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3.草の勇者様

「……め、女神さまぁあぁあああ!? 何てスキルを付けてくれたんですかあああぁぁあああぁぁあああぁぁああぁあぁああぁああぁああぁあっ!?」


 女神の庭園に大きな声が響いた。

 先ほどの若い男を送り出した後、その後の様子を魔法のモニターで映し出していたのだ。


「――……分かる、分かるぞ。俺も三日前、転生の間で叫んだからな……」


 しみじみと頷く俺。長い人生の中では――殊更、転生という超常の出来事の直後には――想定外のことなんて容易に起こるものなのだ。

 俺も頑張るから、お前も頑張れ。佐川――じゃなくて、サーシャちゃん。


 映像の中のサーシャちゃんはしばらく打ちひしがれた後、肩を落としながら街に歩いていった。

 どんな冒険が始まるのかはもう彼――もとい彼女次第だ。是非とも頑張ってもらいたい。


 さて、ところでこの魔法のモニターだが、どうやら自分が転生させた者を中心に映し出すことが出来るらしい。

 つまり現時点だと、俺はこのサーシャちゃんと元・女神様を映せるはずなのだ。


「――それじゃ、元・女神様はどうしてるか見てみるかな」


 意識を集中させ、念じながら映像を切り替える。

 一瞬ノイズが映った後、すぐに綺麗な映像が届けられた。


 ……まぁ綺麗といってもそれは画質の話で、そこに映し出された元・女神様――前の俺の身体は綺麗でも何でもないわけだが。

 そういえば見た目、元の俺のままなんだよな。もっとイケメンに転生すれば良かったのに。


 さて、元・女神様の様子はというと――


「Zzz……」


 ――寝てた。


「おいおい、昼間から寝てるのかよ……」


 あんなに大手を振って転生していったというのに、こんな堕落的な生活をしていたとは……。

 そんなことを思いながらぼーっと映像を眺めていると、その片隅に映るものがひとつ。


「――ん? あれは何だ……?」


 ベッドで眠っている元・女神様の奥、テーブルの上に大きな皮袋が乗っていた。

 皮袋は口が少し開いており、そこからは――綺麗な金貨が見える。


「え……? もしかしてあの皮袋、中身は全部金貨……? 一体何枚あるんだ……というか、どうしたの、あれ……」


 この三日の間に元・女神様は何をしたんだ? まさか悪事に手を染めたということは無いと思うけど――



 ――ガラーン…… ゴローン……



 どこか遠くから鐘の音が響いた。

 この音は転生対象者が転生の間を訪れた合図だ。


「……え? さっき転生させたばっかなのに、もう次――?」


 俺はひとつ溜息をついて、光の柱から転生の間へと向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 転生の間に行くと、一人の男が座り込んでいた。

 体育座りを崩したような感じで、それこそ力無く項垂れている……といった感じだ。


 ……うーん? この人、起きてるよな? 寝てないよな? ちょっと話し掛け方が悩ましいけど、さっきと同じ感じでいくか……。


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


 ……。


 ……返事が無い。ここで台詞を切ったままにするのも何だかマヌケだし、次の台詞までは進めてしまおう。


「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。

 あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」


 ……。


 ……あれ、無視? 聞こえてないの? もう一回最初からやらなきゃダメ?


 内心そんなことを考えていると、ようやくその男が声を発した。


「……来世……だと……? こんな俺に……まだ生きろと……いうのか……?」


 えぇ……? 何かこの人シリアスだな……。

 もうちょっとこう、『転生わっほーい♪』みたいな感じじゃないと俺もやる気が出ないよ? その点ではサーシャちゃんは良かったな。


 まぁ文句ばかり言っても仕方ないし、適当に合わせておくか……。


「――後悔が、あるのですか?」


「……ああ、そうだな……。俺は……無力だった……。アイツらから……妹を守ることが出来なかったんだ……。

 妹は死んじまった……。俺はその復讐のために生きてきたが……最後に逃げ出しちまった……。そんな俺が、来世だなんて……ッ!」


 ……あかん。これ、マジでガチのやつだ。


 言葉が通じてるから気が付くのが遅れたけど、よくよく見ればこの男、目が青くて白人っぽい。

 死んだの復讐だの言ってるが、恐らくは文面通りそのままの意味だよな? 外国じゃそんなことありそうだし……。それって偏見かな。


「――後悔があるのなら、それに立ち向かうことです」


「なんだと……? 言わせておけば――」


 男はようやく顔を上げ、こちらを睨み付けた。

 おお怖い。というか神様を睨むとかすごい神経してるな!


 ――とはいえ俺も睨まれたままでは良い気分はしない。ここは女神スキルを発動だ。

 ふふふ、俺もこの三日間、伊達にぽよぽよしてたわけじゃないんだぜ?


 いくぜ、女神スキル――『浄化の光』ッ!!


