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24.転生者たちの邂逅④~懐かしさは胸の奥に~

 ――ああ、忙しい。


 俺は王城での用事を終え、急いで自分の店に戻っているところだった。

 女神様からもらった転生スキル『超越した商才』の後押しもあり、俺の商売はどんどんその規模を膨らませていた。


 用事で出掛けている間にも新しい案件が生まれ、そしてそれが俺を忙殺していく。

 大変ではあるが、しかし仕事冥利に尽きるというものだろう。


「これで、平和なら良かったんだけどな……」


 誰もいない場所でひとりつぶやく。

 俺は俺の商売を通して、みんなを豊かにしたい。そんな俺の気持ちを聞いた女神様も仰ってくれた。


 『人々をしあわせに向かわせるような商売をしてください』


 ――今、世界の人々はしあわせか?

 そう問うのであれば、答えは『否』だ。この世界は漆黒の魔王の脅威に怯え、そして多大な犠牲を日々出し続けている。


 人々のしあわせを叶えるのであれば、まずは漆黒の魔王をどうにかしなければいけない。

 そしてそれを手助けすることは、俺が女神様から与えられた使命でもあるのだ。




 『――あなたの勇気、見せてみて♪ どこまでもその想い、届けてみて♪』


「……ん? この歌は――」


 不意に、懐かしい歌が聞こえてきた。

 転生前に聴いたことのある歌。確か俺の娘が好きだった歌だが――まさか世界を跨いで聴くことになろうとは。


 その歌はこの世界ではあり得ないほどの精細な曲に乗って、俺が歩いていた通りの横――王城の修練場から響いてきた。

 足を止めて修練場を少し覘くと、修練中の兵士の横で、いわゆるアイドル衣装の姿で歌って踊る少女がいた。

 討伐指揮の責任者エカテリーナ嬢曰く、彼女も転生者らしい。


 転生してからしばらくの間、彼女は監獄に入れられていたそうで――今は『投獄アイドル』なんて肩書きを標榜しているそうだ。


「投獄アイドル……ってなぁ……」


 命名は本人らしいのだが、プロモーション的には成功しているのだろうか? とりあえず興味は引かれるからな。

 そんな特徴的なアイドルではあるのだが、王城の兵士を中心にして人気沸騰中なのだとか。


 見た目もまぁ可愛いし、それにあの歌。あれも転生スキルだそうで、聴いているだけで力が湧いてくるのだという。

 そのため、修練中の兵士の横で応援コンサートなんて開いているのだが――それもちゃんと正式な許可を得ているらしい。


 一見楽しく騒いでいるだけのようにも見えるが、精神的なサポートというものも重要だ。

 彼女も彼女なりに、精一杯に平和を取り戻すべく活動しているのだろう。


「――同郷同士、頑張ろうな」


 俺は小さい声で彼女を応援した。

 彼女の歌を知っているということは、つまり彼女も俺と同じ世界から来たということだ。

 いつかその内――平和になったあとにでも、元の世界の話をしてみたいものだ。




((フォルスさーん、まだ用事は終わらないんですかー?))


 突然、俺の頭に声が響いた。

 声の主はこれまた俺たちと同じ、転生者のナナだ。


 王都で暮らすようになってしばらくしたあと、1週間おきに謎の声がこんな感じで頭に響くようになった。

 毎週毎週『ぽよよーん』だの『もっふぁっふぁー』だのと謎の声が響いてきたのだが、何回目かで聞こえた瞬間にとっさに頭の中で返事をしたんだ。


 『金貨100枚やる! 助けてくれ!』ってな。

 そうしたら『すぐ行くから場所を教えて!』ときたもんだ。


 そしてノコノコやって来たところをとっつかまえた――というわけだ。


 説教のあとに話を聞いてみれば、転生して以来ずっと宿屋に引き籠っていたらしい。

 女神様から最初に渡されたお金を使い切ったあとは、仮病を使いながらも何とか宿屋においてもらっていたとのこと。

 だからこそ、俺がとっさに言った『金貨100枚』に釣られて出てきたのだという。


 そして何で俺に向けて謎の声を伝えていたのかといえば、転生スキルを一定期間使わないと女神様に科されたペナルティが発生するから――という理由だった。


 あの女神様が転生者にペナルティを……? とも思ったが、話していてすぐに分かった。

 この子はやる気が無さすぎる、と。女神様もきっと苦渋の判断でペナルティを付けたのだろう。

 何せ世界が滅びるかどうかの瀬戸際だからな。戦力は1人でも多い方が良いのだ。


((――すまない、今戻っているところだ。何か問題でもあったか?))


