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14.気持ちだけは広い海へ

「……………………………………………………………………。」


 魔法のモニターを見ながら俺は閉口していた。


 モニターに映っているのは先ほど転生させたばかりのエカテリーナ。

 何やら早々に色仕掛けでコトを進めているのだが――……。


「あ、あれぇ……? 『色仕掛け』とか『悪女』とか、そんなスキルは付けなかったよな……?」


 その鮮やかな手腕はまるで転生スキルのよう。

 しかしそんなスキルは付けていないはずなのだが――、それも段々と自信が無くなってくる。


 そうこうしている内に、エカテリーナは役人の男の部屋に転がり込んでいってしまった。


「ああもう、むしろ違う意味で心配になってきたぞ……」


 色仕掛けは別に良いんだけど、自分は大切にしろよーっ!?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 それから一週間。エカテリーナを注視していたのだが、どうやら一線を超えることは無かったようだ。


 ……うん? 俺は覗きをしていたわけじゃないぞ。あくまでも監視をしていただけだぞ。

 もしまぁそういうことがあったら、魔法のモニターはさっさと消す予定だったぞ。うん、本当に。


 で、それはまぁ良いんだが……一週間も男の部屋にいて、その男に手を出させなかったという方がむしろ凄いと思った。本気で思った。あり得るんだ、そんなこと。


 エカテリーナは何かあってものらりくらりとそれを避けつつ、しかし期待を持たせながら――……でも一線は超えさせない。

 ああもう、凄い性質が悪いな。俺、女性不振になっちゃいそう。


 そんなことを振り返りながら光の柱を抜け出ると――今回の転生対象者を見つけることが出来た。


 よし、今回も希望を聞きつつ、世界の役に立ってもらえるように誘導するか!




 今回の転生対象者は日本やら神津の――おじさんだな。年は40歳くらいかな?


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


「……えっ!?」


「私はこの転生の間を司る女神、リーネルペルファ。

 あなたの知らない異世界が滅びの危機を迎えています。どうか、その世界をあなたの力で救って頂けないでしょうか――」


「わ、私が……ですか? 私、ただの冴えないサラリーマンだったんですけど……」


 ――うん……、俺の第一印象と同じだね……。

 しかしそれにしても、どういう運命に導かれた人がここに来るんだろう?

 このおじさんとか、どう見てもそんな運命に導かれそうに無いんだけど――。


 まぁ来ちゃったものは仕方ないか。さて、どうやって進めよう。

 とりあえず、おだててみるか。


「そんな、ご謙遜を――。

 あなたが来世に導かれたとき、周囲を巻き込んで大きな運命へと向かっていくでしょう。あなたからはそれほどの力が感じられます」


「わ、私が……! 私に、そんな力が……!?」


 すいません、適当です。あるかは知りません。あるのかな? 甚だ疑問です。


「それでは聞かせて頂けますか? あなたが前世、どのような方だったのかを――」


「私の前世……。私の前世は――」


 そこまで言うと、おじさんは突然泣き始めた。


「……どうされましたか?」


「……うっ、うっ。私の前世――思い出したら、悔しくて悔しくて……ッ!」


「何が悔しかったのでしょう?」


「――嫁!!」


「はい?」


 おじさんの断言っぷりに、俺は意表を突かれた。


「ああ、あの嫁! 私の大切にしていたプラモを、私の許可も得ないで捨てやがって……!

 聞いてください、女神様! 私の宝物を、私の嫁が勝手に捨てちゃったんですよ!?

 少ない小遣いの中でやりくりして、少しずつ買っていたというのに……。

 せめて売ったのなら、同じ趣味の人のところにいった可能性もあったのに――捨てちゃったんですよ! 信じられますか!?」


 おじさんはヒートアップしながら、怒りながら、そして悔しがった。

 ちなみにプラモを捨てられた後、意気消沈したまま外を徘徊していたら事故に遭って死んでしまったらしい。


 ――何とも言えない死に様である。


 しかし、俺もどこかでそんな話を聞いたことがあるような気はした。

 どこにでもある話なのかな? 結婚って怖いナー。


 優しい女神の俺は、そんなおじさんの愚痴をずっと聞いてあげたんだ。

 少しだけ時間を速く流していたのは内緒だけどな。




「――……というわけなんですよ! ……って、ああ、すいません! 女神様にする話では無かったですね!」


 まったくだよ。


「いえ、あなたの気が済めば良いのです。

 ……さて、先ほどもお伝えしましたが、あなたには滅びの危機を迎えている異世界を救って頂きたいのです。

 その世界には悪しき者が生まれ、世界を滅ぼさんと目論んでいます。

 その世界の仲間と共に悪しき者を倒すべく――力を貸して頂けないでしょうか」


「は、はい! 私で良ければ喜んで……っ! でも、私は取り柄も何も無い冴えないサラリーマンだったんですけど……どうすれば……?」


 本当にね! どうしようかね!


