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21.転生者たちの邂逅①~歩み始める日~

 あの日から、何かが変わってしまった――


 私は眼下に広がる王都ヴィエラルドの街並みを一望しながら、そんなことを心の中でつぶやいた。

 一見すると、それまでとは何も変わらない光景。しかし、見えないところで確実に何かが変わっている光景。


「……何かがこの世界で起こっているのなら、私も何かをしなければいけない……。

 この、女神様がくれた力で――」


 そんな思いを胸に、私はいつものように聖堂を訪れた。

 まだ朝の早い時間。他の信徒が来る前の、私だけの時間。


 朝の爽やかな空気を感じながら、ただひたすらに祈る。

 最初はそれこそ煩悩を消し去るために通っていたものだけど、今となっては心が安らぐ一番の時間だ。


「――あら?」


 聖堂にある十字架の前には、見慣れぬ風貌の戦士が膝を付き、祈りを捧げる姿があった。

 こんな時間に、それもあんな戦士が祈りを捧げているなんて……?


 この聖堂に通うようになって4か月になるが、それは初めて見る光景だった。

 興味はとてもあるけど――さすがに祈りの邪魔をしては悪いよね?

 そう考えた私は、彼の後ろの席で静かに祈りを捧げることにした。




「――失礼。少し良いだろうか?」


「……え? あ、はい!」


 しばらくすると、私は先ほどの戦士から声を掛けられていた。


「礼拝中に申し訳ない。俺は違う大陸からこの王都までやって来た者なのだが――少し話を聞いても良いだろうか」


 違う大陸からやって来た!


 私もそんな旅に憧れていたものだけど、今のところそんな行動はできていない。

 何を聞かれるかは分からないが、それなら私も少しくらいは話を聞いても良いかな? 戦士の冒険譚……とても気になる!


「――はい。もちろんです、戦士様。私で答えられるものなら、何でもお答えいたします」


「ありがとう。まずは自己紹介をしないとな。

 俺の名前は――クサハエル・テラ・ワロスと言う」


「ぶふっ!?」


 ……え、えぇ!? く、クサハエル……!?

 草が生えるの……!? し、しかもそのあと……テラ・ワロスって!?

 いやいや、私の元いた世界でそんな名前だったら、即ネットに晒されちゃうよ……?


「ど、どうかしたのか? 俺の名前に何か……?」


「も、申し訳ありません! とても素晴らしいお名前だなと思いまして……。

 周りの人々に笑顔をもたらすような、幸せを届けてくれるような――そんなお名前だなって」


 ――う、嘘は言っていない! 言っていないはず……っ!!


「そうか、ありがとう。この名前は偉大なる女神から頂いたもの……、俺の誇りなんだ。

 褒めてもらえるなら、それはとても嬉しい」


 その戦士は穏やかな顔でそう言った。

 女神様からもらった名前か――。私は自分の名前は自分で決めたから、そういうのは羨ましいな――


 ……って、あれ? この聖堂で祀られている神様って、男神なんだけど……?


「あの……この聖堂はファルード教のものですが、戦士様の信仰されているのは――」


「ははは。実は俺の信じている女神は、この世界では信仰されていないようでな。

 だからここの神には申し訳なかったのだが、場所を拝借させてもらっていただけなんだ」


「そうなんですか……。しかしファルード神は慈悲深いお方。それくらいの融通は利かせて頂けるでしょう」


 ――それにしても、『この世界では信仰されていない』……って、どういう女神?

 私は何よりもそこが気になって、続けて質問をしてしまった。


「……大変失礼ですが、戦士様の信じる女神様の――お名前を教えて頂くことは可能でしょうか」


「うん? 別に構わないが……。

 俺の信じる女神の名前は、リーネルペルファ様だ」


「リーネルペルファ……様……!」


「ははは、聞いたことも無いだろう? しかし俺は会ったことがある。

 信じてもらえないかもしれないが、俺はその女神に救われた者なんだ」


「――いえ、信じます!!」


「む……?」


「わ、私も! リーネルペルファ様に、この世界に転生させてもらったんです!」


「――ッ!?

 ま、まさか……俺の他にも……?」


「はい、他にもいるかは分かりませんが――少なくとも、私はそうです!」


 そう言いながら私はその戦士の手を取って握りしめた。

 私の最大の秘密、今まで誰にも言えなかった秘密。

 それを打ち明けるどころか、共有できる人間が現れたのだ。何と心強いことだろう……!


