表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

28.漆黒は夢に堕ちて③~いつも、その手に~

 今日という日をどれだけ待ち侘びたことか。

 貴様を殺すのをどれだけ待ち侘びたことか。


 我が願い、女神から受けた使命を無為に帰した罪――いや、罪無き子供たちの命を奪った罪。

 今日こそ、今日こそは貴様の命を以て償わせてくれる。


 ――我が名はアキ・ヴィヴリオ・マギアス。


 この名に誓って貴様を殺す……いや、それすらも生ぬるい。貴様の存在を全て滅ぼしてくれる――




((アキさん! 打ち合わせ通り、炎属性からお願いするわ!))


 念話で聞こえてきた声の主、討伐指揮の責任者エカテリーナ。


 彼奴からは実に打算的な臭いがする――最初の印象はそれだった。

 世界を救うのは自身の目的を達成するための1つの手段。

 言動のひとつ、行動のひとつ、どれを取ってもそんなふうに感じた。


 ……気に入らない。そんな輩が我らの指揮を執っていて良いものか。

 だが彼奴の統率力は使える。ならばこの叛意、今は鎮めておくことにしよう。


「――我が炎の音を聞け。其は偉大なる柱、汝を屠る灼熱の息吹。その体躯を燃え上がらせよ。

 熱き光と共に周囲を巻き込め。その光を以て闇を映し出せ。強く強く、どこまでも燃え上がれ。

 風を支配し、さらなる勢いを。土を燃やし、さらなる強さを。我が望むのは炎の本質、全てを焼き尽くす破壊の力。

 生まれし灼熱はその御旗に集い、永劫なる時を刻め――

 現れよ炎核柱、イグニス・マニュス・コルムナ!!!!!」


 我が詠唱が終わると、漆黒の魔王の中心部から離れた場所に――そこも漆黒の身体の上ではあるが――巨大な炎の柱が生み出された。

 攻撃魔法ではあるものの、その場に留まりしばらく燃え続けるように調整した柱だ。


 この戦いのために、幾度も王都の近海で調整して作り出した魔法。

 最終的には6属性の柱を生み出し、それを複雑な魔法機構に組み入れることで『極大六芒魔法』を発動させる――

 それが漆黒の魔王討伐のシナリオの一部だ。


 本来であれば我が魔法を使わずとも、魔核石と呼ばれる伝説の秘宝があれば発動可能だと聞いた。

 しかし魔核石は転生者たちが探したが入手できず、謎の3人組によって持ち去られたというではないか。


 そのときは激しい憤りを覚えたものだが、その連中は今、我らの前にいる。

 そして彼奴等もまた、漆黒の魔王と戦っていたのだ。……しかも、たったの3人で。


 ――何と言うことだろう。

 人知れず世界の秘宝を集め、人知れず強大な魔物に立ち向かう。


 何と勇敢。何と高尚。そして何と無謀なのか。

 今、その3人組は漆黒の魔王の上で尚も懸命に戦っている。

 我らの指揮を執るのは打算的な者よりも、そういった者たちの方が相応しいのではないだろうか――



((アキさん! 次のポイントに着いたわ! 水属性をお願い!))


「――凍て付く王、吹雪の妃。静寂の世界を治める偉大で高貴なる者。

 其の美しさに光を煌めかせ、其の悪意に闇を蠢かせ。零下の戒め以て全てを縛れ。静かに静かに、どこまでも冷やし尽くせ。

 風を覆い、大地を砕け。停滞の楔を打て。我が望むのは水の本質、全てを黙らせる沈黙の力。

 生まれし極寒はその御旗に集い、永劫なる時を刻め――

 現れよ氷核柱、グラシエス・マニュス・コルムナ!!!!!」


 我が詠唱が終わると、漆黒の身体の上に巨大な氷の柱が生み出された。

 柱に近い漆黒の身体の一部は、音を立てながら凍結を始めている。


「――ふん、これは攻撃ではないからな……。待っておれ、じきに貴様は――」


 炎の柱と氷の柱は漆黒の魔王の中心――ゴンベと名乗る転生者が戦っている場所から同じ距離の位置で、それぞれ反対側に生み出された。

 あと4属性分、相反属性をそれぞれを対角に生み出して六芒星を刻む。そしてそれが終われば、我が役目も終わる。


 ……だが、そこからは何の指示も受けていないのだ――



((アキさん! 次をお願い! 風属性よ!))


