2.聖職者♀を夢見る男子
女神様と身体を交換した俺。
ぽよぽよぽよ……。
うん、女神様の身体をぽよぽよするのもそろそろ飽きてきたな。もう三日くらい、ずっとぽよぽよしてるからな。
――そうそう、この身体になってから感覚がちょっと増えたんだ。
元・女神様が光の中から現れたり、光の中に消えたりしていたけど、ああいうのが出来るようになった。
ちなみに光の先に繋がっていたのは緑豊かな庭園のような場所。
外国の富豪の邸宅にあるような、それでいてどこか幻想的な雰囲気を感じさせるような。
女神が暮らしている――と言われれば、『なるほどな』と思わせる場所だった。
で、そこを散策していた時に気付いたんだ。
アンティーク調のテーブルの上に、転生女神のマニュアルがあることを。
きっと元・女神様の置き土産なのだろう。
中を見てみると、転生女神の仕事の進め方が割と丁寧に書いてあった。
しかしこんなマニュアルを作ったり、インターネット的なツールを作ったり、いつの間にやったんだ?
――そんなことを少し考えたが、これもちょっと増えた感覚の中で理解することが出来た。
女神の力で、時間が止められるんだ。
きっと元・女神様も時間を止めて色々と準備してくれたんだろう。
時間を止めるというのもなかなか不思議な感覚なんだけど、正直ここには俺しかいないから止める意味がほとんど無い。いや、むしろ無い。
ただ、元・女神様がやったように、転生対象者が来たときには色々使えるかもしれないな。
ちなみにもう三日ほどこの世界にいるんだけど、お腹はまったく減らない。さすが神。食物連鎖から脱してるぜ。
睡眠は眠ろうと思えば眠れるものの、ずっと起きていても特に眠くはならないという状態。
睡眠時間の束縛からも逃れられているわけで、これはこれで良いかもしれない。
さて、今日も十分ぽよぽよしたし、これから何をするかな――。
そんなことを考えていた時のことだった。
――ガラーン…… ゴローン……
どこか遠くから鐘の音が響いた。
転生女神のマニュアルによると、この音は転生対象者が転生の間を訪れた合図だ。
「ふむ。俺の女神の初仕事か」
俺は光の柱を作り出し、転生の間へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ここは一体、どこなんだ……?」
若い男が転生の間で困惑している。
そりゃ死んだ後にこんな場所に来たら驚くよな。まさに三日前の俺だ。
さて、何て声を掛けるか。……とりあえず元・女神様の台詞と同じでいいか。
「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」
「あ、あなたは……?」
「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。
あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」
とりあえず三日前の俺と同じ流れにしてみた。
それにしても年の頃は16、17と言ったところか。こんな歳で死んでしまうなんてついてないよな。
さてさて、こいつはどんな転生を望むのか――。
「え……? 女神様、俺……転生できるんですか!?」
む、急に嬉しそうにし始めたぞ。
「はい。何を望み、何に生きますか――?」
「そ、それじゃ俺! 剣と魔法の……いわゆるファンタジー世界に転生したいです!」
……うん、夢だよな。浪漫だよな。分かるわー。
「それで、人助けが出来るような……神の力を行使する職業に就きたいです! 例えば、プリーストみたいな!」
……なるほど、ゲームで支援職を選択するタイプだな。分かる分かる。
「それでですね……俺、今度は女の子になってみたいです!」
……お、おう? あ、うん、それも分かるぞ!
「年齢は16歳で、身長は平均的。スタイルは良い感じなんですが、胸は巨乳よりも少し小さい感じで……。
それと金髪と碧眼は絶対に入れてください!
顔と声は基本的に可愛い感じなんですが、真面目なときは少し凛とした感じで、何というかこう、頼りになるような――」
……ちょっと好み出し過ぎィッ!!
いや、別に折角だから出来るだけ要望を出すのは良いけどさ、それにしても外観ばっかじゃねーか!!
途中まで理解を示していた俺も、思わずちょっと無口になってしまう。
「…………」
その無口と静まり返る空気に反応してか、若い男は急に言い訳を始めた。
「――あ、ちが、違うんです、女神様! これはあくまでもただの希望でして……あ、あの! いかがわしいこととかまったく考えていませんから!!」
いや、絶対考えてるだろ!
だって16、17歳くらいの男子だぞ!?
転生して新しい世界に降り立ったら、その日の晩にどうせいかがわしいことするだろ!!
