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16.あなたに届け、この歌声

「ふむ……」


 俺は魔法のモニターを見ながら一息ついた。

 そこに映っているのは元・女神様と連れの女の子が二人。


 船に乗ってどこかへ向かっているようなのだが、漆黒の魔王のいる場所とは大きく違っていた。


「うーん、どこに向かっているんだろう? その方向に何かあるのか、もしくは理由なんて無いのか――」


 そういえば、そもそも漆黒の魔王の場所を具体的に知っているのはまだ竜騎士のジュードくらいなんだよな。

 あとは大体の場所を教えた、魔物使いのシンタくらいのものか。


 …………。


 あれ? せめて漆黒の魔王の場所はしっかり伝えた方が良いよね? このままだったらみんなバラバラのままになっちゃうし。


 よし、次の転生者の使命はこれだな。今までの転生者の場所を教えて、全員に連絡を取ってもらおう。

 漆黒の魔王の場所をみんなで共有して、それで戦いに――……。


 いや、待てよ……。


 『戦闘狂い』のクサハエル氏や『詠唱攻撃』のアキは単純に戦闘力が高いからもちろん参加してもらいたいけど、ボーイズラブのアンドレや心に傷を持ったマージェリーには無理は言えないからな……。


 そう思いながら、何となく魔法のモニターにクサハエル氏を映し出す。


「――あれ?」


 見ると、クサハエル氏も船に乗っている。今、空前の船旅ブーム! ……なわけは無いよな。

 位置を確認してみると、クサハエル氏は転生していった場所と王都ヴィエラルドの中間くらいの海域にいた。


 しばらく見ていると他の乗客との話から、どうやら王都ヴィエラルドに向かっていることが分かった。

 また、先日起きた漆黒の波動について調べるために旅立ったらしいことも分かった。


 クサハエル氏は転生前に『弱い者を守りたい』って言ってたしな。

 弱い者というか、世界に危機が起きてるのだから――そういうのをひっくるめて守りたくなったのだろうか。

 自発的に向かっているのであれば、漆黒の魔王との戦いにも積極的に参加してくれることだろう。


 俺は次に、魔法のモニターにアキを映し出した。


「こらああああああっ!! トーマス! 勝手に持っていかないの!!」


「へへーんだっ! 悔しかったらここまでおいでっ!!」


「いい加減にしなさーいっ! セシル、ベス、ティララ! みんなでトーマスをくすぐっちゃいなさい!!」


「「「はーい!」」」


「ちょ……待て、お前らっ! ぎゃ、ぎゃはははは――っ!!?」


 ――……。


 映し出されたのは孤児院で笑顔を輝かせるアキと子供たち。

 引き続き孤児院の運営は苦しいようではあるが、それでもここには笑顔がある。しかし戦いを強要するとなれば、この笑顔は無くなってしまうのか。


 戦いは何が起こるか分からない。俺だって虹色の魂との戦いではギリギリの場面もあったんだ。


 無理強いをさせてまで参加させるか? そりゃ確かに、俺が力を与えたけどさ。でもそのときは、そういうために力を与えたわけじゃ無かったしな。


「――……ダメだな、俺はどうにも情に(ほだ)されやすい……」



 ――ガラーン…… ゴローン……



 俺の言葉と共に、どこか遠くから鐘の音が響くのが聞こえた。


「何というタイミングで……。……答えは出てないけど、とりあえず行くか――」


 時間を止めて考えるという手もあるにはあるのだが、どうにもそんな気分にはなれず、俺はそのまま転生の間に向かうことにした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 転生の間に行くと、16歳くらいの少女が踊っていた。


 ……文字通り、何か踊っていた。


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


「あ、初めまして! へいへいへーいっ♪」


 ……えぇ?