「――自由の風よ、暴力の風よ。我が意思に従いて其の脈流を一の姿に収束せよ。

 舞いし光に希望を乗せて、舞いし闇には絶望を乗せて。荒れる風鳴を以て全てを飛ばせ。激しく激しく、どこまでも舞い上がれ。

 狂う炎を掻き消し、静なる水を呑み尽くせ。鋭利なる刃を生み出せ。我が望むのは風の本質、全てを斬り裂く残虐の力。

 生まれし暴風はその御旗に集い、永劫なる時を刻め――

 出現せよ風核柱、ウェントゥス・マニュス・コルムナ!!!!!」


 我が詠唱が終わると、漆黒の魔王の上に巨大な風の柱が現れた。

 まるで竜巻のような荒々しい柱。それは我が怒りのようでもあり、これから来る彼奴への終焉のメッセージのようでもある。


 これで3つ。ようやく半分――

 さすがにこの規模の魔法を連発すると精神が擦り減る。だがまだまだ、我が恨みはこんなもので晴らすことはできない――


 不意に、見知った少女と赤ん坊がちらっと目に入った。

 孤児院の支援を受けようとして知り合った資産家の娘と、その孤児院に入るべくやってきた赤ん坊。


 何故ここにいるのかと問えば、その娘は『あなたがいるから』と答えた。

 こんな危険な場所に生半可な優しさを持ち込むとは――実に愚かしいことだ。


 もしも漆黒の魔王がいなければ、娘たちはこんな戦いの場には足を運ばなかっただろう。

 ……何という悲劇なのか。それもこれもすべては――



((アキさん! 次は土属性をお願い!))


「――大地に聳える者、悠久の住人よ。今こそ瞳を開け、その力を世界に示せ。

 光の崇高なる加護、闇の下卑たる加護。大いなる抱擁を以て全てを受け入れよ。広く果てしなく、どこまでも尊大で在れ。

 灼ける炎を薙ぎ払い、清廉なる水を濁せ。鈍重なる咆哮を響かせよ。我が望むのは土の本質、全てを遮る妨害の力。

 生まれし体躯はその御旗に集い、永劫なる時を刻め――

 我が名のもとに集え! 出現せよ土核柱、ペトラム・マニュス・コルムナ!!!!!」


 我が詠唱が終わると、漆黒の魔王の上に巨大な岩の柱が突き立てられた。

 心なしかその黒い身体が反応したようにも見えたが、こんな木偶の坊にそのような繊細な感覚は無かろう。


((よーし、次のポイントじゃな! 急速旋回――ッ!!))


((おぉい、爺ちゃん! 無茶な操縦するなよーっ!!))


((この程度なんということは無いッ! 見ておれー!!))


 念話では発明家の爺と竜騎士の男が賑やかにやっている。……喧しい。

 しかし彼奴等の会話を聞くに、転生前の世界では実の親族だったらしい。


 そんな奇跡があるものなのか。

 いや、転生自体が奇跡として存在するならば、その上さらに奇跡が重なるというのはどうしたことか。


 だがそんな過剰な奇跡が起ころうとも、この世界では無惨な殺戮が繰り広げられている。

 女神の加護を失ったこの世界ではあるが、その加護を取り戻すことができれば――安らかな世界として生まれ変わることができるのだろうか。


 ……それは大きく外れていないようで、まさに正しいということも無いだろう。

 人間はそれぞれ、誰もが悩み苦しむ存在なのだ。どんなに平和だろうとも、人間のそれは消えることなど無いのだから――



((アキさん! 次は闇属性よ!))