「転生して頂く際に、あなたには転生スキル――ある種の天才的な才能を授けます。

 能力的にはそれで補えるかとは思うのですが、それにあたってあなたの得意なことを教えて欲しいのです」


「得意なことですか……」


 おじさんはしばらく考えた後、嬉しそうに言い放った。


「――プラモ制作っ!!」


 いやいやいや!?

 プラモ制作でどうやって世界を救うの!?

 というかあの世界、プラモなんて無いと思うぞ!?


「残念ながらその世界にはプラモは無いのですが――」


「……あ、そうなんですか……。昔、コンクールに入賞したこともあるんですが……」


 うん、それは凄いけど、今は関係無いな。


 おじさんは引き続き自分の得意分野を何とか捻り出そうとしているけど――すぐに思い浮かばないようなら、もうダメかなぁ……?

 適当に攻撃系のスキルを持たせて転生させちゃうっていうのも、有りといえば有りなんだけど。


「――ところで、プラモはどういうものを作っていたんですか?」


「あ、はい。女神様もプラモに興味があるんですか?

 そういえば女神様って、プラモをご存知なんですね! いや、神様まで私の趣味をご存知だなんて、何だか嬉しいなぁ」


 いや、俺はもともとそっちの世界の人間だから。

 ……むしろ元・女神様がプラモを知ってるは分からないけど。


「いえいえ、私もあまり詳しくは無いのですが」


「……とか言って、結構マニアックなところまで知っていそうですよね!

 それでなんですが、私は戦艦とか戦闘機のプラモをメインに作っていました。後はお城とかでしょうか」


 へぇ? 俺は何となくプラモっていうとロボットっぽいやつをすぐに思い出すけど、おじさんが言ったようなやつもあるんだよな。


 そっか、戦艦とか――って、戦艦って船だよな!


「あなたは船がお好きなんですか?」


「はい! 大勢の人間を乗せて厳かに戦地に征く――……。これ以上の浪漫があるでしょうか! いや、無い!!!!」


 おじさんは一人で盛り上がり始めた。

 まぁ気持ちは分からないでも無い。俺も男だったし。


 ――と、それはそれとして、漆黒の魔王は海にいるから、そこに行く手段が欲しかったんだよな。

 このおじさんに造船関係のスキルを付けて、転生させるのはどうだろう?


「その浪漫、とても分かります。

 実は、世界を滅ぼさんとする悪しき者――漆黒の魔王は、海に生きているのです。

 もしあなたが良ければ、そこへ向かうための船を作ってみませんか?」


「いやぁ、さすがにプラモとは大きさが違いますよね……?」


「はい。ただ、そうとなれば造船に関する転生スキルを授けますので、物の大小については問題無いかと思います。

 後はあなたのやる気と、進む先の方向性になりますので――」


「……そうですね。そういえば、私も子供の頃は大きな乗り物に憧れていたものでした。

 絶対に運転手になる! とか。いつからかな、そんな夢を見なくなったのは……。

 ――分かりました、女神様! 俄然やる気が出てきました! それでは、それでお願い出来ますか!?」


 おじさんの瞳に炎が宿った。

 さっきまでの、嫁の悪行に嘆いて悔しがっていた男は――もういないッ!!


「ありがとうございます。他に何か希望があれば検討させて頂きますが――」


「そうですね。特には無いのですが――また結婚するときは、もう少し価値観の合う女性としたいものです!」


 ……。どうしろと?


 何かそういうスキルあったかな……。そういえば『強欲の出会い』なんていう転生スキルもあったし……出来る範囲で付けてあげるか。




 俺は時間を止め、転生手続きを終わらせて――そして時間を動かし始める。

 すると、目の前のおじさんの身体が輝き始めた。




「――あなたにはこれから異世界に転生して頂きます。

 転生する先は、王都ヴィエラルドから少し離れた港町。

 そこには造船所がいくつかありますので、お好きなところで仕事を覚えてください」


「この年からまた出直しですか? ……とほほ」


「転生に際してあなたの年齢は18歳になります。

 それと仕事についても――知識と技術は転生スキルで修得済みとなりますので、それを経験として昇華させてください」


「なるほど、習うより慣れろってことですね。ああ、でももう習い終わっているのか……? うーん、ややこしいですね」


「それと、機会があればエカテリーナ・ペルファ・クロイツァーという方を訪ねてみてください。

 この方も転生者で、いずれは王城に仕える役人になると思われます」


「エカテリーナさん、ですね。分かりました。それでは女神様、いろいろとお話に乗って頂いてありがとうございました!

