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5.悲しみの少女

「――ふぅ。みんな順調なようで、なによりかな」


 魔法のモニターで、転生させた面々の様子を見て一安心する。



 プリーストになったサーシャちゃんは、街の聖堂に通っている。


 毎日長い時間を礼拝に捧げているのだが、その敬虔な姿が聖堂に通う人々の間でちょっとした噂になっているようだ。

 見た目の可愛らしさもあって、ちょっと色気付いた男の信者から声を掛けられたりもするのだが――そういうのからはしきりに距離を置いている。

 そしてそれがまた何ともいえない清廉さ……っていうのかな? そういうのを醸し出しているんだ。


 ――まぁ、実際のところは色欲の煩悩から逃げようとしているだけだけどな。



 笑顔がとても素敵なクサハエル氏は、最初に立ち寄った村の伝説に従って『大地の試練』とやらを受けていた。


 何でもそれをクリアすると大地の力を得ることが出来てパワーアップするらしいのだが――それって多分、土属性だよね?

 俺が付けた転生スキル『戦闘狂い』が火属性付与だから、ちょっと相性が心配だ。

 木を出しても笑ったらそのまま燃え尽きそうだからな。無駄足にならないことを切に祈る。


 ――でも、それ以外は特に問題は無さそうかな。



 『真実の愛』を求めて旅立ったアンドレア君は、どうやら最初に出会った若者と意気投合したようだ。


 今ではその若者と一緒に魔物討伐やらをやっている。

 転生スキルでは無いけど、攻撃スキルとか関連スキルもちょっと付けておいたから――あんまり無理しなければどこにでも行けるだろう。

 彼の目的は冒険の場というよりも、男性との二人関係だからな。


 ――さすがに俺はそっちの様子まで見ることはしたくないから……まぁ、それは勝手に頑張って欲しい。



 さて、問題の元・女神様だ。


 この人は冒険者ギルドの依頼を続々とこなしていて、その名声はうなぎのぼりの真っ最中だ。

 俺からすれば転生スキルを大量に持っていったから別段不思議なことは無いんだけど、向こうの世界の人からしたら驚きだよな。

 突然現れたよく分からないヤツが、凄まじく強いモンスターを大量に狩り続けているんだから。


 ちなみに魔法のモニターを通して見つけた皮袋いっぱいの金貨は――どうやらドラゴン討伐の報酬のようだった。

 それにしても今現在で、既に『勇者』やら『ドラゴンキラー』やらのふたつ名を獲得していたのには驚いたな。


 もしかして俺が女神様に転生……じゃないか、身体を交換しなかったら――俺があの立場になっていたのかな?

 ……そんなことも少しは考えたが――しかしそうしていたら、転生スキルも多分1個か2個だっただろうから――それはやっぱり無かったかな。


 ――しかしそう考えると、元・女神様はやっぱりずるいな!



 そして俺はいつも通り、女神の庭園でまったりぽよぽよして遊んでいた。

 ここ1週間は誰も来なかったから気楽なものだ。

 その内寂しくなるかな――とも思ったけど、今のところそういうのはまったく無いな。

 むしろこんなだだっ広い場所を一人で独占できて、ちょっと気持ち良いくらいだ。



 ――ガラーン…… ゴローン……



 どこか遠くから鐘の音が響いた。


 おっと、誰も来なかったと思った矢先の来客だ。

 さてさて、次はどんな人が来るのかなっと。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 転生の間に行くと、一人の少女が佇んでいた。

 女の子が連続か。やっぱり最終的には、男女比は半々くらいになるのかな?


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


「……えっ!?」


 不意に声を掛けられた少女は驚きの声を上げた。


「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。

 あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」


「え……あの、その、私……死んじゃったんですか……?」


「――はい。今は限りなく魂に近い状態です」


「……そ、そうなんですか……。わ、私……私の人生の意味って……何だったんでしょうか……」


 ――知らんがな……。

 いや、冷たくする気は無いんだけど、見ず知らずの人にそんなことを言われましてもね……。


「申し訳ありませんが――それは私からお答えすることは出来ません……。

 あなたの今までの人生の意味を望むのでしたら、より多くの経験を得て――そして自らで答えを見つけ出してください」


 この少女も、見た目から察すると15歳くらいだしな。

 確かに多感な時代はそういうことを考える機会は多いものだが、人生80年と考えればまだ五分の一も生きていないわけだし……。


「……でも、私……死んじゃったんですよね……?」


「はい。しかしあなたはこの場所に訪れ、転生の機会を得ました。私の力を以て、新しい人生を歩むことが出来ます――」


「そ……そうなんですか。でも私……もう、あんな惨めな思いは……したくないので……」


 ……うーん? この少女、あんまり転生に乗り気じゃないのかな?

