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26.漆黒は夢に堕ちて①~接敵~

 俺の名前はジュード。

 女神様から転生スキル『神竜召喚』をもらった竜騎士だ。


 俺は相棒の神竜ヴァイスと共に、斥候として派遣されていた。

 目指したのは王都から遥か北方の海、世界の脅威が漂う魔の海域。


 ようやくその場所に着いた俺の目に入ってきたのは、海を覆わんばかりの巨大な漆黒の塊だった。

 それは海に浮かびながら静かに、そして不気味に揺らめいていた。


 世界を滅ぼさんとする俺たちの敵――漆黒の魔王。


「――おいおい、この前見たときよりも大きくなりすぎだろ……!?」


 以前は小島くらいの大きさだったのだが、今見えているのはそれよりも圧倒的に大きかった。

 一体どこまで大きくなるつもりなんだ? もしかして、このまま放っておいたらどこまでも……?


 不意にそんな恐怖が圧し掛かってくる。

 今は海を漂っているが、仮に陸に上がってきたら一体どうなるのか――


「……冗談じゃないぞ。今でさえ、ここから逆側まで見えない大きさなんだぞ……?」


 漆黒の身体は遥か彼方で、白いもやを掛けながら空に溶けている。

 一体どれくらいの大きさなのかは不明だが、半島くらいの大きさはありそうだ。


 兎にも角にもこの場所では何も分からない。

 ひとまず俺は漆黒の魔王の上を飛び、その中心を目指すことにしたのだが――


 ブブブブブ……ッ!


「――え?」


 おかしな音が耳に響いてくる。

 その音の元を感覚的に辿ると――漆黒の身体から、いくつかの塊が勢いよく飛び上がってきた。


「グガアアアアアアッ!!」


「な、なんだ!? 魔物!?」


 俺の槍とヴァイスのブレスで即座に倒す。

 しかし、漆黒の身体からは引き続き大量の魔物が生まれ、再び飛び上がってくる。


「うわっ、冗談じゃねぇぞ!!」


 1体1体は大した脅威ではないが、それが幾十幾百となれば話は別だ。

 しかし俺の目的はこの魔物を倒すことではない。俺の目的はできるだけ多くの情報を持ち帰ることだ。

 漆黒の魔王が大量の魔物を生み出すというのであれば、それを振り切る速度で空を駆け抜けていってやる。


 俺はそう思い、ヴァイスの速度を目いっぱい上げた。

 風の抵抗が強く振り落とされそうにもなるが、今はそんなことを言っていられない。


 今日のために、みんな頑張って準備をしてきたのだから。

 下手に攻撃をして全滅しては元も子もない。まずは俺が、できる限りの情報を持ち帰るんだ――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 空を駆け、魔物を振り切りながら進んだ先の漆黒の身体の中心。

 そこで俺が見たのは、正直予想外の光景だった。



 ――ザシュッ!! ――ザンッ!! ――ズバァッ!!



 俺の遥か下――漆黒の身体の上で、1人の剣士が戦っていた。

 漆黒の身体から伸びる触手が大量に降りしきり、剣士はその激しい攻撃の中を舞っている。


 彼が剣を振るうたび、漆黒の触手が斬り飛ばされ、宙に霧散されていく。

 しかしその端から新たなる触手が生み出され、その攻撃が止む気配は感じられなかった。

 そんな中、彼は隙あらば地面――漆黒の身体を攻撃するのを欠かさない。


「……凄いな……。何者だ、あの剣士……」


 一瞬放心してしまったが、その剣士の後ろには2人の女の子の姿があった。

 そして彼ら3人を取り巻くように、6つの光の柱が立ち上っている。


 6つの光の柱は眩い石から生み出され、それぞれ6つの色を放ちながら力強く輝いていた。


「あれは……まさか、魔核石――ッ!?」


 魔核石――それは転生者のケンゴさんが『極大六芒魔法』の研究のために集めようとしていた、世界に散らばっていた秘石。

 他の転生者たちが探し求めたものの、結局1つも集められなかった代物だ。


 そしてこの場にいるのは3人の人間。魔核石が持ち出されたとき、いずれの場所でも謎の3人組の姿が確認されていた。

 情報は符合する。この3人が、転生者たちを出し抜いて魔核石を集めていた連中――!!



「――おぉい! ここは危ないぞ!!」


 ふいに漆黒の身体の上で戦っている剣士が叫んだ。

 その声に、2人の女の子もこちらを見る。


「あ、危ないってどっちがだよ! お前らこそ何してるんだよ!!」


「見て分かるだろ! こいつを倒すんだよ!!」


 ……いやまぁ、それ以外には見えないけどさ!