((お昼休みに入りたいでーす))


 ……これである。

 転生者のよしみで滞納していた宿代を立て替え、そして俺の店に置いているのだが――未だにやる気を出してくれない。

 最低限のことはやるのだが、それは俺に追い出されないためだろう。

 この子の転生スキルは応用が効きそうなんだけどな……もったいない。


((……分かった。1時間で絶対に戻って来るんだぞ))


((かっしこまりましたー♪))


 そう言うと、頭の中の通信が切れた。

 さて、休憩は今から1時間だ。あいつはいつも微妙に1時間15分休んでくるからな。そろそろそれも指摘してやるか……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺が店に戻ると、たくさんの従業員たちが挨拶をしてくれた。


「「「店長、お帰りなさい!」」」


「ただいま。何か変わったことはあったかな?」


「はい、港町の方から追加の注文が届いていますよ」


「港町……例の造船所か? どれどれ、さっき契約してきたものとは――また別のものだな……」


 俺は深くため息をついた。

 港町の造船所では漆黒の魔王に対抗するための船を造っているのだが――そこからの注文は王城を経由してくれと何度も頼んでいるのに、何度も無視されている。

 その辺りの手間は王城の方で巻き取って欲しいのだが、これも客商売のつらいところか。


「えぇっと、新しい注文は――ミスリル鉱石に炎の魔石、風の魔石……か。はぁ、こんな貴重なものを何に使うんだ……?」


 まさかこの混乱に乗じて、高価なものを着服して懐を肥やす――なんてことは無いよな?

 港町で造船にあたっている主力メンバーも転生者だと聞いている。さすがにそんなセコイ真似はしないだろうが……。


「――仕方ない、全部手配してくれ」


「店長、さすがにこの量は在庫がありませんよ……」


 量……? そう思いながら発注書を見ると、確かにかなり多い数が記載されていた。


「こんなに使うのか!? まったく無理難題を言ってくるなぁ……。

 仕方ない、時間は少し掛かるが例の冒険者に売ってもらおう。確か以前、在庫を確認したはずだから――」


「あ、店長! それなら俺に行かせてください!!」


 例の冒険者とは――貴重な素材やアイテムを大量に仕入れてくることで有名な、別大陸を拠点にしている新鋭の冒険者だ。

 その噂を聞いて、少し前にこの従業員の男を1人で交渉にあたらせたのだが――戻ってきたときには、何というかこう……男好きになっていた。

 何があったのかを聞いたところ……まぁ、何やら素敵な一晩を過ごしてきた……ということだった。


「……仕事だからな?」


「わ、分かっていますとも!」


「……はぁ。それじゃ、この件はお前に頼む」


「お任せください! ふふふ、いろいろ準備しないとぉ♪」


 あの冒険者の元に大事な従業員をよこすのは不安ではあるが、仕事はきっちりこなすと評判だから……まぁ、大丈夫かな……。大丈夫だと信じたい。


 それにしても今回の件、確か納期が1週間後だったよな。

 さすがにそれは無理だから、先に連絡を入れておいた方が良いか。


「ただいま戻りましたぁー」


「お帰り、ナナ。……昼休みは1時間だぞ?」


「えっ!? し、知ってますよぉ!」


「1時間18分経ってるぞ」


「ひっ」


「まぁいい、次回から気を付けろよ。それじゃ、ちょっと新しい仕事をしてもらおうか。

 ナナの転生スキル――『念話通信<転生者>』って、港町まで連絡はできたっけ?」


「そんな長距離は無理です! 多分」


「よし、やってみよう。相手は造船所にいる――」


「断固お断りします! 無駄なお仕事はしないことにしているんです!」


 ナナがそんなことを言った瞬間――


 バチバチバチィッ!!!


