18.強制コミュニケーション
――パァアアアアアアッ!
「……来たか」
庭園のとある場所に作られた小さな祭壇。
そこにそれは光と共に現れた。
そう、異世界の甘味である!
「ふふふ、これに合いそうなお茶はすでに用意しているからな……。よーしよし、美味しそうじゃないか……」
実は何が送られてくるかは谷垣洋介――改め、フォルスを魔法のモニターで監視……もとい、見ていたから分かっていたのだ。
ちなみにフォルスという名前はラテン語の『運』から付けたらしいぞ。
「さてさて、それじゃ早速いただきまーす♪」
今回送られてきたのはケーキとクッキー詰め合わせ。
クッキーはいつでも食べられるから、先にケーキを食べてしまおう。
「むむ、甘い! 美味い! ……日本で買うよりも少し素朴なところはあるけど、味は勝るとも劣らず! 異世界、すごい!」
紅茶で口直しをしながら何度もケーキを味わう。
いやぁ、ケーキってこんなに美味しかったっけ? 今までの人生、八割くらい損していた気分がしてきたぞ。
魔法のモニターに目を移すと、フォルスはフォルスで宿屋の部屋から街の夜景を眺めながらお酒をちびちび飲んでいる。
うわぁ、何かかっこいいことやってるなぁ。確か百貨店のバイヤーだったらしいから、大人の楽しみ方とかも詳しそうだ。
それならあまり若返らせずに、ナイスミドルにしても良かったかな?
中年には中年の良さがあるからな。若いだけが華じゃないのだ。
ケーキを食べて一息つくと、俺の目の前に小さなウィンドウが現れた。
魔法のモニターの小さいような感じではあるが、何やら文字が映し出されている。
「……何だこれ?」
『"転生神への献上"に対する評価を入れてください』
む? 0から100までで点を入れることができるらしい。
どうやらフォルスからもらったものに対して評価ができるようだ。こんなところでまさか双方向コミュニケーションができるとは……。
「それじゃ、とりあえず100点……っと」
入力を終えてしばらく魔法のモニターを見ていると、フォルスの身体が突然に輝き始めた。
フォルス自身も少し驚いていたが、少しすると『満足して頂けたか……』などと納得してつぶやいていた。
ふむ? ちょっとスキルの復習をしようか。えっと、『転生神への献上』の効果は――
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【転生神への献上】
(転生スキル/アクティブスキル)
任意のアイテムを転生神に献上する。
その内容によってすべてのステータスに加重値を得る。
一週間に一度のみ使用可能
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――だったよな。
あ、もしかして『その内容によってすべてのステータスに加重値を得る』っていうところがさっきの入力した点に依存するのかな?
ということは、評価が低いと加重値が下がるってことになるのか。
つまり言葉のやり取りはできないけど、満足か不満かは伝えられるってことになるな。
何か物が送られてくるのは一週間に一度だけど、ある程度は評価も返せることだし、これは今後の楽しみが増えたぞ。
元・女神様、緩い話を残しておいてくれてありがとう!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから三日後、次の転生対象者が転生の間に現れた。
今回は16歳くらいの少女。見た目と雰囲気は……いかにも普通って感じだ。
「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」
「ひゃっ!? あ、はじめまして!」
あ、そこでそんな反応されると後半の台詞が使いまわせないじゃないか!
……まぁいいや。聞こえない振り、聞こえない振りっと。
「私はこの転生の間を司る女神、リーネルペルファ。
あなたの知らない異世界が滅びの危機を迎えています。どうか、その世界をあなたの力で救って頂けないでしょうか――」
「わ、私がですか!? どんくさいですが、大丈夫でしょうか!」
「はい。人には向き不向きがあるものですが、あなたの得意な分野で手を貸して頂けないでしょうか」
「あの、好きなこととか、やりたいこととかでも良いですか!?」
「それでも構いません。転生スキル――ある種の天才的な才能を授けますので、ご安心ください」
「分かりました! 私、こういうのに憧れていたんです。
まさか創作の中の話だけかと思っていた転生が本当にあって、私も選ばれるだなんて――夢のようです!」
夢は大切だよな。俺も(突発的な)夢が叶って女神様をやってるわけだし!
「それでは女神様! 私の願いを叶えてください!」
「はい、お聞かせください!」
「私は――すべての転生者を抹殺し、その力を奪って最強になりたいッ!!」
「却下します」
「えぇっ!?」
いやいや、何を物騒なこと言ってるの。俺の今までの苦労を水の泡にする気かな?
「あの、今は世界を救いたいので……そういうのは脳内でやっておいてください」
「くっ、私の本気の願いなんです! ダメですか!?」
「ダメです」
「ああもうダメだ……。私の転生は八割がた失敗したぁ……。
そ、それじゃ、魔王に転生して勇者を倒す的な――」
「あの、あなたは何か世の中に恨みでもあるんですか?」
「い、いや、そういうわけでも無いんですけど! 正義に対する悪みたいな感じで、これって浪漫じゃないでしょうか!」
「分からなくは無いのですが、今回はダメです。次の機会にお願いします」
「えっ! 次の機会はあるんですか!?」
「多分無いです」
「だ、ダメじゃないですかーっ!!」
いや、他の異世界なら実現できそうなところはたくさんあるんだけど、今はそれより漆黒の魔王なわけだよ。
ああこの思いが伝わらないのがもどかしい!
