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4.恋に恋した少女は叫ぶ

 破壊された石のモンスターが崩れ去り、舞い上がった砂煙が落ち着いた頃――母娘がようやく言葉を紡いだ。


「まさか……、まさかあの、ストーンゴーレムを倒すだなんて――」


「お母さん……私、見たよ。この人、突然現れた光の中から――出て来たんだよっ!」


「え……? そ、それってもしかして――伝説の勇者様……? す、すいません、貴方のお名前は何というのですか――?」


 母親の言葉に、興奮からどうにか落ち着いた男は静かに答えた。いや、答えようとして――途中で止めた。


「俺の名前は――……。……ふっ、どうやらあの女神が俺に新たな名前を授けたらしい……。新しい人生を歩むために、これからは新しい名を名乗れ――……と?」


 男は宙を仰ぎ見ながら、誰とも無しに一人つぶやいて笑った。


「め、女神……様、から? ああ、それでは本当に、貴方は伝説の勇者様――ッ!」


「勇者様、助けて頂きありがとうございました! ……あの、それでお名前は――」


「……俺は、……俺の名は――、クサハエル・テラ・ワロスだ」


「――クサハエル様……。何と――、何と神々しいお名前なのでしょう……!」


「お母さん! さっそく勇者様を村にお招きしようよ! 勇者様、良いでしょう?」


「……ああ、少し話も聞きたい。お願いできるかな?」


「やったぁ! ほらほら、お母さんも早くっ!」


「もう、この子ったら……。すみません、勇者様――」


「ははは。……大丈夫、だ」


 男は母娘と一緒に、優しく話しながら近くの村へと歩き始めた――。




「ぶふぉっ!」


 思わず吹き出す俺。

 女神の庭園で魔法のモニターから一部始終を見ていたのだが――……いやいや、クサハエルとか、草生えるわッ!!


 ――……まぁ、名付けたのは俺なんだけどな。


 転生の設定をするときに気付いて試したんだけど、転生後の『名前』も決めることが出来るんだ。

 名前を付けたからといって別に他の名前を名乗っても良いのだけど、例えば鑑定スキルのようなものを使われると俺の付けた『初期設定』の方が優先されるらしい。

 逆に初期設定をしなければ、サーシャちゃんのように自分で付けた名前が優先されるようだ。


 でもまぁ、新しい転生ライフで使う名前を俺の一存で決めるのは申し訳ないから、今後は出来るだけ自重していこう。

 何らかの理由がある場合だけ、しっかり設定させて頂くことにしようかな。


 ちなみにリチャード改めクサハエル氏については、第一印象が悲愴過ぎたから、今回は俺からの愛のあるプレゼント――ということで付けさせてもらった。

 元の世界に『ミカエル』や『ガブリエル』みたいな天使の名前があったけど、それとちょっと似てるよね? うん、異論は無しの方向で。


 それともうひとつ――。

 転生の開始場所なんだけど、サーシャちゃんみたいに『街の近くからスタート』にするとなかなか戦闘まで進まないと思ったので、今回は強制的に戦闘から始めてもらった。

 ちょうど転生の瞬間、タイミング良かったのがあの母娘のところだったってだけなんだけど――何やら村の伝説? みたいなのもあるようだったな。


 その伝説と転生後の登場シーンが重なったのはただの偶然なんだが、それはそれとしてクサハエル氏の冒険はそこから始まるんだ。

 是非とも、前世の無念を振り払ってもらいたい。


 ――うん、良い転生ライフを!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 それから4日ほど後、ぽよぽよして遊んでいた俺の前に再び転生対象者が現れた。


 今回は16歳くらいの少女。……うん、女の子か。

 ここのところは俺、サーシャちゃん、クサハエル氏……と来ていたから、少なくても3回連続で男だったんだよな。

 転生対象者って、男女比でいうと男の方が多いのかな? ……まぁいっか。


 さて、それではお仕事を始めますか。

 いつも通りの台詞から――。


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


「……え? あ、あなたはもしかして――」


「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。

 あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」


「――ッ!」


 少女は俺の言葉に驚いた。

 そうだよ、これだよ。やっぱりこういう反応が欲しいんだよ!


「ま、まさか転生が本当にあるなんて……。神津のサブカルも捨てたものじゃないのね……」


 少女はぼそっとつぶやいた。

 ……ん? 『神津』?




 俺はこっそりと時間を止めた。


「――『サモン・スキエンティア』」


 光り輝くノートパソコンを召喚し、『神津』で検索を掛ける。

 そうそう、この光り輝くノートパソコンなのだが、転生の設定の他にも辞書みたいに調べものが出来るんだ。

 さすがにインターネットみたいにどこかのサイトを見ることは出来ないんだけど。


 で、『神津』を調べた結果――どうやら、とある異世界にある国の名前のようだった。

 詳しく見ていくと『日本』と同じレベルの文明で、文化もかなり近いものがある。


 この少女、外観がどう見ても日本人だったから分からなかったけど――俺の世界とは違う世界から来たんだな。もしかして並行世界みたいなやつかも?