「……この周辺の情報を聞こうとしただけだったのだが、思わぬ出会いになってしまったな……」


「これもリーネルペルファ様のお導き。……あの、場所を変えてお話をしませんか?」


「分かった、よろしく頼む。ところで、君の名前は――」


「はい。私の名前はサーシャ。

 サーシャ・グレイス・アークライトと申します」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私たちは聖堂の近くのカフェに移動した。

 静かな雰囲気の、朝早くから営業をしている素敵なカフェ。私のお気に入りのお店だ。


「――クサハエル様は、どうして王都に?」


 飲み物を前にして、私は話を切り出した。


「ああ。いつだったか――もう二か月ほど前になるか。

 空に漆黒色の波動が駆け巡ったことがあっただろう? あれを見て、世界に何か異変が起きたと感じて、それで大きな国を目指したんだ」


 確かにあの波動は世界を恐怖に落としたものだが――そのあとは、特に何も起こらないまま時間が流れた。

 人々の心の中に恐怖は植え付けられたものの、時間が経つに連れてその恐怖も表面上は少しずつ薄れていくような状態だった。

 ――そう、一週間前までは。


「ここに来るまで……ここ最近で、特に変わったことは何かありましたか?」


「ああ、ここ一週間で魔物がとても多くなったな。そして何か黒い力を纏っているような――」


 最近特に変わったのが、クサハエルさんの言うこの二点だった。

 今までは魔物が出るとはいっても、この辺りではそこまで脅威になる存在ではなかった。

 しかし今では、隣の港町に行くだけでもかなり大変になってしまっているのだ。


「ところで、サーシャは何か情報を持っているのか?」


 ――ドキッ。

 ……突然名前を呼ばれると、何だか緊張してしまう。


「あ、はい……。外の様子はクサハエル様と同じ認識です。それ以外ですと、いろいろな噂話が耳に入ってきています」


「噂話? それは一体、どのような?」


「いくつかあるのですが……。

 なんでも王城の玉座の間に、神の使者を名乗る者が現れたとか。それも、2回も」


「2回……。それは、リーネルペルファ様と何か関係があるのだろうか……」


「どうでしょう、そこまでは分からないのですが……。

 それ以外では、ここ一週間の間で一部の上級魔法が使えなくなった……という話もありました。

 魔法学の権威が、各地からここの王城に集められているそうです」


「魔法が、使えなくなった……? ふむ、それも関係あるかは分からないな……」


「そうですね……。

 あ、そうだ。王城と言えば――先ほどの神の使者の話を受けて、王城で緊急の登用試験が行われていましたね。

 有能な人材が集まったということで、最初の募集は締め切られてしまったようですが」


「ふむ、いろいろ動いているようだな……。

 ――よし、俺は王城に向かってみよう」


「え!?」


「玉座の間に現れた使者……という者がまだ城にいるようであれば、俺はその人から話を聞きたい。

 もしかしたらそいつもリーネルペルファ様が転生させた者かもしれないしな」


 ――なるほど!

 私は他の転生者がいるなんて発想が無かったから、そんなことを思いすらしなかった。


「わ、私も――」


「……あまり足を踏み入れると危険かもしれないぞ? それでも良いのか?」


 そうかもしれない。危険かもしれない。

 でも、もしもこの世界に危機が迫っているのであれば――


「――私も、何か……できるはず……です……っ!」


「よし、それならば共に行こう。いざとなれば俺が守るから」


 ――ドキッ。

 ……不意にそういうことを言うのは、正直止めて欲しいなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 王城の入口でクサハエルさんが『リーネルペルファ』の名前を出した途端、衛兵の様子が一変した。

 慌てて奥に引っ込み、しばらくしたあとに私たちは王城の一室に通されたのだが――


「……クサハエル様、これはどういうことでしょうか」


「少なくとも、リーネルペルファ様の名前が伝わっているということだな。

 もし何の反応も無ければ、別の方法で探ることを考えなくてはいけなかったわけだし――」


 それは確かに。

 周囲を見渡せば、価値は分からないものの立派な調度品がいくつも飾られている。

 こんな部屋に通すくらいなのだから、ある程度の好意は持たれているということだろう。


 しばらく部屋を見回していると、不意にノックの音が聞こえてきた。

 私たちの反応を待たず、その扉が開けられると――そこからとても美しい女性が姿を現した。


「はじめまして。私の名前はエカテリーナ・ペルファ・クロイツァーと申します」


「――ペルファ?」


 女神様の名前の一部? ただの偶然……?

