緊張と不安
ウィンドライドで草原を移動しながら、ピンガーを放つ。戦闘は終わったのか、遠ざかる反応がある。俺は腰のショートソードを抜いて、目視できる位置でウィンドライドを破棄して、草原に屈んで辺りの様子を窺う。街道には馬車が転がり、何人か人が倒れている。ピンガーを放ち反応を見る。すると、街道から逸れた草原に小さな反応がある。
俺は反応のあった場所に向かって 歩き出す。ピンガーの反応で、馬車の近くに倒れている人達は、既に息がない。ただ用心に越した事はないので、自分にサンクタスサークルムーヴを掛けた。腰の高さ迄ある草を掻き分けた先には、女の子がうつ伏せで倒れていた。体の大きさは、アミと同じ位、栗毛の髪で長さは背中まで、みすぼらしい、頭から被るような、茶色いワンピース。そして、足につけられた鎖。色々思い付く事はあるが、今は止めよう、助ける事を優先する。
「おい、大丈夫か?」
うつ伏せで倒れている女の子に声を掛け抱き起こす。意識がなく、気を失ってるようだ、服の腹の部分から血が滲んでいる。治癒魔法を使って傷を治した。とりあえず、助けた女の子を、メリアと子供達の所へ連れて行く事にした。女の子を抱き上げ、ピンガーで索敵を続けながら、ウィンドライドを使おうとした時、離れて行く反応が、索敵範囲内にも関わらず消えて行く。集中して索敵すると、一定の場所に入ると反応が消える。何となく予想は着くが、今は後回しにしよう。俺はウィンドライド使い子供達の所に向かう。
メリアと子供達が結界の中にいるのを見てほっとする。俺は心配させまいと笑顔で声を掛けた。
「ただいま〜今帰ったよ〜」
「「おとうさん!」」
フォートとアミが掛けよって来て、俺に抱き着こうとして、直前で立ち止まった。俺のローブの隙間から見える女の子を見えたからだ。俺はフォートにマットを引くように頼み、女の子をそこに寝かせた。
「この女の子は、街道で倒れていたんだ。怪我をしてたけど、治したから大丈夫、気を失っているけど、心配しないで」
俺の説明に頷くも、フォートとアミは、女の子の顔を覗き込んで、心配そうに見ている。
「師匠、ご無事で何よりです」
メリアも心配してくれたみたいだ。唇が真っ青で震えていたが、相談したい事があるので、労いの言葉の後に続けて話す。
「メリアもご苦労様、少し話したい事がある」
メリアは女の子を見ながら話す。
「あの身なりと足に枷られた鎖、奴隷のようですね」
俺が説明する前に先を読んで答えた。メリアは頭が良いな。
「俺が駆けつけた時には、襲われた側は、女の子を残して全滅してた。
あの子は草原まで逃げて倒れていた所を保護したんだ」
俺の話しを聞いて、顎に手を置き話し始める。
「王都とプレリに繋がる街道に盗賊が出ると聞いた事があります。神出鬼没で森を住みかにしているとか、森の中は危険な魔物がいるので、盗賊に手を出せないそうです」
メリアの話しを聞いて、森に住んでると言うのは、デマだと思った。きっと盗賊の一味が偽の情報を流したのだろう。
「わかった、あの女の子は家に連れて帰るから、盗賊に襲われた事は、兵士や街の人には内緒にしてくれ、奴隷の事も含めてな」「解りました、女の子の事は、街の兵士に知らせず、盗賊出没の報告をします」
俺とメリアの話しが済んだ時、フォートが声を挙げた。
「おとうさん!女の子が気がついたよ」
俺は女の子の側に膝を着き話し掛ける。
「こんにちは、気分はどうだい、どこか痛い所ある?」
女の子は腹の辺りを触ってから首を振った。
「そう、今、君の首輪と足の鎖を外すから、ちょっと待ってね」
俺はそう言って、創造魔法で解錠の魔法を作った。
「デェブロキュア」
女の子の首輪と足に嵌められた鎖が光り、カチャリと音をたて外れた。
女の子は驚いて、首や足首の辺りを触り、声を出して泣いた。
「これで君は奴隷じゃない、安心して良いよ、君の名前は?」
女の子は大粒の涙を溢しながら呟いた。
「……マノン」
「そうか、マノン、とりあえず家に来ないか、温かいご飯にベッドもあるぞ」
マノンはまだ泣いているが、力強く頷いた。俺はマノンの頭の上に手を置き、メリアと子供達見た。
「よし、みんな、家に帰るぞ」
みんなにウィンドライドを掛けて草原を飛ぶ。街に着くまでに、どうシェリーに説明しようか、説得しようか、俺は頭を悩ませながら、懐に抱くマノンを見て思った。
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