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6.銀色の魂

「そりゃああああああッ!!」


 女神の庭園に美しい声が響き渡る。――もちろん、俺である。


 ズシャッ!!


 記録は――4.7メートル!!


 うーん、良いのか悪いのか分からないッ!!


「――よーし、これにてひとり走り幅跳び大会終了ッ! 閉会ッ!」


 息がまるで上がっていないが、椅子に腰を掛けて一休み。


 はぁ、疲れた。いや、何となく、気分的に。


 ――ちなみに何をしていたかといえば、前述の通り『ひとり走り幅跳び大会』を開催していたのだ。

 悲しい一人遊びという無かれ。そもそも元の身体とは違う身体になっているのだから、多少は動かさないと勝手が分からないのだ。

 ぽよぽよするために動かしている部位はもうばっちりなんだが、それ以外も満遍なく動かして慣れておかないとな。


 というわけでネット断ち――もといノートパソコン断ちをして、日々運動に明け暮れているわけだ。

 ノートパソコンを使っているといろいろ調べ始めてしまって、時間をすごく使ってしまうからな。

 それは人間だったときも女神である今も変わることは無く。


 そういえば『次に転生対象者が来るまでノートパソコンを断つ!』なんて気軽に決めちゃったんだけど、今日でかれこれ二週間、まったく来ない。

 何か条件付きで決めると、条件にしたことが何故かなかなか起こらなくなるよな。何なんだろう、この現象。


「そろそろ鐘の音が響いても良いのにな~」


 そう思いながら空を見上げてまったりする。

 アンドレア君に付けた転生スキル『ご都合主義』。俺こそあれが欲しいな――などと思いながら、引き続きまったりまったり……。


 ちなみに次に鐘の音が響いたのは、それから一週間後だった。

 うん、運動だけは捗ったぞ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 鐘の音が響いたので転生の間に行ってみると――銀色に輝く球状の光が浮いていた。


 ――……何だ、あれ?


 警戒しながら、声は出さずに辺りを窺う。

 いつものように誰かがいる――ということは無かった。広大な転生の間には、銀色に輝く光のみ。


 ――もしかして、あれが今回の転生対象者? うーん、確かにいわゆる『魂』っぽいけど……。

 まぁ、いつも通りいくか。


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


 ……。


「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。

 あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」


 ……。


 ……。


 ――えぇ? ガン無視っ!?


 その後しばらく様子を見ていたが、特に変わったところも動く気配も無し。

 うーん……あれって、放置して良いの? そもそもいつもと違う感じだしなぁ?


 ……うん。一応転生者が来たということで、ノートパソコン断ちは解禁しよう。

 ちょっと何かヒントというか、どうしたら良いのか調べられないかな。




 念のため時間を止めて――


「――『サモン・スキエンティア』」


 俺は光輝くノートパソコンを召喚して起動した。

 その瞬間――


「ぱんぱかぱーん♪ お仕事5件達成おめでとー♪」


「ふぁっ!?」


 起動したノートパソコンの上に、突然小さい女神様が現れた。


「こほん。あーあー、てすてす。この小さい私は、女神リーネルペルファが作った一時的な存在です。

 リーネって呼べば良いと思うよ」


「あ、はい」


「お仕事を5件こなしたら、あなたの前に現れるようにしておきました。

 おそらく6件目が来るまでにはしばらく時間が空くと思います。それまでに、今回お話することを聞いてよく考えておいてね」


 ……すいません。今がその6件目の真っ最中です……。

 ……すいません。しばらく空いた時間は『ひとり走り幅跳び大会』などを開催しておりました……。すいません……。


「あ、先に言っておくと――女神としての実力がある程度上がると、いつくらいにどんな魂が来るかが分かるようになるの。

 私はそれを見越してこのメッセージを仕込んでおきました。ふふふ、すごいでしょう」


 すごいです! でもタイミングが悪かったです! 俺のせいなんですけど!


「さて……それで、6件目の魂は――銀色に光っているかと思います。

 これはれっきとした転生対象者だから、しっかり対応してください」


 おお、さすが元・女神様。それは今、俺がまさに必要としていた答えだ!


「それで――そもそもの話なんだけど、魂にはいくつかのランクがあるの。

 まずはあなたが今まで見てきた――いわゆる人間、もしくはそれに類する亜人の魂」


 はい。


「これについては今まであなたがやってきたように、引き続き対応をしてください」


 はい。


「次に6件目に来るであろう銀色の魂。これは、人間を超えたものの魂です」


 ほう。


「例えば『山』とか『海』とか。そういったものにも魂は宿っているの。人間よりも大いなる存在だってことは忘れないでね。

 そういう存在なので、例えば人間として転生させると――普通の人間よりも強力な存在となります」


 ふむふむ、なるほど……。


「それを踏まえて、人間に転生させるか――はたまた転生前と同じような存在に転生させるかを決めてください。

 ちなみにそういった存在が希望のままに転生して邪悪な存在に堕ちたりすると――酷いことになるからね。

 あなたの判断基準で、もしおかしな魂だったら強制的に矮小な存在に転生させてください。これは神の権限として問題無い行為です」


 ふむ。必ずしも転生対象者の希望に沿う必要は無いのか……、なるほど。


「ちなみに10件目までは大丈夫なことを確認しているけど――、それよりも大いなる存在がいます」


 ――え、これ以上もいるの?


