外伝4:千の刃と一羽の鶴
第三十三話の裏面になります。
結城悠の魔剣、双貫は二刀揃うことで成される。
実際、間合いの外から脇差を投擲して敵手が対応している間に斬り掛かると言う奥義は、あの二天一流を含み、二刀を用いる諸流派の多くに伝承されている。
本差と脇差。
先の一戦にて悠は絶技に欠かせない脇差を失った。
刀で弾かれたならばまだしも、炎に焼き尽くされては修復のしようもない。
であれば、新たな得物を用意するのは必然であるし、再び國鉄徹心の元を尋ねるのも当然であった。
「そんで、新しい刀を用意してくれと。今度は脇差か」
「はい。なんとかできませんか?」
「そりゃウチは鍛冶屋だ。注文があれば造るのは当然だが……天鋼はもう使わないぞ? 前回のお前さんの刀を修復するのに使っちまったし、そう何度も使えるもんじゃねぇからな?」
「そうですよねぇ……」
「そう落ち込んだ顔をするな。確かに天鋼はないが、劣らずの代物を用意してやる。ちょっと待ってろ――つーかもう用意してある」
「予知能力でもあるんですか?」
「夢だよ夢。今度はあのおっかない女は出てこなかったし比較的平和な夢だったけどな」
来店してからずっと傍らに置かれていた刀を悠は気になっていた。
それが目の前に差し出される。
どうやらこれが、その劣らずの一振りであるらしい。
手に取る。
脇差にしては長い。片手で扱うことを想定された片手打ち造りか。
外観に至って普通の長脇差にしか見えないが――はて。悠は眉を顰める。
視界から國鉄徹心が消えていた。
否、世界そのものが姿形を変えて悠の視界に飛び込んきた。
荒れ果てた大地。そこに無数の刀が、さながら墓標の如く突き立てられている。
そこに一羽の鶴が空より降り立った。
一振りの刀の柄頭に器用に留まると、鳴き声を一つ挙げた。
そしてまた空へと飛び立っていく。
雲の中にその姿が解けていった頃、世界に新たな変化が訪れる。
無数の刀が消え失せて、荒れ果てた大地には緑が生い茂る。
見やれば、鶴の留まった刀が陽光のように輝いているではないか。
悠は静かに、刀を地面から抜く。
「――やっぱりお前には見えたか」
「えっ? あ……」
國鉄徹心の一言に、悠は我に返った。
辺りを見回せば、彼の店内が視界に映る。
先ほどのは幻覚だったらしい。
どうして俺は幻覚なんかを――そう考えて、右手に握る長脇差を見やる。
いつの間にか抜き身となっていた刃に、困惑の感情を宿した自分の顔が映っている。
刃長はおよそ二尺。
玉鋼のみで造られた長脇差に、本差のような独特の美しさはない。
されど、何か別の輝きがこれにはある。
「お前さんが大和転覆計画事件を解決してから間もない頃だ。また奇妙な夢を見ちまってな――無数の刀が刺さった荒野を一羽の鶴が飛んでるんだ。しばらくそいつが飛び続けていると、一際輝く刀の柄頭に留まりやがった。そしてその隣には悠、お前さんが立っていたんだよ」
「俺?」
「直感したよ。あぁ、こいつはまたあの男に手を貸さなきゃいけないなってな――無数の刀は俺が失敗し続けた刀だってことにすぐ気付いた。村正よりいい刀を作ることだけを考えて、鉄を打っては失敗と放り投げ続けてきた駄作は千をいく。そいつらが大和を守護する武人に応えんと俺に呼び掛けた――そして今、ようやく一つとなって真打として完成した。千鶴守國鉄――受け取ってくれ悠、こいつがお前さんの新しい相棒だ」
「……わかりました。ならこの千鶴守國鉄、ありがたくちょうだいします」
長脇差――千鶴守國鉄を腰に差す。
大と小。二つの刀が揃ったことで結城悠は再び剣鬼へと戻る。
とても清々しい気分だ。
失われた体の一部が戻ってきた、と言えば大袈裟か。
されどそう思えてしまうほどの心地良さが全身に広がっていく。
「因みに鶴は俺のご先祖様が代々好きな動物だ。鍔も飛び立つ鶴の姿が透かしてあるだろ?」
「あ、本当ですね」
「そんな訳だから、これが請求額だ。今回はきっちりと払ってもらうからな。なに、お前さんには色々と世話になったから特別価格にしておいてやる」
「……まぁ、当然ですよね」
この世は等価交換で成り立っている。
何かを得るには、相応の対価を支払わなければならない。
財布を取り出して、僅かに足りていないことを知った悠は支部へと戻る。
そして土下座をして、デート一回を条件に小狐丸から借金した。
後日、どこから情報が漏洩したのか悪鬼と化した三日月宗近による妨害――もとい借金返済によってデートは帳消しとなり、その日は一日姉妹喧嘩が繰り広げられた。




