第三十四話:目覚める者と拾う者
どうも龍威ユウです。
今日から少しずつ、第二部の更新を開始していきます。
ですがその前に!
第二部は書籍版の続きと言うことになりますので、Web版と矛盾している箇所が多々出てくると思います。その篇は大変申し訳ありませんが、ご了承ください。Web版で既に投稿しているものは基本修正せず、ありのままの形で置かせてもらいます。
それをご了承したいただけた方のみ、どうぞ!!
快晴の空の下。温かな陽射しと微風を浴びる広大な平原に、その少女はいた。
靡かせる群青色の長い髪は美しく鮮やかで。どこか眠そうにとろんとした眼差しで一点を見つめる彼女を、宝石のようで綺麗だと思う者は決して少なくはなかろう。
そんな彼女の心境は表情とは裏腹に――
「ここ……どこ?」
――絶賛狼狽中であった。ただし表情を見やれば、誰も彼女が慌てふためいているとは思うまい。
気が付けば見知らぬ世界が視界いっぱいに広がっている。高層ビル、住宅街、それらしきものは一つとしてなし。あるのは見渡す限りの平原と遠くに連なる山々のみばかりともなれば、狼狽するなと言う方が無理と言うもの。
だから遠慮なく彼女は酷く狼狽して――はた、と己を見やったことで遂に水底まで引きずり込まれる心境に陥る。
思考の崩壊を防ぐために気絶できればどれだけよかったことやら。内心で愚痴りつつも、目の前の現実と彼女は向かい合う。向かい合わねばならない。
(どうして、ボクは……)
それは、あってはならぬことだった。少なくとも彼女がその考えに至ったのは、魂に根強く常識があったからだ。理由はわからない。わからないけれど、コレは現実では起き得ぬ事象。本来仕手があってこそ初めて役目を果たせるその刃は、仕手と同じ姿形をしているではないか。
ふと視界の端に入った川を覗き込めば――いやはや、なんともかわいらしい少女がいるではないか。無論、それは紛れもない自分自身の姿であるし、かわいいと思えるのも単なる自己満足でしかないが。
それはさておき。
「なんで人間の姿をしてるんだろ……」
改めて疑問を口にしてみる。――それで答えが得られたらどれだけ楽だろう。
納得のできる答えは得られない。ともあれ、こうしてただ狼狽していても何も解決しないことは理解しているので、彼女は行動に移す。人間の身体を得たことへの驚愕は冷めやらぬものの、関心が彼女の心の大半を占めてもいた。
経緯は……まぁ必要なのはわかってはいる。わかってはいるが、せっかく人間の身体を得られたのだから試さぬと言うのはあまりにも勿体なくて――こんな時、我が仕手が見ればどんな反応を示すのだろう、などと考えて思わずくすっと笑えるぐらいの余裕を取り戻せた。さて。
「それじゃあ、行こっかな」
どこぞへ続くともわからぬ道を進む。露出した肌をそっと撫でる優しい微風が、なんだかこっちへ進めと教えてくれている気がした。だから彼女は進む。
暫く進んで。
「誰もいない……」
緑が生い茂る大地。それ以外に形容できるモノはとりあえず見当たらない。見たこともない生物や昆虫がちらほらと見えるだけで、現時点で彼女が捜し求めている常識があって会話の通じる温厚で平和的な生命体の姿は一人として見当たらない。
よもや、人間がいない世界に迷い込んだのでは……。考えたくもない、しかし現状的に見やればもっとも有力候補とも言って差し支えあるまい仮説に彼女の顔は不安で曇る。
「……どこにいるんだよぅ」
それは、彼女の仕手へと向けられた言葉であった。
己と言う存在と共にあることを誓った人生の伴侶。故に私は彼に応え、彼は私を振るう。それが両者の間で築かれた関係で、どちらとも欠かしてはならない存在だと言うのに彼は。――どこにもいない。
「……悠ぁ」
とうとう、立ち止まって少女は仕手の名を口にした。髪色と同じ群青に輝く瞳に大粒の涙がじんわりと浮かび始めて。
「そこのお前、見掛けない顔だな」
ふと、声を掛けられる。ばっと顔を向ける。それは彼女が望んでいた生命体だった。
ほっと胸を撫で下ろして、彼女は駆け足で生命体の元へと向かった。