 あなたのことはずっと忘れません!!」


 おじさんは手を振りながら光の中に消えていった。


 ……ちょっと心配だけど、上手くいくかなぁ……。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――私の名前は今西正太郎(いまにししょうたろう)


 失意の中で死んだものの、女神様の導きにより新しい生を受けることになった。


 ……それにしても冴えないサラリーマンだった私が、なんということだろう。ハツラツとした好青年になっているではないか!


 少し前までの、怖い嫁さんに怒鳴られて萎縮していた私はどこへやら。

 もしかしてこの世界で、新しい彼女を見つけていつかは結婚――……って、いやいや。女神様から受けた使命を果たさなければ。


 でもそれが終わったら……幸せな家庭を築いても問題無いのだろうか?

 あの女神様のことだから、きっと祝福してくれるに違いない。


「さて、造船所で仕事を覚えるように言われたけど――とりあえずは海に行ってみよう!」


 すぐに造船所へ行かなければいけないということも無いだろうし、そもそもこの世界に慣れる必要があるだろう。


 何しろ周りの街並みも違うし、雰囲気もいわゆるファンタジーっぽいし、言葉も違うし――。

 そうそう、この言葉が違うっていうのがまた凄いと思う。


 今まで使っていた言葉と違うのに、それでも普通に理解が出来る。何だかとても新鮮だ。新鮮なのに普通に出来る。不思議だ。感激だ。




 周りを見ながら30分も歩くと、広い船着き場に出ることができた。

 いくつかの船が泊まっているが――さすがに元の世界のものと比べたら小さいものだ。


 私ならもっと上手く造れそうなものだが――……って、あれ?

 いやいや、船なんてそんな簡単に造れるものでは無いだろう……。


 そう思いながら船の作りをイメージすると、内部まで容易に想像することができた。


「えぇ……? 何だこれ……?」


 思い返せば女神様が転生スキル――と言っていたな。


 最近はゲームをやっていなかったが、昔はそれなりにやっていたものだ。

 そういえば視界の隅にボタンみたいのがあるけど、これは何だろう? 集中してみれば良いのかな?


 ----------------------------------------

 【超越した建造技術<船>】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 STR+50、INT+50、DEX+100の加重値を得る。

 船の建造技術に関する補正を得る

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 【幸運(小)】

 (通常スキル/パッシブスキル)

 ささやかな幸運が訪れる

 ----------------------------------------


 ――おお、スキルを確認することが出来たぞ。なるほど、転生スキル『超越した建造技術<船>』のおかげで船の構造が把握できているのか。

 今の私にとってみれば、実際の船すらもプラモみたいなものだな。

 さすがは女神様が授けてくれたスキルだ。


「よし、私は船の建造に生涯を賭けるぞッ!!」


 私は今の思いを、大きな海に向かって叫んだ。


「――ほう? お前さん、良い心掛けじゃねぇか!」


「え?」


 不意にした野太い声の方を見れば、筋肉が盛り上がった初老の男が立っていた。


「その思い、俺が受け取った! よし、俺の造船所で雇ってやる!!」


「え? あ、あの!?」


「何だ? もう世話になっているところがあるのか?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「よし、じゃぁうちに来い! 色々と叩き込んでやる! 給料はちゃんと出すから安心しな!」


「え、あー、はい……」


「何だその声は! もっと気合いを入れやがれ!!!!!」


「は、はいッ!!!」


「よぉし、良い声だ! それでお前さん、名前は?」


「私は今西正太郎です!」


「イマニシ・ショウ・タロウ? ……何だか変わった名前だな?

 よーし、イマニシ! 今からみんなを紹介してやる! 付いて来な!」


「あ、あの……名前はそうじゃなくて――」


「返事ぃッ!!!!!」


「はいッ!!!」


「よしッ!!!!!」




 初老の男のごり押し(?)で、……何だか名前が『イマニシ』ということになってしまった。


 うーん……。やっぱりどうにも、私はまだまだ冴えないな……。

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