 ――闇。それは憎しみの色。

 すべての負の感情が集い、その果てない沈んだ世界で安息を抱く。


 憎い。ただひたすらに、この黒き物体が憎い――


「――どこまでも黒く、どこまでも陰鬱。其れは意識の成れの果て。

 炎に憎悪を、水に嫉妬を、風に欺瞞を、土に悔恨を与えし存在。光の裏にして、世界の影に巣食う蟲。

 沈め沈め、どこまでも沈め。全ての底で、世界の底で与えられる空虚の祝福を宿して――」


 詠唱を長くするほどその威力は増していく、それが我が転生スキル『詠唱攻撃』。


 それならばひたすらに詠唱を続ければ、その一撃のみでこの漆黒の魔王を倒せるのではないだろうか。

 我ならそれができるはずだ。いや、できる。その一撃、ただその一撃を生み出すことができされすれば。


 目の前には忌々しい漆黒の魔王が大きく横たわっている。

 こんなもの、『極大六芒魔法』の発動を待つまでも無い。今、直ちに我が滅ぼしてくれる――ッ!!


「――黒き炎、黒き氷、黒き風、黒き土。世界の底で手にするもの。

 全ては混じれ、拒絶の糸を絡ませながら。全ては解き放て、感情を潰し殺しながら。

 其れは呪いを具現化する刃。曖昧なるものを呑み込め、抽象なるものを呑み込め、自我の無いものなんぞ呑み込んでしまえ――」


 ただひたすらに詠唱を繰り返す。

 それは自身を穏やかな海に投げやるような感覚。心を水平に、ただただ時間と思考を流していく――


((ちょ……ちょっと、アキさん!? そろそろ詠唱を止めて――!?))


((あ、アキさん……。それ以上は……君の身体に負担が掛かるって――))


 エカテリーナと、魔法研究者が何かを喚いている。

 ――五月蠅いな。ああ、煩い、五月蠅い、煩い、五月蠅いッッ!!!!!


「――そして力へと至れ。弱き闇は強き闇に降れ。唯一なる存在の到来を歓迎せよ。

 数多の穢れを宿した愛しき黒の欠片よ。幾多の時を重ねた愛しき黒の時計よ。

 我が手の内にて結実し、我が呪いを今ここに示せ。暴虐の意思を以て仇為す存在に死の刻印を――」


((これ以上はやめなさい! 命令よ!!))


「ふはははッ!!! 誰が貴様なんぞの命令を聞くかよッ!!!!!

 この自己中心的な偽善者がッ!!」


((――なッ!?))



 そうだ、あんな女の命令を聞く必要など無い。

 我が手で、我が力で――あの子たちの仇を討つ!


 誰の手も借りない! 我が力のみで――



 パシッ



 ――小さい音と共に、誰かが我が腕を掴んだ。

 何ともか弱い力。それしきの力で我の邪魔をするとは――


「……邪魔だ。離せ」


「は、離しません……!」


 その聖職者の少女は、脚を震わせながら我が前で強がっている。

 何だ? 何のために? 転生者なのに? 漆黒の魔王を倒す邪魔をするなんて――


「アキさん! あなたは今、闇の感情に呑まれています!

 どうか目を……目を覚ましてください!!」


「――我がどうなろうと、彼奴を倒すのが最優先!

 邪魔をするな、手を離せッ!!」


「離しません! あなたが目を覚ますまでは――」


「ええい、五月蠅いッ!!」


((おぉっと――!?))


 ガタァアアアアンッ!


 少女の腕を振り解いた瞬間、船が大きく揺れた。

 今までに生み出した4つの柱が干渉し合って巻き起こる強い風――それが船のバランスを崩したのか。


「「――あっ」」


 我が声と少女の声が重なった。

 そして我が視界に映ったのは――宙に浮き上がり、今にも船外に投げ出されようとしている少女の姿。


 なんという偶然か。

 振り解いた力と揺れた力が合わさって、こんな場面でこんな事故を生み出してしまうなんて――


「ヴォヴォッ」


 ぱしっ


「「――え?」」


 突然現れた大きな手に、少女は何事も無かったかのように受け止められた。

 そしてそのまま甲板の上に戻される。


 その手の主は――魔物使いの少年が呼び出した、1匹のストーンゴーレムだった。


「ヴォオオオ! ヴォヴォヴォ? ヴォオオオオオオオ!!」


 何やら必死に言っているが、何を言いたいのかがまったく分からない。


((えぇっと、

 『あぶないッスよ! 何してるんスか? 俺なんて何もできないんスから、頑張ってくださいッス!!』

 ――って言ってます))