 そういえば転生したくないって人がいたらどうするんだろう? そのまま死んじゃうのかな……? まぁ、今は置いておこう。


「何か望みがあれば、最大限には叶えますが――」


「……え? ……あ、そうなんですね。……それじゃ、貧乏じゃない家に……生まれたいです。

 あと、それと……、両親がぶたないでいてくれるところ――……。あ、で、でも、難しいなら大丈夫ですっ!」


 あ、あー……。

 そうか、そうだよな。死ぬ前って、当然のことながら色々な環境があるよな。

 俺が知っている環境なんてごく一部なわけだし、15歳くらいにしても色々抱えているなんてこと、普通にあるよな。


 あー、ダメだ俺。まだまだ女神レベルが低いぞ……。




 軽く欝々とした気持ちを抱えつつ、俺は時間を止める。

 光り輝くノートパソコンを召喚して転生の設定をするが――……うーん、何だろうな。


 クサハエル氏も悲愴な環境だったのはそうなのだが、いかんせん今回の方が身近な劣悪環境でイメージがしやすい……っていうのかな。

 何か心に来るんだよな。うん、この子には悪ノリ無く幸せになって欲しいぞ。

 そうだよな、しっかり幸せになってもらおう。


 さてさて、赤ん坊に転生させることも出来るんだけど――今回は同年代の女の子にしたいな。

 っていうのも、同年代の幸せを早々に噛み締めて欲しいんだよね。


 しかしお金持ちの家の子に転生させるってのはどうすれば良いんだ……?

 本人をお金持ちにするだけならお金を持たせれば良いだけなんだけど、家がお金持ちって――。


 さすがに生きている人に転生させるわけにはいかないからなぁ。

 うーん……むしろ死んでる人になら良いのか……? いわゆる、人生を引き継ぐ的な――


 俺はちょっと複雑な設定をしてから――時間を動かし始めた。




「――……あなたに使命を与えます」


「えっ! め、女神様が……私に……ですか? な、何なりと!」


「あなたは裕福な家と、優しい両親を手に入れることが出来ます。

 ただし――あなたは、その家の死んだ娘に転生します。あなたが幸せになると共に、両親を幸せにしてあげられますか?」


「私が……両親を、幸せに……?」


「はい。あなたが転生しなければ、その両親は亡き娘を見て悲しむことになるでしょう……。

 亡くなった娘は気の毒なことですが、せめてその両親には――」


「……わ、私がやれば……悲しむ人が……減る、んですね……。私でも、役に立つんですね……。

 ――やります! やらせてください!!」


 少女が強い意志で言葉を発すると、彼女の身体が光り始めた。


「――ありがとうございます。

 新しい世界でたくさんの優しさを受け、そしてたくさんの優しさを与えてきてください――」


「は、はい! 女神様、ありがとうございますっ!!」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 …………。


 ……えっと……私の名前……。矢倉綾香(やぐらあやか)……15歳。

 何だか……長い夢を見ていた気がする……。


 ――夢? ああ、私……眠っていたのか……。

 そんなことを思った瞬間、気怠さと共に身体に感覚が戻ってくる。


 ……寒い。……痛い。

 ああ、いつも通り……。また、嫌な一日が始まるんだね……。


 ……何か、優しい女神様からお願いされたことがあったような気がしたけど――なんだ、ただの夢だったのか……。そうだよね……。



 意識がはっきりしてくると、そこは見覚えの無い場所だった。

 私は薄暗い地下牢のような場所に閉じ込められている……らしい。

 周囲には誰もおらず、格子の向こうには石造りの上り階段だけが見える。


「え……? ここ、どこ……? 私は一体――」


 ガチャリ


「――え?」


 音がした場所を見れば、錆付いた鉄製の枷が私の両手を拘束している。


「なにこれ……。ここ、どこなの……?」


 自分の置かれた状況が分からず、涙が溢れてくる。


 私……、私はやっぱりここで……。どこに行っても、やっぱり私は――



 ガチャッ……ギィ……



「――ッ!?」


 唐突に、石造りの階段の上から扉の開く音がした。


 カツン……カツン……


 続けざまに、誰かの足音。それも何人かの足音がする。

 ここがどこかは分からないけど、こんな扱いをされてるくらいだもんね……。

 また、痛くさせられるんだよね……? ……まぁ、仕方ないか……。早く、終わると良いな……。


 格子の前に3人ほどの男が立ち並ぶ。

 しかしそのまま彼らは動かない。……ああ、もしかしたら私が死んでると思ってるのかな? 服はボロボロだし、脱力しきってるし……。


「――……どうしたんですか? 私はまだ……生きて……いますよ……?」


 出来るだけ優しく言う私。何かをやるなら……さっさと終わらせて欲しい……。


 しかし――


「――ッ!」

「お、お嬢様!? 生きておいでで――」

「だ、旦那様ッ! お嬢様がおられました!!」


 私の声を聞き、途端に大声を上げる男たち。


 ……え? お嬢様?


 その一瞬後、階段を猛スピード降りてくる人がひとり。

 慌てて格子の前まで来ると、息を荒げながら言葉を発した。


「――おおっ! おおっ!! ……ああ、マージェリー……。よくぞ……生きていて……くれ……て……」


 他の男が牢の鍵を開けると、旦那様と呼ばれた男はすぐさま牢の中に入って私を優しく抱き締めてくれた。


「もう、もう怖がることは無い……。家でパメラも待っているからな……。うん……、早く帰ろう……」


 男は涙を堪えながら――いや、堪えながらもたくさん溢れさせているが、何とか言葉を紡ぎ出している。


 ――そっか。あれは夢じゃなかったんだ……。私は――この人の娘になったんだ……。

 私は女神様からの使命を思い出す。



 『新しい世界でたくさんの優しさを受け、そしてたくさんの優しさを与えてきてください――』



 でも、ごめんね、女神様。私は一回だけ抱き締めてもらえれば、もうそれで十分なんだ。


 あとは――この人たちに、幸せになってもらうように頑張るから……できたら、見ていてくださいね。

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