――……でもこの若い男は俺の初仕事だからな。
ここは優しい女神である俺が、親切丁寧に要望を叶えてあげよう。
「……分かりました。あなたの要望は最大限に叶えましょう」
「あ、ありがとうございます、女神様!!」
ここで一旦時間を止める。
若い男が動かなくなったところで光輝くノートパソコンを召喚し、転生の設定を入力していく。
外観の設定なんかはゲームのキャラメイクみたいで面白い。
ちょっと設定が細かすぎる節もあるが、そこは仕事だ。頑張ってやろう。
外観の設定が終わったら次は職業まわりだ。
まぁ素直にプリーストにしてあげて……魔法もいくつか覚えさせて……。
えーっとそれと、転生特典の超スキル――いわゆる転生スキルを付与できるんだよな。
元・女神様はこれをすごい量付けていったけど、普通は1個とか2個らしい。
さて、こいつには何を付けてやるかな――。可愛くて凛とした、人助けが出来るような聖職者だろう?
そうだなぁ……。お、これなんか良いんじゃないかな。うん、俺のイメージにぴったりだ。
ちょっと制約条件が厳しいけど、さっきそんなつもりは無いって本人が言ってたからまぁ大丈夫だろ。
うん、良い感じのプリーストになったぞ!
せっかくだし、元・女神様が転生していった世界と同じところに行かせてあげるか。
――よし。これで一通り設定が済んだかな。『OK』ボタンを押して、作業完了!!
そして時間を動かし始める。
その途端、若い男の身体が光り始めた。
「これからあなたは異世界へと旅立ちます。今まで叶えられなかった思いを、新しい世界で是非叶えてください――」
「は、はい! ありがとうございます、女神様!!」
若い男はその言葉を残し、転生の間から旅立っていった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――俺の名前は佐川信也。
不慮の事故で死んだ後、転生を司る女神リーネルペルファ様に出会い、その導きで新しい世界に降り立ったんだ。
「うおぉ……、これが異世界……ッ!!」
眼下に見えるのは俺の住んでいた国――日本とはまるで違う街。
いかにもファンタジー世界の雰囲気を放つその光景に、俺の胸は躍った。
俺の胸――……。あ、俺の胸ッ!?
ばっと下を向くと、巨乳よりも少し小さい胸がそこにあった。まさに俺の理想の胸だ!
「ありがとう、女神様! ベストな大きさですッ!!」
俺は天を仰ぎ、女神様に感謝を捧げた。
それはそれとして、何やら視界の片隅にステータスを開くようなボタンのようなものが見える。
何だかゲームっぽいが、これが異世界というやつか!
俺はそこに意識を向ける。
そうすると、俺のステータスや使用可能なアビリティ、スキルが見えた。
「ヒール!!」
そう言葉を発するや、俺の身体に白と緑の美しいオーラが発生する。回復魔法の代表格、『ヒール』。
「ホワイト・ミスト!!」
次は周囲に白い霧を生み出す。邪悪なる者から身を護る魔法、『ホワイト・ミスト』。
「おお、これが魔法……! すげええええ!!
――……あっ!?」
――そうだ、俺はもう女の子なんだよな。言葉遣いも見た目に合わせないと。
それに名前も変えないといけないぞ。そうだな、元の名前が『さがわしんや』だから……『サーシャ』あたりはどうだろう。
うん、何か良いな! 俺は今日から――いや、私は今日からサーシャを名乗ろう!!
さて……、それにしても可愛い身体だよなぁ。
女神様には『いかがわしいこと』はしないって言ったけど、俺の身体だからなぁ……。どうしようと俺の勝手だよね……?
ふふふ、それにしても何だかスキルに『清廉なる聖女』とかいうのがあるし、すっごく女の子してるよなー。
ちなみにこのスキル、どんな効果なんだろう?
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【清廉なる聖女】
(転生スキル/パッシブスキル)
INT+300、MEN+300の加重値を得る。
信仰的反逆、性的快楽に陥ったとき、即死する
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おお、ステータスに+300!? すっげぇええええ――!?
INTが知力で、MENが精神力だよね。プリーストにもってこい――……っていうか……うん? 最後の一行……。
『信仰的反逆、性的快楽に陥ったとき、即死する』
……。
俺は自分の胸を見た。ぽよぽよしている。
『信仰的反逆、性的快楽に陥ったとき、即死する』
……。
――えっ。マジっすか?
……め、女神さまぁあぁあああ!? 何てスキルを付けてくれたんですかあああぁぁあああぁぁあああぁぁああぁあぁああぁああぁああぁあっ!?
そう。俺の禁欲生活は、この日から始まったんだ……。