「そんなの分からねえよ! こんなデカいやつのそこだけ攻撃して、どうなるんだよ!!」


「やりようはあるんだよっ! それよりここは危ないぞ! さすがにそっちまで助けていられないからな!!」


「は? 助けなんて――」


 そう思った瞬間、俺の周りに数十の魔物がいることに気付いた。


 ちょ、いつの間に――


「勇者様、少し力をお借りします!

 炎の魔核石、ベクトルシフト! 千の灼熱(サウザンド・フレア)!!」


 女の子の1人が叫ぶと、俺の周囲に大量の炎の弾が撃ち放たれた。

 俺とヴァイスは無傷、まわりの魔物はそれだけで吹き飛んで消えてしまった。


「す、すげぇ……。

 おい、もしかしてお前らも転生者なのか!?」


「――……俺だけ、な」


 剣士だけが俺の質問に答えた。こんなところにも転生者がいるなんて……!?

 しかし何だってエカテリーナさんの呼び掛けに応えなかったんだ? 漆黒の魔王を倒すなら、一緒の方が確実性は増すだろう?


 いや、それよりもあの女の子。あの2人は転生者ではない? それなのにあんな強力な魔法を使ったのか?

 ――いや、もしかしたらあれが魔核石の力なのか……?


 これだけの力があるのなら、是が非でも俺たちと一緒に戦ってもらいたい――


「おーい! これから転生者がここにたくさん来るからさ、一緒に戦わないか!?」


 俺は提案した。目的が同じなら、手を取り合ったほうが良いのだ。


「たくさん、だって……?

 ――好きにしな。だが、俺たちの邪魔はするんじゃないぞ!」


 剣士は戦いながら答えた。

 一緒に戦っても、このまま自分たちだけで戦っても、どちらでも――そんな感じを受ける。


「ちぇっ、生意気なやつだなぁ。分かったよ、仲良く頼むぜ!」


「ああ、よろしくな!」


 俺の言葉に、思いのほか素直な答えが返ってきた。

 よ、よく分からないやつ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺が急いで船の待機場所に行くと、そこには船が――空に浮いていた。


「は、はぁ!?」


 指定された場所には船があると聞いてはいたものの、空に浮いてるだなんて聞いてないぞ!?

 ……何だかさっきから信じられないことばかりだ。


 船が浮くだなんてゲームに出てくる飛空艇のような感じではあるけど――目の前の船にはプロペラも何も付いていないし。

 どういう原理で浮いてるんだよ、これ……。


 気を取り直して甲板の上を見ると、エカテリーナさんを始めとした転生者と、王国から派遣された兵士が大勢乗っていた。

 全部で50人くらいかな? 転生者は会ったことがある人も多いけど、初めて見る人もいるようだ。


 俺は甲板の空いているスペースにヴァイスを着地させ、そのままエカテリーナさんに話し掛けた。


「エカテリーナさん! 大変だよ!!」


「ジュード、お疲れ様。何があったの?」


「まずは1つ目! 漆黒の魔王の身体がかなり大きくなっててさ……。見た感じ、半島くらいの大きさがあったよ」


「な……。ま、まさかそこまで……?