 まずい、このまま転生終了にしたい。どうしよう。


 思わぬ少女の言動にしばらく閉口していると、彼女は追撃を掛けてきた。


「へいへいへーい、お姉さんビビってるよー! へいへいへーいっ!」


「――『魂の減退』ッ!!」


「にゃわあああぁぁああああぁぁあぁっ!!?」


 久々に出た女神スキル『魂の減退』が少女を豪快に吹き飛ばす。


「初対面だというのにその態度は何でしょうか」


「あいたたたぁ……。ご、ごめんなさいっ」


 先ほどアキの件で少し考え込んでしまった後のコレである。

 いくら俺が優しい女神だとしても、少しは怒っちゃうぞ。いや、八つ当たりとかではないぞ、たぶん。


「――はぁ。謝るのは誰でもできるんです。それで、さっきの態度は何だったんですか」


「あ、あの、てっきり夢だと思って……。

 ほら、あるじゃないですか。夢の中で、それが夢だって分かる――そうそう、明晰夢ってやつ! あれかと思ったんです」


「確かにありますね」


「ですよね! さっきベッドに入って寝たところだったんで――てっきりそれかと思って。

 あ、あの……それで、これって夢じゃないとしたら、ここはどこなんでしょうか?」


「先ほども言いましたが、ここは転生の間。死んだ者の魂が来訪し、次の来世へと導かれる場所になります」


「はえー……。転生、ですか。ライトノベルとかで読んだことありますよ! ――って、転生ですか!?」


「はい」


「ってことは、私は死んじゃったんですか? えええ、何で寝たら死んでるんですか!?」


 俺、そこまでは分からないんだよね。

 この仕事を続けていれば、その内そういうも見えてくるようなことが転生女神のマニュアルに書いてあったけど。


「――それは申し訳ないのですが、こちらでは分かりません」


「えー、女神様って仕事できなーいっ!」


「――『魂の減退』ッ!!」


「にゃわあああぁぁああああぁぁあぁっ!!?」


「ちなみにあと1回食らったら魂が消えますから」


「はひー、はひー……。りょ、了解いたしました……」


「さて……そろそろ真面目にお話を聞かせてください」


「かしこまりましてございます!」


「いつもでしたら

 私はこの転生の間を司る女神、リーネルペルファ。

 あなたの知らない異世界が滅びの危機を迎えています。どうか、その世界をあなたの力で救って頂けないでしょうか――

 ……と、話を続けています」


「はい」


「でも今回はもうやる気が起きません」


「えっ」


「というわけで、そろそろモンスターに転生させて良いですか?」


「いやいやいや! いやですよ! ダメです!」


「実績ならありますよ」


「ええ、あるんですか!? いやいや、あってもダメです!」


「ワガママですね」


「文句を言いたいところですが、次こそ消し飛ばされそうなので止めておきます」


「良い心掛けです。それではそろそろやっぱり真面目に仕事をすることにしましょう」


「ありがとうございます。その心変わりのこと、私は一生嬉しく思い、感謝を捧げ続けることでしょう」


「最初からこうだったらスムーズでしたのに」


「誠に申し訳ございません」


 俺の留飲もようやく下がってきた。


「さて、それではあなたに色々お願いしようと思っていたのですが」


「はい」


「やっぱり止めることにしました」


「えぇっ、何でですか!?」


「不安だからです」


「くぅ~、言い返せねぇっ」


「というわけで、私からの使命は無しにして、あなたには希望を叶えて普通に転生してもらいます」


「希望、ですか。いわゆるチートスキルってやつを頂けるのでしょうか」


「いえ、何だかそういうのは要らないかなと」


「えぇ!?」


「実績ならありますよ」


「あるんですか!? っていうか折角の異世界転生なのに!?」


「ちなみにその方はモンスターになりました」


「ひどいっ」


「分かりました。それではあなたは『チリ』かコンニャクに転生させましょう」


「何ですか、その選択肢は!」


「『チリ』なら実績があります」


「あるんですか!」


「残念ながらコンニャクは実績が無いので、この機会にいかがでしょうか」


「断固、おことわりします!」


「残念です。それではあなたの希望を聞かせてください」


「えっ!? これは通常ルートに戻ったと見てよろしいでしょうか」


「話が進まないのでそれで良いです」


「それでは私の希望を言います! 私はアイドルになりたいッ!!」


「アイドル――偶像ですね。無機物になりたいんですか、分かりました」


「それは絶対に分かっていないパターンです! あれです、芸能界のアイドル! 可愛い服を着て、みんなの前で歌うんです!」


「それでは『努力の才能』を授けましょう。8年くらい頑張ればアイドルになれるかもしれません」


「全然チートスキルじゃないんですけど!」


「人生楽ばかりしちゃいけませんよ。それに努力する姿はとても美しい」


「ぐぬぬ、正論を」


「さて、それでは本気でお仕事をするとしましょう」


「本当ですか?」


「はい。その代わりに、ひとつだけお願いを聞いてください」


「私でもできるやつですか?」


「転生した直後に、近くにいる人に手紙を渡すだけです」


「それなら何とかできそうです」


「レベルが低い気もしますが、それではお願いしますね」


「あの、それでチートスキルの話は」


「アイドルっぽいのを付けておきますね。

 とりあえず転生したら視界の隅にボタンっぽいのが見えるようになるので、そこに意識を集中させて確認してみてください」


