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第73話 歓迎の宴

 僕は謁見の間の前に着くと、今回派遣された軍を率いる将軍達が待っていた。

 全員という訳ではないが、何人かの将軍とは顔を会わせて話をして、どんな人か分かっている。

「お久しぶりです。バハクート将軍、ドゥワフ将軍、エルカス将軍、レツゴウ将軍」

 今名前を呼んだ将軍は、それぞれ竜人族、亜人族のドワーフ軍、エルフ軍、鬼人族の将だ。

 他にも亜人族の将と獣人族と天人族の将はいるが、初対面なので名前が分からない。

「おお、ターバクソン卿、ご機嫌麗しゅう」

 エルカス将軍が、見事な儀礼をしてくれる。

 この人は偶に手紙を送って来る。内容の殆どは娘か孫娘を嫁にしないかという内容だ。

「久しいな。小僧」

 ドゥワフ将軍は目だけで僕を見て言う。言い終えると直ぐに正面を見る。

 知り合って二年になるけど、このぶっきらぼうな所は変わらないな。

「久方ぶりに会うが、元気そうじゃな。男爵」

 しわがれたような声で話し掛けてくるのはバハクート将軍だ。

 声を聞いた感じ、かなりの年齢のように思えるが、実は竜人族の中では若い部類に入るそうだ。

「小僧か、貴様も呼ばれてきたようだな」

 赤い肌に額の所に二本の角という、典型的な鬼人族の将軍だ。

 人づてに聞いた話しだと、この人いや鬼は鬼人族の中でも一~二を争う実力を持っているそうだ。

「エルカス卿、この者は?」

 エルフみたいに耳が長いけど肌が黒いエルフの人が、エルカスさんに聞いてきた。

 ダークエルフ? だと思うけど、会った事が無い人だな。

「この方はイノータ・フォン・N・ターバクソン卿だ。アルベルト卿」

「っ⁉ この者があの大賢者イノータなのか?」

 アルベルトと言う人が僕をジッと見る。

 天人族の将も、僕の紹介を聞くと、顔を向けて来た。

(大賢者って、世間じゃあそんな風に言われているのか)

 知らなかった。最近、外に出る時はミルチャさんとかには「息抜きに外に出る際は、必ず変装してから外に出て下さい」と言われた。

 何でだろうと思いつつも、僕は息抜きで出かける際は変装してから外に出た。

 変装させたのは、その為かと今更ながら分かった。

「お初にお目に掛かる。わたしはダークエルフ軍を統括するアルベルトと申します」

「初めまして」

「こちらは、天人族の将ユーダ・セラフィムという者です」

「・・・・・・(ペコリ)」

 ユーダ将軍は何も話さず、僕に向かって頭を下げ正面を向いた。

 ふむ。どうやらかなり無口の人のようだ。

「・・・・・・お気を悪くなさらないでください。彼はその寡黙な男でして」

「いえ、別に気にしてないので」

 元の世界でも、この世界に来てからも多くの人と知り合いになったが、ここまで寡黙の人にはついぞあった事がなかったので、少し新鮮だった。

「ところで、皆さんはどうしてここに居るのですか?」

「今、獣人族の王と話をしているそうで、我らはそれが終るのを待っているのです」

「獣人族の王? ああ、あの人か」

 脳裏に浮かぶのは、自慢の鬣をなびかせて豪快に笑う姿が目に浮かぶ。

 あの人を見ていると、あれだ。某運命の夜に出て来る征服王を連想してしまうんだよな。


  僕達は王様の会談が終るまで、待たされてるのかと思っていたので雑談をしていた。

 話してみて分かったが、アルベルト将軍はダークエルフではなくデザートエルフだそうだ。

 正直、僕は仕事で亜人族領に行った際、ダークエルフにも会った事があるので違いが分からなかった。

 それを聞くと、肌の色が違うらしいのとデザートエルフは瞳が金色だが、ダークエルフは瞳の色が様々な色があるらしい。

(言われたてみたら、僕があったダークエルフは緑色の瞳をしていたな)

 その後も将軍達と話をしていると、謁見の間の扉が突然開いた。

 何だろうと思い、僕達は扉の先を見ると其処には宮臣の人が居た。

「皆さま、どうぞ。陛下が御呼びです」

 陛下が? 歓談は終わったと思って良いのかな?