 ――あ、そうだ。クサハエル氏のときも思ったんだけど、そういえば言葉の問題。

 転生の間と転生後の世界では何だかんだで言葉が通じるように補正が掛かるらしい。

 一応調べてみたところでは、転生の間では『その存在が魂に近いため』、転生後の世界では『転生による加護のため』というのがその理由だ。

 うん、良く分からないけど、便利なものだな。


 さて、調べものは終了。時間を動かし始める――




「そ、それでは女神様ッ! 私の願いを叶えてください――」


 少女はすぐに話し掛けてきた。


「はい。何を望み、何に生きますか――?」


「――私は……イケメンになりたいッ!!」


 ……お、おう。


「容姿の詳細はお任せしますが……すべての女性から憧れを抱かれるような――そんな感じにして欲しいです!!」


 うん……? 男になって異世界でハーレムでも作りたいのかな?


「あなたは――それを以て、何を望むのですか――?」


「えっ……!? あ、あの……えっと、言わなきゃ……ダメ――ですか?」


 いや、イケメンにするだけなら簡単なんだけどさ。

 折角の異世界転生だよ? 外観だけだと後で後悔すると思うし、それにどんな転生スキルを付けて良いのか分からないし。

 そんな意味合いからした俺の質問に、少女はしどろもどろで答え始めた。


「……あ、あのぅ。私……『真実の愛』が好物でして……」


 ――え……? ……真実の愛? ……好物?


「元の世界で私が出来なかった――『真実の愛』を……体現したい……です……」


「あなたの言う『真実の愛』とは――?」


「……ッ! さすが転生の間……。あらゆることを曝け出さないといけないようですね……」


 少女は苦悶の表情で俯いた。

 そうだ、心からの願いを曝け出すんだ――ッ!


「わ、私はッ! イケメンになって――、そして、イケメンと交際したいッ!!!!!」


「――ッ!」


 ぼ、ボーイズラブだああああああああああっ!! さすがサブカルの都、日本と同じような国、神津ッ!!

 この瞬間、俺の中で全てのピースが当てはまった!




 早速時間を止めて、転生の設定をする。悩ましいところもあったが、なかなかに良い転生スキルを見つけることが出来た。

 そして――時間を動かし始める。




「――よくぞ本心を打ち明けてくれました。

 その願い、新しい世界と新しい姿で是非叶えてください――」


 少女の身体が光り始める。


「め、女神様! ありがとうございます! 女神様の加護のもと、ちょっとイケメン無双してきますっ!」


 俺が苦笑しながら微笑んでいると、少女はそのまま光の中へと消えていった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 私の名前は宮ノ下洋子(みやのしたようこ)――改め、アンドレア・グルード。

 年齢は19歳、ほどほどに美しく、ほどほどに精悍。とても容姿映えする身体に転生することが出来た。


 新しい世界、新しい文化。慣れないことは当然多いのだけど、これからの期待に胸が躍る。

 女神様からもらった身体と転生スキルで、私にはどんな生活が待ち受けているのだろうか――。


「ねぇ、お兄さん♪」


 私が街の広場でのんびり座っていると、妙齢の女性が声を掛けてきた。

 何せ女性受けする外観にしてもらったからね。男性に興味がある女性なら放っておく手は無い。

 しかし私は女性になんて興味は無い。女性が望む姿で、真実の愛を貫くのが好物なのだ。


「――すいません、これから用事があるものでして」


 丁寧に応対するも女性はなかなか引き下がってくれず、言葉を交わすごとに感情をむき出しにしてくる。


「――……もう、いい加減にしてよ! 少しくらい付き合ってくれても良いじゃない!! それよりも何なの!? そんなに私のことが――」


 ああ、この世界にもやはりこういう女性はいるのか。

 参ったな。男性目線だと、こういう女性はこう映るのか。……これはとてもしんどい――


「――おい、アリソンじゃねぇか。お前、こんなところで何やってるんだ?」


 不意に若い男の声がした。その声を聞いて、女性は途端に態度を変える。


「ひっ!? あ……な、なんでもありませんわっ……!?」


 誰だ――? そう思って顔を上げると、若い男が――顔は逆光で良く見えなかったのだが――悠然と立っていた。


「お前もこの辺りじゃ見ない顔だな。旅人か?」


「……はい、そうです。私はアンドレア――」


「ははっ、何だか固いな。緊張してるのか? ――そうだな、アリソンのヤツが迷惑掛けてたようだし、何か奢らせてくれよ」


 若い男は明るく言い放つ。

 何となく裏を感じさせない、気持ちの良い話し方。


「――それではありがたく。この辺りのことを教えて頂けますか?」


「おう、それじゃ酒場にでも行こうぜ。まだ昼間だけど、馴染みの店があるからさ」


 若い男は身を翻し、大通りに向かって歩いていく。

 私はその後を――女性を置き去りにして、付いていく。


 うん、出だしはどうなるか不安だったけど……これも、女神様のおかげだよね?

 何せ女神様からもらった転生スキルは――


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 【強欲の出会い】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 自らの欲望に忠実なほど、望む出会いを呼び寄せる

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 【ご都合主義】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 稀に、流れを無視した展開が発生する

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