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19.天才の誕生

「はにゃあああああああああっ!!!?」


「…………いい加減、動けよ……」


 魔法のモニターから流れる絶叫を聞いて、俺は溜息をついた。

 溝口奈々子――改め、ナナ・ミゾ・ノクーチは転生して以降、ずっと引き籠っていた。


 この名前は宿屋に泊まるときに本人がサインとして書いていたんだけど――それにしても名前がそのままだな!

 人のことは言えないけど、それなら『溝口』を分ける必要は無かったと思うぞ?


 ……それはそれとして、冒頭でのナナの絶叫は特殊スキル『使命の強制』のペナルティ発動によるものだった。

 このペナルティは、具体的には『HP90%ダメージが発生する』という効果の雷に突然撃たれるものだ。

 ナナが転生してから今日で二週間なのだが、このペナルティ発動も実に二回目のことだったりする。


「ペナルティをもっと重くしておけば良かったかな……。あれで死ぬわけじゃないし……」


 あくまでも『HP90%ダメージ』であることに、俺は後悔していた。いくらダメージを受けようが、一回我慢すればそのあとの一週間は安泰なのだ。

 それを考えると、もっと外に出て行かなければならないようなペナルティにしておけば良かったと思う。例えば部屋に居続ける限り電撃を流す……とか。


 しかしそうはいっても、持たせたお金では宿代はあと一週間くらいしかもたないのだ。

 お金が尽きてしまえば、そのときは引き籠りを解消せざるを得ない。

 ナナに持たせたスキルは他の人がいないとどうしようもないものばかりだから、さすがに他の転生者と連絡を取り始めるだろう。


 ……始めるよな? ……始めてください。お願いします。




 さて、他の転生者はというと――クサハエル氏はもうすぐ王都に到着する頃のようだ。

 途中で魔物に襲われている村を救っていたせいで到着が遅れていたのだが、それにしてもいわゆる転生者っぽい活躍を一番しているのはこの人だな。

 実力も十分だし、転生前がシリアスだっただけあって、弱い者を助けたいという気持ちは人一倍強いし。


 あとは元・女神様かな。今は最初とは違う大陸に渡って冒険をしているんだけど、どうやらそこで何かを探しているようだ。

 お供の二人といろいろな伝説を調べまくっていたけど……何を探してるんだろう?


 最近の注目株としては、転生スキル『超越した商才』を持たせたフォルスだな。

 さすがに元々の経験があるせいか、すでにもう小さなお店を構えているほど。

 セレクトショップみたいな感じでいろいろなものを取り扱っているのだが、今は女性向けの美容品を中心にしているようだ。

 接客の最中でいろいろな情報も集めているみたいだし、次の一手を探しているのだろう。


 ――うん、やっぱり経験者には関連する転生スキルを持たせるのが強いよな。

 そう考えるとナナに付けた転生スキル『念話通信<転生者>』はオペレーター経験者に付けた方が良かったかもしれない。

 あれは最終戦で絶対に活躍するやつだし……。


 それ以外では、アイドルになったハナノは引き続き牢屋にいたりする。

 女神の――俺の情報を引き出したい王様がどうにも釈放してくれず、三日に一回くらいの頻度で取り調べを受けているんだ。

 そんなことをしても情報なんて出てこないんだけどね……そもそもハナノは何も知らないわけだし。

 ハナノも最初こそへこんでいたものの、最近は牢屋の中で歌の練習をしていたりするから、まぁ問題は無いだろ。


 そして我らが宿敵、漆黒の魔王は――ジュードを介して確認すると、どうやらその身体をまた大きくしていたようだった。

 餌、つまり海中生物を喰いながらゆっくりと――。


 ちなみにハナノに持たせた手紙のおかげで、王国の方でも漆黒の魔王の場所は把握することができていた。

 しかしその情報を元に派遣された調査船団が、一瞬にして壊滅されるという悲劇も生まれてしまったのだが……。



「――ゆっくりとだけど、少しずつ進んでいる……よな?」


 転生者たちがあの世界で活躍するには、まずはそれなりの準備が必要だ。

 その準備が終わる頃、戦いは徐々に始まっていくだろう。


 それがいつかになるかは分からないのだが、いつ起きても大丈夫なようにしていかないといけない。


「それまでに、俺は――」



 ――ガラーン…… ゴローン……



 どこか遠くから鐘の音が響くのが聞こえた。

 そう、俺ができるのはこれしかないんだ。


「よし、今回も頑張るぞ。頑張れ、俺!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 転生の間に行くと、白髪と禿げ上がった面積が半々くらいの小さな老人がいた。