「ほぎゃあああああああああっ!!!?」


 ――激しい電撃がナナを襲った。

 そう、ナナは転生スキルの使用要求を拒否すると、女神様が科したペナルティが発生するのだ。


「使ってくれるまで要求するからな」


「……ぐぅ、フォルスさんの鬼畜ぅ!」


「もっと積極的に使ってくれたら、給料も上げられるんだけどなぁ?」


「むむ! このやり手経営者め! 何でもおっしゃってください!」


「それじゃ、港町のセイシロウさんに念話通信をお願いしたい」


「無駄だと思いますけどねぇ……」


 そう言いながらナナは港町の方向を向いて目を閉じた。


「――ダメでした!」


「む、そうか……。ちなみに王城まではいけるのかな? エカテリーナ嬢までお願いしたい」


「それも難しいと思いますよぉ~?」


 そう言いながらナナは王城の方向を向いて目を閉じた。


「――ダメでした!」


「うん、なるほど。その距離でもダメなんだな。

 ……それにしてもナナ、せっかくの転生スキルなんだ。もう少し真面目に研究してみないか?」


 転生スキルは強力なものではあるが、ステータスから確認できる説明だけでは分からない部分も多い。

 使ってみて、その結果をフィードバックさせて、そしてより良い使い方を探していく。

 そうすることで俺たち転生者はもっと強くなるはずなのだ。


「私は、そういうの要らないですから~」


「新しい使い方を見つけたら、金貨をたくさんあげるぞ!」


「それは欲しいですね、頑張ります!」


 ナナはお金をチラつかせると途端にやる気を出す。

 しかしあげすぎは禁物だ。ある程度貯めたら、また宿屋に引き籠ってしまうだろうからな。

 生かさず殺さず、バランスを取りながら飴をあげるのがコツだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夜、自分の店の近くに借りた部屋に戻る。


 今日も忙しかった。明日も忙しいだろう。

 考えることは多い。考えなければいけないことは多い。


 まったく、いつまで経っても目が回るような忙しさだ。

 もう少しナナが頑張ってくれれば、俺も楽になるのだが……。


 俺は戸棚に入れていた酒の瓶を手に取り、街の夜景を眺めた。


「――まだ、お前を飲むわけにはいかないからな……」


 転生した日の夜以降、俺は酒を断っていた。

 次に飲むのは世界に平和が訪れたとき――漆黒の魔王を討伐したときと決めたんだ。


 討伐の準備は着々と進んでいる。しかし、漆黒の魔王の侵攻も着々と進んでいる。

 世界には魔物が溢れ、その被害は聞くたびに増えているような状態だ。


 エカテリーナ嬢の話によれば、漆黒の魔王はさらにその身体を大きくしているらしい。


 今求められているのは漆黒の魔王の元に行くための船と、圧倒的な破壊力を持つ極大魔法。

 この2つの準備が整い次第、攻撃を仕掛けるのだという。

 船の完成は――今日依頼があった材料の納期を踏まえると、おおよそ1か月後になるそうだ。


「それにしても、今日はジュードに手伝ってもらって助かったな……」


 ナナに念話通信を試してもらったあと、偶然通りがかった竜騎士のジュードに手伝ってもらえたのはとても助かった。

 港町まで陸路で確認を取りに行くのは大変だが、空を飛んで行けば一瞬だからな。やはり機動力があるというのは強みだ。


 ナナじゃなくてジュードが一緒に仕事をしてくれればいろいろと捗るのだが――なんてことは、どうしても考えてしまう。

 俺だって少しは楽をしたいからな。


「ふぅ……」


 俺は一息ついて、窓から夜空を見上げた。


 空は遥か彼方まで続いている。空をどこまでも行けば、女神様の元に通じているのだろうか。

 そんなことを考えながら、窓の脇に置かれたたくさんの箱の山を眺める。


「――女神様。

 貴女への捧げ物は、こんなにも溜まっていますよ……」


 およそ3か月前、闇のオーラを伴いながら世界に魔物が溢れて以来――転生スキル『転生神への献上』が使えなくなってしまった。

 噂によれば、空間魔法と呼ばれるものが一切使えなくなったのだという。恐らくはそれと同じ原因なのだろう。


 しかしそれも、漆黒の魔王を討伐することができれば――果たして元に戻るのだろうか?


「女神様もきっと寂しい思いをしているだろう……。せめて平和が訪れたときには、今までの分を一気に贈りつけて差し上げないとな……」


 くくく、と笑いながら、俺は平和になった世界に思いを馳せる。


「――ひとまず、今日も無事に過ごすことができた。

 今宵も我らの女神様に、感謝を――」


 俺は水の入ったグラスを片手に、今は会うことも叶わぬ女神様に祈りを捧げた。


*フォルス・ヴォーロ・グラディアス

 『17.甘く誘うそれはそれ』

*投獄アイドル

 『16.あなたに届け、この歌声』

*ナナ・ミゾ・ノクーチ

 『18.強制コミュニケーション』

*新鋭の冒険者

 『4.恋に恋した少女は叫ぶ』

*レアアイテム:提供

 『10.マジカル・マジカル・ハッピネス』

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