20.金色の戦士、それは世界を救う剣
「……最近、何だか上手くいかないなぁ……」
魔法のモニターに映った田中清四郎――今は単純にセイシロウと名乗っているが、彼は馬車に乗って港町に移動してしまった。
王都にいる他の転生者と連携して欲しかったから、王都の近くに転生させたんだけどなぁ……。
ちなみにセイシロウの鞄には、転生者の居場所を書いた王都の地図を入れておいたんだけど――まだ見つけてもらえていない。
つまり、今のところ俺の目論見は見事に外れてしまっているわけだ。……いつ気付くかな。早く気付いて欲しいな――
――ザザッ!
「……うん?」
俺が魔法のモニターを見ていると、一瞬だけノイズがチラ付いたように見えた。
しかしそれは一瞬の話で、そのあとしばらく見ていてもおかしいところはなかった。
「はぁ……、ちょっと疲れたのかな? うーん、疲れはすぐ回復すると思ってたんだけど――」
一人思い切り伸びをする。さて、セイシロウを転生させたばかりだし、次の魂が来るまで数日は時間があるだろう。
それまでは何をしようかな――
――ガララーン…… ガラーン…… ガララーン…… ガラーン……
「――ッ!?」
どこか遠くから鐘の音が響くのが聞こえた。
しかしいつもとは違う鐘の鳴り方。虹色の魂のときともまた違うものだった。
「もう、転生者が……? タイミングが早いし、いつもとは違う鐘の音……。今度は何だ……?」
俺は不安を抱えながら、急いで転生の間へと移動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
転生の間に着くと、そこには――
「金色の魂……!」
美しい金色に輝く光の球。たびたび話に挙がっていた、『惑星』などの大きな存在――人間などよりも上位存在の魂。
その力は銀色の魂よりも強く、また転生後はより大きな力を得るという。
善か悪か。今回に関しては無理に漆黒の魔王へとは向かわせず、難しい性格であれば他の世界に飛ばしてしまおう。
あの世界をこれ以上ややこしくしたくないからな……。
「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」
「……」
「私はこの転生の間を司る女神、リーネルペルファ。
あなたの生まれた場所とは異なる世界が滅びの危機を迎えています。どうか、その大いなる力で人々を救って頂けないでしょうか――」
「……はい!」
――え?
「分かりました、女神様!
僕、人間になれるんですね! わーい、楽しみだなー♪」
……え? えぇ!? なにこれ、思いがけず無邪気な性格!?
「あ、ありがとうございます……。人間になるということは、今までよりも下位存在に転生することになりますが……大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です! 僕、爆発して死ぬまではちょっとした惑星だったんですけど、隣の惑星の人間が滅んでからずっと寂しくて……。
でも、これから僕は人間の一員になれるんですよね? 嬉しいなぁ……♪」
ちょっと可愛い。
うん、何だか可愛い感じの人(?)だけど、どれくらいの時間を生きたんだろう?
……いや、気にはなるけどそれで何が変わるわけでもないし……まぁいいか。置いておこう。
「あなたは人間に憧れているのですか?」
「はい! 僕たち惑星は永い時間を生きているんですけど、その生にはあまり起伏が無いんですよね。
時空間への感覚はあってそこは楽しかったけど……でも、僕はそれよりも人間の営みにとても興味があったんです!」
なるほど……?
そういえば銀色の魂――ヴィオトルテ山脈もそんなことを言っていたっけ。
『女神よ……。私は……生命の営みをずっと見ていた……。永い時を見ていく内に、少し羨ましくなったのだよ……。
短い命とはいえ、他者と触れ合うその光景に――』
……永い時間を生きていると、そう感じるようになるのかな。
もしかしたら元・女神様も、そんなことを思って俺の代わりに転生していったのかもしれない。……年を聞いたら怒られそうだけど。
「――よく分かりました。それではあなたには、漆黒の魔王という脅威を倒して頂きたいのです。
……すいません、まずはあなたのお名前を教えて頂けますか?」
「はい、僕は惑星アラナタスと呼ばれていたので、そのままアラナタスと呼んでください!」
「ありがとうございます、アラナタス。
ところであなたは金色の魂としてこの場にいますが、虹色の魂という存在はご存知でしょうか」
「存在としては認識しています。『世界』の生まれ変わり……神に匹敵するほどの力の持ち主だ、と」
「その通りです。先ほどお話した漆黒の魔王ですが、実は虹色の魂が転生した存在なのです」
「――ッ!?」
「この場で私が強制的に転生させたのですが、最後に転生先を変えられてしまって――」
「なるほど……。でも、女神様もそれは不本意だったんですよね?
大丈夫です、僕が漆黒の魔王を倒してきます!!」
おお、アラナタスちゃん! めちゃくちゃ優しい! 俺は今、とても感動している!
「ありがとうございます。
それではあなたには多くの力――転生スキルをお渡しいたしましょう」
「はい! ぱぱっと倒して、女神様に安心してもらいますね!」
何て頼りになる! ああ、変な金色の魂じゃなくて良かった!
色々な意味で輝いて見えるよ!!