「分かりました」


 俺は時間を止め、転生手続きを終わらせて――そして時間を動かし始める。

 すると、少女の身体が輝き始めた。


「それではほどほどに期待していますので、あなたの何やらかんやらで世界を平和にしてきてください」


「女神様、それ絶対に期待してないでしょう」


「分かりましたか」


「分かりました」


「それでは最後にひとつ、攻略のヒントを」


「攻略って何ですか」


「これから王様の前に転生してもらうのですが」


「はい。ゲームの勇者みたいですね」


「とりあえず兵士たちがあなたを捕まえようとするはずです。そこは、手紙を渡したらすぐに逃げてください」


「えぇ!? それならそんなところに転生させないでくださいよ!」


「だって手紙を渡さないと」


「いやいや、それってお城の外から届けるんじゃダメなんですか?」


「あ」


「いけそうならそっちでお願いします!」


「でも転生の設定、もうしちゃいましたし。修正するの面倒で」


「ちょちょっ! やっぱり面倒なんじゃないですか!!」


「まぁまぁ。それじゃあなたの来世が祝福に満ちていることを期待していますね」


「女神様は祝福をくれないんですね!?」


「いってらっしゃーい」


「ちょ、ちょっと待――」




 そして少女は運命に導かれて転生していった。

 彼女の行く先にはどのような試練が待ち構えているのだろうか。

 私はそのことを考え、祈りながら筆を置くことにした――。


 『新典・リーネルペルファの転生録 十六節』より抜粋




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――私の名前は西川花乃(にしかわはなの)


 何回も危ない橋を渡りながら、女神様の適当っぷりを回避しながら何とか転生することができたの。

 危うくモンスターにされそうになったり、チリにされそうになったり、コンニャクにされそうになったり……。


 そして私が転生したのはここ、王様の前!!


「貴様、何者――ッ! もしや、またあの女神の神託か!?」


 ――え? 『また』? あの女神様、前にもこんなことやったの!? 聞いてないよ!!?


「え、えーと……!」


 私はとりあえず女神様が言った通り、視界の隅のボタンっぽいものに意識を集中させた。


 ----------------------------------------

 【魔唱歌】

 (転生スキル/アクティブスキル)

 歌声に魔力を乗せて様々な支援効果や状態異常を生み出す

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 【音響追加】

 (転生スキル/アクティブ)

 イメージした音響を流す

 ----------------------------------------

 【演出追加】

 (転生スキル/アクティブ)

 イメージした演出を流す

 ----------------------------------------

 【衣装変更】

 (通常スキル/アクティブスキル)

 登録済みの衣装に変更する

 ----------------------------------------


 ――ッ! おお、これは面白そうなスキルたち! でもここを切り抜けるにはちょっと――!?


「あ、あーっと……。あのう、女神様からお手紙です……」


 私は手に持っていた手紙を王様の方に向かって差し出した。


「貴様ッ! 王に無礼な!!」


 周りの兵士が槍を向けてくる。

 ひいい、こ、怖いよっ! は、早く逃げないとっ! 前の人って、ここをどうやって逃げたんだろう?


 普通にやってても逃げられるわけないし、ここはもらったスキルを使うしかないよね!!

 私は手紙をその場に落とし、スキルに意識を集中させた。


 まずは――『演出追加』ッ!!


 その瞬間、私の周りにキラキラとした美しい光の演出が生まれた。

 ――が、これがただのキラキラしたものだということを私は知っている。


 戦闘力、皆無ッ!!


 次は――『衣装変更』ッ!!


 その瞬間、私の服がいわゆる魔法少女の変身シーンのように、アイドルの衣装に変わっていった。

 ――おお、この服すごい可愛い! 女神様センスあるッ!! しかし――


 戦闘力、皆無ッ!!


 となれば最後の砦、転生スキル『魔唱歌』ッ!!


 アイドルの衣装と一緒に付いてきた手持ち用のマイクをくるくると回転させ、王様に向かって突き出した。


 その瞬間、周りの兵士たちからどよめきが生まれる。


「――な、なんだあの手に持ったものは……」


「怯むな、恐らくはロッドだろう! 魔法に注意するんだ!」


「何せ前回のやつは竜騎士だったからな……今回はどんなやつなのか――」


 前の人は竜騎士だったんだ? そしたら、ここからは飛んで逃げたのかな。……実に羨ましい。

 でも私には、代わりに歌があるッ!


 いくよ――『音響追加』ッ!!


 その瞬間、どこからともなく私の大好きなアイドルの曲が流れ始めた。

 この歌なら歌えるッ!


 それじゃ本丸、『魔唱歌』――




 ガッ!!


 その瞬間、私の首筋に強い衝撃が走った。



 ――……えっ? あ、あれ……?



 急速に身体から力が抜けていく。

 私が両膝をつくと、そのままどやどやと兵士たちが私を取り囲んだ。


 ……どうやら私はここでゲームオーバーのようだ……ぐふっ。

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