「例えば『惑星』といった存在にまでなると、その魂は金色に輝くようになります。

 そしてこれは滅多に無いんだけど――虹色に輝く魂もあって、これは『世界』が死んだものになります」


 ――は? 『世界』……?


「これは1万年に1回くらいしか現れないから、とりあえずは安心してね。

 ただ、これが現れた場合は最も矮小な存在――『チリ』に必ず転生させてください。あと、多分ちょっとバトルが発生すると思うから注意してね」


 ちょ、ちょっと? 今、バトルって言った!?


「詳しくは転生女神のマニュアルの最後の方に書いてあるから読んでおいてね♪」


 そ、そうだったのか……。転生女神のマニュアル――必要なところしか読んでなかったから、全然気付かなかったぜ……。


「――あ、ちなみに銀色の魂は喋っていないように見えるけど、すんごい遅いだけだから。

 時間を止めたりしていれば出来ると思うけど、時間を高速回転させることも出来るの。そしたら同じ速度で話せるから、試してみてね」


 ……あ、それはそういうことだったんだ?


「それじゃ一通りメッセージは伝えたので、今回はこの辺で。またどこかのタイミングでお会いしましょー♪」


 そう言い残すと小さい女神様――リーネは煙を立てて消えた。


「……うん、やっぱり丸投げ感は残るけど――知りたいことは分かったぞ。さすが元・女神様!」


 俺はノートパソコンを一旦しまい、時間を動かし始め――そして加速させた。




「――おお、貴女はもしかして……何らかの女神……かな?」


 銀色の魂はそんなふうに話し掛けてきた。

 最初に神と分かるとは、さすが大いなる存在だ。


「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。

 あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」


「おお……転生の女神か……。ふむ……しかし存在はすべて流転するもの……。どうやらここは……世界の壁を超えた転生を行う場所――のようだな……」


 そ、そうだったのか……。現・転生の女神である俺より詳しいぞ、この魂……。


「おっと失礼……。私はヴィオトルテ山脈に宿っていた魂だ……。順当にいけば私はそのまま、そういったものに流転すると思っていたのだが――」


 なるほど。基本的には同格のものに生まれ変わるんだな。

 そういえば人間も人間に転生してるし――それが基本的なルールなんだろう。

 もしもそのルールを外れて格下のものに転生した場合は――リーネも言っていたが――代わりに強い力を得る、と。


「女神よ……。私は……生命の営みをずっと見ていた……。永い時を見ていく内に、少し羨ましくなったのだよ……。短い命とはいえ、他者と触れ合うその光景に――」


「はい。それではあなたの望みは――」


「そうだな……。次は人間として……生を受けてみたい……。他には……そうだな、山の近くにでも生まれれば……後はもう、何も言うことは無い……」




 俺は時間を止めた。

 話を聞く限りでは特に悪い魂でも無さそうだし……それに、願いも平和的だしな。

 今回は問題無さそうだから、普通に転生させるか――……って、えぇ!?


 転生スキルを付けようとして俺は驚いた。

 すべての項目の加重値が倍増しているのだ。


「うお……これが大いなる存在の力か……」


 ただでさえ強力な転生スキルの効果が倍増である。銀色の魂ですらこれなのだから、金色や虹色の魂はもっとすごいのだろう。

 ちなみに転生スキルを付けないっていう手もあるんだよな。……でも、今回は付けてあげるか。


 ちゃちゃっと設定は終了。俺は時間を動かし始めた――




「あなたの願いを叶え、人間としての生を与えます。

 その力を正しく使い、人と多く触れ合う人生をお送りください――」


「おお……ありがとう。貴女のことはずっと忘れんよ……」


 銀色の魂は優しくそう言った後、光の中に溶けて消えていった――




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――私の名前は……特に無いな。人間からは……ヴィオトルテ山脈と呼ばれていた存在だ。


 目を覚ますと――そもそもこの感覚もどこか懐かしい感じがするが――周囲は優しい空気で満ちていた。


 私は今、人間の子供として生を受けた。そうか……これが人間である感覚か……。

 今までとは違う五感。六感以降は無いようだが、まぁそれは良しとしよう。


 どれ、それでは声でも出してみるとするか……。


「おぎゃー、おぎゃー!」


「あら、どうしたのー。大丈夫? ほらー、よちよち」


 私の母親である女性が慌てて駆け寄ってきた。

 以前の私から見ればとても小さな存在ではあるが――今の私にとっては、何と大きな存在なのだろう。


 母親にあやされていると、私の視界の片隅に何やら映るものが見えた。

 ふむ、これは転生スキル……というやつか。恐らくは転生の女神によって付けられたものだろう。


 どれ、効果のほどは――


 ----------------------------------------

 【守護の矛盾】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 愛する者を護る際、すべてのステータスに+200の加重値を得る

 ----------------------------------------


 ――ふむ。


 私は誰かを傷付けるつもりも無いし、どこかに攻め入るつもりも無い。

 ただ――私の護るべき者を傷付ける者は許さない。


 そんな私の思いを察したか。


 ありがとう、女神リーネルペルファ。最高の贈り物だ――

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