お金が欲しい
不動産屋と契約した翌日から、俺は一人で森に来て、魔物を狩りまくっている。この森で一番の獲物はオークだ。魔石一個が金貨一枚で買い取って貰える。この二日間で二百匹のオークを狩り、金貨二百枚を稼いだ。普段の俺なら、ご機嫌でスキップして帰りそうな物だが、今は土地の代金、金貨四千枚を支払う為に喜んでもいられない。俺は狩りを打ち切り、宿に帰る事にした。ディエス辺りに聞けば、強そうな魔物の噂ぐらい知っているだろう。
宿に着きディエスを捜す。ディエスはマノンと一緒に裏庭で、お客が使ったシーツを干していた。ディエスとマノンの仕事が一段落するまで待っていると、ディエスが俺に気がついた。
「師匠、お帰りなさい」
ディエスに習ってマノンも挨拶した。「お師匠さま、お帰りなさい」
マノンの 『お師匠さま』 には調子が狂うな、背中がむず痒くなる。
「ディエス、マノン、ただいま」
俺がマノンの頭を撫でると、喜んでじっとしている。その姿が可愛くて思わず抱っこした。このういやつめ!俺がマノンを赤ん坊のようにあやしていると、ディエスが俺に話し掛けてきた。
「師匠、私達はまだ仕事が残っていますので、失礼してよろしいでしょうか?」
ディエスの言葉に、はっ、として我に帰る。いかんいかん、すっかり目的を忘れていた。
「すまん、ディエスに聞きたい事があって来たんだ、そこのテーブルで話さないか?」
テーブルには椅子が四つあり、ディエスを座らせ俺も座る。マノンは俺の膝の上だ。可愛くて手放せない!
「師匠、どう言った用件でしょうか」
俺はマノンの頭を撫でながら話す。
「ここ二日間でオークを狩り、金貨二百枚を稼いだけど、目標額には全然足りない、そこで大物を狙いたい
んだ、大物の居そうな場所か噂でも知っているなら、教えて欲しい」
ディエスは顎に手を添えて考えた後、話し出した。
「ブルードラゴンなら、確実に金貨四千枚になるでしょう、金貨八千枚以上で売れるかも知れません」
ディエスの話しを聞いて驚いた、金貨八千枚なら、銭湯の隣に宿を建ててもお釣りがくる。
「そのブルードラゴンは何処に居るんだ、強いのか?」
ディエスは添えていた手を、顎から離してテーブルに置く。
「強いです、昔話にも登場する伝説級の魔物です」
ディエスの話しだと、五百年前に、この大陸の勇者が、賢者を含むパーティーで、ブルードラゴンと戦い引き分けたそうだ。戦いは一昼夜におよび、お互いに傷つき、勇者パーティーは撤退し、ブルードラゴンは追撃出来なかった。撤退した勇者パーティーは、再戦する事は無く、ブルードラゴンの討伐を諦めた。聞いただけでも強さが伝わってくるな。だが、そんな事で俺のスローライフを諦める訳にはいかない。
「ディエス、ブルードラゴンの居場所は何処だ?」
「ブルードラゴンは、エレベ山脈に生息しているそうです、鉱石を採りに行ったアルジャンテ鉱山の先にエレベ山脈があります、山脈の頂上がリージョンド王国とピエド王国の境界線になっています」
「場所は解った、ありがとう」
マノンを膝から下ろし礼を言う。
「御武運を祈っています」
「ああ、行ってくるよ」
ディエスとマノンに軽く手を振って別れた後、宿の入り口から、シェリーが入って来た、買い物籠を手にぶら下げている所を見ると、買い出しに行っていたのだろう。
「お帰りなさい、ケンジ、今日は早かったのね」
シェリーは近づいてきてキスをした。俺もシェリーの腰に手を添えてキスをする。
「シェリー、俺は此れから出掛けるから、夕食は先に食べていてくれ」
シェリーは心配そうな顔をして、何かを言い掛けたが、努めて明るい笑顔で。
「解ったわ、行ってらっしゃい、怪我しないでね」
シェリーはもう一度キスをして離れた。
「なるべく早く帰るから、心配しないで、待っていてくれ」
俺はブルードラゴンの住むエレベ山脈に向かった。
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