 念話でそう説明したのはストーンゴーレムの主、魔物使いの少年だ。


「……魔物に心配されるとは」


「アキさん! そいつ、自分は転生者だって思いこんでるんですよ。

 ちょっと変わったヤツだけど、考えることは案外まともですから――」


 少年はそう言いながら、我が元に走り寄って来た。


「ヴォオオオ、ヴォヴォオオオオオッ!」


「――え、えぇ……?」


 ストーンゴーレムと少年はおかしなやり取りをしている。


「……何と言ったのだ?」


「え? えぇっと……、『君は笑うと可愛いタイプだから、笑ってた方が似合うッスよ!』――って……」


 ……はぁ?

 何とも変わった魔物だ。しかしそれが何だかとても馬鹿らしく、気が抜けてしまう。

 毒気が抜けてしまうというか――


 むぎゅっ


 突然、次は何か柔らかい感触に抱きしめられた。


「――アキさん、孤児院の話は私も伺っています。

 でも、今は世界を救う戦いの最中なんです……。アキさんだけが先に走っていってしまっても、勝てるかどうかは分からない。

 それにアキさんの身体だって、さっきの詠唱の反動で怪我を負っているじゃないですか……。

 勝てたって、アキさんが無事じゃなければ――天国の子供たちも、悲しんでしまいますよ……」


 横目で自身の身体を見てみれば、『詠唱攻撃』を無理して使った反動で、身体のあちこちから血が流れている。

 全身に伝わる疲労感と倦怠感もかなり強い。


 それを感じたとき、私は――自分が暴走していたことを自覚した。


「――で、でも……、私は、私がッ! みんなの仇を討たないと……ッ!!」


「はい……。仇は討ちましょう。

 でもそれは、この場にいる全員で――みんなで討ちましょう。

 1人で憎しみに染まってはいけません。私たちの手は、いつも明るい光を宿していなくては――」


 少女がそう言うと、優しい光が私を包んだ。

 柔らかくて温かい、例えるなら心まで癒してくれるような光。


「いつも、この手に――……?」



((――……アキさん、落ち着きましたか?

 ……あの……、続けられますか?))


 念話でエカテリーナ……さんの、声が響いた。


((は、はいッ!

 あ、あの――さっきは失礼なことを言ってすいませんでしたっ!!)


((……あながち外れても無いから大丈夫ですよ。

 平和を取り戻したいのは私の個人的な理由。私は平和な世界で、スローライフをして暮らすのが目的だから――))


((……あ、そうなんですか……))


 その慎ましい目的に、抜けていた力がさらに抜けてしまう。


((そのためにはまずは漆黒の魔王を倒さないと!

 それじゃ続き、闇からお願いしますね!))


((は、はいっ!))


「――詠唱一部破棄!

 生まれし蠢きはその御旗に集い、永劫なる時を刻め――

 現れよ闇核柱、オプスクリタス・マニュス・コルムナ!!!!!」


 私の詠唱――少し長くし過ぎた詠唱を一部破棄し、すぐさま『詠唱攻撃』を発動させる。すると、漆黒の魔王の上に巨大な闇の柱が現れた。

 それは黒くて気持ちを塗り潰す色。さっきまでの私の心は、きっとあの色に塗り潰されていたのだろう――



((アキさん、次で最後よ! 光属性をお願い!))


((はいっ!))


「――どこまでも眩く、どこまでも透明。其れは奇跡の光色。

 炎に活力を、水に生命を、風に安寧を、土に肥沃を与えし存在。闇の裏にして、世界を支える灯火。

 照らせ照らせ、どこまでも照らせ。全ての中心で、世界の底さえも照らしてしまえ。

 生まれし奔流はその御旗に集い、永劫なる時を刻め――

 現れよ光核柱、ルクス・マニュス・コルムナ!!!!!」


 私の詠唱が終わると、漆黒の魔王の上に巨大な光の柱が現れた。

 それは眩しく美しく、まるで心を洗い流すような輝きで――


((これで6つ! アキさん、お疲れ様!

