは思ってもみなかったのでたまらず奇声を上げて喜んでしまう。孫の代、いや子々孫々まで語り継げる自慢である。


「ちなみに死因なんですが…」


「ああ、もうどうでもいいですよそんな過去のことは!大事なのは未来ですよ、未来!」


「で、でもこれは規則でもありますので…」


 そういうものなのか。というよりそういう規則みたいなのがちゃんとあるのか。天界規定とかそんなありふれた名前なのだろうか。


「じゃあ聞きます。」


「こほん、神楽坂千隼さん。あなたは酔っぱらったあまり、駅のホームから足を滑らせて電車に轢かれてしまいなくなりました。」


「うん……………………………は?」


 今、酔っぱらってとか言ってなかっただろうかこの少女は。


「待ってください、僕っていくつで亡くなったんですか?」


 おそらくそんなことはないと思うが、この状況にいる時点でありえないことはない気がして、恐る恐る目の前の少女に尋ねる。


「えーと、25歳です。」


「ば、馬鹿な……」


 わずかには信じがたい事実だった。現に今制服を着ているし、最後の記憶が高校の下校中なのだ。確か死人って死んだ姿で死後の世界に行くんじゃなかったっけ。だから物語の中で死後の世界が描かれるときほとんどの死人が白装束を身に着けていることが多いのではないのか。


 しかし同時にだからあんなにふらふらして歩いていたのかと変な納得もしていた。


俺の疑問を汲み取ったのか、神様は解説を始めた。


「千隼さんが疑問に思うことはもっともです。そもそもの認識が間違っているんです。この空間は肉体から離れた魂のみが来る場所です。そうですね、簡単に言うと4次元の世界、とでも言えばいいんでしょうか。」


 こんなにはっきりと景色がついているのにここが4次元なのか。そもそも4次元とかどこかのネコ型ロボットでしか聞いたことがない。


「まあ、要するにですね、この空間に存在しているあなたはあなた自身の中で一番印象に残っている時代の姿が反映されてるんですよ。魂そのものが反映されるので記憶もその当時のものが反映されるんです。」


「な、なるほど?」


「ですので、転生される時も今の魂の状態を次の世界でも肉体に反映させることになるんです。」


「それはつまり、自分が若返ったってこと?」


「そうとも言えますね。ただ本人の記憶が当時のものなのですし、時間を逆行させたわけではないので完全にそうとは言い難いですが。」


なんだかよくわからないけど、25で転生するよりは高校生で転生したほうがお得な気がするからよかった。


「それでは転生する前に、どこの世界に行きたいとかの希望はありますか?」


「え、こっちで指定できるの!?」


「はっきりとこの世界がいいというのは世界の修正力の関係上できないですが、そこそこの希望を反映させることは可能ですよ。」


 彼女の話では、どの世界でも不安定になる時期が必ず存在するのだという。その不安定な時期を狙って無理やりねじ込むそうだ。これは余談ではあるが、では元の世界に戻ることも可能ではという疑問が浮かぶわけだが。


 そのことを少女に聞いてみると、


「それはほぼ不可能です。そもそも時空の歪みの影響であなたは亡くなっています。時空の歪みが引き起こす現象は災害であったり誰かの死であったり、はたまた神隠しや転生なんかもあります。しかしそれらに共通するのは全て必ず修正を、辻褄を合わせようと世界が働きかけるのです。そしてこの時空の歪みは頻発して起きるものではありません。仮にイチかバチかで次の歪みに奇跡的に出会えればいいでしょうが、魂がこの世界に留まれる時間は限られています。そうですね、すべての世界の時間の進みはこの空間も含めて一律に同じとき進むので、2日が限界ですね。それを過ぎれば魂はこの空間で維持できなくなり消滅します。輪廻から消滅するので、生まれ変わるということもなく存在がいなくなってしまうんです。」


「お、おう」


 さらっと恐ろしいことを聞いてしまったが、とりあえず消えたくないのでさっさと世界を決めてしまおう。


「何か希望はありますか?」


「剣と魔法のファンタジー世界なんてものはありますか!」


「はい?」


「いえ、ないならいいんですっ」


 真面目に聞き返されると、めちゃくちゃ恥ずかしい。そりゃそうだ、はたから見れば何言ってんだこいつになってしまう。


「ありますよ。それでは、そのような世界で設定しますね。」


「あるんですかっ やった!」


 これは朗報を聞いてしまったかもしれない。全国の異世界に行きたいと願う少年たちよ、先に行ってるぜ!


「ただ、あなたの世界とはやはり文明差が激しく、中でも魔法というのは千隼さん世界にはありませんでしたから、少々魂のほうを書き換えなければなりませんが。」


「え、それって記憶が消えたりとかしませんか…?」


 これはありがちな設定だが、魂とは言ってしまえば人間の、生命の核となる部分だという認識で間違ってはいないと思う。


 そしてそれをいじるとなると人格崩壊を招いたり、記憶が消えたりといろんな副作用が起こるのがセオリーである。


 あくまでも創作の話ではあるが、死後の世界がある時点でもはやなんでもあり得てしまうだろう。


「いえいえ!安心してください。魂をもとに肉体に反映させていくわけですから、いざとなって能力がなくては危険でしょう?」


「魔法使えるようになるんですか!?」


「それはできません。」


「なんだ使えないのかよ。」


「なんでそんなに残念そうなんですか……」


 ものすごく彼女からジト目で見られてしまう。


 だがそんなことを気にしている場合ではない。

 早くも憧れていたことを取り上げられてしまった気分である。異世界に行っても魔法が使えないんじゃ、順風満帆な異世界ライフが送れるとはとても言えない。


「魔法とは違うものにはなりますが、特異能力というのを授けることができます。」


「特異能力?」


「特異能力とはあなたが持つ魂の特徴から導き出される特異な力のことです。そうですね、こればかりは人によりますが、空を飛んだり、火を噴いたり、力が強くなったりということが可能になります。」


 マ・ジ・カ


 転生だけでなくまさかそんなファンタジーな力が手に入るとは、どれだけサービスがいいんだろうか。神様万歳。


 しかして少女の形をした神様は特異能力を授けるために、魂の情報を読み取っていくのだった。


補足:「これは転移じゃないかっ転生転生いいやがって!」とご指摘頂くこともあるかもしれませんので、一応それっぽい説明をしておくと、主人公千隼は、死んで魂のみとなっています。なので肉体的には既に死んでいて、次に現界するときには見た目は変わらなくても(巻き戻ってはいますが。)新たな肉体を得るわけなので、あくまでも生まれ変わったという設定になっております。

長文失礼しました〜。

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