 まぁ、いいや。それよりも誰が先頭になって入ろうかと、僕達は目でお互いを見た。

「・・・・・・ここは一番年長者を先頭にしたほうがいいのでは?」

「じゃな。という訳で、エルカス将軍を先頭にお願いします」

「承知した」

「その後は、皆横並びの一列という事でいいですか?」

 皆、そこはこだわりがないのか頷いた。

 僕もその流れに乗り頷いた。

 そして、エルカス将軍を先頭にして僕達は謁見の間に入った。

 謁見の間に入り、赤い絨毯を踏みしめながら歩き、石段のから十歩ぐらい離れた所で、エルカス将軍が跪いたので、僕達もそれにならい跪く。

「バアボル陛下並びにライオルダルク陛下に拝謁いたします」

「「「「拝謁いたします」」」」

 僕達は跪きながら頭を下げる。

 そのまま王様が声を掛けるのを待った。

「皆、よく参った。表を上げよ」

 僕達はその言葉を聞いて、頭を上げた。

 頭を上げた先には、バァボル陛下が座っている玉座から少し離れた所に仮に置かれた玉座があった。

 そこには身長が二メートルはありそうな巨体で、赤い鬣を持ち右頬に刀傷がある獅子が居た。

 この人が獣人族の王、ライオルダルク・ベスドロス陛下だ。

 性格は豪放磊落にして剛毅果断。

 少々の事では気にしない所がある。その行動を見ていたら、胃が痛くなりそうだった。

 それでいてカリスマ性を持っているので、臣下達には「我らが王」と謳われている。

 正直言って、嫌な人じゃないんだ。じゃないのだけど。

「おおっ、そこに居るのはターバクソン男爵ではないかっ」

「・・・・・・お久ぶりです。ライオルダルク陛下」

「何をそんな固い挨拶をしておる。我の事はダルクと呼んで良いと言ったではないか。のう、婿殿」

 そら来たっ‼

 この場でそう言われるのが、嫌だったんだよな。

 初めて会った時、何故か鬣がチリチリになっていた。

 後になって季節の変わり目になるとこうなるらしいと聞いた。

 流石にその鬣だと威厳がイマイチだと思い、ブラッシングをしたらどうだと言ったら、王の鬣が非常に硬いのでブラシが通らないそうだ。

 そこで、僕は鬣の毛を一本貰い、どれくらい硬いのか調べた。

 色々な方法で硬さをほぐす方法を探した。

 その結果、ある魔物から取れる油で毛が柔らかくなった。そしてその油に色々な香草を混ぜて作った香油を献上した。

 その香油により、鬣がチリチリが無くなり、普段通りのフサフサな鬣になった。

 ライオルダルク陛下はそれを大層喜んでくれた。更には僕を臣下にならないかと勧誘してきた。

 流石に男爵を叙爵させてくれた王国に悪いと思い断った。

 断ったのが、更に興味が湧いたのかますます気に入られた。

 しまいには娘の一人を僕の嫁にやるとか言ってきた。

 流石にそれは臣下達が止めたが、ライオルダルク陛下は諦めた様子はないようだ。

 話をしていても面白くて、人の上の立つ者の心構えなど教えてくれるので悪い人では無い。

 それにある物が手に入るので、それなりに親しくしている。

 ちなみに、その娘さんにも何度かあった事があった。

 名前をパリュサと言う女性なのだが、話をしてみたら、ああこの王様の娘だと思える位に似ていた。

 豪放な性格で、父親よりも破天荒だ。

 それと、何時の間にか僕の事を気に入ったそうで、僕の婿入りの件も乗り気だそうだ。

(陛下には、一応この話はあった事は話して断ったと言ったけど、信じてもらえているのかな?)

 そこが不安であった。

「ライオルダルク王よ。その話は断ったと聞いている。故に『婿殿』というのは、問題であろう」

「ふむ。我としては、男爵が婿にこなくても娘を送ってもよいのだがな」

「いやいや、王女様が領地(うち)に来るのは困りますから‼」

 あの人、凄い好奇心が強いから少し目を離すと、何処に行くか分からないから、心臓と胃に悪い。

 それに男爵に王女様を嫁がせるとか、どんだけだよ‼

「おやおや、それは困りますね。男爵にはわたしの娘か孫娘を嫁がせるつもりなのですが」

 えっ⁉ エルカス将軍、貴方このタイミングでそれを言いますか?

 と言うか、その話しも断っているのですけど。

 しかも、その娘さんと孫娘さんは僕よりも年上じゃないか。

 娘さんは僕の曽曽祖母ちゃんぐらいの年齢って言っていたし、孫娘さんも僕の祖母ちゃんぐらいらしいし。と言うか、二人共見た目は小学生ぐらいなんだよな。

 何というか、一緒にいたら犯罪者みたいに見えるから嫌なんだよな。

「・・・・・・儂の所も娘のセリーヌを嫁にやるか(ボソッ)」

 すいません。陛下、今何か言いませんでしたか?

 小さい声で言ったのでよく聞こえなかったけど、何か凄い事を言いませんでしたか?