 ケンゴさん、『極大六芒魔法』の準備をお願いします!!))


((は、はい……!

 ……僕の方は、準備できました……。次フェーズからは、魔法兵団の方に、お願いを――))


 魔法兵団?

 ……ああ、そういえば船に兵士も乗り込んでいたね。

 何のためにいるのかと思っていたけど、きっちり役目はあったのか。


((ケンゴさん、了解したわ。

 ――皆さん、『極大六芒魔法』を発動した直後には大きな揺れがくるけど船は大丈夫だから。

 何といっても、国宝の『防護のオーブ』を持ち出してきたから安心してね!))


((……国宝を持ち出して良いんかい……))


((うふふ♪ そこは王様にしっかりお願いしたのよ。

 でもこの船が浮いてなければあまり役に立たなかったから、セイシロウさんには感謝しているわ!))


((それは何よりじゃな。海上におっては海が荒れるでな、無事ではおれんじゃろう……。

 しかし『防護のオーブ』か……。それもちと興味深いのう))


((爺ちゃんはこの戦いが終わったら酒を造るんだろ?))


((おお、そうじゃったそうじゃった。もう発明家は引退じゃからな!))


 念話では楽しそうな会話が聞こえてくる。

 戦いが終わったら――か。私は、そこまで考えていなかったな……。



((おぉい、まだ戦いの途中だぞー。それよりこっちの準備もできたからさ、最終段階に進んでも良いか?))


((ごめんなさい。こっちは大丈夫よ))


((それじゃ、うちのパーティの2人をそっちに上げてやってくれないかな。

 もう限界だし、それに俺の魔法で魔核石は使い物にならなくなるから戦力ダウンなんだ))


((分かったわ。ジュード、お願い))


((了解!))


 しばらくすると、ジュードさんがゴンベさんの仲間の2人をドラゴンに乗せて連れてきた。

 2人は息も絶え絶えで、激しい戦闘だったことが窺える。……そしてすぐさま、意識を失って眠ってしまった。


 もしも私が闇の感情に負けて魔法を撃ち放ってしまっていたら、この2人を死なせてしまっていたかもしれない。

 そう考えると、とても申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。


((――ゴンベさん、2人は大丈夫よ!))


((分かった、それじゃ魔法を発動するから――

 ああ、アキって言ったっけ。漆黒の魔王が縮んできたらさ、俺の近くに氷の魔法で足場を作ってくれないか?))


((わ、分かりました))


((それじゃ、いきまーす))


 ゴンベさんは間の抜けた感じで言うと、漆黒の魔王の触手と戦いながら器用に魔法を発動させた。

 6つの魔核石が輝き、その色を溶かしあって1つになったあと――漆黒の魔王が覗かせる不可思議な色の核に吸い込まれていく。



 ――ドクンッ



 その瞬間、どこからか心臓の鼓動のような音が響いた――


((アキ! 一気に来るから魔法の準備をッ!!))


 念話に響くゴンベさんの声。

 その声に反応して海の彼方を見てみれば、海に大きく広がっていた漆黒の身体がゴンベさんの場所を目掛けて一気に縮んでいった。

 宙に生み出されていた魔物も同じく、すべてがその場に集まって行く――



「――氷は停滞、水は母。彼の二つは相反せず共に手を取れ。全てを冷たく包み込み、新たなる礎を築け――。凍て付き紡げ、フロスト・ラグーンッ!!!!!」


 バキィイイインッ!!!


 漆黒の魔王が小さくなりきる直前、私の魔法が海面の一部を凍らせた。

 ゴンベさんは一瞬のタイミングを見計らい、漆黒の魔王の身体から氷の地面に飛び移る。

 結構距離があったんだけど――少し浮いたようにも見えたのは、あれも転生スキルだったのだろうか。


((アキ、ばっちりだったぞ!

 エカテリーナ、こっちは大丈夫だ! それじゃ『極大六芒魔法』とやらを――

 ――なにっ!?))