 以前の報告では小島くらいの大きさだったはず――」


 さすがにエカテリーナさんもこれは予想外だったのか、かなりの驚きを見せた。


「『極大六芒魔法』の効果範囲としてはかなり逸脱しているわね……。

 参ったわ、準備に時間を掛け過ぎたか……」


 エカテリーナさんは後悔の素振りを見せる。

 しかしそうは言っても、全力で準備して今このタイミングなのだ。これは誰が悪いというわけではない。


「それで2つ目! その大きな漆黒の魔王の上でさ、3人組がもう戦っていたんだよ。

 魔核石を集めていた3人組!」


「ああ、例の……。敵ではなかったのね――」


「それで、そのうちの1人は転生者だって言ってたよ!」


「何ですって? それならこっちの計画に参加してくれれば良かったのに……。

 いえ、今は戦力が増えたことを素直に喜びましょう。それにしても、どうやって倒したものか――」


 話を聞けば、『極大六芒魔法』は対象を消滅させるほどの威力を持つものの、効果範囲はあまり広げることができないらしい。

 今現在は半島ほどの大きさをしているわけで、この大きさを1回の効果範囲に収めることはできないというのだ。


「話を総合すれば10発くらい掛かる……? いや、それは現実的では無い――」


 エカテリーナさんは苦悶の表情を浮かべる。

 船にはケンゴさんも乗っていたため、しきりに彼と相談していた。


「――そういえばさ、その3人組の1人が一点集中で攻撃していたみたいなんだよ。

 もしかしたら、核みたいなやつがあるのかな……?」


「そうかもしれないわね、半島ほどに大きな身体なのであれば――

 ……ナナさん、『念話通信<転生者>』でその転生者と連絡を取れないかしら?」


「やってみまーす。

 遠くてダメでしたー」


 やる気のない声を出すナナさんに、エカテリーナさんは少しイラッとした表情を浮かべる。

 この子はフォルスさんのお店にいた子だけど、やる気がなさすぎるんだよなぁ……。


「うぅん……。悩ましいけど、ここは進みましょう。

 まずはその3人組と合流して情報を共有する。無理そうならいったん退くことを検討しましょう。

 ――それじゃ、みんな行くわよ!!」


 エカテリーナさんの言葉に、その場にいる人々が大きな声で返事をした。


 ……それにしても、こうして見るといろいろな人がいるよなぁ。

 強そうな戦士に可愛い聖職者さん、アイドルっぽい娘もいるし、魔物を連れた男の子もいる。

 あとは赤ん坊を連れたお嬢様みたいな娘もいるし、なんか俺の爺ちゃんもいるし――


 ――……は? 爺ちゃん?


「え、ええぇ!? ちょ、爺ちゃん!?」


「なんじゃい、若造。儂に何か用か?」


 その老人はぶっきらぼうに言い放った。

 ぶっきらぼうながらに懐かしく、良く知った声――


「いやいや、爺ちゃん! 何でこんなところにいるのさ!?」


「ああん? 儂は爺ちゃんなどという名前では無いわ! 儂にはセイシロウという名があるわいっ!」


「あああ、だから清四郎爺ちゃんだろ!? 田中清四郎!」


「なんじゃい、何で儂の名を――」


「俺だよ俺! 十二郎だよ、孫の! 田中十二郎!!」


「はぁ? 儂の孫はもっと素朴な顔で――

 ……って。も、もしや……転生、か?」


「そうだよ! 女神様の導きでさ、ゲームみたいに竜騎士にしてもらったのさ!」


「あぁ……、おぉ……! 十二郎! ま、まさかこんなところで会えるとは……!?」


「爺ちゃんこそ何で死んでるんだよ! ああもう、久し振り!!」


 まさか、本当に俺の爺ちゃんがいるだなんて!?

 いや、それにしてもなんで転生前と同じ姿なんだよ。せっかくの転生なんだから、少しくらい若返らせてもらえば良かったのに!


 周囲の人も何となく状況を察して、温かな目で俺たちを見ていた。


「――こういうこともあるものなのですね。さすがリーネルペルファ様のお導き……。

 でも、再会の喜びはあとでお願いできますか?」


「……ふむ、申し訳無い。心得た」


 そう言いながらも、爺ちゃんは俺の方を見て笑っていてくれる。

 元の世界の昔話をするためにも、さっさと漆黒の魔王を倒してしまわないといけないな!


「それじゃ誘導するからさ、付いてきてね!」


「ジュード、よろしくお願いね。

 それじゃセイシロウさん、ジュードのあとを付いていってください」


「……ええ!? じ、爺ちゃんが操縦してるの!?」


「おうよ! これは儂の発明品じゃてな、今回ばかりはやらせてもらうぞ!!」


「ははは、相変わらずだね……! それじゃ、ちゃんと付いてきてくれよ!」


「生意気を言いよるわ! 任せておけい!!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




((それではこれから、念話を中継しまーす))


 漆黒の魔王が視界に入ってくると、ナナさんの声が響いてきた。


((漆黒の魔王の上を通るときにさ、ヤツの身体から魔物が湧いてくるんだよ。それはどうしよう?))


((そうね、アキさんの力はまだ温存しておきたいし――))


((ここは俺に任せてください! この日のために魔物軍団を作ってきたんですから!))


 この声は魔物使いのシンタ君か。

 話によれば、彼はたくさんの魔物を高レベルで従属させているのだとか。まさに多対多の場面では打ってつけだろう。


((それじゃ任せるわね。空中戦になるだろうから、他のメンバーは無理しないでいいわよ))


((それじゃみんな行くぞ! 魔物召喚――全部!!))


 シンタ君がそう叫ぶと、船のまわりに大量の魔物が現れた。

 鳥の形をした魔物、精霊の形をした魔物、不定形の魔物、など――


「……うぉ、凄いな……。魔物とはいっても、味方っていうなら心強い……」


((それじゃ漆黒の魔王の上空に入るよ! 戦闘開始だ!!))


 俺は空飛ぶ船を引き連れて、漆黒の魔王の上空を進んで行った。

 漆黒の身体からは今まさに魔物が飛び立とうとしている。


 激しい戦いになるとは思うけど、まずは例の3人組との合流を目指して――!!

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