「オホン。皆さまを歓迎する宴を準備致しておりますので、どうぞ、別室に向かいましょうぞ」

 宰相閣下の咳払いで何とかまとめたと思う。多分。


  宰相の言葉に乗って、宴の席が設けられた別室に向かう。

 その別室には、テーブルの上の大皿に大量の料理がドンッとこれでもかと盛られていた。

 今回の宴は、各種族事に食事作法が違うので立食形式になったのだろう。

 各種種族に合わせたのか、野菜、肉、魚等々を使った料理があった。

 そんな中でも、僕が一押しの料理は『マンガス牛の骨付き肉焼き』だ。

 この肉を見て、敢えて言おう。

 マ〇ガ肉はここにあった。

 大事な事なのでもう一度言います。

 マ〇ガ肉はここにあった。

 あの某海賊王に出て来る骨付き肉があったのだ。

 両端の部分が骨で、真ん中部分に肉が纏わりついている。

 昔スーパーにあった。骨に挽き肉や薄切りの肉を巻き付けてあるのではなく、正真正銘骨に肉が付いているのだ。

 これはマンガス牛の胴体部分だ。

 マンガス牛とは、獣人族領のある地域に生息している魔物だ。

 この魔物の特徴は何と、雄は内臓とアバラの骨がないのだ。

 なら、どうやって生きているのかと言うと、この魔物は空気中に散布されている魔力を吸収して生きているそうだ。だから、餌は魔力という事になる。

 魔物と言っても脳はあるが、心臓と肺は無いそうだ。

 いや、正確に言えば脳と心臓が一体になっていると言った方が正しいそうだ。

 ちなみにこの魔物は生殖器がない。

 じゃあ、どうやって子供が出来るのかというと、この魔物の雌は内蔵があるそうだ。

 マンガス牛の雌が必要以上の魔力を吸収し続けると、魔力を子宮に送り、その魔力をを変換して新しい個体を生み出すという単為生殖をしているそうだ。

 生まれたてマンガス牛は小さくて前腕ぐらいの大きさしかない。

 獣人族では雄は肉牛で、牝は乳牛になっているそうだ。

 最初、この魔物の肉を食べた時は衝撃だった。

 ライオル王が僕を歓待する宴の席で、自分と同じぐらいの大きさを持ったマンガス牛の丸焼きが出た時は驚いた。

 串に刺さった状態で、回転させながら焼いて、焼けた所をナイフで削いで、それをボンというパンに挟んで食べたり、皿に盛って食べたりするそうだ。

 マンガス牛を客に出すのは、獣人族の中では最大級の歓待をしめしているそうだ。

 僕はそのマンガス牛を見て不思議だったのは、腹を切った後がなかった。

 その事を聞いてみたら、この魔物の雄は内臓がないと聞いて衝撃を受けた。

 更に衝撃的だったのは、この魔物の生まれたての子供は前腕ぐらいの大きさしかないそうだ。

 僕はそれを聞いて、この魔物が生息している所を教えて欲しいと聞くと、ライオル陛下は快く教えてくれた。

 そして、僕はその魔物の生態を調べた。

 その結果。この魔物は伝説のマ〇ガ肉を作る事が出来ると分かって狂喜した。

 早速僕はマ〇ガ肉が出来るように試作した。

 試作の結果、僕は遂にマ〇ガ肉を作る事に成功した。

 調理方法はこうだ。


 まずは、生後数日から十日ほどマンガス牛の皮を削ぎ、頭と足と尻尾を切り落とす。

 後は両端の部分を持てるように整形して、後は好みの味付けをして焼けば完成だ。

 この方法で作れば成牛でも食べれる。むしろ成牛の方が、某海賊王に出て来るマ〇ガ肉っぽい。

 ただ、このマンガス牛は獣人族の領土にしか生息していない。

 なので、僕はライオル王と親しくしている。

「僕の領地に届かないから、久しぶりに食べるな~」

 僕がそう呟くと、ライオル陛下が僕の肩を抱き寄せて耳元に囁く。

「我の娘を嫁にするなら、そなたの領地にもこの肉を好きなだけ届くようにしてやってもよいぞ」

 何て人だ!

 自分の娘を政略の道具にするとはっ‼

 まぁ、王様ってそんな事を出来る人じゃないなれないよな。

「娘もお主の事を気に入っているようだ。どうだ?」

 むむむ、悩むな。

 領地でこの肉を好きなだけ食べれると思うと、少し心が揺れる。

「ライオルダルク陛下、ターバクソン卿はわたしの娘達の婿候補ですから、そのように強引に話を進めるのはお止めください」

 エルカス将軍が僕達の間に入るように話に割り込んだ。

「よいではないか。選ぶのはターバクソン男爵なのだからな」

「でしたら、もっと考れるように時間をお与えください」

 ライオル陛下とエルカス将軍が話し始めたので、僕はその隙にライオル陛下の腕の中から抜けだす。






 


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