 念話の途中、ゴンベさんが声を荒げた。

 何事かと思えば、漆黒の魔王と呼ばれていた黒い物体が凄いスピードでゴンベさんに襲い掛かっている。


 色はさっきまでと同じ黒色だが、その形はまさに――人型。


 ゴンベさんは手にした剣で、黒い物体の猛攻を受け流しているが――


((これは予想外だな……。こんな早々に、しかもこんなに迅く動けるだなんて……。うへぇ、気持ち悪い))


 ゴンベさんはいつも通りの感じでのんきなものだ。

 しかし本来であれば、『極大六芒魔法』はゴンベさんを船に退避させてから撃つ予定だったのだろうが――


((……仕方ないな。エカテリーナ、このまま魔法を撃っちまってくれ))


((は、はぁ!? そ、そんなことしたらあなたが――))


((あー、俺は大丈夫だ。『ちょ、そんなのありかよ!』ってノリで助かってやるからさ。

 それに俺が動きを止めていないと、こいつ多分避けちまうぜ?))


 念話が転生者たちの声でざわつく。

 ここまで頑張ってきた人を、そしてこんなにも強い人をあっさり失うわけには――……と。



((……撃っても、大丈夫なんですよね?))


 ざわつく声の中、私は思わずゴンベさんに聞いてしまった。


((ああ、大丈夫だ。ほらほら、早くしないと手遅れになるからさ。

 もし俺を心配してくれているなら、それこそすぐに撃ってもらった方が助かるんだが――))


((エカテリーナさん。責任者はあなたです。『極大六芒魔法』の発動を命令してください))


((……で、でも――))


((命令しなければ、私がこの船を撃ち落とします。これは脅迫です))


((――ッ!?))


 再び、念話が転生者たちの声でざわついた。


((……もちろん私だけ逃げるつもりはありません。

 でも……ここで決断しないと――……あの、ほら……ね? また、世界の……人が悲しん……じゃう、から……。

 だから、私たちは……ここで――))


 何とか喋るだけで、頭に思い描くだけで、涙が零れてくる。

 私は漆黒の魔王を赦すことはできない。再び世界が苦しめられるところなんて絶対に見たくはない。

 だから――そんな世界がまた訪れるくらいなら、最後のチャンスを潰してしまうくらいなら――汚名を着たっていい、ここで悪役にでもなってやる。


「……ごめんなさい」


 風に乗って、どこからかそんな言葉が聞こえてきた。


((それは私の台詞だったわね。弱気になってしまったわ。

 ――ゴンベさん、必ず助かるんですね?))


((ああ、任せとけ!))


((では、私も覚悟を決めます。みなさんもご覚悟を――

 ジュードは戻って! シンタは魔物たちを船に戻して!))


((了解っ))


((はーい))



「――では、魔法兵団のみなさん! 『極大六芒魔法』の準備を!!!」


「「「「「おぉーっ!!!」」」」」


 魔法兵団はその団長を中心に、見事な速さで魔法陣を作り出して複雑な術式を組み上げていく。

 そして最後にできあがったのはひとつの雷球――


「エカテリーナ様! 準備完了しました!!」


「――発射、発動!!」


 間髪入れず命令が下り、雷球から一筋の稲妻が漆黒の魔王に落とされた。

 そしてその瞬間、周囲に浮かんでいた巨大な6つの核柱が大きく歪んで――そして漆黒の魔王に向かって襲い掛かった。


「『防護のオーブ』発動――ッ! この船を……護りなさい!!」


 エカテリーナさんが宝玉を掲げると、この船を透明な球体が取り囲んだ。

 いわゆるバリアだ。どこまでの効果があるかは分からないが、何かしらで護られているのはひとまず安心感がある。


 そしてその直後、漆黒の魔王がいたその場所から凄まじい光が放たれて――



 周囲を 轟音と共に 白一色に 染め上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初見ですが、この小説を読んでいるうちに引き込まれて行きました! 面白かったです! [気になる点] 応援しているので、更新頑張ってください! [一言] 女神様挿絵かわええ
[一言] すごく面白かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