――そんなことを思いながら、俺は時間を止めて転生手続きを進めた。
ふふふ、転生スキルは元・女神様と同じくらい付けてみたぞ。攻撃良し、防御良し、その他もすべて万端だ。
何度も確認して、何度もシミュレーションをして――そして時間を動かし始める。
すると、アラナタスはその金色の光をさらに強く輝かせた。
「――それでは、あなたにはこれから異世界に転生して頂きます。
あなたの大いなる力で漆黒の魔王を倒し、世界の平和を取り戻してください」
「はい、分かりました! 女神様もお元気で!!」
その言葉を残して、アラナタスは光の中に溶けて消えていった――
「――ふぅ。これで良し……と」
俺は天を見上げた。
視界一面には大きな星空が広がっており、そこに瞬く輝きが俺を癒してくれる。
そういえばこの星は、すべて『世界』の輝きらしいな。無数に輝くものがすべて『世界』として存在している。
『世界』を内包する転生の間のなんと壮大なことか――
「あのう……」
「へ?」
突然の声に驚き振り返ってみれば、そこには金色の魂――アラナタスが佇んでいた。
「あ、あれ?」
「女神様、僕ってどうなったんでしょう……?」
「す、すいません! 確かに転生させたはずだったんですが……!」
俺は慌ててノートパソコンを開いた。
そこに表示されていたのは――
『転生に失敗しました。該当の世界との接続が確立できません』
――――ッ!?
な、何だこれ!?
接続できないってどういうことだ!?
俺は慌てながらも、あの世界への検索を試みた。
『検索に失敗しました。該当の世界との接続が確立できません』
……なんだって……?
「め、女神様……大丈夫ですか……?」
「あ、はい。申し訳ありません。少々お待ちいただけますでしょうか……?」
「はい、分かりました」
俺は一旦時間を止めた。
――落ち着け。まずは落ち着け。
ノートパソコンでダメなら……そうだ、魔法のモニターはどうだ!?
俺は魔法のモニターを出した。
転生の間でも女神の庭園と同様、同じ感じで映し出すことができるのだが――
「――真っ黒、だな……。何も……映らない……?」
思い返せばアラナタスが来る直前、魔法のモニターがチラ付いたような気がしたが――まさかあのあとに何かが起きたのか?
もしくは金色の魂であるアラナタスがここにいる影響、というのも考えられなくもない。
それならまず、原因の切り分けということでアラナタスを別の異世界に送るか……?
しかしこれだけの逸材、単純に手放すのはもったいない。何か方法は――
俺は様々な可能性を考え、ひとつの結論に達した。
――そして俺は時間を動かし始める。
「どうやら、漆黒の魔王が活動を始め、その世界に転生することができない状態になってしまったようです」
……今の段階ではその確証は無いが、アラナタスには一時しのぎでそう伝えた。
「えぇ……!? で、ではどうしましょう!」
「あなたの力は是非お借りしたいと思うのです。
準備ができるまで、別の異世界に転生していただくことは可能でしょうか……?」
「はい、僕は問題ありません!」
「お手数をお掛けします……。
あなたには転生スキル『転生の間への召喚』を新たに付けさせて頂きました。準備が整い次第、こちらからあなたを召喚させて頂きます」
「分かりました! それでは向かう先の世界で、僕も準備をしておきますね!」
「ありがとうございます。これから向かう別の異世界でも、暗黒竜という存在が人々を苦しめているようです。
よろしければ、この世界も等しく救って頂ければと――」
「はい、もちろんです! みんな救ってきます!」
アラナタスは元気に返事をすると、その金色の光をさらに強く輝かせた。
「――あなたの大いなる力で、暗黒竜の脅威を取り祓ってください。よろしくお願いします」
「はい! 女神様も大変そうですが……頑張ってください!」
その言葉を残して、アラナタスは光の中に溶けて消えていった。
光が完全に消えるのを待ち、アラナタスがこの場に残っていないことを確認する。
そしてその後、魔法のモニターで転生したアラナタスを映し出す。
「……映し出せた……」
モニターには、念願の人間になれたと嬉しそうにはしゃぐアラナタスの姿が映し出されている。
問題無く映し出されたということは、つまり魔法のモニターがおかしくなっているのでは無い……ということだ。
それならばあの世界は……と、映像を切り替えようと試みる。
しかし画面は真っ暗のままだ。
ではノートパソコンはどうだ? アラナタスがここにいたから使えなくなっていたのであれば――
……いや、その可能性を疑うのも無駄か。いまさらだが、アラナタスを別の異世界に転生させることができたわけだし……。
しかし、それでも可能性としては――
『検索に失敗しました。該当の世界との接続が確立できません』
――……ダメか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして一週間が経過した。
俺は脱力感に苛まれ、女神の庭園で突っ伏していた。
何をどうやってもあの世界に接続することができない。
今まで一週間ごとに、時間を守って送られてきていた捧げ物――フォルスの転生スキル『転生神への献上』による贈り物も届いていない。
つまり、こちらからも、あちらからも行き来ができない……ということだ。
「なんだっていうんだ……くそ……」
思わずぼやきがこぼれる。
このまま俺は、もうあの世界に干渉できないのか……?
それじゃ、あの世界はどうなる……? このまま滅んでしまうのか……?
――ガラーン…… ゴローン……
どこか遠くから鐘の音が響いた。
鐘の音は無情だ。こんな状態であっても、俺は行かなければいけないのか。
俺の目から涙が溢れる。
何を思ってのことか。誰を想ってのことか。そんなのは分かりきっている。
しかし――
「俺はもう、あの世界に……何もすることができない――……」