 ――説明しよう! このスキルを発動すると俺を中心に神々しい光が巻き起こり、憎悪や怨嗟といった負の感情を浄化するのだ!!


「この光は――――ッ!?」


 転生の間に眩い光が生まれ、激しい流れとなって周囲を飲み込む。

 しばらくすると、少しずつ元の暗さに戻っていった。


「――……はぁ、はぁ……」


「――気分はいかがですか?」


「……あ、ああ。……すまなかった。どうやらとても……心を病んでしまっていたようだ……。

 それにしても、貴女は一体……。それに、ここは――」


 えぇ? 最初に言ったじゃん! 仕方ないな、もう一回言うぞ……。


「ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……。

 私はこの転生の間を司る女神、リーネルペルファ――」


「女神……。そうか、俺は本当に死んだんだな……」


「――ですが、あなたは運命に導かれ転生の機会を得ました。あなたの心に従い、来世の望みをここに――」


「……そうか。それなら――俺は、弱い者を守りたい。弱さに打ちひしがれる者を、絶望に駆られる者を守りたい。

 次はもう――逃げることは、無い」


 はっきりとした、強い口調で言う男。

 しかし――


「……そう、心の中では思っているんだ。だが、ダメだな。命のやり取りを考えるだけで、手が震えてきちまう……。

 こんな俺に、望む来世は歩めるのか……?」


 ――それは魂にまで刻まれた恐怖。そこから発せられる無言の慟哭。


 大丈夫。そこからは俺の仕事だからな。良い転生をさせてやるよ!


 時間を止めて――ちょちょいと転生の設定。こんなもんだろう――っと、時間を動かし始める。


「あなたの願いを叶え、新たなる力を授けます。

 その力を以て、今まで叶えられなかった思いを、新しい世界で是非叶えてください――」


 男の身体が光り始めた。


「……そうか、世話になったな。新たなる力――か」


 男はぼそりと呟き、右手を握りしめた。


「――それと」


「うん?」


「――あなたはもう少し、笑っていた方が良いと思いますよ」


 俺は男に微笑んだ。女神スマイルだぜ。


 男は笑みを返しながら――光の中へと消えて行った。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――俺の名前はリチャード。

 絶望と後悔にまみれながら死んだ後――転生を司るという女神リーネルペルファと出会い、そして導かれた。


 しかし……俺が静かに目を開けると、そこには唐突に巨大な石のモンスターがそびえ立っていたんだ――。


「ちっ! 何だってこんな場所に――!?」


 俺は急いで後ろを向き逃げようとしたが、そこには――


「あ、あなたは一体!?」

「た、助けてください!!」


 腰を抜かした母娘が――ッ!?


「何てこった! これは……俺への試練か!?」


 おあつらえ向きに、俺の腰には剣が差さってやがる。


「これで戦えってか!? 良いだろう、やってやる!!」


 俺はその剣を取り、両手で構えた。しかし――


「ちっ、手が――震えてやがるぜ……!」


 当たり前だ。命のやり取りを考えただけで手が震えるんだ。さらにこんな巨大なモンスターを前にしては――。

 ……後ろを見ると、母娘は俯いて震え続けている。


 ――俺はどうする? 俺は守るという誓いを立てたばかりだ、もちろん逃げるわけにはいかない。だがどうやって倒す――!?


 そんなことを考えていると、視界の片隅に何かが見えた。思わず意識を傾けると――理屈は分からないが、俺が授かっただろう力が頭に浮かんできた。


 ----------------------------------------

 【戦闘狂い】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 STR、AGIに+{TEN^2/100}の加重値を得る。

 TENが100以上のとき、武器に炎属性が宿る

 ----------------------------------------

 【笑気爆轟】

 (転生スキル/アクティブスキル)

 TEN+100の加重値を得る。

 発動中、不穏な笑いが込み上げてくる

 ----------------------------------------


 ――はぁ!? 意味が全然分からんぞ!?


 ……だが、女神から授かった力というのはこれなんだろう? ならば迷いなく使うのみ! 俺はあの女神を――信じるッ!!


 その瞬間、手にした剣が高熱を帯びた。

 熱い! この剣に触れればあのモンスターだって――


 ガキイィイイインッ!!


 高熱を帯びた剣は石のモンスターの腕によって弾かれてしまった。


「――ちっ! 石に炎は相性が悪いかッ!!」


 しかし俺は感じていた。

 力を込めるほど、戦いの緊張が高まるほど、そして――心の底から不思議な笑いが込み上げてくるほど、凄まじい力がこの手に集まることを。


「ふっ! は、はっw! は、ははっww!!」


 走りながらおかしな笑いを零す。とりとめ無く笑うほどに、自分の速度と力が上昇するのを感じる。


「はっwww はははっwww!! こwww れwww でwww おしまいwww だwwwwwwww」




 俺は石のモンスターの頭上にまで跳躍し――そして一刀のもとに、その巨大な体躯を両断した。

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