実録!勝負師実休光忠の賭博日和
昼下がりの賭博場にて――。
「長じゃ! 絶対に長じゃ! ワシわかってるもんね!!」
「ところがぎっちょん。半なんだなぁこれが」
「なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
賭博場に二つの声が上がった。
一つは、敗北に打ちひしがれる実休光忠の悲痛なる叫び。
もう一つは、そんな彼女から甘い汁を啜っている勝者の歓喜の笑い声。
賭博場に今日も足を運んでから早一時間――実休光忠は既にオケラ状態になっていた。わかりやすいうなら、軍資金が底を尽いていしまった。
これが記念すべき初陣であったならば、経験が浅いとまだ慰められようものの。何度も出入りしている癖にして一度も勝てないのだから、もはや才能がないという他ない。もっとも、彼女自身はまるでそうとは思っていない――こいつら絶対にイカサマしとる!! と、逆に周りの客やツボ振りに責があると信じて疑っていなかった。
当然ながら周囲からはやっていないと非難の声が多々上がった。実休光忠は野犬のように、ぐるる……、と牙を剥きだし懐に手を伸ばす。
軍資金はもうない。金がなければコマ札にも交換できない。店側としても金づるにもならない客をいつまでも置いておくわけにはいかず。奥から強面の女性が、実休光忠へと歩み寄る。
摘まみだされる――が、乗客たちの間で突然どよめきが起きた。
実休光忠は笑っていた。文字通り手も足も出ないのに、どこか勝ち誇った顔を浮かべている。何をそんなに余裕ぶっこいていられるのか――この賭博場に長く足を運んでいる常連客の一人が、もそりと言った。
待っていましたとばかりに、実休光忠は懐に忍ばせていた手をばっと、勢いよく外へと出す。
どよめきが更に激しくなった。明らかに周りの目ががらりと変わった。それを見た実休光忠は心底愉快そうにほくそ笑む。
予想通りといえば予想通りで、かと言ってこうも過敏に反応を示すとは思わなんだわ! 愕然としているツボ振りに、これ見よがしに見せつけてやる。わなわなと震えた指先が近付いてきたから、実休光忠は素早くさっと自身の手元へと引き戻す。
「そ、それは……!」
「これが何かはわかっておるじゃろ?」
金がなくとも物品で賄うことは、そう珍しくはない。
それ相応の物を実休光忠は予め用意してきた。
苦労して手に入った分、ある種金の延べ棒よりも遥かに価値があるもの。これでもしも安い値をつけたれたらこの店ごと破壊してやるつもりでいたが、その心配が杞憂であるとわかって安堵の息を静かにもらす。
実休光忠は、結城悠の下着を持ってきたのだ。
当然ながら、本人はおろか剣鬼の愛刀にこの所業がバレればただでは済まされない。その危険を承知して、実休光忠は己の欲に従った。
「苦労して手に入れてきた物じゃぞ、しかも結城悠が脱いで未洗濯のな――これならば文句はないじゃろ?」
「ももも、もちろんですよいやぁお客さんもお人が悪いそう仰ってくださいよぉえへへ」
早口でまくし立てるツボ振りの合図のもと、大量のコマ札が実休光忠の前に運ばれてきた。
これだけでも換金すれば、先の負け分はおろか充分に勝てる。だが、ここで妥協しないのが実休光忠である。賭博をしにきたのだから、もっとたくさん稼いで帰ってなんぼの世界。今以上にもっと稼いでやる――彼女の意気込みを知る者は、誰一人としていない。皆男の下着一つで血眼になって争っていた。
「ほれ疾く始めんか! 今からワシが勝ちまくるからその節穴を開いて刮目するがよいわ! 実休光忠の本気、今こそ見せつけてや――」
「やっぱりここにいたんだね……」
「姫もお兄様の下着――いえ、最低な行為ですよ!」
「主の下着を盗むなんて絶対に許さない……」
背後に立つ複数の気配に、実休光忠はゆっくりと振り返る。
鬼がいた。いや、鬼以上の何かがこちらを見下ろしている。こと剣鬼の愛刀に関しては……とても同じ御剣姫守とは思えないし、思いたくもない。それほど憤怒に満ちた、ものすごい顔を彼女はしている。
とりあえず――。
「お主らも一発やっていくか?」




