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ある冒険者の視点4

楽しんで頂けたら幸いです。

「先程は見苦しい処を見せて申し訳ない。 改めまして、俺がケンジです」

 さっきまでシェリーが座っていた席にケンジが座る。ケンジ曰く、シェリーは気分が優れないので別室で休んでいるとの事だ。

 最も、アリサは 「気分が優れないんじゃなくて、気持ち良くなっちゃったんじゃないのー」 等とエリカに耳打ちする。いや、実際はそうかも知れないが、蒸し返したら話が進まない。



「初めまして、私達は王都で活動する冒険者パーティー 《三本の矢》 のメンバーです」

 簡単な自己紹介をして椅子に座り直した。

 ケンジはハーブティーの入ったカップに口をつけた後、口を開いた。

「王都からですか、このダンジョンはどうですか? 攻略のしがいある?」

 エリカは顎に手を当てて少し間を置いた。

「そうですね……私達は七階層まで降りたけど、 五階層からはかなり魔物が強くなっている様に思うわ。 特に五階層のボスが沢山のミノタウロスなんて、 フォート君とアミちゃんがいなければ攻略を諦めて引き返してたと思う」

「そだねー、 あたし達はフォート君とアミちゃんの戦闘を見るだけで、 参加しなかったと言うか、 参加できなかった。 足手まといになっちゃうから」

「ああ、右に同じ」

 エリカの後にアリサとシーグが続く。



「そうか、 ならミノタウロスを一体にすれば攻略出来そうか?」

「そうね、一体なら私達三人で攻略出来るわ」

 ミノタウロスはBランクの冒険者パーティー、一体なら何とかなる。

「不躾で申し訳ない、君らのランクは?」

「私達のパーティー 《三本の矢》 はBランクよ」

 エリカが答えるとケンジは目を見開いて驚いた。



「Bランクと言ったら上級者じゃないか!?」

「そうね、王都の冒険者ギルドでもBランク以上は、 両手で数えられる程しか居ないわね」

「そうか……駄目だな……此じゃ……冒険者が……集まらない」

 ケンジは下を向いて、ぶつぶつと呟いている。



「なんかさーあたし達のランクにショック受けちゃったみたいだねー」

 ぶつぶつと独り言を呟くケンジを見ながらアリサが言った。

「思いの外、私達のランクが高かったから……かな」

 エリカは苦笑いしながらアリサ見た。エリカ自身もBランクの実力を持っていると自負していた。なので、ケンジがショックを受けているのを見ると。何だか惨めになってきた。

 帰りたくなってきた。でも、此処で帰る訳には行かない。聴きたい事があるのだ。



 暫くして、ケンジは自分の世界から帰って来た。

「いや、すまない。 考え事をしていた。 色々教えてくれてありがとう。 やはり冒険者の生の声を聴くと言うのは、大切だな」

 三人を見回した。



「私達からもお聞きしたい事が有るのですが、 良いですか?」

「ああ、答えられる事なら話そう」

 ケンジの言い方に、少し引っ掛かる処はあるが、気にしない事にして質問した。

「フォート君とアミちゃんのデタラメな程の強さを見たわ。 ケンジさんがあの子達の指導を?」

 ケンジはエリカを見て言う。

「そうだ、俺が教えている。 二人ともセンスが良い」



 アリサが質問する。

「フォート君とアミちゃんが言ってた 《魔法縛り》 と言うのは?」

「一つの魔法を色々工夫して、バリエーションを増やすだ。 例えば、 君達の放つファイア・ボールの大きさはどの位だ?」



 魔法職のアリサとエリカは顔を見合わせる。

 そもそも、ファイア・ボールは誰が放っても大きさは一緒だ。その様な魔法なのだから。と言うか、唱える魔法によって規模は違うが、唱える魔法が同じならば大きさや威力は変わらない。



 何と答えれば良いのか、二人が言葉に詰まっている。

「みんな、少し外に出ようか」

 ケンジは 《三本の矢》 のメンバーを連れて農場の外れ迄来た。



  「【土人形】 【強化】」

 ケンジの魔法で土が盛り上り人の形を形成していく。いや、人じゃない。出来上がったのは三メートルのミノタウロス。細部迄しっかりと造り込んであり、今にも動きそうだ。



 エリカ、アリサ、シーグは出来上がったミノタウロスを口をあけて見上げていた。

 


「誰でもいいから、土人形にファイア・ボールを放ってくれ」

 そう言われて真っ先に手を上げたのはエリカだった。

「私がいくわ」

「強化魔物が掛けてあるから遠慮しなくて良いぞ」



 ファイア・ボールはファイア・ボールなんだから、遠慮も加減もないのだが、とりあえずケンジに頷いて魔法を放つ。

「ファイア・ボール」

 エリカの突きだした右手から、バレーボール程の大きさの火球が生まれ土人形に着弾。同時に煙りが立ち上った。だが、煙りが晴れると土人形には傷一つ付いてない。

 続いてアリサも放つがエリカと同じ大きさと威力で土人形は無傷。



「なあ、俺は魔法は使えないけど、試していいか?」

 シーグは両手剣を抜いてケンジに聞いた。

「ああ、構わないよ。全力でやってくれ」

 ケンジの了解を得て、シーグは土人形のミノタウロスに向かって駆け出した。

「きええええい! せいっ!!」

 走った勢いを利用、そして裂帛の気合い。金属と金属がぶつかった様な音がした。だがミノタウロスの表面には傷一つ残せない。



「とんでもねぇ土人形だな」

 両手剣の刃が欠けてしまったのか、シーグは刃を丹念に調べている。

 そこでケンジが前出た。

「最後は俺だな。 《ファイア・ボール》 」

 突きだした右手から、直径一メートル程の火球が飛び出した。そして着弾、ミノタウロスは爆散した。



「「「ええええっ!!」」」

 エリカは悪い夢でも見ているのかと、アリサの頬をつねった。

「いふぁいいふぁい、なひふるのー」

 涙目のアリサを見て確認した。

「夢ふぁなひぃぃ!」

「あたしを確認に使うなー!」

 アリサにお返しされエリカも涙目。

「頬っぺたつねんなくてもわかんだろ、現実だよ」

 エリカとアリサの間に割って入るシーグ。

 エリカは決意してケンジに歩み寄った。

「私達を弟子にして下さい!」

 アリサとシーグもアリサの隣に立つ。

「俺達を弟子にして下さい!」

 三人の真剣な眼差しを受けて、ケンジは困った様に頬を掻いた。



「弟子になりたいのなら、先ず私に話しを通して貰わないと困ります」

 優しくも背筋が凍る様な声はエリカ達の後ろから聴こえた。回りにはケンジと 《三本の矢》 のメンバーしかいなかったのに。エリカ達は驚いて振り返った。



 そこには優しく微笑んでいるシェリーが立っていた。





読んで下さりありがとうございます。

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