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第百十七話:Re:鼻血

またまた久しぶりのキャラクター登場ですw

 鬼神丸国重と行動を共にしてから、悠は茜色に染め上げられた空を見やった。


「もうこんな時間か。随分と一緒に行動してたんだな」

「せ、せやな」


 彼女の存在は予期せぬものだったものの、うまい具合に時間を潰せた。

 そのことについては感謝をせねばなるまい。

 その間もやはり、周囲に気が散っている彼女に悠は警戒心を緩めることはなかった。

 人目が多い中で強硬手段に出ることが得策ではない、それは鬼神丸国重とて重々理解している。故に町中にいる間、悠が性的にちょっかいをだされることは確かになかった――手を繋ぐぐらいは許容範囲内で承諾している。


「な、なぁ悠? もうちょっとだけ一緒に歩いて回らへん?」

「最初に夕方までだって約束だっただろう?」

「せ、せやけど久しぶりやんか。もうちょっと一緒にいたいわ」


(やはり、最初から何か企んでいたみたいだな……)


 彼女のこれまでの行動を顧みてみると、誰かを探しているような素振りだった。

 即ち鬼神丸国重は誰かと来ている、目的は……わざわざ本人の口から吐き出させる必要もあるまい。鬼神丸国重がこれまで向かおうとした先は、すべて町の中心部から遠く離れていた。

 彼が指摘することで久しぶりにきたから道を忘れてしまっている、と口にした彼女であったが、むろん悠はそれが嘘であることを見抜いている。


「――、あ」


 それは一瞬という、とても短い時間だった。されど悠の瞳はしかとそれを捉えていた。

 青と白のだんだら模様の特徴的な羽織は、本土ここでは極めて目立つ。

千年守鈴姫も、かつて自身が所属していたという経緯から今も愛用してこそいるものの、それならばわざわざ身を隠すような不可解な真似は絶対にしない。

となれば先の羽織は新選組の誰か、そして悠はその正体をよく知っている。

 悠の鼻腔を、風に乗ってきた微かな異臭がくすぐった。何度も嗅いだことのある……血の臭い。


「……清光さんも来ているのか」

「な、なんのことや? 今日はウチだけしか来てへんで?」

「誤魔化すの下手くそすぎないか? 以前はもっとこう、隠密ぽかった気がするのは俺の記憶違いか?」

「ウチはいつだって冷静沈着や!」

「説得力がないぞ……まぁいい、で? 来ているのは清光さんで間違いないな?」

「うっ……」


 どうやら図星であったらしい。悠が溜息混じりで視線を変える――小路の入り口、赤い水がわっと噴出した。

 もはや言い逃れられない状況に鬼神丸国重も観念したのか、小さく溜息を吐く。

 諦めの感情いろが見られる顔で、ちょいちょいと手招きをすれば、ついにもう一人の同行者も顔を出す。

 ひょこひょことした、覚束ない足取りは貧血気味故であろう、ぼたぼたと流れる鼻血を手で抑えながらやってくる少女……加州清光かしゅうきよみつがにこり、と笑った。


「お、お久しぶりです悠さん」

「え、えぇ……お久しぶりです清光さん。とりあえずその鼻血をどうにかしませんか?」

「あ、そ、そうですね!」


 顔面血まみれの笑顔は狂気しかない。彼でなく一般男性であれば卒倒し、最悪心に深い傷を残し更なる女性嫌いを患いかねないので、悠は急いで持っていた手拭いを加州清光に渡した。


「こ、こここ、これは悠さんの手拭い!」

「一先ずそれで止血してください。後返さなくて結構ですので」

「い、いいんですか!? 言質は取りましたからね? 後で返せって言っても返しませんからね!?」

「言いませんってば」


 瞬く間に白が主に染め上げられていく手拭いが、出血量を物語っている。とうとう吸収値の限界を超えて、四隅から赤い雫が滴り落ち始めた。

 いよいよ本気で彼女の身を案じる悠であったが、当の本人は顔を青ざめさせつつも笑顔を絶やさない。恍惚としたその表情には悠も頬の筋肉をひくり、と釣り上げざるを得なかった。


「はぁ……はぁ……は、悠さんの私物……悠さんの匂いがとても染み付いています」

「いや、今はもう清光さんの血の臭いしかしないと思うんですけど」

「ちょっと悠! なんでウチにはくれへんねん!」

「いやお前には必要ないだろう」


 彼女らのやり取りは周囲の目を集めさせる。当然何事か、と怪訝な視線が二人に集められるが、悠の姿を目視すると納得したような顔で彼を見た。

 そこには同情の感情いろは一切なく、どちらかというと鬼神丸国重のものと近い。どうして私にもくれないのか、と言葉に出ていないのにも関わらずそう言っているような気がしてならない。鬼よりも遥かに凄烈で、しっとりとした視線に耐えかねて悠はすっと顔を背けた。

 それもすぐに矛先が変わる。真に妬むべきは現在進行形で結城悠の私物を所持している彼女にあるということに気が付いたらしい。

 もはや鉄の臭いしかしないであろう、血をたっぷりと吸って触り心地は最悪の一言に尽きようそれを果たして本気で欲しいのか。怪訝な眼差しを彼女らへと送っていた悠の元へ、一人の数打しょうじょが駆け寄った。

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