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兄妹の死闘 アミの視点

ブクマ登録して下さった方、

ありがとうございます。

楽しく読んで頂けたら幸いです。

  「ミノタウロス……始めて見たのです」

  「ミノタウロスはダンジョンの住人です。この森や周辺にダンジョンは無いのに……」

 私の呟きにディエスさんが答えました。ミノタウロスは緑色の体をしていて、離れた場所からでも筋肉の盛り上がりがはっきりと解ります。

 

「ディエスさんは、冒険者さん二人を連れて、馬車まで戻って下さい」

 ディエスさんは、驚いて私の肩を掴みました。

  「姉弟子、何を言うのですか、ミノタウロスは最低でもレベル七十は有る魔物です。一緒に戻りましょう」

  「一緒に逃げたら、逃げ切れません。私とお兄ちゃんが時間を稼ぐ間に逃げて下さい」

 ディエスさんを安心させようとして、お兄ちゃんも言いました。

  「大丈夫、ディエスさん達が逃げたら、頃合いを見て僕とアミも逃げるから」

 ディエスさんは泣きそうな顔して言いました。

  「必ずですよ! 必ず戻って下さいね!」

 そう言ってディエスさんは、冒険者の二人を連れて走って行きました。

 これで、余計な魔力を使わなくて済むのです。


  「さぁ、アミ、始めようか」

  「ちょっと待ってなのです」

 私はポケットから笛を取り出して、魔力を流して吹きました。これは、お父さんが持たしてくれた魔道具で、魔力を込めて吹くとお父さんに私達の危機を伝える事が出来るのです。

 

  「時間稼ぎ開始なのです!」

 近づいて来るミノタウロスに、ミドルアース・ワンプを掛けました。ミノタウロスが、泥沼に足を取られて動きが鈍くなった所を、お兄ちゃんが弓で射りました。矢は体に当たりましたが、皮膚が硬いのか弾かれました。そしてミノタウロスは泥沼に腹這いになり、泳ぐ様に向かって来ました。


  「アミ! コイツら今まで戦ってきた魔物と違うぞ! 僕が前に出る、後ろから援護を頼む!」

 泥沼を抜けたミノタウロスに、お兄ちゃんが斬りかかりました。けど、浅く斬る位で、深手を負うまでにはいかないようです。私はもう一度、千の刃を使う覚悟をしました。使ったら魔力はほとんど無くなるのです。でも、お兄ちゃんが負けそうなので使うのです。


  「お兄ちゃん! 退いて下さい!」

  「解った!」

 お兄ちゃんは、まるで私がする事を解っていた様に、素早く後退しました。

  『千の刃』

 数え切れない程の風の刃が生まれ、十体のミノタウロスを切り刻んでいきます。私は膝を着き、肩で息をしながらミノタウロスを見ます。どうやら、ミノタウロスは全滅したようです。お兄ちゃんが、足を引き摺りながら私の隣に来て座りました。


  「やったな、アミ」

  「魔力が空になったのです」

 私の肩に手を置いて誉めるお兄ちゃんを見ると、傷だらけで服が血で滲んでいました。

  「お兄ちゃん、大丈夫なのです?」

  「大丈夫、かすり傷だよ」

  「……勝ったのです」

  「ああ……勝ったな、ディエスさん達の所に行こう」

 お兄ちゃんは立ち上がって、手を私に差し伸べました。お兄ちゃんの手を借りて立った時、魔物の雄叫びが森に響き渡りました。木々の間から続々とミノタウロスが出て来ます。

 三十体位でしょうか、疲れて数えるのも面倒です。だから、お兄ちゃんに別れの言葉だけ告げるのです。


  「お兄ちゃん、ここでお別れです、私を置いて逃げて下さい」

 私の言葉を聞いて、お兄ちゃんはおどけた様に言いました。

  「アミを置いて、僕だけ生き残ったら、カッコ悪いじゃないか。天に召されるなら、一緒に逝こう。何十年後か解らないけど、お父さんとお母さんが天に召されて来たら、一緒に謝ろう」


 私は涙が流れるのを止められずにいました。お兄ちゃんと私は手を繋いで、ミノタウロスが近づいて来るのを待ちます。私とお兄ちゃんが睨み付けて待っていると、鉈を引き摺りながら近づくミノタウロスの前に光の渦が生まれました。その光から、聞きなれた大好きな人の声を聞いたのです。


  【親父の鉄拳!】

 光の渦からお父さんが現れて、ミノタウロスの胸を貫きました。お兄ちゃんが、何度斬りつけても浅い傷しかつけられなかったのに。光の渦からお母さんも出て来ました。


  「フォート! アミ! 良かった、生きててくれて、本当に良かった」

 お母さんは、泣きながらお兄ちゃんと私を抱き締めています。

  「お母さん、泣かないで、僕もアミも無事だから」

 お兄ちゃんの言葉を聞いて、お母さんは私達を交互に見て魔法を唱えました。

  【癒しの光り】

 お母さんの魔法で傷が治ったばかりか、魔法量も全回復したのです。でも、お母さんは私達を離す気配がありません。どうやら、今日はずっとこのままの様な気がします。


 お父さんを見ると、何かしたのでしょうか、三十体のミノタウロスが俯せに倒れ、身動き出来ずにいました。

  「貴様ら、よくも子供達を傷つけてくれたな、皆殺しにしてやる!」

 お父さんは、ミノタウロスに近づくと叫びました。

  【ヤクザキック】「オラッ!」

 ヤクザの意味は解らないけど、足裏で蹴るのが、ヤクザキックなのです。ミノタウロスの頭は潰れて、体は霧の様に消えました。お父さんは動けないミノタウロスを一体一体頭を潰して回ります。


  「お父さん、オラオラ言ってカッコ良いのです!」

 お父さんの雄姿を目に焼き付けているとお兄ちゃんが。

  「お父さんに頼めば教えてくれると思うよ」

 私はお兄ちゃんに詳しく説明しました。

  「お母さんに、足を上げて蹴るのは、はしたないと言われたのです。淑女のする事じゃないって、私はお母さんの様な淑女になりたいのです。だから諦めたのです」

 私の説明に、何故かお兄ちゃんは苦笑いで言いました。

  「お母さん、ミノタウロスに近づいて行ったよ」

 私達を抱き締めていたお母さんは、いつの間にかミノタウロスの頭の側に立っていました。


  「……よくも、うちの子供達を……!」

  【ヤクザキック】「オラッ!」

 お母さんは、掛け声と同時に、ミノタウロスの頭を潰しました。


  「……もう一度、お父さんに頼んでみるのです」

 お父さんとお母さんのヤクザキックで、ミノタウロスは物の数分で全滅しました。何故かお父さんは、お兄ちゃんと私に謝りました。力が足りなかったのは、私達なのに。

 家族揃って森を出ると、ディエスさん達が迎えてくれました。ディエスさんが、泣いて抱き付いてきて、困りました。








読んで下さりありがとうございます!

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