王都
侯爵様からの返事を待っている間、手にした土地には一切手を着けず、宿の手伝いや、狩りをして過ごしていた。侯爵様から返事が届いたのは、連絡してから五日後の事だった。
返事を受け取ったマークさんの話しだと、侯爵様は王都を離れる事が出来ないので、王都迄持って来て欲しいとの返事だった。
仲介役のマークさんは、ギルドの馬車で行くと言い、一緒にどうかと誘ってくれたのだが、片道三日の馬車の旅は辛いと思い辞退した。
王都への旅は往復だけで六日、滞在が三日の予定だ。合わせて九日である。流石に其処まで宿を空けるのは、不味いだろうと思い、マリーさんとシェリーに相談をした。すると、マリーさんが 『シェリーと二人で行けば良い』 と言ってくれた。結婚してから、二人の時間が取れていない事を、心配していたみたいだ。 『宿の事は心配しないで、行って来なさい』 と言われて、俺とシェリーは、子供達にも了解を得ようと話をした。フォートは即答でOKしたが、アミは寂しいと言って愚図ったが、お土産を買って来るからと宥めて、何とか納得して貰った。
マークさんが王都へ出発する日に、俺達も街を出た。ウィンドライドでマークさんより先に着いて新婚気分を味わう為だ。馬車で三日の行程でも、ウィンドライドなら、ゆっくり休憩を挟んでも、昼には着くだろう。
ウィンドライドで移動していると、農村があり、それを過ぎると大きな塀が見えてきた。まるで城塞の様だ。
「あれが王都か」
「そうね、街を囲む塀は、プレリの街の倍は有りそうね」
俺の問にシェリーが答えた。
王都の外周の塀の高さは、十メートル。プレリの街の倍以上で、土地の広さも、プレリの街の五倍は有るだろう。王都の入り口で、入街料を払って街に入った。プレリの街も人は多いが、王都はその何倍もの人の数だ。別に、祭りでもないのに、通りには人が溢れている。
ちょうど昼時で腹が空いた俺達は、露店で肉を挟んだパンと果実水を買う。食べる場所を探して歩き進むと、噴水の有る広場に出た。俺達は噴水の縁に腰掛けた。
「こほあほあ」
「ケンジ、口の中の物飲み込んでから話して」
「……ごめん、この後、泊まる宿を探そう」
「そうね、宿に入って、休憩してから観光しても良いわね」
俺達は宿を探して歩き出す。王都は、至るところに水路があり、観光用のゴンドラが客を乗せている。
川幅の広い水路沿いを歩いて行くと、 『黄金の川』 と言う宿があった。外見は見るからに高級と解る造りで、柱や壁に装飾が施されている。
大きな鳥が彫られた扉を開けて入ると、中も豪華な造りで、天井からシャンデリアが吊るされていた。
執事が着る様な服を着た男が、近づいてきて話し掛けてきた。
「いらっしゃいませ、宿泊でございますか?」
「はい、十日程お願いしたいのですが、部屋は空いてますか?」
執事服の男は紙の束を捲り確認をしている様子。
「ツインルームで、ベッドがキングサイズのお部屋なら空いております」
「その部屋でお願いします」
一泊は金貨二枚と銀貨五枚、十日分で金貨二十五枚を払った。案内された部屋は、高いだけあって、ふかふかな絨毯に高そうなテーブル、高級なグラスに金で細工がしてある燭台。でも、一番はキングサイズのベッドだ。程よい弾力と、二人が寝ても余裕の広さ。俺はベッドに横になりシェリーを呼ぶ。
「こっち来て横になってごらん、気持ち良いよ」
「そうね、少し休んでから観光に行きましょう」
シェリーがベッドに上がり横になる。俺はシェリーの頭の下に腕を入れ、腕枕をしてやる。
俺とシェリーは、少し休むつもりが夜まで寝てしまった。夕食の時間になり、宿の人の扉をノックした音で起きた。流石にこの時間から観光などは出来ず、夕食を食べた後は体を拭いて寝た。この高級な宿でも、風呂が無いとはね。いずれ王都にも銭湯を建てようかと、思ってしまった。
「きっと人の多さに疲れたのかも」
シェリーの一言に納得しながら、髪を撫でキスをする。
「そうだね、俺もあんなに人が通りに溢れているとは思わなかったよ」
俺に同調するかの様にシェリーも頷いた。
「其でさ、ケンジ、今日は……する?」
シェリーの話し方で察しの着いた俺は、髪を撫でていた手を腰に回す。
「シェリーはどうしたいの?」
「私は……したい」
恥ずかしそうに、俺の目を見て言うシェリーが、この上なく愛しく思い抱き締めた。
今夜はシェリーの疲れを気遣って、
回数を少なくした。それでもシェリーは満足したのか、俺の腕に頭を乗せて小さな寝息を立てている。
俺はシェリーの額にキスをして、髪を撫でているうちに、眠りについていた。
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