1.転生、というかTS
――死んだ。
理由はよく分からないが、とりあえず俺は死んだ。
俺の名前は――いや、もう死んだわけだし、名前なんてあって無いようなものだ。いや、むしろあっても要らないな。
しかし初めて死んでみたが、自分でもはっきりと『死んだ』って分かるものなんだな。
『死んだ後のことなんて、死んだ後にしか分からない』
いつかどこかでそんなことを聞いた覚えがある。
そのときは、そんなの当たり前だ――としか思わなかったが、今なら自信を持って言える。
俺は、死んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく時間が経つと――いや、どれくらい時間が経ったのかはよく分からないが、俺は不思議な場所に立っていた。
そこはまるで透明なガラス板の上。そのガラス板はどこまでも、遥か地平の彼方にまで広がっている。
そして俺の前後左右、上下、あらゆる方向に満天の星空が広がっていた。
「何だ、ここは……。宇宙か……? あの世か……?」
死んだことを意識してから初めて言葉が出た。
そういえば死んだ割に身体があるな。一応、服も着ているし。
――そんなことを思った瞬間、どこからともなく美しい声が響いてきた。
「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」
何だって……? 転生……だと……?
「お、お前は誰だ……!」
俺がそう言うや否や、眩い光と共に、美しい女性が現れた。
「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。
あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」
女神……。確かにそれを名乗るだけの美しさも、気高さも、そして存在感もある。
俺はそれにひれ伏した。
「女神……様? どんな希望にも……応えてくださるのですか……?」
「可能な限り、聞き届けましょう。さぁ、あなたはどのような来世を望みますか――?」
「俺、あなたになりたい」
「……………………はぁ?」
俺の口から思わず飛び出た本音に、女神様は変な声を上げた。
「私に、なりたい?」
「はい! 是非とも! とっても素敵だと思うので!」
「……マジで?」
「もちろんです!」
「………………」
「あの、ダメですか?」
「ちょ、ちょっと待ってなさい!」
女神様は光と共に消えた。
……もしかして、怒らせちゃったかな?
体感にして3分後くらいだろうか。
光と共に女神様が現れた。
「準備してきたわよ! さぁ、両手を出して!」
「え……? あ、はい」
俺が軽く両手を上げると、女神様は彼女の両手を合わせてきた。
女神様が近くに――。手の柔らかさと共に、どこからともなく心地よい香りが漂ってくる。
そしてそのまま俺と女神様の額が触れた。
コツン。
なんとも胸がときめく感触だ。
その感触を少し楽しんでいると、女神様はその美しい声で何か呪文のようなものを唱えた――
バチンッ!!
突然、眩い光と共に俺の身体が弾き飛ばされた。
な、何だ……? 女神様は大丈夫か……?
そう思いながら慌てて起き上がると、目の前には俺がいた。
「え、俺がいる――? ……ッ!?」
……え? ……あれ?
何かさっきまでと違う俺の声。
思わず両手に口を当てると、その両手も今までの両手と違うものだった。
「……よーし、成功したわね!」
目の前の俺が女言葉を使う。……キモッ!!
それは置いておいて、自分を再度見る。
目線を落とすとおっぱいがあって、足元が見えない……。
それに何だか服には見覚えがあった。……これ、女神様が着てた服じゃん!!
「え、えーっと……、あなたは……女神様?」
俺は恐る恐る目の前の俺に聞いた。
「ええ、そうよ。まぁ、元・女神様だけどね」
目の前の俺はとても素晴らしい笑顔で答えた。憎たらしくてぶん殴りたくなってくるが。
「……っていうと、俺は?」
「あなたの希望通り、女神だった私になったのよ。ふふふ、嬉しいでしょ?」
えぇ……? 本気で女神様になっちゃったわけ!?
「ちなみに私になったんだから、女神の仕事ももちろん引き継ぐのよ」
「え? 女神の仕事?」
「さっき言ったでしょ? 私は『転生の間を司る女神』だって。だから、今後はあなたがそれをやってね」
「えぇ……? そうしたら、元・女神様はどうするんですか……?」
「そうね。あなたの権利だった転生を使って、ちょっとどこかの世界で無双してくるわ!」
「なんという……」
「それじゃ、あなたのチュートリアルってことで早速私を転生させなさい」
「えぇ……。それってどうやるんですか……?」
「あなた用にさっき準備してきたのよ。慣れればイメージするだけで出来るんだけど、それまでは補助的なものがあった方がやりやすいからね。
えっとね、あなたの世界の――インターネット? あれをベースにちょっと作ってみたの」
「はぁ」
「じゃ、ちょっと手をかざして呪文を唱えてね。はい、『サモン・スキエンティア』」
「えっと……『サモン・スキエンティア』」
言われた通りに呪文を唱えると、俺の目の前に光輝くノートパソコンのようなものが現れた。
「操作はインターネットと似たような感じよ。
このページにアクセスして……そうそう、転生希望者の要望を聞いて、こっちのメニューから項目をチェックして――『OK』ボタンを押すだけ!」
なるほど、使いやすいけど……ファンタジー感がまるで無いな……。
「それじゃ私の言う通りに設定してね。
まず性別は男! 年齢は15歳ね。それで、剣と魔法――全属性を最大値にして。あとは鑑定スキルも最大ね。
さらにユニークスキルを――」
元・女神様の要望は尽きない。
すべてを入力するのにはとても長い時間が掛かった。
「――っと、まぁこんな感じかな?」
「はぁ。……えっと、それで『OK』ボタンですか?」
「うん、押してみて」
クリック、っと。
その瞬間、目の前の俺は眩い輝きに包まれた。
「それじゃ後はよろしくね! 私――いや、俺は異世界に行って無双して来るぜ! ひゃっほー、自由だぜー!!」
そんな言葉を残して、元・女神様は光の彼方に消えて行った。
「……え、……ちょっと? え……あの? えぇ、もう行っちゃったの……!?」
俺の言葉に反応する者はいない。俺の言葉は、誰にも届かない。
「ま、マジか――――――――――――――――――――――――――――いっ!!!!!!」
俺の心からの絶叫が、美しい声に乗ってこの世界に響き渡った。