 老人……。この年代は初めてだな。この年齢でも転生対象になるんだ? まぁ、仕事仕事っと。


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


「……ほう、儂は魂になっていたのか。ふむ、つまり死んだということじゃな……?」


「私はこの転生の間を司る女神、リーネルペルファ。

 あなたの知らない異世界が滅びの危機を迎えています。どうか、その世界をあなたの力で救って頂けないでしょうか――」


「……なるほど。にわかに信じられんが、次の生を頂けるというか。儂の信じていた神では無いが、実にありがたいこと」


 むむ? この老人、すごい落ち着いているな。

 それに何というかどっしりと構えているというか……。


「――ふむ、良いじゃろ。儂の記憶は突然の爆発事故で終わってしまっているからな。

 あのままでは終わりきれん。是非とも貴女の力を貸して頂こう」


「爆発事故……ですか?」


「うむ。儂の人生の集大成、活性エネルギー共鳴膨張の実験中にな、ドカンよ。はぁ、なんとも口惜しい……」


 『活性エネルギー共鳴膨張』って何だ……?

 ここは女神の神秘性に懸けて、この人に聞くわけにはいかないぞ?


 というわけで時間をちょっと止めて、検索っと……。

 ……ふむ、何やら『一のエネルギーからそれを超えるエネルギーを生み出す』という技術らしい。

 どうやら和那で開発中の技術らしいな。復習だけど、和那というのは日本の並行世界っぽい世界だ。

 それじゃ、分かったところで時間を動かして――っと。


「なるほど、あなたは活性エネルギー共鳴膨張に携わる方でしたか。

 あの研究も最終局面を迎えていましたね」


「――なんと!? 貴女はそんなことまでご存知なのか!?」


 はい、今調べましたから。


「あの技術は今後、世界を大きく変えていくことでしょう。実に素晴らしい技術です」


「そうか、そうよな。もはやあの研究は儂がおらんでも完成は目前。ならば儂はこのまま去るとしよう。

 ――いや、貴女から新たな生を受けるんじゃったな。はてさて、儂は何をすれば良いのじゃ?」


「はい。あなたには漆黒の魔王という驚異が存在する世界で、仲間と共に戦って欲しいのです。

 もちろん戦いといってもあなたは研究者。そういった面で力を貸して頂けないでしょうか?」


「ほう、孫がやっていたゲームのような世界じゃな。……もしかすると、その世界には『魔法』というものはあるのかな?」


「はい、ありますが――」


「それは実に興味深い! 儂の世界では、そのようなものは物語の世界でしかあり得なかったのだ。

 魔法が現実にある。つまりそれを研究できるということじゃろう?」


 お? なるほど、そこに食い付くか!

 それならばそこをプッシュだ!


「はい。お望みでしたらその研究に有用なスキルも授けましょう」


「なんともそれは嬉しいこと。内容は把握した。

 ――それでは女神よ。転生するにあたり、儂から条件がある」


「条件……ですか?」


 なんと、今までに無い展開。まさかこちらが条件を付けられるとは。


「うむ。儂はもう人としては十分に生きておる。故に、この歳のまま転生をさせてくれないだろうか」


「研究をするには若い身体の方が進めやすいと思いますが――」


「まったくもってその通り。だがこれは儂の生き様よ。

 偶発的な事故で死んだあとの生ならば、そこからまた天寿を全うする歳まで生きられれば良いのだ」


 う、うーん? 俺には理解し難いが……。人生の先輩が言うことだから、こういう考え方もあるのか……?

 しかし今まで触れたことの無い考え方。こういう人生、もしかしたら一度は歩んでみたいかもしれないな……。


「分かりました、その条件を承ります。見た目もできるだけ、今のままにしますね。

 ……ところであなたには、仕事以外で何か好きなものはありますか?」


「うん? そうじゃな、儂は和那酒が大好物じゃぞ。夜な夜な嗜むのが好きでの♪」


 ふむふむ、なるほど。

 俺は時間を止め、転生手続きを終わらせて――そして時間を動かし始める。

 すると、目の前の老人の身体が輝き始めた。


「――それでは、あなたにはこれから異世界に転生して頂きます。

 あなたの知識で、世界の脅威に立ち向かう仲間たちを助けてあげてください」


「うむ、承った。こんな老人の戯言に付き合ってくれて、どうもありがとう」


 そう言いながら老人は光の中へと消えていった。


「――……やばいな、年寄りも捨てたもんじゃない……かっこいい」


 亀の甲より年の功、とでも言うのかな。うーん、俺も男でいたならあんな老人になりたかったかもしれないぞ。

 今は女神様だからこのままが良いけどな。女神様の美しさは永遠不滅なのだ!




