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第五話:剣鬼降臨

 <兎杷臥御(とばふしみ)の戦い>から鬼達の行動は比較的穏やかになった。

 故に以前のように高天原に乗り込んでくることはないと高を括っていれば、この様である。


 三日月宗近(みかづきむねちか)達は鬼の鎮圧に向かっていた。

 既に小狐丸(こぎつねまる)率いる御剣姫守(みつるぎのかみ)が事態の収拾に当っていると連絡は受けてはいるが、三日月宗近(みかづきむねちか)の心情は焦りに染まりきっていた。

 仲間の心配をしているのではない。

 分かれて行動している天下五剣の面々は誰しもが一騎当千であるし、小狐丸(こぎつねまる)の実力も自身に勝るとも劣らずであることを、三日月宗近(みかづきむねちか)は誰よりも知っている。

 心配の種は、逃げ出したきり戻ってこなかった結城悠にあった。

 異世界からやってきたと言う不可思議な男性(にんげん)

 女性と見紛う中性的な顔立ちは、身体をじっくりと観察しなければわからないほど、彼は美しい。

 他の男性とは違う魅力。だからこそ惚れた。

 そして幸運にも、男性を象徴するアレを見てしまった。

 正確には布越しだったけれど、それでも現物を見たことに変わりはない。

 見られた方からすれば……まぁ、気持ちがわからないでもない。逆の立場だったら、きっと自分も同じ反応を示していたと、三日月宗近(みかづきむねちか)は赤面する。

 なにより彼は婿入り前の身だ。気恥ずかしさも既婚者と比べれば遥かに大きい。


 同情はする。するが、不謹慎ながらも興奮してしまったのもまた事実。

 他人の不幸を喜ぶ私は、なんて卑しい女だろう。

 それでも、アレを見てしまえばそんな考えも綺麗さっぱりに消えてしまう。

 私だけじゃない。あの場にいた全員が等しく思ったに違いない。

 大変たくましく、素晴らしく、そして犯してやりたかったと。

 それはさておき。


 現在、彼らしき人物が小狐丸(こぎつねまる)と行動を共にしている報告もあった。

 それを聞いた瞬間、血の気が一気に引いたのは言うまでもない。

 彼はただの人間だ。だからこそ御剣姫守(みつるぎのかみ)である私が彼を守らなければいけない。

 何故なら彼は将来夫となる大切な存在なのだから。

 何百年と無駄に年だけを食って、未だに男と出会いのない日々をすごしていたところに現われた運命の人だと、三日月宗近(みかづきむねちか)は信じて疑わない。

 なにより悠が性的興奮を感じてくれたのは他の誰でもない。

 彼は三日月宗近(みかづきむねちか)に惚れてくれた。だから私が貰い受ける。

 他の女には絶対に手出しはさせない。是が非でも夫として私が隣に立ってもらう。

 アレを管理していいのも、見ても触ってもいいのは(わたし)だけなのだ。

 だから。だから。


「どうか無事でいてください悠さん!」


 町角を曲がる。

 瞬間、飛び込んできた光景に三日月宗近(みかづきむねちか)は狼狽した。

 小狐丸(こぎつねまる)を含む御剣姫守(みつるぎのかみ)が、刀を握り締めたまま佇んでいる。

 血溜まりの中に沈む鬼達を見れば、とうに戦闘は終わっていたと理解できる。

 彼女達は一点を凝視している。

 顔を覗けば、誰しもが困惑の色を顔にこれでもかと浮べている。

 増大する疑問に、とうとう三日月宗近(みかづきむねちか)は視線を追って――ようやく、理解する。


 一際大きな鬼が地に伏している。

 胴体から遠く離れた首を見れば、死しているのは一目瞭然だ。

 その骸を冷たく見下ろしている者がいた。

 瞳に映るのは、今正に安否を案じていた結城悠本人であった。

 九十五式軍刀がちらりと見えて、彼が鬼を倒したことがわかった。

 男が鬼を倒す。歴史上一度として起きなかった瞬間を、彼女達は垣間見たのだろう。

 男性に大和刀。二つの組み合わせは異質でありありえない。

 ありえないからこそ、未だかつてないほど高揚している心に三日月宗近(みかづきむねちか)は顔に熱が帯びていくのを感じていた。

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