「逆に、他の転生者を助ける――みたいなことには興味はありませんか?」
「あぁ……それはちょっとぉ……」
「ちょっと?」
「はい……。私……ぼ……だったんで……」
「ぼ?」
「……っち」
「舌打ちですか?」
「ちちち、違いますよ、繋げてください!」
「ぼ……っち。あ、分かりました」
「分かって頂けましたか! つまり、あんまり他の転生者の人とお話したくないんです!」
「大丈夫です。他の方は良い方ばかりですよ……一部を除いて」
「一部……! ああ、もうダメです。私は彼らを滅ぼしたいッ!!」
「す、少し落ち着きましょうか? ね?」
「すーはー、すーはー。お、お待たせしました!」
「案外早いですね。
それにしても、他の転生者とはお話したくない割に、倒す方向では絡みたいんですよね?」
「だって、一人じゃ寂しいじゃないですか」
「いえ、他の転生者を倒していったらその内一人になりませんか?」
「……はっ!?」
いや、その驚愕の表情はどういうことだよ。それくらい分かってよ。
「不毛なことに気付きましたか?
ずっと転生者たちと絡んでいきたいのであれば、倒すのはつまりダメです」
「女神様、マジ女神様」
「言いたいことは分かりますが、しっかり言葉を使ってください」
「私の心は女神様によって浄化されました。もう女神様が良いと思う感じの転生スキルで大丈夫です!」
「体のいい丸振りですね」
「いえいえ! 世界平和のために頑張りますので、ナイスな転生スキルをチョイスしてください!」
おいおい、何だか嫌な予感がするぞ。これ、絶対やる気なくしただろ……。
俺は時間を止め、転生手続きを終わらせて――そして時間を動かし始める。
すると、目の前の少女の身体が輝き始めた。
「――あなたにはこれから異世界に転生して頂きます。
転生する先の街には転生者が何人かいますので、まずはその方々と連絡を取ってみてください」
「はーい♪」
「スキルの説明をよく読んで、その意味をしっかり考えて行動してくださいね」
「大丈夫です、お任せください!」
そう言いながら、胸を張りながら少女は光の中に消えていった。
「――吉と出るか、凶と出るか。まぁがんじがらめにしたし、多分大丈夫だろ」
さて、庭園に戻ってクッキーでも食べようかな♪
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――私の名前は溝口奈々子。
多分事故で死んだあと、何かの縁で転生を果たした。
目の前に広がるのは見慣れない街の景色。そして私の身体も今までと違う、素敵なものに変わっていた。
「よし、普通に暮らそう!」
異世界? 滅びの危機? 転生者?
そんなのはもう知りません!
私は好きなように、このファンタジーの世界を生きて、そして死のう!
できるだけこっそりと目立たずに暮らして、それなりに大変だけどそれなりにしあわせ――そんな人生を歩むんだ。
他の人とコミュニケーションを取るのは苦手だけど、まぁそれくらいは何とかなる……かな? ……どうだろ。
本当は同じ境遇の転生者がいるなら何らかで関わり合いたかったけど、でも転生者とかマジで怖いし!
だってすごい力を持ってるんでしょ? もし何かやっちゃったら消し飛ばされそうだし……。
だからせめて、そういう人たちよりも強い力を持って、上に立っていたかったのに却下されちゃったし。
あんな真面目系女神様に当たったのが私の運の尽きだったよ。もっとテキトーな感じの女神様だったら救われたのに!
…………。
――……ああ、でも私って、ずっとこうなのかな?
もしかして、あの真面目系女神様をもっと頼っていたら私は変われて、何か別のものになれたかもしれなかったのかな……?
…………。
――そうだ! そういえば転生スキルってもらえたんだよね?
えーっと、どこから見れるのかな。あ、視界の隅のこれかな? どれどれ……。
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【念話通信<転生者>】
(転生スキル/アクティブスキル)
一定範囲にいる転生スキルを持った者と念話通信を可能にする。
転生スキルを持った者同士の念話通信の中継を行う
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【使命の強制】
(特殊スキル/パッシブスキル)
『漆黒の魔王』が絶命するまで、『念話通信<転生者>』を使用しないことに対するペナルティが発生する。
一定期間未使用時、使用要求の拒否時、HP90%ダメージが発生する。
『漆黒の魔王』の絶命時、ペナルティが消滅する
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【補助魔法】
(通常スキル/アクティブスキル)
他者を支援する補助魔法を使うことができる
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――ほぇ……。
…………。
な、なにこのコミュニケーション全力の転生スキル!
他の転生者と話をしたくないって言ったでしょー!?
あ、でも最後は選択を丸振りしちゃったんだっけ……。でもでも、まさかこう来るとは!?
しかも何だかペナルティまで付けられてるし、他に使えるのが補助魔法くらいだし……なんてこったい!
「――もうダメだ。引き籠ろう」
鞄の中を見ればお金のようなものが入っている。
あの真面目系女神様がくれたものだろうけど、私はこれでできるだけ宿屋にでも引き籠ることにするよ。
グッバイ、私の素敵な異世界転生……。