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――儂の名前は田中清四郎(たかなせいしろう)

 とある研究所の責任者だったんじゃが、突然の事故で死んでしまった。


 そしてこれまた突然出会った女神により、異世界に転生させて頂くことになった。


「……ふむ、ここが異世界か。

 確かに文明が違うようじゃが、それでも人の営みは変わらぬな」


 儂はとても大きな街の近くに立っていた。

 なるほど、大きな街を壁で囲っているのか。つまり何らかの脅威がある世界――ということじゃな。


 ――ふわっ。


「……うん?」


 不意に、不思議な感触が肌を触れた。

 風のように肌を滑り、綿のように柔らかな存在。今までに感じたことのない感覚。


「なんじゃな、これは……。そういえばスキルがどうとか、女神が言っておったな……」


 そう思った瞬間、視界の隅に何やらボタンのようなものが見えるのを発見した。


「これは何とも不思議な――」


 そこに意識を集中させれば、何やらウィンドウのようなものが視界に現れる。

 ふむ、これはオーグメンテッド・リアリティ……いわゆるAR、拡張現実に似ておるな。


 なるほど、ここでいろいろな情報が確認できる……ということか。

 ふふふ、孫に付き合ってゲームをした甲斐があったというものじゃ。


 ――それにしても、孫、か。元気にしておるかの……なんていう心配ができれば良かったのじゃがな。

 あいつは親不孝、祖父不孝なことに、ほんの少し前に死んでしまったからな……。

 元気で真面目な、優しい子だったのに――。


「……おっと、いかんいかん。今はそれよりも現状把握といこう。

 まずはスキルからかな。どれどれ……」


 ----------------------------------------

 【魔導研究】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 INT+200の加重値を得る。

 物理力学と魔法力学に関する補正を得る

 ----------------------------------------

 【酒造の祝福】

 (転生スキル/発動不能)

 酒類を造る際、高度な補正を得る

 ----------------------------------------

 【使命の対価】

 (特殊スキル/パッシブスキル)

 『漆黒の魔王』の絶命時、『酒造の祝福』が発動可能となる。

 それと同時に、このスキルは消滅する

 ----------------------------------------

 【魔力感知】

 (通常スキル/パッシブスキル)

 魔力を正確に感知することができる

 ----------------------------------------


 ほう、女神もスキルとやらをたくさん付けてくれたものじゃな。


 まずは『魔導研究』……。ふむ、女神が言った『研究に有効なスキル』とはこれのことか。

 効果のほどは分からぬが、使ってみればすぐに分かるじゃろう。


 次は――……『酒造の祝福』じゃと?

 ……『使命の対価』と合わせて考えてみれば、平和になったら酒を造れということか?

 ふふふ、この世界に和那酒を広めるのも良いかもしれんな。

 そういうことであれば、もう少し若返らせてもらっても良かったかも……いやいや、いかんいかん。


 そして最後に『魔力感知』。

 なるほど、さっきの肌に触れた感触はこれか。そして儂がこの世界で研究できる新しい存在。

 ……いや、実に興味深い! 何とも知的好奇心がそそられるわい!!



「――ご老人、いかがされましたかな?」


「……うん? 儂のことかな?」


「ええ。先ほどからここにずっと立っておられましたので、気になりまして」


 儂に声を掛けたのは四十代ほどの男。どうやら馬車で街から出てきたところらしい。


「いや何、ここには来たばかりでの。これからどうしたものかと考えていたんじゃ。

 ……そうじゃな、声を掛けて頂いたのも何かの縁。ちと話に付き合ってくれんかの?」


「ええ、別に構いませんが……。しかし私はこれから、近くの港町に行くところなのですよ」


「なぁに、それも縁というやつよ。迷惑は掛けぬ故、同行してもよろしいかな?」


「うーん……、分かりました。でも、乗り心地はあまりよろしく無いですよ?」


「構わん構わん、それでは参ろうぞ。世話になるの」




 儂が馬車に乗り込むと、馬車は揺れながら走り始めた。

 ふむ、最近の乗り物は揺れることが少なかったからの。これは何とも懐かしいわい。


 ……さて、この世界で儂ができることは何かな。

 せっかくの機会をくれた女神の顔に泥を塗るわけにもいかぬから、早々に何か実績を作ることにしよう。

 こう見えても元の世界では特許の十や二十は軽く持っておったのだ。女神の度肝を抜くようなものを作ってやろうではないか。


 そしてすべてが終わったあとには酒造りじゃな。それにしても酒造りのスキルを付けるとは……あの女神も粋なことをするわい。くくくっ。


「――どうされましたか、ご老人。楽しそうにされていますね」


「む、そうか? 少しばかり前にな、孫くらいの娘に悪戯をされてのう」


「ははは、そうなんですか。私も先日、初孫ができたんですが――それはもう可愛くて可愛くて!」


「ほほっ、そうじゃの。それでは孫自慢といきますかな?」


「良いですね! 是非お聞かせください!」



 真面目な男の子の孫、悪戯好きな女の子の孫。

 ――さぁて、どちらから話してやろうかのぉ?

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