 そう思った瞬間、エカテリーナさんが口元を緩めた。


「そうです。お察しの通り、リーネルペルファ様の名前から頂いたんですよ」


「――ッ! もしや貴女も――」


「そう、私も転生者です。私も他の転生者に会うのは――あなたたちが二人目と三人目ですね」


「……というと、もう一人いるんですか?」


「ええ。このお城の牢屋に入っています」


「牢屋……? その人は、何かしでかしたのか……?」


「いえ、彼女は玉座の間に転生してきまして……そこで捕まってしまったんです。

 王様も彼女から情報を引き出したいようで、今に至るまでずっと投獄されたままなのです」


「エカテリーナさんは、転生者だとは知られていないんですか?」


「ある程度の地位に就くまでは、知られるのは早計かと思いまして。

 しかしここにきてようやく根回しも終わったので、そろそろ王様に暴露しようかと考えていたんです。

 ――そんなときに都合良く、あなたたちが来た……というわけですね」


「え? 私たちが来ると、何か良いことがあるんですか?」


「下手に暴露すれば牢屋に入れられるかもしれない。

 それを回避するために仲間が欲しかった――ということか?」


「そうです。さすがに私一人では上手くいく可能性があまり高くなくて。

 ……二人とも、リーネルペルファ様から転生スキルはもらっているんでしょう?」


「ああ、俺は戦闘関連を頂いた」


「私は魔法関連を……」


「良いですね。私なんて『政策立案』くらいなものですから。

 だから、あなたたちのような方の力を借りて、漆黒の魔王討伐の作戦指揮の権限を早く握りたいんです」


「……漆黒の魔王?」


「あら? 漆黒の魔王をご存知ないのですか? リーネルペルファ様の話によれば、今から二か月ほど前の――」


「二か月前……! 例の、漆黒色の波動の件か……?」


「なるほど、あなたたちはそのときにはもう転生していたんですね。

 ――それでは、その辺りから説明をさせて頂きましょう」


 私たちはエカテリーナさんの話に聞き入った。

 人智を超えた魂の存在のこと。リーネルペルファ様が死闘の末、彼の者を強制的に転生させたこと。

 その結果、漆黒色の波動が空を駆け巡ったこと。この世界に生まれ落ちた漆黒の魔王が、北方の海に漂っていること。


「――そして最近……ここ一週間の魔物の増加も、漆黒の魔王が関連していると考えています」


「なるほど……。まったく、俺の理解を超えているな……。ここに来て、本当に良かった」


「私もです……。聖堂で祈っているだけでは、何も分かりませんでした……」


 さすがにこれほどの情報は転生者しか持っていないだろう。

 ここに来るまで知ることができなかったのは当然なのだけど、それにしてもこんなことが起こっていたなんて――


「……さて、私の知っていることは全部話しました。

 ここからはあなたたちにも手伝って頂くことにしましょう」


「え? 私たちが、ですか?」


「先ほどもお伝えしましたが――私はこれから王様に、私が転生者であることを暴露しようと考えています。

 あなたたちにはそのとき、私の護衛をして頂きたいのです」


「俺たちが護衛すれば、それは上手くいくのか?」


「はい。私が王城での仕事に就いてからのひと月と少しで、いろいろな情報を入手することができました。

 それを交渉材料に王様と話して――ここで一気に作戦指揮の権限を頂きます」


「王様と話す時間を確実に得るため、その間は何が何でも君を守れ――ということだな」


「そうです、理解が早くて助かりますわ。上手くいったら、そのあとも一緒に戦いましょう」


「ははは、世界のためなら喜んで戦うさ」


「ふぅん? あなたは世界のために戦うんですね」


「……君は違うのか?」


「ええ。私の目的は――のんびりとスローライフを送ることだけですから」


「……はぁ? サーシャ、どういうことだ……?」


「いえ、私にもさっぱり……?」



 いまいち性格の掴めないエカテリーナさん。

 名前はおかしいけど、とても頼りになるクサハエルさん。

 そしてずっと聖堂に籠っていた私。


 ――転生者たちの物語は、ここから加速することになるのだった。

*サーシャ・グレイス・アークライト

 『2.聖職者♀を夢見る男子』

*クサハエル・テラ・ワロス

 『3.草の勇者様』

*エカテリーナ・ペルファ・クロイツァー

 『13.彼女は別に世界を救いたくない』

*お城の牢屋に入っている彼女

 『16.あなたに届け、この歌声』

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